4月から年長児さん(5・6歳)になるお子さんは入学まで1年以上先ですが、ランドセルをはじめ徐々に小学校入学を意識することが増えてくる時期になります。
小学校では、どのような場面で、どのような力が必要で、そのために就学前からやっておくことはあるのでしょうか?
幼稚園・小学校の両方で豊富な指導経験をおもちの横山洋子先生に、就学前に伸ばしておきたい力について、3回にわたってお話をお聞きしました。
お話:横山 洋子先生(千葉経済大学短期大学部こども学科教授)
取材・文:今井 美栄子
イラスト:内藤 由季子
小学校で必要な「土台の力」と「4つの力」
小学校で、今、必要とされているのが4つの力、「聞く力・話す力・諦めない力・仲良くする力」。そして、それらの土台となる、もっとも重要な力が「自ら考え行動する力」です。
第1回では「自ら考え行動する力」(第1回はこちら)
第2回では「聞く力」「話す力」(第2回はこちら)について取り上げました。
第3回は「諦めない力」「仲良くする力」についてお話しします。
小学校で必要な4つの力 その3 諦めない力
編集部:小学校と園のいちばんの違いは、授業と宿題! ちょっとずつ難しくなる勉強についていけるかな、宿題毎日こなせるかな……と不安は尽きません。今は毎日遊びざんまいだけど、根気ややる気を付けるために何かやるべきなのでしょうか?
「諦めない力」とは?
どうして必要なの?
あそびが中心だった園生活とは違い、小学校では勉強や宿題、行事など、目標を決めてねばり強く続ける取り組みが増えてきます。「諦めない力」がないと、何でも中途半端に終わり、何事も身につかなくなってしまうでしょう。ゲームなどあそびの中でも、ねばってねばってクリアした時の「やったー!」という気持ちが味わえるのは、「諦めない力」のおかげなのです。
「やればできる」という有能感
「どうせできないから」と最初から投げやりになる子が、ときどき見受けられます。必要なのは「自分ならきっとできる」という「有能感」。有能感は、小さな成功の積み重ねでだんだんと大きくなります。「やればできる」→「やっぱりできた」の好循環が生まれることで、一つの成功が次の成功を呼び、挑戦することが楽しくなっていくのです。踏み出しの一歩を支える有能感を、就学前に育てておきたいですね。
失敗にくじけない
一度の失敗で必要以上にショックを受けてしまい、復活できなくなる子もいます。失敗をあまり経験したことがなく、失敗にネガティブなイメージを持ちすぎているのでしょう。小さな失敗をたくさん積むこと、失敗の先に成功があると体験することが諦めない力につながります。
人と比べず、自分自身と向き合う
「○○ちゃんはできるけど、自分は…」という卑屈な気持ちも諦めにつながります。「人との差」ではなく、「前の自分との差」に目を向けることが大事。「前よりできるようになった!」と自分をほめることは、諦めずに続けるエネルギーにもなるのです。
「諦めない力」を伸ばすには、「コツコツ遊び」がおすすめ!
どんな遊びがおすすめ?
折り紙、パズル、あやとり、リリアン編み、竹馬、鉄棒など、手や体を使ってコツコツ取り組める遊びがおすすめです。作業にある程度の集中力が必要で、成果がはっきり見えることがポイント。また、指先を動かす遊びには、手指の巧緻性(器用さ)を育てるという利点も。小学校で鉛筆を持ったり、ノートのマス目に字を書いたりする時にも役立ちますよ。
ひんぱんに達成感が味わえるように
ゴールをあいまいに設定していたり、達成までの道のりが遠かったりしたら、大人でもやる気がなくなってしまいます。続ける気持ちが途切れないように、小さな達成感がひんぱんに味わえるといいですね。作る遊びなら、完成に近づいていく過程がよく見えるもの、習い事なら、細かく級が分かれているものなどは続けやすいかもしれません。また、目の前で家族が喜ぶ顔が見られるお手伝いも達成感がありますよ。「助かったよ、ありがとう!」とこまめに心からの感謝を伝えましょう。
成果や早さよりも、続ける姿をほめる
「早くできたね」「うまくできたね」よりも、取り組む姿を認め、「がんばっているね」「諦めず続けているね」とほめましょう。あまり成果に重きを置きすぎると、難しいと感じた途端に諦めたくなってしまいます。目に見える成果や、到達の早さばかりではなく、やり続ける姿に価値があると伝えていきましょう。
途中でやめたくなっても認める
子どもが「やめたい」と言い出したら、「もうやらないの?」「もっとやりなさい」などの言葉は逆効果です。「一緒にやろうか」と励まし、それでも難しいようなら理由を聞いて、「じゃあ続きは今度ね」と受け入れましょう。「○分ぐらいはできないと…」というのは大人の勝手な理想。集中力は、子どもの興味やその日の気分によって違います。たとえ短時間しか続かなくても、自分で決めたところまで取り組んだことをほめてください。途中でやめても、「またいつかできるといいね。」と受けとめてください。「自分はここまでできたんだ! またやろう!」という気持ちが残ることが大切なのです。
編集部:子どもの好きなことで「できた!」をたくさん味わうことが、諦めないパワーになるんですね! 「できないこと探し」じゃなくて「できたこと探し」、今日からやってみたいですね。
小学校で必要な4つの力 その4 仲良くする力
編集部:年長児ともなると、ときどき友だち関係でもめることがあります。幼児のうちは親や先生が仲立ちに入ることも多いけど、小学生になると、だんだん子どもたちだけの世界ができてくるとか。友だちとのトラブルを、なんとか自分で乗り越えていってほしいものですが……。
「仲良くする力」とは?
