子どもが自分のことを伝える「発信力」を育むには?【専門家監修】

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小学生になると、それまでの園や家庭での過ごし方と、大きく変化した環境に子どもたちは置かれます。“あれもこれも周りがお世話してくれる環境”から、“自分のことは自分でやらなければならない環境”に一気に変わるため、戸惑うお子さんも少なくないかもしれません。

そこで大切になるのは“自分のことを自分で周囲にしっかり伝えられること”。「トイレに行きたい」「お腹が痛い」など、子どもが自分のことをきちんと先生や周りの人に伝えられるようになるために、家庭でできることは何なのでしょうか。

今回は、「自分のことを伝えられるようになる、声かけ」をテーマに、ハートフルコミュニケーション 代表理事の菅原裕子先生にお話を伺いました。

お話:菅原 裕子先生(ハートフルコミュニケーション 代表理事)

目次

小学校入学後は“自分のことを伝える力”が重要

自分のことを伝えるためには、当然のことながら言葉として発信する能力が必要です。ただ、子どもは初めから言葉を巧みに使えるわけではありません。子どもの発育の段階を考慮しながら、親は接し方を変えていく必要があるでしょう。

幼い頃は、自分の中で起こっていることを言葉で表現できないもの

幼い子どもが「砂場で遊んでいるときに、砂を蹴散らされてしまった」、「遊んでいた玩具をきょうだいに取られた」ときに、相手を叩いたり押したりするなど、暴力を振るってしまう、というケースがありますよね。

これは子どもが自分の中で起こっていること、自分の状況をどのように表現すればいいのか、まだ分からないためです。自分が感じている「やらないで」「取らないで」「やめて」「嫌だよ」ということを、言葉ではまだ表現できないのです。

トラブルを起こさないために

小学校に入学すると、そういった自分の感情や状況を、きちんと言葉にして言えることが求められます。「嫌だ」といった感情面だけでなく、「助けて」「トイレに行きたい」といったような要求まで、自分が嫌だと感じていること、不都合だと感じていることを相手に伝える必要が出てきます。

また、このようなネガティブな内容だけでなく、「おはよう」などのあいさつや、「ありがとう」といったポジティブな内容を伝えられるようになるためにも、「言葉にして伝えられる」ことは大切です。そうすることで初めて周りとコミュニケーションが取れるようになり、周りも子どもに対して対応ができるようになります。

「周りの人に訴えられない」「自分のことを伝えられない」状態だと、集団生活を営む中で、人間関係などでもめ事に巻き込まれたり、通学路で危険な目に遭ったりする可能性もあります。自分の中で起こっていること、感じていること、体験していることを、きちんと自分から発信できるというコミュニケーションスキルが重要になるのです。

幼稚園や保育園などの園生活では、子どもには“まだできないことがある”という見方が基本にあって、子どもができることを見守りつつ、保育士らが“察して”積極的に手伝ってくれます。一方、小学校では子どもが“できることが基本”にあるのが大きな違いです。子どもにとっては、見えないけれどとても大きなハードルがあるのです。それを乗り越えるためにも、子どもに十分な“発信する力”が備わっている必要があります。

ある日突然“自分のことを伝えられる”ようにはならないから

卒園を間近に控えた園児に対し、保育園や家庭で「もうすぐ小学生なんだから」と、これまで求めていたことと全く違うことを、急に子どもに求めてしまいがちです。

親が“予測して”“先回りして”、不都合がない環境を整えてくれることが当たり前になっているお子さんにとっては、小学校に入学したからといって「今日から、自分のことを自分で発信してください」と急に言われても戸惑ってしまいますよね。お子さんの気質によっては、突然このように求められてしまうことで、なかなか新しい環境に適応しづらく、不適応を起こしてしまうようなケースもあるかもしれません。

これまでの子育てと全く違うスタイルを親が取ることによって、子どもにストレスを与えてしまうこともあり、そうすると小学校に入学する前からストレスを抱えた状態に陥ってしまいます。子どもが幼い頃から、どうしたら子どもがスムーズに前進していけるのか、考えながら子育てをしていくことが大切です。

