なんとなくモヤモヤ、イライラした気持ちを言葉にすることが苦手な子どもが増えていると言われます。言語化は感情のコントロールにつながり、日常生活がスムーズになって学習意欲向上も期待できます。言葉で伝えることの大切さと、家族の会話で子どもの言語化能力を高める方法を『こども言語化大全』著者の山口拓朗さんに伺いました。
取材・文/FUTAKO企画
子どもの言語化能力はなぜ大切か
学校生活がうまくいかないのは「言語化できていない」せい?

「やばい」という言葉は、ある意味大発明というか、すごい言葉だと思います。
失敗したとき、驚いたとき、感動したとき、嫌悪感を抱いたとき…いろんなシチュエーションで使えて便利ですよね。便利なだけに、なんでもそれで済ませられますが、いろいろな意味を持つがゆえに誤解も生まれやすいです。
短い言葉でのやりとりに慣れて多用していると、「そんなつもりじゃなかったのに」といったトラブルや、友だち関係の悪化を招く可能性もあります。
言葉は普段から使っていないと出てきませんから、いざというときに自分で語れる「言語化力」はやはり必要だと思います。
言語化力とは、「頭の中の漠然とした意見や情報を、的確な言葉にして相手にわかりやすく伝える力」のこと。
国語の読解力、算数の文章題の理解など、学習全般の理解につながるものでもあります。また、授業中に自分の意見を述べたり、みんなの前で説明したりするプレゼンテーションの機会に、言語化力がないと苦手意識を持つようになり、学習意欲の低下を招く可能性もあります。
それでも、「言葉の力って成長とともに自然と伸びていくのでは?」と思われる方もいるかもしれません。しかし残念ながら、適切なインプットとアウトプットをしていかないと言語化力は勝手に身につくものではありません。
読書量が減って動画視聴やゲームに多くの時間を使う子どもが増えている現状では、やはり家庭で意識的に言語化力を高めるためのサポートが必要だと考えています。

