春先、せっかく過ごしやすい気候になるのに、くしゃみ、鼻水、鼻づまりや目のかゆみなど、大人だけではなく、花粉症の症状に悩まされる子どもも多いのではないでしょうか。花粉症の現状や対策、治療について、耳鼻咽喉科・小児耳鼻咽喉科の専門医である池袋ながとも耳鼻咽喉科の長友孝文院長先生に伺いました。
花粉症は植物の花粉が原因のアレルギー疾患
花粉症患者は増加し、発症は低年齢化
――花粉症の患者数が増えているそうです。
長友先生(以下敬称略):日々の診察で花粉症の患者さんが増え、4〜5歳で発症するケースが多いことを実感しています。ほぼ10年おきに行われている全国的な調査でも、花粉症患者の増加は明らかでした。
[花粉症の有病率]
◯花粉症全体
1998年 19.6%
2008年 29.8%
2019年 42.5%
◯スギ花粉症
1998年 16.2%
2008年 26.5%
2019年 38.8%
※『鼻アレルギーの全国疫学調査 2019 (1998 年, 2008 年との比較): 速報―耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として』日本耳鼻咽喉科学会会報123-487より
また、スギ花粉症の年齢層別の有病率が5〜9歳で30.1%、10〜19歳で49.5%と、子ども世代の発症が多いこともわかりました。
子どもの花粉症に気付けるように
――子どもと大人の花粉症に違いはありますか?
長友:くしゃみ、鼻水、鼻づまりや目のかゆみなどの花粉症の症状や治療法は、子どもも大人も基本的に同じです。しかし、多くの子どもは自分の症状をうまく伝えられないこと、風邪症状と区別がつきにくいことから、花粉症を見過ごさないよう、保護者が気をつけて様子を見ることが大切です。花粉が飛散する時期に、鼻水や鼻づまりを起こしたり、かゆみから鼻や目をこすっていたりしたら、医療機関を受診して適切な治療を受けましょう。
[子どもの花粉症に気づくポイント]
□ 鼻をよくすすっている
□ 鼻水、鼻づまりを起こしている
□ 鼻をかゆそうにこすっている
□ 目をかゆそうにこすっている
□ 目が充血している
花粉症になる原因とは
――花粉症の症状が出るのはなぜですか?
長友:私たちの体には、体に入ってきた異物を排除して、体を守ろうとする免疫機能があります。この免疫機能が過剰に反応し、体にとって良くない状況を引き起こすのがアレルギー疾患です。
花粉症はアレルギー疾患のひとつで、鼻や目などの粘膜に接触した植物の花粉(異物)を排除しようと過剰に反応することで、くしゃみ、鼻水、鼻づまりや目のかゆみなどの症状が出ます。原因となる植物はスギやヒノキ、シラカンバ、ブタクサなどが代表的で、日本では春先に見られるスギ花粉による花粉症が多いのが特徴です。医学用語では、花粉症は「季節性アレルギー性鼻炎」といいます。
花粉症の鼻の症状はくしゃみ、鼻水、鼻づまりが多く、風邪と同様ですが、風邪の場合は5日〜1週間程度で治るところ、花粉症は花粉が飛んでいる間は症状が続きます。また、水っぽい鼻水がさらさら流れるという特徴もあります。目の症状には、かゆみや充血などがあります。ほかにも、体のだるさや熱っぽさ、イライラなどの症状が出ることもあります。
花粉を体内に入れない工夫を
――花粉症を発症しない、また、重症化させないためにはどうすればよいですか?
