「子どもには幸せに、そして力強く人生を生き抜いてほしい」、子どもを育てている保護者の誰もが、そう願っているのではないでしょうか。
最近よく耳にするようになった「自己肯定感」や「非認知能力」は、人生の幸福度にも関係しているといいます。「子どもの自己肯定感を高めるにはどうしたらいいの?」と悩まれているかたに向け、“子どもの自己肯定感を高めることの意味”について、脳科学者の西 剛志先生にお話をうかがいました。
お話:西 剛志先生(工学博士〈脳科学者〉、T&Rセルフイメージデザイン代表取締役)
「自己肯定感」を育てるためには
前回「自己肯定感」の重要性についてお伝えしましたが、「自己肯定感」の重要性がわかってくると、今度は「どうやって子どもの『自己肯定感』を育てていけばよいのか知りたい」という保護者のかたも出てくるのではないでしょうか。まずは、「自己肯定感」を育てるための重要なポイントとなる「自己肯定感の五大要素」について知ることから始めていただきたいと思います。
「自己肯定感」の五大要素
「安心感」
「安心感」は、人間の本能的な欲求であり、「自己肯定感」の中で最も大切な要素です。たとえば、自分の目の前に猛獣がいたら、落ち着いて何かを考えることはできませんよね。 “自分は守られている”“自分は人から愛されている”ことを認識できないと脳が不安定になり、自信をもつこともできません。
「安心感」は、保護者の存在、触れ合いやコミュニケーションによってはぐくまれます。プラスの声かけや肌に触れることも大切です。スキンシップをとおして、子どもは“守られている”という「安心感」を得ることができます。保護者からのスキンシップが多かった子どもは、ストレスへの耐性も高まるという研究結果も出ています。
「成功体験」
「成功体験」とは、何かにチャレンジしてうまくいった経験があることです。失敗ばかりでは、なかなか自分を肯定することは難しいものです。しかし成功体験が多いと、自分は今後もうまくいくという「自己肯定感」がはぐくまれていきます。過去のよい思い出を思い出せる子どもほど幸福度が高く、よい自己イメージをもつことができるのです。
また、子どもが乗り越えられる小さなハードルをあえて与えて、「成功体験」を積み重ねることで、「自分はどんなことでも乗り越えられるのだ」という感覚を養うことができます。どんな小さなことでもよいので、子どもにたくさんのチャレンジをさせてみましょう。そしてお子さんがうまく達成できなかった場合でも、「だめだったね」「できなかったね」と言って片づけてしまわず、「おしい!」と言ってみてください。子どもの好奇心や挑戦する気持ちを認めてあげることで、お子さんの次のチャレンジにつなげることができます。
「コミュニケーション能力」
「コミュニケーション能力」も「自己肯定感」を育てるために大切な要素です。「自己肯定感」には大きく2つの要素(自己承認と他者承認)があります。どんなに自己承認ができても、他者承認がなければ、どうしても自分を肯定しにくくなってしまいます。一方、コミュニケーション能力が高いと、自分のことを適切に周りに伝えられるので、周りから受け入れられ(他者承認)、その結果自分を受け入れやすくなる(自己承認)効果があります。
また、他者と意思疎通ができれば、うまく人間関係を構築することができ、他者からも受けて入れてもらいやすくなり、幸福度を高めることにもつながっていきます。個人差はありますが、3~4歳くらいから他者とのコミュニケーションが活発になるので、保護者が適切にサポートしてあげるとよいでしょう。ただ、発育の状態は子どもによって違います。他のお子さんと自分のお子さんを比較して、無理やり「もっと言葉で伝えなさい」「一人で遊んでばかりじゃダメ」などと強制はせず、親子の温かいコミュニケーションを大切にしてください。
「好きなこと・得意なことがある」
「好きなこと・得意なことがある」があるというのは、その子のアイデンティティを作るうえで大切な要素の1つです。好きなことや得意なことをしているとき、脳はドーパミンやβ―エンドルフィン、セロトニンなどたくさんの快感を司る脳内ホルモンを分泌します。すると、その部分がより発達しやすくなります。好きなことや得意なことを見つけて認めてもらえると、子どもは自分を肯定しやすくなり、自信をもちやすくなるのです。
小学生になると、“勉強ができる”“スポーツが得意”といった目立ちやすいことで注目されがちですが、「文章を書くのがうまい」「絵を描くのが得意」「歌や音楽のセンスがある」「キャラクターの名前を全部覚えている」など、保護者のかたはお子さんのさまざまな素晴らしい部分に目を向け、ほめてあげるようにしてください。「自己肯定感」だけでなく、学習能力も高まりやすくなります。
「目標や目的があること」
目標があることも脳にとって大切です。目標があると前頭前野が活性化するため、あらゆるパフォーマンスが高まることがわかっています。例えば、旅行に行く日が決まっていると、仕事がはかどりやすいという体験をしたことがあるかたも多いかもしれませんね。これが、目標があることでパフォーマンスが高まる体験の1つ。子どもの場合も同様で、目標をもつ子どものほうが学習意欲や遂行能力まで高まります。「自分はこういうことをやりたい!」という明確な目標をもった人生を送ることで、毎日がより充実し、自分を好きになり、「自己肯定感」も高まるでしょう。
