「うちの子、いつも23時近くまで起きている」「夏休みは生活リズムが乱れて朝も全然起きてこない…」「寝かしつけが大変。何歳までこれが続くのか…」。子育てをしていると、子どもの睡眠に関する悩みは尽きませんね。昔から「寝る子は育つ」というように、睡眠は子どもの成長のためには欠かせない要素のひとつ。
子どもが毎日充実感をもって活動し、よりよい発達をするためには十分な睡眠が必要です。なぜ睡眠が大切なのか、どのように睡眠時間を確保すればよいのかなど、睡眠を軸にしたよりよい生活スタイルについて、子どもの疲労・脳科学が専門の理化学研究所・大阪公立大学の水野敬先生にお話をお伺いしました。
子どもに疲労を蓄積させない! 睡眠不足解消のためにできることとは?
よく寝ることで脳が活性化!
塾や習い事で帰宅が遅かったり、保護者のライフスタイルの影響から夜型の生活になったりするなど、現代の子どもの多くが睡眠不足で、慢性的に疲れているといわれています。2016年・2017年に実施した大阪市淀川区内の小中学校における調査では、小学生で約30%、中学生で約46~51%が疲労している、と答えています。
睡眠は脳の働きを維持するために必要なものです。慢性的な睡眠欠乏状態は、子どもたちの生体リズムを壊し、脳機能や自律神経機能に悪い影響を与えてしまいます。まだ眠い状態のまま一日が始まると、園や学校で十分な活動ができず、せっかくの学びの機会を逃すことにもつながりかねません。
小学校高学年くらいから睡眠不足の傾向がとくに強くなりますが、その時期から対策を考えるのではなく、幼いうちから子どもの睡眠を改善するようにしましょう。
中学生になると睡眠不足から疲労がたまり、不登校や学習意欲の低下などにもつながります。低学年・未就学のうちから家庭でよく寝ることを意識し、生活リズムを立て直して定着させておくことが、子どもの財産になります。
幼い子供が自ら進んで寝て、睡眠時間を確保することは難しいことです。子どもの睡眠時間を十分に確保するためには、保護者の睡眠への意識がとても重要です。
子どもにとって理想の睡眠時間とは?
子どもの理想の睡眠時間は、夜間の連続睡眠で
3~5歳 11~13時間
6~12歳 10~11時間
といわれています。なかなか難しいのが実感だとは思いますが、朝、子どもが決まった時間にスッキリと目覚められているか、目覚まし時計がなくても起きられているかを振り返ってみてください。時間はひとつの目安なので、まずは朝まで連続してよく眠れていて疲れが取れているかをチェックしてみましょう。睡眠は毎日のことなので、意外と把握しづらいため、子どもが起きたときの睡眠満足度をチェックし、カレンダーに「◎ 〇 △ ×」などの記号を1週間ほどつけてみましょう。子どもの睡眠の状態を振り返ることができてオススメです。
よく寝ると、賢くなる!?
よく寝た日は、大人もスッキリ起きることができますよね。睡眠満足度の高い日は1日中元気に活動ができて、機嫌もよく、よいパフォーマンスをあげることができます。
子どもも同じで、よく寝ると以下のようなよい影響があります。
よく寝るといいことばかり!
・睡眠中に分泌される「成長ホルモン」は、筋肉量を増やし、骨の成長を促すなど、体の成長を促進させます。そのほか、免疫力をアップさせたり、傷ついた細胞の修復を助けたりする働きも。よく寝ることで、この「成長ホルモン」がたくさん分泌され、心身の成長を促します。
・睡眠不足はイライラしやすくなり、コミュニケーション力が低下します。よく寝ることで機嫌よく人と接することができ、他者に対する表情の読み間違いも起こりにくく、よい人間関係を築くことにつながります。
・人は学習した情報を睡眠中に整理し、次の学習に備えています。情報を記憶して処理する能力のことを「ワーキングメモリ」といいますが、よく寝ることで、このワーキングメモリが鍛えられ、学習成果にも結びつきやすくなります。
このように睡眠は、すべての活動の土台といえるくらい大切なものです。運動や食育だけでなく、睡眠で子どもを育む「眠育」をぜひ始めてみましょう。また、子どもの睡眠を整えることで、保護者のみなさんの睡眠も改善されます。家族みんなで睡眠満足度を高めていきましょう。
早く寝たがらない子どもの”傾向と対策”
子どもがなかなか寝ない、寝たがらないというご家庭も多いと思います。子どもが眠くない、寝たいと思わない理由を考え、そうならないための解決策をひとつずつひもといてみましょう。
子どもが眠くならない理由から考える“寝ない”の解決策
幼いときから早寝をする習慣がない→生活を改善してみよう!
夜型の親の子は夜更かししがち…というように、生活習慣や生活リズムは親のライフスタイルに大きな影響を受けます。子どもの睡眠時間を確保するためには、家庭全体で早寝に取り組みましょう。夜、寝る時間を決めたら、親もいっしょに寝室に入り、絵本を読みながら入眠作業をし、いっしょに床につくことが理想です。子どもが早く寝れば、その後は親にとっては自分の時間がもてることにもつながります。家族全体で生活を見直し、生活改善をはかるのもよいかもしれません。
行動制限などで活動量が落ち、夜眠くない→体を動かす習慣をつくろう!
コロナ禍で遊びや活動が制限され、子どもが自由に体を動かし、活発に遊ぶ時間が減ってしまっているのではないでしょうか。感染を予防しながら、体を十分に動かす機会を確保することは、保護者の大切な役割です。親といっしょに体を動かすことでコミュニケーションが深まり、子どもは満足感や自己肯定感を持つことができます。ぬくもりや安心感を得ることが、より深い良質な眠りにもつながります。
ゲームや動画で脳が刺激を受けすぎている→1~2時間前にはスイッチオフ!
寝る前に脳が興奮しすぎないような環境づくりは大切です。ブルーライトをあびると脳が過剰に刺激を受け、“睡眠ホルモン”ともいわれるメラトニンの分泌が遅れるため、なかなか眠くなりません。テレビやスマホ、ゲームは寝る時間の2時間前にはスイッチオフにするのが理想です。難しい場合も、寝る1時間前にはテレビやスマホを消すなど、できることから行動に移してみましょう。
次回は、環境づくりや生活リズムの改善など、子どもの良質な睡眠のためにできることを具体的に教えていただきます。お楽しみに!
この記事の監修・執筆者
理化学研究所生命機能科学研究センター 健康・病態科学研究チーム・上級研究員。大阪公立大学健康科学イノベーションセンター副所長。疲労科学と脳神経科学に基づき、子どもたちの慢性疲労、睡眠、学習意欲、脳の機能と発達および家族との関わり、と幅広い観点から子どもの健康科学研究を推進している。共著に『疲労と回復の科学』(日刊工業新聞社、2018年)、『おいしく食べて疲れをとる』(オフィスエル、2016年)など。
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