ぞうきんを絞れない、スニーカーのひもが結べないなど、手や指先の不器用な子どもが増えている、といわれています。
「手指は第二の脳」とも、「指先をたくさん使うと、頭がよくなる!」ともいわれているから、ちょっと心配…。
そこで、今回は、手指をたくさん使うことがなぜ大切なのか、長年、保育の現場で子どもに関わってきた、高橋弥生先生に伺いました
お話:高橋 弥生
手指は第二の脳!
ぞうきんを絞る、ひもを結ぶ、手で茶わんを持って食べるといった、日常的な動作が苦手な子が増えてきているようです。苦手なことを以下にまとめました。
●箸を持つ、使う
●手で茶わんを持って食べる
●蛇口をひねる
●両手で水をすくう(顔を洗う、水を飲むなど)
●ひもを結ぶ
●洋服のボタンやファスナーをとめる
●はさみで切る
●ぞうきんを絞る
●ほうきとちりとりを使って掃除をする
●片手で定規を押さえて線を引く など
「まだ小さいから…」「今はできなくても、そのうちに…」と思ってしまいがちですが、実は、小さな頃から発達にそって手や指先をたくさん使うことは、脳の発達を促すことにもつながります。
「手指は第二の脳」ともいわれています。
人間は生まれたときから、何かをつかんだり、指しゃぶりをしたり、手や指先を盛んに動かしています。手や指先をたくさん動かすことで、神経が発達し、より細かな動きができるようになるのです。
手は、何かを触って、温かいか冷たいか、つるつるしているかざらざらしているか、やわらかいかかたいか、といったことを感じる「感覚器官」でもあります。
この手指を動かしたり(運動)、触って情報を得たりすること(感覚)は、同時に使われることが多く、またそのときに目と手が連動しているため脳を活性化させるのです。
便利な道具が増え、手指を使わなくなったのが原因!
なぜ手指の動作が苦手になってきたのでしょうか?
原因の1つには、便利な道具が増えたこと。
わたしたちの生活はどんどん変わり、さまざまな道具が軽い力で動かせたり、センサーで自動的に操作できたり、手指を複雑に動かす機会が減ってきました。
ぞうきんの代わりにはお掃除ワイパーやウェットシート。
ボタンやファスナーのないかぶりタイプの洋服。
ひもを結ぶ必要のない、面ファスナーのくつ。
身の回りの物が、どんどん便利になっていくことで、快適に過ごせるようになりました。しかし、それが日常的に積み重なっていくことで、昔に比べて手や指先を使う機会が極端に少なくなってきているのです。
また、テーブルを拭いたり箸をそろえて置いたりといった、昔なら子どもがしていたお手伝いを親が頼まなくなったことや、ゲーム機などの普及で子どもたちの遊びが変わってきたことも、手や指先の動作が不器用になってきたことにつながっているのかもしれません。
手や指先を使った遊びを、0歳児からたくさん取り入れる!
では、手や指先をたくさん動かして脳の発達を促すためには、どうすればよいのでしょうか?
それは、手指を使う遊びをたくさん取り入れることです。
おすすめのおもちゃや遊びなどを、0・1・2歳児と、3歳以上とで分けて紹介します。
0歳:握る=ガラガラなど つまむ=積み木など
手のひらにふれた物を握れるようになったら、ガラガラやタオル地の人形などを。手でつかみ、振ったり感触を楽しんだりします。音が鳴る物の方が、興味をひきます。
指先で物をつまめるようになったら、積み木やお手玉、ボールなどを。積み木やお手玉を積んだり崩したり、ボールを転がしたりを、何度も繰り返します。
お子さんが興味をもつように、目の前でおもちゃを揺らして一緒に楽しみましょう。
1歳:少しずつ指先が使えるように=型おとし・ひも通し&お絵かき・シール貼り
指先が使えるようになってくる頃なので、おもちゃは、簡単な型おとし・ひも通しなどを。市販の物もありますが、100均グッズや家にある物などを使って、簡単に手作りもできます。
最初はまだ上手にできないので、親が手を添えるなどして助けましょう。できたときには、一緒に喜ぶとお子さんも楽しめます。
クレヨンやサインペンが握れるようになったら、紙などに点々やぐるぐるがきをしたり、シールを貼ってはがすなどもおすすめ。シールは、四角く切ったビニールテープや丸シールなどでOK。最初は先を少しめくっておくと、はがしやすく、だんだんと自分でできるようになります。
絵を描くときには、「ぐるぐる」や「とんとん」などと、声をかけてあげるといいです。
つまむ、引っぱる、入れる、重ねるなど、指先をたくさん動かして遊びましょう。
2歳:手指の操作が格段にアップ=洗濯ばさみや小麦粉粘土、折り紙、手遊びなど
指を1本ずつ動かせるようになり、手指の操作が格段に発達する頃なので、洗濯ばさみのとめはずし、型はめパズル、小麦粉粘土、二つ折りでできる簡単な折り紙などを。
大人が見本を見せたり、手伝ったりしながら遊びましょう。うまくできなくて、かんしゃくを起こしても、やりたそうにしているときはゆっくりチャレンジさせてあげましょう。諦めてしまったら、「また明日やろうね」などと、次に期待がもてるような言葉をかけましょう。
積み木やブロック、お手玉なども遊び方が1歳の頃から複雑に変化してきます。
グー・パーと手を閉じたり開いたりすることもできるようになるので、昔ながらの手遊び(「むすんでひらいて」「げんこつやまのたぬきさん」「おべんとうばこのうた」など)もおすすめです。
ちょっとした時間にお子さんと向き合って、笑顔で楽しみましょう。
3歳~6歳は、はさみや工作、昔ながらの伝承遊びを
はさみ:1回切り⇒少しずつ長く、丸や曲線も切る!
