子どもの自己肯定感を高めることの意味とは? 【脳科学者監修】 :前編

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「子どもには幸せに、そして力強く人生を生き抜いてほしい」、子どもを育てている保護者の誰もが、そう願っているのではないでしょうか。

最近よく耳にするようになった「自己肯定感」や「非認知能力」は、人生の幸福度にも関係しているといいます。「子どもの自己肯定感を高めるにはどうしたらいいの?」と悩まれているかたに向け、“子どもの自己肯定感を高めることの意味”について、脳科学者の西 剛志先生にお話をうかがいました。

お話:西 剛志先生(工学博士〈脳科学者〉、T&Rセルフイメージデザイン代表取締役)

目次

「自己肯定感」とは

では、そもそも「自己肯定感」とはどういうものなのでしょうか。最初に言葉の意味や「自己肯定感」の重要性について説明していきます。

「自己肯定感」は「自尊心」とは違う?

「自己肯定感」とは自分を認める力のことです。いわゆる「自尊心」は、「自分を尊敬する、好きになる気持ち」ですが、自分を好きになるためには、まず「自分を肯定する、受け入れる気持ち=自己肯定感」がないと、自信や自尊心は生まれてきません。

実は、この「自己肯定感」には段階があります。「“自分のよいところ”だけを認める」浅いレベルの「自己肯定感」では、自分のよい点は認められるのですが、自分の欠点や劣っている点は嫌い、受け入れることができません。一方、深いレベルの「自己肯定感」では、欠点も長所もすべて肯定することができ、“ありのままの自分”を受け入れることができます

「自己肯定感」が高まると、幸福度も高まる

このところ、IQ(知能指数)では測れない、創造力・集中力・コミュニケーション力などの力である「非認知能力」が重要視されるようになってきています。

自分を好きになれない・「自己肯定感」が低い状態だと、心が緊張状態になりやすく、脳のパフォーマンスが落ちてしまいますが、自分を肯定できると幸福度が高まり、脳がリラックスしてやる気や集中力が持続します。このように「自己肯定感」が高いと、「自己幸福感」も高まり、その結果、物事を達成する力など、あらゆるパフォーマンスや非認知能力の向上につながるのです。

「自己肯定感」は“自分で自分を認めること(自己承認)”によって高まるだけでなく、“他者から自分を認めてもらうこと(他者承認)”でも向上します。

ビジネスやスポーツなどの分野で社会的に成功している人には、「自己肯定感」が高い人が多いものです。「自己肯定感」が高い人は、たとえ結果が出せなかった場合でも幸福度は高いという面白い結果が出ています。自分を認める力が高く、周りへの感謝の気持ちを忘れずにいるため幸福度も高くなります。

結果的に、それがビジネスやスポーツの世界で成功を収めることにつながっているというわけです。ですから、幸福度の高い人生を送るためにも、自分の力を存分に発揮するためにも、「自己肯定感」をもつことは非常に大切だといえます。

脳の成長には3つの段階がある

実は、脳には3つの成長段階があります。また、脳には独特の特性があるので、成長の仕方や特性を知っておくことで、育児に役立てることができるでしょう。

脳はどのように成長するの?

脳は生まれたときは未熟で、わずか300~400gほどしかありませんが、1歳で倍の800g、3歳までに1200g(大人の80〜90%の大きさ)、4歳くらいまでに大人とほとんど変わらない大きさにまで成長します。

ただ、脳の司令塔ともいわれている前頭前野(計画を立てる、感情コントロール、ワーキングメモリ、行動の抑制や柔軟性を司る部分)は未発達で、3歳から発達が進み、28歳くらいまで成長していきます。前頭前野の発達によって、3〜4歳からは、他者の気持ちを理解できるようになってくるため、コミュニケーション力も発達していきます。生活上守るべきルールも少しずつ理解するようになります。

8歳からは前頭前野が急速に発達していき、論理的に考える力や将来をプランニングする力、思考力などがどんどんついていきます。スポーツやゲームをするときにも戦略を立てて取り組むようになります。だから、この時期には、何か物事に取り組む際に“目標を立てる”ことが大切です。“自分がどんなことに向いているのか”“どんなことが好きなのか”といったことを見つけるためも、お子さんにさまざまな体験をさせてあげるとよいでしょう。

このように、子どもの脳の発達には段階があるため、それに合わせて、育て方や関わり方を変える必要があるのです。

また、脳には変化しやすいという性質(脳の可塑性)があるため、いろいろな体験をとおして、脳がより発達していきやすくなります。脳はずっと成長し続けるため、何歳になってからでも遅いということはありません。ですから、たとえお子さんが3つの段階の年齢を過ぎてしまっているからといって諦めず、脳の特性を知ったうえで上手に関わっていってほしいと思います。

脳にはこんなクセがある!