言語化の力を育てる親の行動
最初から否定しない
では、言語化力をアップさせていくためにどんなことに気をつければよいでしょうか。まず、注意したいのは家庭での会話。
子どもの発言に対する「否定的な言葉」は要注意です。例えば、お子さんが「○○したくない」と言ったとき、とっさに次のような言葉が出てはいないでしょうか。
×「そんなこと言っちゃダメでしょ」
×「何言ってるの」「違うじゃない」
×「それは変」「間違いだよ」
×「あなたには無理」
子どもがなぜ言葉を発するかというと、まずは受け止めてもらいたいわけですよね。それを頭ごなしに否定されると、子どもは「言葉にするのって損だな」と感じてしまいます。
「どうせ否定される」と感じると、「何も言わないほうが得だ」という選択にもなってしまいます。
そうなると会話が減ってしまうのはもちろん、その言葉の奧にひそむ子どもの気持ちに気づく機会を失ってしまうことにもなります。だからこそ、親としてはすぐ否定せず、肯定的に受け止めるワードを常に持っておくことが大事なのです。
では、どう言えばいいかというと
○「いやなんだね」
○「そう思ったんだね」
○「そうか、教えてくれてありがとう」
などと、まずはやわらかく受け止めることが、子どもの言葉を引き出す第一歩となります。会話を続けて次の言葉を引き出すことに意味があるので、最初から「否定しない」ことを意識しましょう。
「具体化」を促す
次に、子どもの言葉は抽象的でぼんやりしている言葉が多いので、具体化を促す言葉かけを心がける必要があります。
例えばお子さんに「学校に行きたくない」と言われたら、なんと返すでしょうか。
×「何言ってるの!」
×「ダメじゃない、行かなきゃ!」
これでは、お子さんは何も言えなくなってしまいますよね。
では、どう答えるかというと
○「どうしてそう思うの?」
まずは、そう聞いてみましょう。
「どうして?」だけだと漠然としていて、子どもなりにあれもこれも説明しなければ…と無意識に考えてしまうので、実は答えにくい質問なのです。
「どうしてそう思うの?」であれば、「自分が思ったこと」だけ答えればいいので、少し負担が軽くなると思いませんか?
そこで、「雨が降っていていやだ」「友だちがいやなことを言った」などと、返事があったら、「そうだったんだね」としっかり受け止めてあげましょう。
そうすることで、子どもは「こういうことを言ってもいいんだ」「いやだという気持ちを伝えても怒られないんだ」と安心して心を開くことができます。
子どもの言葉を先回りしない
それから、子どもの言葉を先回りして「こういうことでしょ」と言ってしまう保護者の方が結構多いですね。
例えば、友だちと遊んでいた子どもが泣いているのを見て、「○○ちゃんに△△されたの、いやだったね」と勝手に決めつけてしまう。
状況が見えているときの発言で、表面的には合っているのかもしれません。それでも本人にしかわからない気持ちがあると思うので、落ち着くのを待って本人の口で言語化させていくことを大切にしていただきたいです。
それが難しいときは「どうして涙が出ちゃったの?」と探るような質問や、「悲しかった? さびしかった? 全然違う?」と誘い水を向けるような質問をしてもいいと思います。
ただし基本はやはり真っさらな状態で、子どもの声に耳を傾けるということからスタートしていただきたいですね。
そういう意味では、親って辛抱強さが大事ですよね。辛抱強くないと、すぐに答えを言おうとしてしまうし、自分が正しいと思う方に導こうとするし、決めつけてしまいます。悪気は全くないんですが、そうした親の性急さが子どもの言語化力を下げている可能性もあると思います。
子どもの「聞いて」を受け止める
共働き家庭が増えてきて、「平日に家でお子さんとゆっくり会話する時間が取れない」という方も多いのではないでしょうか。
疲れて帰宅したときに、子どもが「ねえねえ、聞いて」といった感じで話しかけてきて「ちょっと後にして」などと言ってしまうこともあると思います。
ただ、そういうときって言葉の力を広げるチャンスなんですよね。忙しそうな親の姿が目に入らないくらい、話したくて仕方ないことがあるんですから。
そういうときにしっかり向き合って聞いてあげるだけで愛情が伝わるし、それが安心感や信頼感にもつながっていくので、忙しくて大変だとは思いますが、できるだけ少しだけ手を止めて、耳を傾けていただけたらと思います。
親も積極的に「言語化」する
お子さんに言語化を促すだけでなく、大人自身も自分の気持ちを言葉にしていくことは大事だと思います。子どもには「今日あったことを話して」と促すのに、親は自分のことを全く語らない…といったことが家庭では起きています。
家庭の中では、大人も積極的に自分のことを発信するべきだと思います。
例えば、
「お母さん、これ好きなんだよね」
「今日はこれが食べたい気分なんだ」
「今日は本当に疲れた!」
など、保護者の方自身が好きなものや楽しんでいること、今の自分の状況なども言葉にしてしまいましょう。そうすることで、子どもはいろいろな表現力や語彙力も身につけていくのです。
親も自分の感情を伝える
日本人的な美徳として、大人になると「つらい」「しんどい」といった弱音を吐かないことが多いかもしれません。
「どうしたの?」と子どもが聞いてきたとしても「お母さんのことはいいの」などと突っぱねてしまうということもあると思います。
ただ、むしろ言葉にせずにイライラしていたり、不機嫌な態度を取ったりするほうが、子どもの心に悪影響を与えてしまうので、言語化することによって自分の感情をコントロールすることにもつながるのです。
例えば「今日、会社でこんないいことがあったんだよ」「今日はこれがつらかった」といったことでも、お子さんの前で言っていいと思います。
子どもはそういう大人の様子を見て自然と「言葉にする」ということを学んでいきます。全部を理解できないとしても、「大人でもそういうことがあるんだな」ということはわかりますし、「こういうことを言っていいんだ」というメッセージを受け取ることにもなるわけです。
素敵なお子さんだと、親が弱音を吐いたときに「僕が助けてあげるよ」などと言ったりして、親も癒やされますよね。
言葉にすることで自分のストレスを上手に解消して、心身の健康状態を保てるので、言語化には人に伝えることだけではなく、自分の感情をマネジメントする役割もあるのです。
読書で言語化力をつける

「語彙の獲得には読書が大事」とよく言われますが、どうすればお子さんが読書に親しめるかというと、親がリビングなどに本を置いてたまにペラッと1、2ページでも読む様子、実際に読書を楽しんでいる姿を見せるのが一番いいですね。
プラス、お子さんの年齢にもよりますが、一緒に本を読んであげること自体が情緒の安定になりますし、コミュニケーションにもなります。当然新しい言葉の獲得にもつながりますし、いいことづくめです。
読んだ後、「どうだった?」と感想をお互いに言ってみることも大切です。そうすると、インプットとアウトプットが両方行われて、とてもよいと思います。
本は子どもの目につくところにわざと置いておかないと、自分で探し出して読むなんてことは絶対に起きないので、そういった環境づくりも大事ですね。
同じ体験を共有する

