春は別れと出会いの季節。でも、発達特性のある子どもにとっては「環境が変わる」ことそのものが大きなストレスになることもあります。クラス替え、新しい先生、新しいルール――。新学期を前に不安が高まるのは自然なこと。そんな今の時期に保護者ができることについて、発達障害の子どもに詳しい小児科医の森博子先生に伺いました。
取材・文/細川麻衣子
なぜ❝新学期❞が苦手なの?
発達特性のある子どもは、環境の変化にとても敏感な傾向があります。新学期は進級によってクラス替えがあったり、始業式やオリエンテーションなど、普段の授業には無いものが毎日イレギュラーで行われたりして、とにかく先が読めない状態です。
通常なら「こういうものだ」と感覚的に受け入れて慣れていくものですが、障害や特性がある子どもにとっては、ひとつひとつの変化に対応することが難しかったり、順応するためにはかなりの労力を使わなければならなかったりします。これが大きな負担となって、さまざまな症状が出てきます。
以下の特性が関係しています。
●先読みが苦手
・誰と同じクラスになるの?
・担任の先生はどんな人?
・教室の場所はどこになるの?
・時間割はどうなるの? など
とにかく❝わからない❞ことが続く状態で不安になります。
●ルーティン・こだわりが強い
・クラスのルールが変わる(担任の先生やクラスで決められる独自のルールなど)
・時間割・係活動やクラブ活動などが変わる など
毎日の流れが決まっていることで安心できる子にとって、新学期はすべてがリセットされる時期。またゼロからペースをつくらなければいけない状況に疲れてしまいます。
●感覚過敏・鈍麻
・新しい教室などの雰囲気
・始業式などで体感する人の多さや音 など
教室のざわつきや椅子を引く音、クラス人数の増減といった変化にも影響を受けやすく、集中力が散漫になったり、ストレスを抱えてしまいます。
●コミュニケーションが苦手
・冗談が通じない(真面目に受け取りすぎる)
・空気が読めない・読み過ぎる など
対人関係や周囲に合わせることを求められる場面では、強い同調圧力を感じたりして、友だち関係の空気を過敏に気にするケースも。
学校生活には❝言語化されない暗黙の了解❞も多く、それを自然に読み取ることが難しい子どもたちにとっては、環境の変化は緊張の連続です。こうした背景から、新学期は「ただのスタート」ではありません。発達特性のある子どもにとっては、環境の変化に一つひとつ対応しながら適応していく、大きなエネルギーを使う時期なのです。
医学的には、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などの特性において、「変化への不安」「予測困難へのストレス」がみられることが知られています。ただし、診断の有無にかかわらず傾向としてあらわれることもあります。
≪関連記事≫【ASD(自閉スペクトラム症)の子どもあるある⁉】長期休み明けの「登校しぶり」 安心して学校生活に戻れるために親ができること[小児科専門医監修]
【低・中・高学年別】症状のあらわれ方の違いは?
実際に新学期に近づく&新学期になると、子どもはどのような状態になるのでしょうか。これは、学年(おおよその年齢)によって表れ方にも違いがあります。
●低学年(1〜2年生)の場合
特徴:身体症状に出ることが多い
例/癇癪や甘えの増加、腹痛や頭痛、朝起きられない、登校しぶりなど
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低学年は、自分の不安を言葉で説明することがまだ十分ではないため、身体症状に出やすい時期です。「お腹が痛い」「頭が痛い」、「学校に行きたくない」や、癇癪として表れやすい傾向にあります。これは怠けではなく、不安をどう処理していいか分からない結果としての行動なのです。
●中学年(3〜4年生)の場合
特徴:対人関係のトラブル・反抗的な態度
例/友だちとのケンカが増える、保護者に対して反抗的な態度や暴言が強くなるなど
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中学年になると社会性が発達する一方で、自分と他者の違いに気づきやすくなります。友だち関係の影響が強まってくるのもこの時期。「誰とお弁当を食べるか」「遠足で誰と回るか」など、具体的な対人面での不安が増えます。周囲と違うことを気にし始め、同調できないことで孤立するケースもあります。「どうせ私(僕)なんて……」と自己否定したり、「つまらないから行かない!」と反抗的にみえる態度をとったり。保護者に対しては一見、本人の意思のようにも感じられる言動もありますが、実はこれも新学期に対する不安の表れです。
●高学年(5〜6年生)の場合
特徴:不安を表に出さず、内に抱え込む
例/より反抗的な態度や無気力状態に陥る、SNS依存や対人関係への強い緊張など
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高学年は、思春期の入り口です。中学年で出てきた態度の変化がさらに内面化し、不安を表に出さず抱え込む子も少なくありません。反抗的に見える態度や無気力の背景には、大きな不安が隠れていることもあります。年齢が上がるほど「分からないから不安」から、「分かるからこそ不安」へと、不安の質が変化していくのが特徴です。また、「不安=弱さ」と感じ、「なんでもない。」と言って、何も言わなくなることもあります。

このように、徐々に溜めてきたストレスや不安・不満の表出の仕方はそれぞれですが、❝いつもと違う様子❞は子どもからのSOSのサインです! こんな変化が少しでも出てきたなら、しっかりとフォローしてあげることが大切です。
保護者が準備・心がけておくことは?