最初は、新聞紙や広告紙を帯状に切って渡し、短い1回切りを。慣れてきたら、少しずつ切る長さを伸ばします。4、5歳くらいになったら、はさみを持たない方の手で紙を動かしながら、丸や曲線を切ることにも挑戦してみましょう。
小さく切った紙をままごとに使ったり、切り取った型にストローをつけて人形遊びをしたりすると、遊びが広がります。
折り紙:角をそろえる&しっかり折る!
二つ折りからスタートして、少しずつ手順の多い折り紙に。角をそろえることや、しっかり折ることを伝えていくと、指先の巧緻性もアップします。
「お山を合わせてね」「アイロンをかけて」といった表現をすると、わかりやすいです。
お手玉:1個から挑戦! 慣れてきたら個数を増やして
お手玉1個をポンポンと軽く投げてキャッチする、といった動作を繰り返したら、少しずつ高く投げ上げて手のひらでキャッチします。手のひらで投げて手の甲で受けたり、歌に合わせたりと、いろいろなやり方を両方の手でやってみて慣れてきたら、2個に挑戦!
5歳頃になると、いろいろな技に挑戦するのが楽しくなります。親子で挑戦して楽しみましょう。
こま:手のひらで挟んで回す、指先で回す、ひもを巻く!
いろいろな種類のこまがありますが、手のひらで挟んで回す、指先でひねって回す、ひもを巻くなど、どれも手と指、そして腕までを十分に使って遊びます。
だれのこまが一番長く回るか競争したり、土俵を作ってこまを戦わせたりすると、熱中します。
あやとり:指先に意識を集中! 親子で挑戦を
5、6歳頃、あやとりが流行る時期があります。ひもさえあれば、場所を選ばず遊べるので、移動時などお出かけの際にも便利。親子で一緒にできるのもおすすめです。
一人あやとりで、いろいろな形に挑戦することもできます。自由に形を作って、何に見えるか考えるのも楽しいですね。
あやとりのひもは、子どもは約140cm、大人は約180cmがやりやすい長さだといわれています。
おはじき:指先の力の調節を
指先の微妙な力加減と、繊細さが鍛えられる遊びです。
基本的な遊び方
①おはじきを重ならないように散らして広げます。
②ねらうおはじきと、はじくおはじきを決めたら、その間に指で線を引きます。おはじきをはじき、当たったらそのおはじきがもらえますが、当たらなかったり、他のおはじきに当たったりしたら、次の子に交代します。
③最後の1個は、目を閉じておはじきの周りに指で丸をえがくように動かし、次に親指と人さし指でおはじきをまたぐように動かします。このとき、指がおはじきに触れなければ成功です。
最初は、やりやすい指ではじくようにします。慣れてきたら、いろいろな指ではじくことにも挑戦してみましょう。
工作:材料を組み合わせて作る!
折り紙や空き箱、牛乳パック、紙粘土など、さまざまな材料を組み合わせて作る、立体的な工作遊び。材料をちぎる、ねじる、潰す、押さえて貼るなど、さまざまな動きがあり、手と指先を存分に使います。
はさみ、のり、セロハンテープ、クレヨンなどの道具を思い通りに使いこなせるようになることも大切です。
道具や材料が、いつでも使えるように準備をしておくとよいですね。
手指が思うように動かせると、世界も広がる!
もし、「うちの子、ちょっと手指を動かすのが苦手かな」と思ったら、年齢やお子さんの様子に合わせて、上記の遊びなど、手指をたくさん動かす遊びを取り入れてみてください。楽しく遊びながら手指を動かすことで、脳もぐんぐん発達します。
また、普段の生活でも、着脱が簡単な洋服ばかりを選ばないのもポイント。あえて大きめのボタンの付いている物を選び、ボタンはめに取り組んでみましょう。一緒に簡単なクッキングをして、エプロンのひもを結び合うのもおすすめ。
最初のうちは手を添えてやり方を教え、お子さんがボタンやひもに取り組む時間もゆっくりとってあげるようにしましょう。
手指が、思い通りに動かせるようになると、自分がやりたいことが実現できます。
はさみを使ってすてきな飾り切りをしたり、おいしい料理をこぼさずきれいに食べられたり。そうした成功体験を重ねていくことで、世界は広がっていき、できることが増えていくことで、自信にもつながるでしょう。
この記事の監修・執筆者
公立保育所、私立幼稚園、私立保育所に保育者として勤務したのち、2003年より目白大学短期大学部子ども学科、2007年より目白大学人間学部子ども学科に勤務。専門は保育学。研究テーマは基本的生活習慣・子どもの生活技術に関して。主な著書は、『データでみる幼児の基本的生活習慣』(共著、一藝社、2009年)、『生活の自立Hand Book』(共著、学研、2009年)、『しつけ事典』(共著、一藝社、2013年)ほか多数。
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