長友:体内に入って免疫機能をはたらかせる異物を抗原といい、抗原を排除するために抗体がつくられます。繰り返し抗原が体内に入り、抗体が増えることで、アレルギー症状が起きると考えられています。
花粉症でいえば、抗原は植物の花粉です。繰り返し花粉に触れることで抗体が増えるので、昨年までは症状が出なかったり軽かったりしても、今年は発症したり重症化したりするおそれがあります。ですから、花粉をできるだけ避けて、体内に入れないことが予防の基本です。子どもが自分で対策をするのは難しいので、保護者が率先して以下のような対策を心がけ、習慣にするとよいですね。
[外出時の対策]
□ 天気予報やニュースの花粉の飛散予測情報をチェックして、飛散が多いと予測される日はできるだけ外出を控える
□ 外出時はマスクをする。メガネや帽子も花粉を防ぐのに有効
□ 花粉が付着しやすいウール製の衣類は避ける

[帰宅時の対策]
□ 家の中に入る前に、手やブラシを使って、髪や服に着いた花粉を払い落とす
□ うがいと洗顔で、花粉を除去する
□ 髪の毛にも花粉がつくので、毎日洗髪する
[室内の対策]
□ 窓を全開にして換気しない
□ 床をこまめに掃除し、カーテンを定期的に洗う
スギ花粉は、例年2〜4月ごろに飛散します。多く飛散する時間帯はお昼前後と夕方です。そして、以下のような天候の日には特に多くなることがわかっているので、外出を最小限にするなど対策しましょう。
[スギ花粉が多くなる天候]
◯晴れて、気温が高い日
◯空気が乾燥して、風が強い日
◯雨が降った次の日
スギ花粉だけでなく、春にはヒノキ、シラカンバなどの花粉が、秋にはブタクサやヨモギ、カナムグラなどの花粉が飛散します。地域ごとに花粉が飛散する時期や量に違いがあるため、住んでいる場所の天気予報やニュース、以下のウェブサイトなどを参考にしてください。
[花粉症の情報を提供するウェブサイト]
◯アレルギーポータル
https://allergyportal.jp
地域ごとの飛散アレルギー疾患に関する正しい情報を集約・提供するウェブサイト。厚生労働省の補助事業として日本アレルギー学会が運営。
◯ウェザーニュース「花粉飛散情報」
https://weathernews.jp/pollen/
花粉シーズンに向けて花粉の飛散量や飛散時期を予測し、花粉飛散予想を発表。民間気象会社が運営。
体の免疫機能を正常に保つことは、花粉症の対策だけではなく、健康のため、特に子どもの成長のためにも大切です。良質な睡眠とバランスの良い食事など、規則正しい生活習慣を身につけたいですね。
2026年のスギ・ヒノキ花粉飛散量の特徴
――2026年の春は、どのような状況になりそうですか?
長友:2026年春のスギ・ヒノキ花粉飛散量は、地域により大きく傾向が分かれます。2025年夏の猛暑などの気象条件から、東日本・北日本エリアでは例年より飛散量が多い見込みで、地域によっては非常に多くなると予測されています。2025年春に花粉が非常に多かった西日本エリアでは、例年並みか例年より少ないとのこと。飛散時期はどのエリアも例年並みとの予測です。

花粉症を重症化させないために
花粉症をそのままにしない
――花粉症を治療しないと、どうなりますか?
長友:花粉症を放置すると副鼻腔炎になることもありますし、鼻やのどの粘膜の炎症が続くので、ウイルスや細菌が侵入しやすくなってしまいます。鼻づまりが続くと、睡眠がとりにくくなり、集中力の低下を招くおそれもあります。快適に過ごすためには、早めに治療することをおすすめします。
花粉症の診断は、まず問診と診察で行います。例えば、スギ花粉の飛散する時期に、鼻水やくしゃみ、目のかゆみなどの症状があり、花粉症の治療薬のひとつである抗ヒスタミン薬が有効なら、花粉症と考えてほぼ間違いはないでしょう。一度の採血で、花粉や食べ物など、複数の抗原についてアレルギーの有無を調べられる検査もありますが、偽陽性が出る場合もあります。食べ物で偽陽性が出てしまうと、アレルギー反応が出ていないにもかかわらず、除去したほうがよいのかと不安になる保護者もいます。明らかにスギ花粉症の症状と診断できるなら、必ずしも検査の必要はないと考えます。
症状が出る前の初期治療が大切
――すでに花粉症だとわかっている場合、いつごろ通院すればよいですか?
長友:花粉症の治療の基本は薬物治療で、内服薬(抗アレルギー薬)、点鼻薬、点眼薬などを使います。耳鼻咽喉科の医師は、患者さんを診察し、所見や症状をもとに、最新の医学研究に基づいてアレルギーの診断・治療・予防などに関して最良と考えられる標準的な方法や指針をまとめた「鼻アレルギー診療ガイドライン」を参考にしながら、患者さんに合う薬を処方します。
花粉症を重症化させないために有効なのは、初期治療です。アレルギー症状が出ない程度の抗原(スギ花粉症の場合はスギ花粉)にさらされても、鼻やのど、目の粘膜には微小な炎症が続いていることがあります。これを「MPI(Minimal Persistent Inflammation:最小持続炎症)」といいます。MPIの状態が続くと、鼻やのど、目の粘膜が過敏になり、その後の強い炎症を引き起こす原因になってしまいます。花粉の飛散開始前に診察を受け、予防的に治療薬を服用することで、症状の発現を遅らせたり、症状を軽くしたりする効果があります。飛散が始まる予測日の1週間程度前から服薬できるように、診察を予定することをおすすめします。
≪関連記事≫「朝起きられない」はサボりじゃない!思春期に急増する「起立性調節障害」のサインと親ができること[医師監修]
スギ花粉症治療の新しい選択肢
5歳から可能な「舌下免疫療法」

――「舌下免疫療法」はどのような治療ですか?