読書もそうですが、親子で同じ体験を共有することも大事だと思います。
家族で一緒に過ごしていても、両親がスマホでそれぞれ違うものを見ていたり、子どもはゲームをしていたり、今はみんなパーソナライズされて一人一人が別々なことをやることが多い時代だからこそ、同じ体験を共有することが大事だと思います。
「一緒のゲームをする」「一緒のドラマを見る」「一緒の漫画を読む」「一緒に公園に行く」「旅行をする」…なんでもいいのですが、こうした「同じ体験をする」ことで、その後に会話が生まれてくるものだと思います。
例えば、一緒に映画で『ちいかわ』を見たとして、
「どのキャラクターが一番好き?」
「どんなところが好きなの?」
「どの場面が好きだった?」
と具体化していくだけでも、相当言語化の力が高まると思います。
ぜひ同じ体験を共有してもらいたいですね。そうすると、同じ体験をしても大人は語彙力が豊富なので、「大人ってこういう言葉を使うんだ」「そんな表現があるんだ」と気づくことができると思います。
「あの場面でお母さん胸がキュンとしちゃった」と言ったら、「胸がキュンとする」という言葉をお子さんが学ぶわけです。こんなふうに、たくさんの体験を共有して言葉にしてもらいたいですね。
ゲームで言語化力を身につける

ここでは著書『こども言語化大全』から、子どもたちが言語化力を楽しく伸ばすゲームを3つ紹介します。家族でやってもいいですし、友だちとやってももちろんOK。子どもだけでも楽しめますが、最初は保護者の方がサポートしてあげると、より高い効果が望めます。(中学年以上が主な対象ですが、大人のサポートがあれば低学年のお子さんでも十分楽しむことができます。)
ゲームを通して、「言葉にする楽しさ」を積み重ねていきましょう。
➀[言葉が身につくゲーム]リズムで山手線ゲーム
[遊び方(ルール)]
1 「親」と順番を決める
*お題を出す親と、答えていく子の順番(時計回りなど)を決めます。
2 お題を決める(例:動物、文房具、学校にあるものなど)
3 順番に答える
*お題に合う言葉を、「パンパン」という手拍子でリズムに乗って親から順に答えていきます。(例:動物⇒「いーぬ」⇒パンパン⇒「ねーこ」⇒パンパン)
*他の人の言葉が正しいかチェックしたり、知らない言葉を聞いてみたりしましょう。
4 答えられなかったらアウト
*同じ言葉を言ったり、15秒以内に答えられなかったりしたらアウト。
*だれかがアウトになったら親を交代して、新しいお題にチェンジして遊びます。
②[具体化力が身につくゲーム]超能力!テレパシーゲーム
[遊び方(ルール)]
1 ゲームの親を決めて、見本の写真か絵を用意する
*他の人は「描く人」になります。
2 親が説明する
*親は見本の写真や絵をだれにも見せずに、言葉だけで説明していきます。
*描く人はそれを聞いて絵にします。見本や他の人の絵を見せてはいけません。
3 答え合わせ
*みんなが描き終わったら、描いた絵と見本を比べてみましょう。
*親の説明通り忠実に描けている人を親が選び、優勝者決定!
*どんどん親を交代して遊びます。
③[伝える力が身につくゲーム]ハラハラ☆UFOキャッチャーゲーム
[遊び方(ルール)]
1 ゲームの親は目を閉じて、子は品物を置く
*親はUFOキャッチャー役。目を閉じて子の指示通りに動きます。
子は、机の上の好きな場所に品物(なんでもOK)を置きます。
2 指示を出す
*子はそれぞれ親に2回だけ動く方向を教えられます。(例:右に90度、前に20㎝など)
3 キャッチする
*親は指示通りに動いて「ウイーン」と言いながら両手を下ろして品物をキャッチします。キャッチできたら成功。
*チーム戦にして、一人目の子の指示でキャッチできなかったら、次の子がまだ指示を出して同じように挑戦。キャッチできたら親を交代して、どんどん遊びます。
最後に
最近は大人でも言語化の力が足りていないと言われますが、AI時代を生き抜くためには的確に指示を出し、説明をするための言語化の力はますます注目されています。
言語化力は人とのコミュニケーションはもちろん、学習全般の理解を深める元になる力です。小学生のうちにしっかり育んでいけば、将来の可能性は大きく広がっていきます。
スマホやゲームで遊ぶことが当たり前になり、言葉の力を育てる機会が減っている今、家庭で楽しく言語化力を伸ばすサポートができるとよいですね。
この記事の監修・執筆者
出版社で編集者・記者を務めたのちに独立。29年間で3800件以上の取材・インタビュー歴がある。現在は執筆や研修・セミナーを通じて幅広い世代に言語活用スキルを提供。1万人以上への指導経験がある。著書はベストセラー書籍『「うまく言葉にできない」がなくなる 言語化大全』『12歳までに身につけたい「ことば」にする力 こども言語化大全』(共にダイヤモンド社)ほか35冊。NHK「あさイチ」ほかメディア出演多数。
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