夏休み中は元気に過ごしていても、9月が近づくと新学期からの学校生活への不安からストレスを感じるお子さんは少なくありません。気持ちの言語化がまだ十分ではない小学校低学年の子のストレスサインに気づき、適切にサポートするための方法を、元スクールカウンセラーで臨床心理士の吉田美智子さんに伺いました。
取材・文/FUTAKO企画
「夏休み明け」の子どもたちの不安とは
夏休みも残りわずかとなり、宿題を済ませたり新学期への準備に取りかかったりする時期の子どもには、再び始まる学校生活への期待とともに不安な気持ちも生まれます。「なんだか不安」「学校に行きたくない」という思いが強くなると、新学期からの行き渋りや不登校につながる可能性も。
その際、小学校低学年の段階では「なぜ学校に行きたくないか」の言語化が難しいことがあります。スクールカウンセラーの経験を通して子どもや保護者の方に聞いた「学校に行きたくない」不安には、次のようなものがありました。
友だち関係の不安

「友だちと仲よくできるかどうか」は、低学年のお子さんにとっては特に、とても大きな問題です。
家庭環境や持って生まれたお子さんの気質によっても度合いはさまざまですが、不安が強く出るタイプの子もいます。「1学期中にクラスの子となじめていない」ことや、「休みをはさんで疎遠になっている」ことなど長期の休みをはさんだ「分断」などによって不安を感じることがあります。
先生に感じる不安
特に小学1年生の場合は、先生との関係性で不安を感じることが少なくありません。
自分が「叱られた」「注意をされた」と感じたことが強く印象に残っていたり、「先生の声が大きい」「言い方がきついと感じる」「クラスの誰かが叱られている雰囲気が嫌だった」などと受け止めたことなども、子どもにとっては負の感情として残ることがあります。
同じ先生と接していて平気なお子さんもいれば、不安を感じやすいお子さんもいます。「○○先生ってこうだよね」と友だちと共有したり、慣れると大丈夫になったりする場合もあるので、先生との関係が原因と知った場合も、保護者の方が落ちついて対応する必要があります。
勉強など学校生活での不安
「夏休みの宿題ができていない」「みんなの前で発言するのが恥ずかしい」「勉強や運動がちゃんとできるか不安」「給食で苦手なものがある」など、学校生活でのプレッシャーも、不安につながります。 また、開放的な気分で過ごした夏休みの毎日から規則正しい生活に戻ることに抵抗を覚えて、「学校に行きたくない」という気持ちになることもあります。
これらの不安一つ一つは些細なことであっても、まだ経験値の少ない子どもにとっては「乗り越えるのが大変な壁」に感じてしまう場合もあるので、保護者の方がお子さんの様子をよく観察することが大切です。
言葉に出にくいストレスサインの例

小学校低学年ぐらいだと、ストレスや不安な感情があっても、うまく言葉で表現できないお子さんがまだ多いものです。ストレスや不安が強くなると「ストレスサイン」という形で身体や行動に表れます。
ストレスサインにはどんなものがあるか、日々のお子さんの様子からチェックしてみてください。
身体に出る症状
□頭痛・腹痛
□寝つきが悪い
□朝起きられない
□食欲がない
□爪をかむ
□チック(本人の意思とは関係なく体が動いたり声が出たりする)
行動に表れる症状
□元気がない
□急に泣き出す
□口数が少ない
□無表情
□甘えん坊になる
□イライラして不機嫌
□投げやりな態度
□口答えをしたり、家族にからんできたりする
行動に表れるストレスサインは、保護者の方からは「よくない態度」に見えがちですが、もしかしたらそれはお子さんからのSOSかもしれないのです。
感情的に叱るのではなく、「なぜそんな行動に出るのか」と、背景にあるものに目を向けてみることが必要です。
ストレスサインに対処する声かけとは
お子さんにストレスサインや不安な様子があれば、保護者の方からの適切な声かけが大切になります。 では、声かけの際はどんなことに注意すればよいでしょうか。
声かけの際のNGワード/OKワード
NGワード
×「学校には行かなければならない」
×「みんな行っているよ」
→正論や価値感の押しつけ、他人との比較はよくありません。お子さんが逃げ場を失ってしまいます。価値感の多様化が認められるようになっていますし、自分が正しいと思っていても見方によっては違っていることもあります。
まずは「決めつけ」をやめて、お子さんの気持ちを受け止めることが大切です。
×「なんで行きたくないの?」
×「何が嫌なの? 理由を説明して」
→理由を求めると、お子さんが「責められている」と受け取ってしまいがち。質問は「責めワード」と覚えておきましょう。
どうしても聞き出したい場合は、穏やかに聞こえるように質問の仕方を工夫したり、話しやすい雰囲気作りをしたりといった配慮が必要です。
×「大丈夫、大丈夫」
×「そんなたいしたことじゃないよ」
→お子さんを安心させる言葉として発しているつもりでも、実際は「あなたの感じていることはささいなことだから、気にしなくていい」とお子さんの不安な気持ちを否定してしまう言葉になりかねません。
また、お子さん自身が「こんなことを思う自分が変なの?」と孤立してしまうこともあります。場面や使い方に気をつけるべきNGワードです。
OKワード
○「新しいことが始まるときってエンジンがかからないよね」
○「お母さんも、休み明けは仕事に行くのが面倒だなと思うことがあるよ」
→保護者の方自身が共感してお子さんを安心させるような声かけが有効です。
共感してもらえることで心の負荷が減り、お子さんが「自分のことをわかってもらえる」「話しても大丈夫なんだ」と思えるようになります。
○「何か嫌だと思っていることがある? ○○かな?」
→「何が嫌なの?」に近い質問だと感じられるかもしれませんが、穏やかにゆっくり話し、具体例を加えることで、「ああ、自分はこれが嫌なんだな」「そうじゃなくて△△のほうなんだ」などと、お子さんが感じていることを引き出せることがあります。
○「頑張り屋さんだもんね」「いつも○○できているよね」
→お子さんの普段の頑張りを言葉にすることで「自分のことを認めてくれている」「受け入れられている」という自信や安心になり、前向きな行動につながります。
親が今できる大切なこと