さらに、目標や目的が「人のために貢献したい」「社会のために役立ちたい」というものだと、より幸福度が高まり、豊かな人生につながっていきます。たとえば、ビジネスやスポーツの世界で成功している「自己肯定感」の高い人たちの中には、「世の中をよくしたい」「人の役に立ちたい」と考えている人が多いものです。子どもの場合も同じで、多くの人の役に立ったり喜んだりしてもらった体験は、「自己肯定感」を高め、自信や幸福につながっていきます。
小学生くらいのときは、まだ自分で知識や情報を得ることは難しいので、保護者のかたがなるべく多くの体験をする機会を与え、選択肢の幅を広げてあげることが大切です。今まで体験していないことをさせてあげたり、遊びをさせてみたり、行ったことのない場所に連れて行ったりするなど、お子さんが好きなことや目標を見つける手伝いをしてあげてください。
今日から実践!子どもの「自己肯定感」を高める方法
それでは、子どもの「自己肯定感」を育てるための具体的な方法を紹介しましょう。
「リフレクティブ・リスニング」
「子どもが言うことを聞いてくれない」「子どものコミュニケーション力が低い」という悩みをもっている保護者のかたも多いかもしれません。そこで有効なのが「リフレクティブ・リスニング(子どもの発言をそのままオウム返しで復唱する)」という方法です。
リフレクティブとは英語で「反射」という意味で、子どもが言ったことをそのまま反射するように復唱する聞き方のことを「リフレクティブ・リスニング」といいます。たとえば「今日公園でブランコが楽しかったよ!」と子どもが言ったら、「そう、ブランコで楽しかったんだね、よかったね」と伝えます。すべてを正確に返す必要はなく、ポイントだけ伝えても同じ効果があるので大丈夫。
適切な「リフレクティブ・リスニング」をすることで、子どもは「自分の話を聞いてもらえた」「自分を受け入れてもらえた、認めてもらえた」という感覚になり、安心感や「自己肯定感」が高まります。話の広がりは家族の良好なコミュニケーションもつながっていくでしょう。これは子どもがいくつになっても、成人している場合でも効果があります。親子の関係を深める“とっておきの方法”なので、ぜひ試してみてください。
「箱の法則」
次に“箱の法則”について解説したいと思います。
たとえば、コップに水が半分入っているとき、世の中には「半分しか入っていない」と思う人もいれば、「半分も入っている」と思う人もいます。同じものを見ているはずなのに、とらえ方が違うのです。どんな物事にも、マイナスの面とプラスの面があります。物事を箱にたとえると、ずっと同じ方向から見ていても、箱の1つの面しか見えませんが、横から見たり、上から見たりと、見る方向を変えることで、いろいろな面が見えるようになります。つまり、マイナスだと思っていたことが、別の面から見るとプラスだということもあるのです。これが“箱の法則”です。
一般的に欠点はよくないものととらえがちですが、現在の科学でわかってきていることは、私たちが欠点とよんでいるものは“私たちの個性”でもあるということです。私自身、小学生のときは引っ込み思案で人前で意見を言うのが苦手だったため、それが欠点だと感じていました。大人になって、人前で意見を言えないというのは、「この意見を言ったら周りの人はどう思うだろう?」「みんなが納得するにはどんなことを言えばいいだろう?」と他者目線で考える力や深く内面を掘り下げる能力が高かったことに気づき、現在では、多くの人に向かって講演をおこなったり、コーチングやカウンセリング、コンサルティングをしたりといった仕事に、この能力が生かされています。
大人になって成功している人たちの中には、幼少期は変わり者で友だちがいなかったり、勉強ができなかったり、人と違うことをして嫌われたりといった経験をしている人もいます。これはとらえ方を変えると、独自の世界をもっていて、自分の信念があったということでもあります。また成功の背景には、そんな子ども時代を支えてくれた保護者の存在が必ずあったということがわかっています。保護者がお子さんの可能性を認めてあげて大切にはぐくんでいくこと、これが子どもの「自己肯定感」を伸ばすうえでもっとも大切なことの1つかもしれません。
そのためには、保護者自身も、日ごろから物事を多角的に見る目を養う必要があります。「子どものここがダメ」と思っている部分を、別の側面から見るように意識してみましょう。たとえば“子どもがすぐウソをつく”場合は、「自分で言い訳を考えられるほど脳が育って、頭がよくなってきているんだな」、“飽きっぽい、集中力がない”は「頭の回転が早く、学習能力が高いんだな」、“落ち着きがない”は「好奇心が旺盛」、“聞き分けがない”は「自分の意見をしっかりもっている」といったように、子どもの短所を長所でもあるととらえ直してみてください。短所が長所でもあるのだと気づけば、保護者のお子さんへの声かけや接し方も変わってくるはず。結果、お子さん自身の自己イメージがよくなったり、「自己肯定感」が高まったりしていきます。