安易な「頑張って」に潜む危険性

また、つい「頑張って」という声かけをしてしまうことも多いかもしれませんが、“頑張れ”と言われても、お子さんは「一体何をどう頑張ればいいのかわからない」という戸惑いを感じたり、子どもなりの緊張を感じたりすることもあるかもしれません。

例えば「来週、運動会がある」という話をする場合、つい「運動会頑張ってね」と言ってしまいがちですが、代わりに「運動会の練習はどうだった?」などと、お子さんに話を聞いてみましょう。お子さん自身で、自分の体験や感情を言葉に置き換え、親に伝えようとしてくれます。

もし「練習楽しいよ」という言葉が出たとしたら、「そうなんだね、楽しいんだ」「どんな練習をしているの?」など、会話の中でお子さん自身が使った言葉をそのまま使ってみてください。子どもがなるべく「うん」と言えるような言葉がけをすれば、子どもに過度の緊張やストレスを与えずにすみます。子どもの状態を無視して一方的に安易な声かけをするのではなく、まずは相手に聞いてみる。これは子どもだけでなく、大人に対しても同様です。人間同士のコミュニケーションの基本といえるでしょう。

子どもに“自分を表現する”ことを教えよう

「子どもが自分のことを伝えられるようになる」ためには、親がどのようにそういう能力を育てていくかということが、やはり大切になってきます。言葉をうまく使えない乳幼児期から、親はお子さんに“自分を表現する”ことを教えていくのがよいでしょう。

例えば、「自分が遊んでいる積み木を、下のきょうだいが崩してしまい、きょうだいを叩いてしまった」という場合、叩くのをやめさせる、遠ざけるだけでなく、叩いてしまったお子さんが言いたかったであろうモヤモヤや感情を、親が代わりに言葉にします。「崩されて嫌だったね」「遊んでいるのを邪魔してほしくなかったよね」と言葉に換えることで、子どもは「そう、嫌だったの」「悲しかったの」と、自分の感じていたモヤモヤに、言葉を当てはめてもらえたと感じます。これを繰り返すうちに自分で「嫌!」「ダメ」と、自分の感情を言葉で言えるようになっていきます。

言葉で伝えられるようになったら、日常的にお子さんと対話をすることを心掛けてほしいと思います。お子さんがまだ上手に話せなくても構いません。会話をすることで、子どもが自分の中で起こっていることを伝える力、子どもの表現力を引き出すことにつながっていきます。

そこで1つよい方法があります。それは「親が問いかける」ことです。親の側の意見や考えをお子さんに押し付けるのではなく、まずはお子さんに聞いてみること、問いかけをすることをしてみてください。お子さんはきっといろいろなことを話してくれるはず。お子さんが話してくれたことの中から、言葉や話題を拾って広げていくとよいでしょう。

また、「それってどう思ったの?」と「どう感じたの?」というように質問を投げかけていくと、だんだん子どもは「自分が何を思ったんだろう、どう感じたんだろう」ということを自分の中へ探しに行き、答えを見つけ、言葉にして発信できるようになります。

ただし、これには時間がかかります。小学校に入学したとたん、日常生活で言わなくてはならないこと、発信できないと困ることを伝える力は急には身に付きません。「まず言葉を教える」「次に対話を始める」「そして問いかける」、この訓練をしていってほしいと思います。

→3月9日公開予定の【子どもが自分のことを伝える「発信力」を育むには? 後編】で、さらに詳しくご紹介します。

この記事の監修・執筆者

NPO法人ハートフルコミュニケーション 代表理事 菅原 裕子

有限会社ワイズコミュニケーション 代表取締役

人材開発コンサルタントとして、企業の人材育成の仕事に携わる。従来の「教え込む」研修とは違ったインタラクティブな研修を実施。参加者のやる気を引き出し、それを行動に結びつけることで、社員と企業双方の成長に貢献。

1995年、企業の人育てと自分自身の子育てという2つの「能力開発」の現場での体験をもとに、子どもが自分らしく生きることを援助したい大人のためのプログラム-ハートフルコミュニケーション- を開発。各地の学校やPTA、地方自治体の講演やワークショップでこのプログラムを実施し、好評を得る。2006年、NPO法人ハートフルコミュニケーション設立。

ハートフルコミュニケーション
http://www.heartful-com.org/

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