親が落ち着いた態度を見せる
お子さんが「学校に行くの嫌だな」「ずっと家にいたい」などと言った場合、まずは「(子どもの前では)落ち着いた態度を見せる」ことがとても大事です。
「そうなんだ」「そういうときもあるよね」などと、保護者の方がおおらかに構えていると、不安な状態のお子さんの心も落ち着くことができるからです。
逆に、お子さんのちょっとした言葉や行動に過敏に反応してしまうと、子どもは警戒して話しにくくなってしまいます。自分が抱いている不安やもやもやを「言葉にすることで発散できる」場合もあるので、まずは穏やかに受け止めて見守る姿勢を保てるとよいでしょう。
スキンシップを増やす
子育てにおいてスキンシップの大切さはよく語られますが、本当に魔法のように効果があります。
お子さんにストレスサインが見られるようであれば、小学校低学年ぐらいでは抵抗なくスキンシップができる時期なので、ぜひトライしてみていただきたいと思います。
「お風呂に一緒に入る」「寝る前に読み聞かせをする」「ハグをする」「背中をトントンする」「手をつなぐ」など、その子に合った日常のスキンシップを増やすことで、不安な気持ちを軽くすることができます。
お守りを持たせる
その他、気に入った柄や好きな匂いの付いたハンカチをお守り代わりにするなど、それぞれのお子さんに合った、安心できるものを持たせるのもおすすめです。
ハンカチ以外でも、身につけるもの、気持ちが和む言葉など、「これがあると安心できる」ものが1つでもあると、不安になったときの心の支えになってくれるものです。持ち物として学校に持参して使用できるものを見つける、お子さんが励みになる言葉をノートに書き込むなどの工夫をするとよいでしょう。
親が先に言語化する
新しい環境になじむのに時間がかかるお子さんや不安を抱きやすいお子さんの場合は、不安な様子を見てから対応するのではなく、むしろ「夏休み残り1週間」といったタイミングで「先手を打ってみる」のも有効です。
「学校でまた友だちと仲よくできるか心配になるよね」「学校に行くの嫌だなって思うこともあるよね」などと、保護者の方から言葉にしてみましょう。そうすることで、お子さんは「そんなふうに思ってもいいのか」「特別なことじゃないんだ」と、自分の気持ちを安心して前向きに受け止めることができるようになるものだからです。
まとめ
夏休み明けに「しんどい」「学校に行きたくない」と感じるのは、子どもが新学期という新たな環境に適応しようとしているサインでもあります。特に小学校低学年は気持ちをうまく言葉にできず、不安が「身体」や「行動」に表れやすい点がポイントです。
もしストレスサインが強い状態が続いたり、朝の不調や行き渋りが長引いたりする場合は、家庭だけで抱え込まず、担任の先生・養護教諭・スクールカウンセラーなどに早めに相談してみてください。
「言葉で説明できない」ことを責めるのではなく、「言葉になる前のSOS」に気づいて寄り添うことが、新学期の一歩を軽くする助けになるのです。
この記事の監修・執筆者
2016年『はこにわサロン東京』を開室。子育てや親子関係の相談を受付けている。
子育て関連の著書に『すぐ怒る わがまま 言うことをきかない 子育ての「うまくいかない」は自律神経を育てると解決する(高橋書店)』『声かけで伸ばす 内向的な子のすごい力(ディスカヴァー・トゥエンティワン)』
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