下記に、“箱の法則”の転換ワークの一例をご紹介しておきましょう。
- おとなしい→人の気持ちがわかる
- 人見知り→感受性が高い
- 引っ込み思案→自分の世界をもっている
- ウソをつく→脳が育っている
- 飽きっぽい→頭の回転が早い
- 落ち着きがない→好奇心が旺盛
- 聞き分けがない→自分の意見をしっかりもっている
- うるさい→エネルギーが高い
保護者自身の「自己肯定感」を高めよう
子育ては、大人と子ども、両方の立場によって成り立つもの。子どもだけでなく、保護者たち大人も参加者なのです。だからこそ、保護者自身の「自己肯定感」を育むことが大切になります。
保護者の「自己肯定感」が子どもにも影響する
私たち人間は、周りの人から影響を受けることがわかっています。たとえば、周りにいる人があまりにも「自己肯定感」が低い人たちばかりだったら、自分もあまり前向きな気持ちにはなれないかもしれません。これは人間の脳には、まねっこが得意な“ミラーニューロン”という鏡のような働きをする細胞があって、目の前にあるものを自分の中に投影するからなのです。“もらい泣き”という現象も、まさに“ミラーニューロン”が起こす現象です。
この“ミラーニューロン”による現象を見てもわかるように、まずは保護者が幸せであることが、子どもを幸せにすることにつながります。だから、子どもの前で親がケンカをしたり、子どもに対して暴言ばかりを吐いたりすることは、1番やってはいけないことです。
自分を支えてくれるはずの両親の仲が悪いと、子どもは十分な安心感を得ることができません。ニューヨーク大学の研究によると、1000人以上の子ども(0~5歳)を対象にリサーチを行なった結果、親が暴力的なケンカをする家庭で育った子は感情を読む能力が低い、暴力がなくても激しい口論をする姿をずっと見てきた子どもは、逆に感情を読みすぎる傾向があることが分かりました。
また他の研究でも、両親の仲が悪いと、自己評価が低くなったり、他人への信頼感が低くなったりする傾向も報告されています。
たとえ両親が離婚して片親で育ったとしても、離婚後お互いに敵対せず、子どもと今まで通りに接していると、子どもは健全に成長することができるのです。
子どもと一緒に新しい体験をしよう
日々忙しくしている保護者のかたも多いでしょう。そこで、無理なく日常生活の中で実践できる、保護者のかたの“「自己肯定感」を高める方法”をご紹介しましょう。
たとえば、部屋の中に、子どもの写真や可愛いものを飾っておいたり、観葉植物を置いたりするなど、環境を整えるのもよいでしょう。また、お風呂に入るときに暗くして、水面にアロマキャンドルを浮かべるといった、非日常感を演出する方法を試してみるのよいかもしれません。寝る前にその日あった“よかったこと”“できたこと”“うまくいったこと”を振り返って日記を書く「成功日記」もよい方法です。小さな成功の積み重ねにより、脳の中に自分のよいイメージを定着させることにつながります。また、趣味をもつのもとてもよいです。趣味を楽しむことで明日を頑張る力を得たり、パフォーマンスが上がったりするだけでなく、驚いたことに困難を乗り越える力も高くなるということがわかっています。
また特におすすめなのが、旅行やお出かけなどをしていろいろな場所に出向いたり、子どもと一緒に新しい体験をしたりすること。良質な本やおもちゃを買い与えるといったように、いくら物にお金をかけても幸福感は長く続きませんが、“子どもと初めて海に入ったこと”“コンサートやイベントに行ったこと”“花を一緒に買いに行ってすごくいい香りがしたこと”“キャンプで遊んだこと”など、体験にかけたことは一生、思い出すたびに幸福感が増していきます。お子さんと一緒にたくさんの新しい体験をすることで、保護者のかたの「自己肯定感」も上がっていきますので、是非実践してみてください。
この記事の監修・執筆者
にし たけゆき/T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。遺伝子や脳内ホルモンなど最先端の仕事を手がけ、2008年には世界的にうまくいく人を脳科学的に研究する会社を設立。
脳科学の知見を生かし、企業から個人まで人を科学的に幸せに導くカウンセリング、コーチング、コンサルティングなどを提供している。
著書に『脳科学者が教える集中力と記憶力を上げる 低GI食 脳にいい最強の食事術』(アスコム)、『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(アスコム)、『一流の子育てQ&A』(ダイヤモンド社)、『脳科学者が教える子どもの自己肯定感は3・7・10歳で決まる』(PHP研究所)などがある。
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