子どもの成長にとって、読書はどんな意味をもつのでしょうか。
「本を読むことで語彙力や読解力が身につく」というイメージはありますが、物語の世界を想像したり、登場人物の気持ちを考えたりすることも、子どもの脳や心の発達と関係しているといいます。
今回は、子どもの脳や言葉の発達、物語を読むことの意味、家庭でできる読書のサポートについて、脳科学者の細田千尋先生に伺いました。
子どもの脳はどう発達する?

脳は後ろから前へ発達する
――まず、子どもの脳は成長の過程で、どのように発達していくのでしょうか。
細田先生:脳には前頭葉や側頭葉、頭頂葉、後頭葉などがありますが、発達の大きな流れとしては、後ろから前へ進んでいきます。
たとえば、脳の後ろのほうにある視覚を処理する領域は比較的早く発達します。その後、運動にかかわる部分などが発達していきますが、言語機能にかかわる前頭葉はかなりゆっくり、10代後半まで発達し続けます。
脳は長い期間をかけて発達する
――子どもの脳は、幼児期に一気に発達するというわけではないのですね。
細田先生:そうですね。前頭葉は10代後半にかけても発達していきますし、中学生、高校生になってから、新しい言葉や文法を覚えていくことはよくありますよね。
ですから、「何歳まで脳が発達するか」というのは、簡単には区切れません。脳はかなり長い期間をかけて成長していきます。
言葉は赤ちゃんから育つ
――言葉の力も、早い時期から育っていくのでしょうか。
細田先生:赤ちゃんは、実際に言葉としてアウトプットするのは何年か先だったとしても、ずっと周りの言葉を聞いています。ですから、言葉はどんどん吸収しています。
子どもの言葉を育てる3つのこと

たくさん言葉をかける
――家庭では、どのようなことを意識するとよいでしょうか。
細田先生:まずは、たくさん言葉をかけてあげることですね。
よく「言葉のシャワー」といいますが、言葉の量だけでなく、表情や身振りも大切です。海外のとある研究では、大人が身振り手振りや表情を大きくつけながら話しかけることが、子どもの言葉の発達と関連があると示されています。
子どもは耳だけではなく、目からも情報を取り入れながら言葉を吸収しているのです。
本に触れる環境をつくる
――本に触れることも、言葉の発達につながりますか。
細田先生:そうですね。よく「いろいろな本を読ませたほうがいいですか」「同じ本を繰り返し読ませてもいいですか」と聞かれますが、どちらにも効果があるといわれています。
読み聞かせから始まって、本を読むことそのものがさまざまなことにポジティブな影響を与えるという知見はありますが、必ずしもたくさんの種類を読ませなければいけない、ということではないと考えられます。
親自身も本に親しむ
――家庭の中に本があることも関係しますか?
細田先生:子どもの発達に関する研究では、家庭環境を示す指標のひとつとして、「家の中にどのくらい本がありますか」と尋ねることがあります。もちろん、本が何冊あるからどうなる、という単純な話ではありません。
ただ、親の習慣を子どもが受け継ぐ傾向はあります。親が本をよく読む家庭では、子どもが自然と本を目にする機会が増えますよね。その分、読書へのハードルが下がるのだと思います。
物語を読むことで育つ力

