願わくは賢く育ちますように…。親ならそんな風に考えることもありますね。
最新の脳医学研究では、「好奇心」を上手に伸ばせば、そんな気になる話を、脳医学者の瀧 靖之先生に伺いました。
お話/東北大学加齢医学研究所 教授 瀧 靖之
好奇心が脳を育てる
脳には、「可塑性」「汎化」という特性があります。
- 可塑性…自らを変化・成長させていくことができる力
- 汎化…何かひとつの能力が伸びると、直接は関係しない部分の能力も伸びる力
好きなことを突き詰めれば、脳は変化・成長し続けるだけでなく、他の能力も伸びていくという特性です。
つまり、好きなことを見つけて、それを突き詰めるための「好奇心」が脳の成長の栄養になると言えるでしょう。
その強い好奇心を身につけさせるために、次に紹介するアイテムを、3、4歳までには用意するのがベストです。
なぜなら、その頃から子どもは「好き・嫌い」を徐々に自分で判断するようになり、それより前に身近にあったものについては「好き」になる可能性が高いからです。
つまり、将来の選択肢が広がるかもしれないのです。
でも、お子さんが5歳以上でも、最後にご紹介する「親が楽しむ」方法で子どもの興味を誘うことができますので、心配しないでくださいね。
それでは、実際のアイテムと活用方法を見ていきましょう。
アイテム【1】「図鑑」~眺めるだけでも効果大
図鑑は、いつでも新発見の宝庫です。
- 脳のさまざまな分野が活性化する
- 学習との親和性が高い
- 文字への興味が深まる
- 「なぜなぜ期」の強い味方
- 理系の能力が伸びる
など、多くのメリットがあります。
脳のさまざまな分野が活性化する
本を読むときには、脳の「言語野」が働くため側頭葉・前頭葉などの部分が活性化します。
図鑑には、写真や絵があるので、図形認識や空間認知を担う領域が同時に活発になり、脳にたくさんの刺激を与えます。
学習との親和性が高い
小学生になってから、勉強の内容をすらすらと理解できると「自分は勉強が得意」「学校が好き」という気持ちを育むことにつながります。
例えば、小学校の理科で「植物は光合成を…」といきなり始まるのではなく、植物図鑑を家で眺めたことがあるほうが、「知っている! 図鑑で見たことある!」となりますよね。
“知っている”ということで心理的ハードルがグッと下がり、そのあとの勉強の意欲につながったりします。理解・吸収も進むでしょう。
文字への興味が深まる
図鑑には「知りたい」と思わせるようなしかけが詰まっています。
写真や絵だけでも楽しめるように作られていますが、そこに書いてある名前や説明もだんだんと読みたくなってくることでしょう。
「世の中のことを知るために、文字を覚える」という本質から入ることができるのです。
「なぜなぜ期」の強い味方
3歳ごろには「なんで?」「どうして?」のなぜなぜ期を迎えます。
知りたくてたまらない子どもの「なぜなぜ」に、一日中つき合うのは難しい…。そんなときは、図鑑を頼ってみましょう!