どうして必要なの?
小学校に上がって友だちができるだろうか、クラスになじめるだろうか、というのは、保護者にとって最も気になるところですね。また、今の小学校は、協力して学習を進める「協働的な学び」を取り入れています。人との関係を作る「仲良くする力」はますます必要になっているのです。
友だちの一面だけを見ない
誰でも友だちとけんかすることがあるし、気が合わない人もいますよね。その時、「だから○○ちゃんの全部が嫌い!」とならないようにしたいものです。一人の人間にもいろいろな面があることに気づき、「○○をするときの○○ちゃんは好きじゃない」と場面ごとに分析して考えられることが大切です。
自分も相手も大切にする
ブランコで遊びたいのに、友だちがずっと使っていて遊べない…といった場面、よくありますね。そんなとき、自分の気持ちだけ優先して「もう嫌い!」となってもいけないし、相手の気持ちを尊重しすぎて「自分が我慢すれば…」となっても困ります。我慢が過ぎると人間関係は崩れます。自分も相手も大切にし、折り合いをつけられることが「仲良くする力」なのです。
自分から相手に働きかける
控えめな性格が多い日本人には、これが難しいことかもしれませんね。大学生でも、話しかけることが苦手な学生は少なくありません。新しい友だちを作る際も、けんかをして仲直りする際も、自分から声をかける「小さな勇気」が必要です。相手任せにしてただ待っているだけでは、なかなか関係は築けないのです。
「仲良くする力」を伸ばすには、「好きなところ見つけ」がおすすめ!
自分や相手の好きなところに注目する
まずは大人が子どもに、自分の好きなところを言います。次に子どもに「自分のどこが好き?」と尋ねてみましょう。そして、お互いに「あなたの、こんなところも好きだよ」と伝え合ってください。さらに広げて、友だちの好きなところも教えてもらいましょう。「好きなところ」を見つけようと思いをめぐらすことで、「あの時は意地悪だったけど、こんないいところもあったな」と、その子のいろいろな面に気づくことができます。
好きなところが見つけられなくても…
どんなに些細なことでも、見つけられたことをほめましょう。もしも、好きなところが何も見つけられなかったら、努力して考えをめぐらせたことをほめてください。逆に「どんなところが嫌なのかな?」と尋ねてみてもいいですね。じっくり話を聞いて、「そっか、○○する○○ちゃんが嫌いなんだね」「どうしてそんなことしたくなったのかな?」と子どもの気持ちを受け入れることは、友だちの気持ちにも目を向けるきっかけになるでしょう。
絵本の中でも「好きなところ見つけ」をしよう
「意地悪なおじいさん」「欲張りな魔女」「怖いオオカミ」など、絵本の中には多種多様なキャラクターが出てきますね。そこでも「好きなところ見つけ」をやってみましょう。「オオカミは悪いけど、こういうところはわりといいやつかも」などと良いところを見つけたり、「ほんとうはこう思っていたのかも…」などと想像したりすると楽しいですよ。絵本をとおしていろいろな人物像に出会うことで、「仲良くする力」をはぐくむこともできるのです。
編集部:「相手や自分の好きなところを見つける」って、実は大人にも必要なことかもしれません。見方を変えたり、いろんな考えを知ったりして多様な個性を認めることが、「仲良しの秘訣」なんですね。
全3回で、就学前に伸ばしておきたい、土台の力「自ら考え行動する力」と、4つの力「聞く力」「話す力」「諦めない力」「仲良くする力」と、についてお話ししました。
どれも、子どもらしい充実した生活を送ることで身に付いていく力です。今回のお話を、ぜひ就学前のお子さんとのかかわりのヒントにしてくださいね。
横山 洋子(よこやま ようこ)先生
幼稚園・小学校の教諭として17年間勤務。その経験を生かした、具体的で温かいアドバイスが指示されている。
ヤフーニュース公式コメンテーター
船橋市子ども・子育て会議 会長
船橋市社会福祉審議会児童福祉専門分科会副会長
主な著書に
「子どもの育ちをサポート! 生活と遊びから見る『10の姿』」ナツメ社
「0〜5歳児 非認知能力が育つこれからの保育」池田書店(監修)
ランドセル名作シリーズ「3つのまほう」「3つのプレゼント」学研(監修)など。
この記事の監修・執筆者
富山大学教育学部附属幼稚園・教諭、富山市立古里小学校、富山市立鵜坂小学校・教諭を経て、現在は千葉経済大学短期大学部こども学科の教授を務める。著書には、『保育者のためのお仕事マナーBOOK』、『保育に生かせる!年中行事・園行事ことばかけの本』、『毎日のちょこっとあそび』(学研)などがある。
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