子どもの将来に影響を及ぼすといわれる「非認知能力」の育み方

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子どもの将来に影響を及ぼすといわれる「非認知能力」の育み方

近年日本でもよく聞くワードとなった「非認知能力」。特に幼児教育の現場で重要視されており、幼児期にこのスキルをきちんと育むことができるか、そうでないかが、その後の将来に影響を及ぼすといわれています。
子どものころの遊び方や、まわりの人たちとの関わり方によって習得が左右されるといわれる非認知能力。今回は、遊びやコミュニケーションを通して、非認知能力を伸ばす方法を小児神経学、発達神経学が専門の榊原洋一先生(お茶の水女子大学 名誉教授)にうかがいました。

文/こそだてまっぷ編集部

目次

幼児期の非認知能力の高さが将来の社会的成功に好影響

1970年にアメリカで行われた「マシュマロ・テスト」という方法による非認知能力の実証実験をご紹介します。

この実験では、目の前に置かれたマシュマロを食べずに我慢できたグループが、できなかったグループより非認知能力のひとつである「自制心」が高いという結果に。その約20年後、追跡調査を行ったところ、我慢できたグループの人々は周囲からの評価が高く、学力も優位に上回っていたのです。約40年後にも追跡調査が行われたのですが、この傾向が続いていることが報告されています。

また、幼児期に非認知能力を育む大切さが広く知られるようになるきっかけとなった研究に、『ペリー就学前教育プログラム』があります。これは、3~4歳の子どもたちを対象に行った実験で、非認知能力を伸ばすようなプログラムを受けたグループと、受けなかったグループに分け、その後、40歳まで追跡調査をしたもの。この調査から分かったことは、プログラムを受けたグループのほうが、学校の成績も優秀で、社会に出てからは収入も高く、より安定した生活を送れていたことでした。この注目ポイントとして最も大切なことは「もともと2つのグループにIQの差がなかったこと」から、幼児期に適した教育を受ける大切さ、そして非認知能力を育むことの重要性だということがわかりました。

IQをも底上げできるのが【非認知能力】のすごいところ

子どもがよりよい人生を送るためには、IQや偏差値に代表されるような認知能力だけでなく、感情や情緒からくる非認知能力が最終的に大きな働きをします。

IQ(いわゆる認知能力)は、8割が親からの遺伝だといわれています。個人差はありますが、知能は、親子間で高い確率で遺伝するのです。とはいえ、親はとても優秀なのに子どもは……、なんてケースもあれば、その逆もありますよね。それがなぜかと考えると、授かった8割の能力を活かしきれていない、または残った2割の能力を最大限に生かしている可能性があるのです。いくらIQが高くても、学ぶ意欲がなかったり、物事をやり遂げる力がなければ、夢や希望を叶えるのは難しいもの。反対に、やる気があり、あきらめず、常に前向きにチャレンジしていれば、たとえIQは平均的でも、おのずと深い思考力が養われ、知識が広がることで認知能力を伸ばすことができます。このようにもともと備わっている認知能力をどう活かすのか、調整しているのが非認知能力といえるでしょう」

人生をより豊かなものにするために必要な「生きる力」を獲得するには非認知能力がカギを握っています。それでは、子どもの非認知能力を伸ばすには、どうすればよいのでしょうか。

「認知能力については、テストなどで数値化できるので、研究報告も多くあり、適した学習方法があります。しかし、非認知能力については、数値化できない能力のため、“これをやれば、必ず能力を伸ばせる!”といった明確な答えはありません。残念ながら今は研究段階なんですね。

ただ、子どもの能力を伸ばすうえで、保護者ができることはいくつかあります。それは、子どもをたくさんほめること。そして、好きなことを、とことんやらせてあげることです。そうすることで子どもの自己肯定感が高まったり、物事を達成する意欲や粘り強さが養えたりと、結果的に非認知能力を育むサポートになります

保護者が子どもにできること

●たくさんほめて、子どもの自己肯定感を育む

子どもに限らず、大人でも自己肯定感は必要です。自己肯定感は、心のエネルギー源のようなもの。「ありのままの自分でいい」、「自分は大丈夫だ」という気持ちが、揺らぎのない自信となり、人生を切り拓いていく力となります。特に幼児期は、自己肯定感を育む絶好の時期。自己肯定感は“ほめられ体験”で育まれます。「すごいね!」「よくがんばったね!」「大好きだよ」などなど、子どもの様子を見守りながら、適切なタイミングでたくさんほめてあげましょう。

●好きなことはとことんやらせてあげる

子どもが興味を持ったことは、気が済むまでとことんやらせてあげましょう。保護者としては、心配で「これはダメ」「あれはダメ」と、ついついいってしまいそうになりますが、ぐっとこらえて見守ってあげて。あまり否定ばかりすると、いつしか子どもは「何をやってもダメっていわれる」と、意欲ややる気がそがれてしまいます。子どもは興味のあることをきっかけに、さまざまなことにアンテナを張り、知識を広げていくもの。保護者は子どものチャレンジを応援してあげましょう。

ブロック遊びは、非認知能力を育むサポートに

幼児期の遊び体験は、非認知能力を育むことに役立つともいわれています。楽しみながら遊ぶなかで、子どもは自然と集中力、創造力、やり抜く力といった、さまざまな非認知能力を育んでいきます。

遊びを通して、子どもの自己肯定感を育てるよう導いてあげるのもよい方法です。多くの遊びは、学習と違って「こうしなきゃいけない」という正解がありません。たとえば、字を書いてみようとして書けなかったり、計算しても解けなかったり、正解があるのに間違えてしまった場合には、ほめようにもなかなか難しいもの。間違えているとわかっていて無理にほめられたら子ども自身も居心地が悪くなります。その点、ほとんどの遊びは自由度が高く、子どもたちが思いのままに行えて、正解も間違いもないので、ほめてあげるチャンスがたくさん。多くの遊びを通して子どもとコミュニケーションをとることは、非認知能力を育む助けになるでしょう」

おもちゃでは、ブロック遊びなど、決められた完成形がなく、子どもが自由に好きなものを作れるものがおすすめ。できれば、保護者だけでなく、きょうだいや友だちといっしょに遊ぶのもよいです。ひとつのものを作り上げるなかで、アイデアを出し合ったり、譲り合ったりと、周囲と触れ合うことで協調性や共感力、リーダーシップなども生まれます。

★参考記事:ブロック遊びは「非認知能力」を育てる

この記事の監修・執筆者

お茶の水女子大学 名誉教授 榊原 洋一 先生

1951年東京都生まれ。東京大学医学部卒業。お茶の水女子大学大学院教授、理事・副学長などを経て、現職。医学博士・小児科医。現在は、発達障害の臨床的研究、発達障害児の保育、子どもの生育環境とその発達への影響、国際医療協力を主な研究対象としている。専門は、小児神経学、発達神経学などで、「子どもの心と体の発達」に関する著書を数多く執筆し、それらは高い評価を受けている。『発達障害のある子のサポートブック』(学研)など著書多数

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