初めは一緒に図鑑をめくって調べます。
子どもが慣れてくれば、「○○の図鑑で調べてごらん」「あの図鑑で調べて、教えてくれる?」と促すこともできるでしょう。
親子のコミュニケーションにもなりますよ。
理系の能力が伸びる
文系の方にとっては「理系はなんだか難しそう」と思われるかもしれませんが、そんなときにも図鑑が有効です。
なぜなら、図鑑のテーマは、基本的に自然科学だからです。そろえていけば、自然科学への興味が湧いてくることでしょう。
読み進めることで興味が湧き、「もっと知りたい」と好奇心をもって自然と学んでいくことができれば、前に書いたように、勉強へのハードルが下がります。
好きなことであれば、勉強としてではなく、自分の強い好奇心で学んでいくことができますね。
○メモ○
図鑑の買い方に正解はありませんが、一度にそろえるのではなく、子どもが好きな図鑑を1冊ずつ、一緒に本屋さんで選ぶのが瀧先生流だそう。
子どもとのコミュニケーションの機会になりますし、子どもが今好きなことを知ることもできますね。
アイテム【2】「虫取り網など」~リアル体験を手に入れる
さて次は、必ずしも虫とりアミである必要はありません。
ここでは、図鑑で得たバーチャルな知識や興味を、リアルな実体験・経験として結びつけるためのアイテムを選びます。
図鑑は脳のさまざまな分野を刺激すると紹介しましたが、そこにリアルな体験が加わると、五感が働き「感覚野」「視覚野」「聴覚野」「嗅覚野」など、脳のさらに広い範囲が活性化します。
そこで、例えば、昆虫図鑑に興味をもっているなら「虫とりアミ」が登場します。
子どもの興味によって
- 電車が好き…カメラ、時刻表
- 魚が好き…釣りざお、アミ
- 星が好き…天体望遠鏡、星座早見盤
など。
「これが好き=このアイテム」と決めつけずに、子どもの様子を見つつアイテムを探してみましょう。そうすることで、より興味をもって知識を吸収・展開し、どんどん子どもの好奇心が伸びていくでしょう。
○メモ○
リアルからバーチャルに結びつけることも可能です。
公園で見つけた虫の名前を図鑑で探したり、動物園の動物の生態を詳しく知ることができたりするなど、図鑑とそのアイテムは相互作用をもっているのです。
親は「あれが金星だよ」などと、子どものバーチャルとリアルを結びつける手助けをするとよいですよ。
アイテム【3】「楽器」~脳の発達も期待できる
言葉が発達する幼児期に、楽器は非常によいアイテムです。
なぜなら、脳の言葉を司る領域と、音を司る領域はほぼ重なったところにあり、楽器に親しむことで、言葉の領域にもよい刺激があると考えられるからです。
楽器を扱うことで得られる効果としては、他にも
- 耳の力(聞きとる力を養う)
- 細やかな動きで、手指の巧緻性を高める
- 長く続けられる趣味になりやすい
- 楽器を取り巻く、あらゆる音楽的な方面への知的好奇心が広がりやすい※
※歴史、文化、楽曲、音楽家、楽器の構造など
といったことが挙げられます。
親が楽しむ姿を見せることが大切
図鑑でも楽器でも、もしも子どもが全く興味をもたない場合は、親が楽しんでいる姿を見せましょう。楽しみ方に正解・不正解はありません。
また、図鑑の内容を噛み砕いて話題に出すのもおすすめです(子ども向けの図鑑はわかりやすく書いてありますので、親の苦手な分野でも安心ですね)。
大好きな大人のまねをして、見たり触ったりしているうちに、興味が湧いてくることも多いものです。
大切なことは、知識を制限しないこと。
脳の観点からは、子どもは大人よりもずっと知識を吸収しやすいので、「これは知らない言葉だから」「子どもには難しいだろう」と与えるものを押さえなくてよいのです。
一緒におもしろがって、新しいことを知るような気持ちをもってみてください。
この記事の監修・執筆者
たき やすゆき/東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター センター長/東北大学加齢医学研究所教授/医師 医学博士
東北大学加齢医学研究所及び東北メディカル・メガバンク機構で脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達や加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍。読影や解析をした脳MRIは、これまでにのべ約16万人に上る。
「脳の発達と加齢に関する脳画像研究」「睡眠と海馬の関係に関する研究」「肥満と脳萎縮の関係に関する研究」など多くの論文を発表している。
著書は、『生涯健康脳』(ソレイユ出版)『「賢い子」に育てる究極のコツ』(文響社)『脳医学の先生、頭の良くなる科学的な方法を教えてください』(日経BP)始め多数、特に『生涯健康脳』『賢い子に育てる究極のコツ』は共に10万部を突破するベストセラーとなっている 。テレビ東京「主治医が見つかる診療所」、「NHKスペシャルアインシュタイン 消えた“天才脳”を追え」、NHK「あさイチ」、TBS「駆け込みドクター!」など、メディア出演も多数。
こそだてまっぷから
人気の記事がLINEに届く♪