では、この時期に保護者ができることはなにがあるでしょうか。ここで最も大切にしたいことは「保護者が、我が子を知ること」です。
・どんな環境で安心できるのか
・どんな刺激で疲れてしまうのか
・どんな声かけで立て直せるのか
こうした❝その子の特徴❞を理解しておくことです。
具体的には……
①子どもの特性をふまえ、何が出来ていてどんなことが課題なのかを理解する
・4月頃と今の違い・成長したところは何か。
・癇癪があるとき・無いときの違いは何か。
・どんな声かけが切り替えスイッチになるのか。 など
②「聞く」姿勢で子どもとコミュニケーションをとる
・どんなときに学校が楽しいか。
・得意・苦手なことは何か。
・キツい、厳しいと感じることは何か。 など
③担任の先生に、学校での子どもの様子を確認する
・授業中はどんな様子か
・学校生活の中で何に困っていることが多いか
・トラブルになりがちな原因やそのときの様子
・これをしたら伸びる!効果的!という先生視点の見解 など
4月に入ると親子ともに新学期になり、なにかと余裕がなくなります。ですので書類準備や新生活への対応に追われる前の今こそ、保護者が子どもを見る&知る力を育てましょう! なぜなら、子どもは保護者に理解されることで育つからです。しっかり子どもを観察し、話を聞いてコミュニケーションをとる時間を持つことが大切です。春休みは宿題も比較的少なく、落ち着いた時間が取りやすい時期です。
具体的な行動としては、この4月から3月まで1年間みてくれた担任の先生に、一年間の様子を聞いておくことなども有効です。「どんな場面で落ち着かなくなりますか?」といった質問を事前にし、その情報を次の担任の先生へ保護者から伝えます。学校側が自動的に申し送りをしてくれるとは限らないため、親が橋渡し役になることもひとつの方法です。
とくに誤解されやすい特性のある子(手が出る・反抗的態度が多いなど)は、次の担任の先生の最初の印象がその後の評価に影響することも考えられます。保護者が子どもの特性を理解し、必要に応じて学校側へ説明することで、先生から子どもへの不要な叱責を減らせる可能性もあります。例えば宿題が難しいときも、「昨日は、きつくてできませんでした」と、保護者が連絡帳などに一言添えるだけで、子どもが学校で叱られることは、防げるかもしれません。これは過保護ではなく、子どもを守りながら自立を支えるためのサポートです。
これは、一年間の成長を振り返るという意味でも、とても重要です。新学期だからといって、焦って何か特別な対策をするよりも、日々の子どもをまっすぐ見ること。それが新学期にむけての最良の準備になるのです。
やりがちなNG対応とOKな関わり方
新学期を目前にして変化がでてきた子どもを目の前にすると、励ますつもりの言葉や対応、前向きな声かけが、かえって子どもの不安を強めてしまうこともあります。保護者として、何とかしてあげたいと思う気持ちが強いからこそ、関わり方には少しだけ注意しましょう。以下のような関わり方がおすすめです。

【NG➡OKな関わり方】
NG① 「もう〇年生なんだから」
発達特性は学年では区切れません。年齢と発達のペースは、必ずしも一致しないものです。これは、子どもにとっては「今の自分では足りない」と言われているように響くことがあります。
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OK①「〇年生になるんだね。不安もあるよね」、「できることは増えてきてるよ。でも、心配なこともあるよね」
成長と不安の両方を認める言葉に置き換えてみましょう。
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NG② 不安を説得で消そうとする声かけ「大丈夫に決まってる」「考えすぎだよ」
不安は理屈では消えません。こう言われると、子どもは「この不安な気持ちを持ってしまう自分は間違っているのかな」と、自己否定に捉えてしまいます。これは本当にありがちで、ポジティブに励ましているようで、逆効果になることもあります。
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OK②「ドキドキするよね」「何が一番心配かな?」「そっか、それは不安になるよね」
子どもに不安や焦りがあるなら、まずはこのように気持ちをそのまま受け止めてあげましょう。解決よりも共感が先です。それだけで子どもの不安は少し落ち着きます。そこから、いっしょにどうすればいいか、考えて寄り添ってあげることが大切です。
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NG③ ポジティブに期待を強くかけすぎる「今年は頑張ろうね!」「大丈夫!やればできる!」
励ましのつもりでも、「頑張れない自分はダメ」というメッセージに変わって伝わってしまうことがあります。特に真面目な子ほど、親の期待を強く背負ってしまうのです。
↓
OK③「困ったらいっしょに考えよう」「うまくいかない日があっても大丈夫」「あなたのペースでいいよ」
期待をかけるより❝失敗しても戻れる場所がある❞と伝えるほうが◎。安心感を与えることで、結果的に子どもは前向きになり成長することができます。
新学期前後は、不安から普段よりもネガティブなことを言う頻度が高くなるかもしれません。でもまずは話を否定せずに聞いてあげてください。そして、なんでもポジティブに伝えすぎないこと。大切なことは、不安に寄り添いながら安心できる居場所を作ってあげることです。
新学期は、発達特性のある子どもにとって、見通しが立たない状況のなかで普段よりもたくさんの力を使って適応しようとする時期です。大人が思っている以上に、エネルギーを消耗しています。
だからこそ、この時期にいちばん大切なのは保護者が子どものことを理解し、❝安心できる土台を整えること❞です。理解があると、子どもは自分の力で前に進み始めます。日々のなかで子どもの様子をよく見て、話を聞いて、「あなたの味方だよ」というメッセージを伝え続けること。それが何よりの支えになります。
子どものペースを尊重しながら一歩ずつ――その積み重ねが、結果的にいちばん安定したスタートにつながっていきます。
この記事の監修・執筆者
2010年熊本大学大学院医学教育部卒業。新生児集中治療室(NICU)での大学病院等勤務を経て、22年に発達診断専門の「親子のミカタオンラインクリニック」を開院。全国の親子から発達相談を受ける。自身も、注意欠陥多動性障害(ADHD)の長男と、グレーゾーンの次男を育てる。医療者であり、発達障害児を育てる当事者でもある視点から、子育てのリアルな悩みに寄り添う。
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