脳には独特の特性(クセ)があります。たとえば、子どもはすぐ周りの大人の真似をしますよね。あれはなぜなのでしょうか。それは、脳の特徴として、“脳はまねっこが好き”というものがあるからなのです。脳の神経細胞には「ミラーニューロン」という“モノマネ細胞”があり、目の前にいる相手の様子を鏡のように脳の中に再現し、脳内の情報と同期させて、相手の思いや考えを判断するという働きを支えています。子どもはまねっこを通じて、脳にさまざまな情報をインプットしているのです。

保護者のかたが「あなたはダメな子」といつも言っていると、脳がそれを真に受けてダメな方向に成長してしまいかねません。“保護者のかたの言葉通りに子どもは育つ”というくらいの認識をもっていてください

脳には“ほめると育つ”という性質もあります。脳はほめられると「報酬系」という領域内の「線条体」が活性化し、“やる気ホルモン”と呼ばれる「ドーパミン」という脳内物質が分泌されます。子どもにとって“保護者のかたからほめられる”という何よりのご褒美をもらうことで、いろいろなことを吸収したり学んだりする力も高まっていきます。

ほめ方も非常に大切です。「すごいね」「計算が早いね」「絵が上手だね」といったように、その子の能力自体をほめると、逆に難しい問題に直面した際にチャレンジしない子どもになってしまうことがカルフォルニア大学の研究からわかっています。もし、難しい問題にチャレンジしてできなかったら、自分には“能力がない”ことになってしまうため、“能力があること”を証明しようと、確実にできる問題だけにしか挑戦しなくなってしまうのだと考えられています。

“できたこと”自体よりも、“子どもの思い(意志)”をほめるようにしましょう。たとえば、パズルができたときに「できた! すごいね!」とほめるのではなく、パズルをやろうとした思いを取り上げてほめましょう。「よくパズルを完成させようと思ったね!」、「最後まであきらめずにやろうと思ったね!」、「このピースをよくここにはめようと思ったね!」というようなほめ方です。「どうやってできたの?」と子どもに尋ねてみることも有効です。子どもは、自分が取り組んだプロセスを喜んで話してくれることでしょう。このように“質問をする”という方法もおすすめです。

行動そのものではなく、“その行動の源泉になっている子どもの思い”“行動のプロセス”をほめるようにすると、結果にこだわらず、常に好奇心をもって取り組む子どもに育ちます。

ただ、子育てをしているとどうしても“しかる”必要がある場合もありますよね。偉人として知られる二宮金次郎(二宮尊徳)は、「かわいくば、五つ数えて三つほめ、二つしかってよき人となせ」という言葉を残しています。このように“三つほめて二つしかる”を目安にするとよいでしょう

ただ、男の子は甘やかすより少し厳しく育てたほうが自制心が育ちやすく、女の子は厳しくしすぎると打算的な性格になりやすいため、男の子は“ほめる四割”、女の子は“ほめる六割”くらいの感覚でちょうどよいかもしれません。

ほめるばかり(受容型)の保護者よりも、ほめる+しかる(支援型)の保護者のもとで育った子どものほうが、より前向きになったり、ルールを守ったりできるようになるばかりでなく、将来の年収まで高くなる傾向があることもわかっています。

一方、脳は“制限されることが嫌い”です。大人だって「この箱は開けではダメ」と言われると開けたくなりますよね。基本的に脳は、指示や命令を受けると反発したくなる特性を持っています。そのため保護者が「こうしなさい」と指示したり、「あれをやっちゃダメ」とお子さんを制限したりしすぎると、子どもの脳の創造力向上を妨げてしまったり、「自己肯定感」を低くしてしまうことにもつながりかねません。ある程度自由に、お子さんをのびのびさせておいてあげることも必要です。

また、効果的なのが“子どもに選択肢を与える”方法。頭ごなしにダメと禁止する言い方ではなく、「AとBのどっちにする?」などとお子さんに尋ねて選ばせるのです。この場合の選択肢はどちらも親の都合のよいもので結構です。この方法だと、自己否定をされることがないため、子どもは自分で選んだという納得のもと、「自己肯定感」を高め、自信を育むことにもつながります

脳の「10種類の才能」とは

脳の成長のしかたやクセは基本的には変わらないとはいえ、やはり人それぞれに少しずつ得意なこと、不得意なことは違うものです。育つ環境によって“脳の個性”も変わってきます

認知教育学の権威であるハーバード大学のハワード・ガードナー教授の理論をもとに、私は脳のもつ10種類の才能を提唱しています。

  • 言葉が好き→言語の才能
  • 数学が好き→数学的な才能
  • 質問が好き→論理的な才能
  • 絵を描くのが好き→視覚・空間的な才能
  • 音楽が好き→音楽的な才能
  • 身体を動かすのが好き→身体的な才能
  • 手先を使うのが好き→職人気質の才能
  • 人が好き→対人的な才能(コミュニケーションの才能)
  • ひとりでいるのが好き→内面的な才能
  • バリエーションが好き→博物学的な才能

好きなこと、得意なことといった長所を“見極め”、伝えていくことで、お子さん自身も「自分はこれが得意」という自己イメージをもったり、才能を開花させたりすることにつながっていくでしょう。保護者の役割として望ましいのは、保護者自身が抱く子どもへの期待を押し付けるのではなく、子どもが自らの才能を花開かせる手伝いをしてあげることではないでしょうか。

この記事の監修・執筆者

工学博士(脳科学者) 西 剛志

にし たけゆき/T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。遺伝子や脳内ホルモンなど最先端の仕事を手がけ、2008年には世界的にうまくいく人を脳科学的に研究する会社を設立。
脳科学の知見を生かし、企業から個人まで人を科学的に幸せに導くカウンセリング、コーチング、コンサルティングなどを提供している。
著書に『脳科学者が教える集中力と記憶力を上げる 低GI食 脳にいい最強の食事術』(アスコム)、『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』(アスコム)、『一流の子育てQ&A』(ダイヤモンド社)、『脳科学者が教える子どもの自己肯定感は3・7・10歳で決まる』(PHP研究所)などがある。

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