物語の「余白」が想像力を育む
――本を読むことで、語彙力や読解力以外にはどんな力が育つのでしょうか。
細田先生:私は、クリエイティビティにとってすごく重要だと思っています。
本は、ただ文字を追って、書いてある内容を理解すれば終わりではないですよね。「その背景には何があるんだろう」「物語が終わったあとにはどんな世界が続いていくんだろう」と考えることができます。
物語には、そんな「余白」があると思うんです。書かれていない部分まで考えることが、創造性につながっていくのではないでしょうか。
――登場人物の気持ちを考えることも、そのひとつでしょうか。
細田先生:そうですね。本の中で、「この子はどう思っているんだろう」「どうしてこの人はこんなことを言ったんだろう」と考えることができます。
現実の人間関係とは別の場で、いろいろな人の気持ちや考え方に触れることができる。それは、子どもの想像力を育む上で、とても大事なことだと思います。
――物語の「余白」は、どのように楽しめばいいでしょうか。
細田先生:たとえば『桃太郎』なら、「10年後にまた鬼が暴れ出したらどうする?」とか、「今の時代に鬼が現れたら、どうやって退治する?」と考えてみる。
昔話を昔話で終わらせず、「今の時代だったらどうなるんだろう」などと考えると、楽しく自由に思考を広げることができると思います。
――動画や映像を見る場合と、本を読む場合とでは違いがありますか。
細田先生:映像には映像の良さがありますし、それを否定する必要はありません。
でも、どのようなメディアに触れるかによって、物語の「余白」の大きさに違いがあると思います。たとえば絵本なら、文字からどんな世界を思い浮かべればいいのか、絵がヒントを与えてくれますよね。
そこから文字だけの本になっていくと、「この登場人物はどんな姿なんだろう」「この場所はどんなところなんだろう」と、自分の頭の中だけで情景を作っていくようになります。
それぞれのメディアに良さがあるので、何を求めて読むのか、見るのかが大切だと思います。
親が読書の「補助輪」になる
――読書があまり好きではない子に対しては、親はどう関わればよいでしょうか。
細田先生:私は、一緒に読むことがとても大事だと思っています。
子どもが幼いころは一生懸命読み聞かせをするのに、小学生になって文字が読めるようになると、「一人で読んで」と急に子ども自身に任せてしまいがちですよね。
でも、本は面白い場面まで読み進めるのに少し時間がかかることがあります。そこに到達するまでは、親が「補助輪」のような役割をしてあげてもいいと思っています。
――先生のお子さんにも、そういうことがありましたか?
細田先生:ありました。うちの子は「10歳までに読みたい世界名作」シリーズが好きで繰り返し読んでいたんです。でも、そこからもう少し文字の多い本には、なかなか進まなくて。
そこで、同じ物語の文字の多い本を、最初の2章くらいまで一緒に読みました。すると、その先が気になったのか、そこからは、自分で読むようになりました。
絵本から少し文字の多い本へ進むとき、読みやすい本がその橋渡しになることがあります。「読んだら面白い」と感じるところまで一人で到達できなそうな子には、伴走期間があってもいいのではないでしょうか。
多読と精読は目的で使い分ける
――たくさんの本を読むことと、一冊をじっくり読むことでは、得られるものに違いがありますか。
細田先生:これは、目的によって変わると思います。新しい語彙を増やしたいのであれば、いろいろな文章に触れて、いろいろな言葉に出合ったほうがいいですよね。
一方で、登場人物や状況を深く理解したい場合は、繰り返し読むことで、最初には気づかなかった視点に気づくことがあります。
「たくさん読むのがいい」「繰り返し読むのがいい」と、ひとつの答えがあるわけではありません。何を目的にするかによって、本の読み方も変わります。
――音読にも意味がありますか。
細田先生:実は、以前は「音読って何のためにやるんだろう」と思っていたんです(笑)。でも、今の子どもたちは、文章を飛ばしながら読んだり、丁寧に読まなかったりすることがあります。
語彙を身につけたり、文章を理解したりするには、きちんと読むことが必要です。そう考えると、「きちんと読めているか」を確認できる方法のひとつが音読なんだと思います。
読書を支える親の姿勢

「一人で読んで」と急がない
――何歳くらいまで、親が一緒に読めばいいのでしょうか。
細田先生:それは、本当に子どもによって違うと思います。我が家でも、小学校に入るころにはどんどん一人で読んでいた子もいますし、もう少し長く一緒に読んだ子もいます。
年齢で区切るのではなくて、その子が自分で読めるようになるまでは、必要に応じて臨機応変にサポートしてあげることがよいのではないでしょうか。
親子で物語の先を想像する
――家庭で本を読むときに、親ができる声かけはありますか。
細田先生:私は、絵本を読んでいたころから、ページをめくる前に「このあと、どうなると思う?」とよく聞いていました。
周りからは「子ども、嫌がらないの?」と言われたりもするんですけど(笑)。
でも、一緒にそうやって遊んでいるうちに、子どもも真似するようになるんですよね。
同じ本でも、「じゃあ、この次はどうなると思う?」と考える。答えを知っている本でもやったりします。
そういうことの積み重ねが大事なのではないでしょうか。
親子で本を楽しもう
本は、子どもに「読ませる」だけのものではありません。
物語の続きを一緒に想像したり、登場人物の気持ちについて話したりすることで、親子のコミュニケーションのきっかけにもなります。
たくさん読むことにも、同じ本をじっくり読むことにも、それぞれのよさがあります。また、一人で読めるようになる時期にも個人差があります。
冊数や年齢だけを目安にせず、その子に合った形で本に触れ、一緒に物語を楽しむこと。それによって、言葉を育て、人の気持ちや考えを想像する機会につなげられるといいですね。
この記事の監修・執筆者
東北大学 大学院情報科学研究科 人間社会情報科学専攻・加齢医学研究所 脳科学研究部門 認知行動脳科学研究分野 准教授/慶應義塾大学 大学院システムデザイン・マネジメント研究科 教授
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科博士課程修了(医学博士)。専門は認知脳科学。東京大学特任研究員などを経て現職。内閣府ムーンショット型研究開発事業目標9PMを務めるほか、ウェルビーイング学会理事、文部科学省中央教育審議会教育課程部会「生活、総合的な学習・探究の時間WG」委員、Frontiers in Computational Neuroscience編集委員(Editorial Board Member)、仙台市学習意欲の科学的研究に関するプロジェクト委員、日本ヒト脳マッピング学会広報委員などを務める。
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