長友:アレルギーの原因である抗原を繰り返し投与することで、体を抗原に慣れさせて、アレルギー症状を和らげたり、抑えたりする治療を「アレルゲン免疫治療」といいます。そのための薬を舌下から投与するのが「舌下免疫療法」です。日本ではスギ花粉とダニを対象とした舌下免疫療法が行われ、アレルギーを根本から治す可能性がある治療として注目されています。以前は12歳以上が対象でしたが、2018年からは適用が拡大され、5歳以上になりました。
舌下免疫療法では、1日1回、スギ花粉エキスやダニの抗原を舌下から体内に吸収させます。3〜5年間の服用が推奨されており、70%以上の人に有効と考えられています。
[舌下免疫療法の進め方]
①問診、アレルギー検査で、抗原に対するアレルギー反応の強さを確認する
②舌下免疫療法薬の初回投与は低用量のものを、病院内で医療従事者の見守りのもと行う
③低用量の舌下免疫療法薬を1週間、維持量(効果を引き出す標準的な量)の舌下免疫療法薬を1週間投与し、再診して服用状況、副作用を確認
④再診後、維持量の舌下免疫療法薬の投与を開始。経過観察のために1か月に一度は通院
スギ花粉の舌下免疫療法は、スギ花粉飛散期を避けて、6〜12月に開始します。開始した時期にもよりますが、治療を開始して1年目から、例年よりスギ花粉症の症状が軽くなり、服薬量を減らせる方が多いです。5歳から可能ではありますが、個人差もあります。7〜8歳からはほとんどのお子さんが問題なく治療を進めています。以下のようなことができるかどうかを目安にしてください。
[舌下免疫療法を受ける場合の目安と注意点]
□ 舌下免疫療法薬を舌下に1分間置いていられる
□ 服用後、5分間は飲食しない
□ 服用後、2時間は激しい運動を避ける
12歳以上の重症者が対象の新しい治療薬も
――重症者への新しい治療があるそうですね。
長友:スギ花粉症の重症者に対する保険治療で、新しい選択肢とされる「ゾレア(オマリズマブ)」です。注射による治療薬で、1回の投与で約1か月、スギ花粉症の症状を抑える効果があります。現時点(2025年12月末)では、これまでの治療で十分な効果が得られなかった12歳以上の重症者が対象です。
ゾレアは、体内のアレルギー症状を引き起こす物質と結合して、そのはたらきを抑えることで、くしゃみ、鼻水、鼻づまりや目のかゆみなどの症状が出ないようにする効果があります。投与するまでに、すでに出てしまった症状に対処する花粉症治療薬の効果が不十分であること、血液検査の結果によって、重症のスギ花粉症であるかの確認などが必要です。効果的な治療ですが高額な薬剤です。それでも、花粉症の症状が重くて日常生活に支障をきたしたり、子どもが受験期を迎えたりする場合は、検討してみてもよいと考えます。12歳以上の子どもは、自治体によっては医療費の助成が受けられます。お住いの自治体の「小児医療費助成」の内容を確認しましょう。
今回は、花粉症のしくみや対策の方法、子どもの花粉症に気づく大切さ、最新の治療について、長友孝文院長先生にお話を伺いました。花粉症の発症、重症化を防ぐために参考にしてください。
この記事の監修・執筆者
浜松医科⼤学卒業後、⾃治医科⼤学附属病院⽿⿐咽喉科・⼩児⽿⿐咽喉科に⼊局。東京⼤学で4年間癌についての研究を経て、⾃治医科⼤学附属病院にて病棟医⻑・外来医⻑を務める。より身近な方に適切な医療をという思いから、2022年に池袋ながとも⽿⿐咽喉科を開業。
こそだてまっぷから
人気の記事がLINEに届く♪