小学校では、2020(令和2)年度から新しい学習指導要領が実施され、「総合的な学習の時間」において「探究的な学習」が一層重視されるようになりました。
「探究的な学習」とは、日常生活や社会に目を向け、その中で感じた課題を自分で考え、情報を収集・整理・分析し、他の人と協力し話し合いながら問題の解決に取り組み、考えをまとめ・表現することを繰り返しながら、物事の本質を探って見極めようとする一連の知的営みであり、子どもたちが、これからの未来を生きていくうえで必要とされている学びです。
「探究的な学習」は保護者の方にはなじみの薄い言葉かもしれませんが、これからの子どもたちにとって大切な学習なのです。
文/マムズラボ
プロセスを重視する「総合的な学習の時間」
「探究的な学習」の過程が一層重視されるようになった「総合的な学習の時間」の目標を見てみましょう。
文部科学省は「総合的な学習の時間」の目標を以下のように定義しています。
探究的な見方・考え方を働かせ,横断的・総合的な学習を行うことを通して,よりよく課題を解決し,自己の生き方を考えていくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
引用:文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年度告示)解説 総合的な学習の時間編 平成29年7月」
(1) 探究的な学習の過程において,課題の解決に必要な知識及び技能を身に付け,課題に関わる概念を形成し,探究的な学習のよさを理解するようにする。
(2) 実社会や実生活の中から問いを見いだし,自分で課題を立て,情報を集め,整理・分析して,まとめ・表現することができるようにする。
(3) 探究的な学習に主体的・協働的に取り組むとともに,互いのよさを生かしながら,積極的に社会に参画しようとする態度を養う。
「総合的な学習の時間」では探究的な見方・考え方を働かせ、ひとつの決まった正しい答えが存在しない課題の解決を通して資質・能力を育てていくことに意義があるとされています。
課題を解決するために、情報を集めてその情報を整理したり分析したりしながら自分の考えをまとめていく、という学習過程を大切にするのが探究的な学習のポイント。
その大きな特徴は先生が正解を教えるのではなく、子どもたちが自分で考えるプロセスを重視しているところです。
「自分たちで考える」ことは、学力の向上にも役立っていることがわかる資料があります。
以下の表は、文部科学省が平成29年度に実施した全国学力・学習状況調査の一部です。
それによると、「総合的な学習の時間」に積極的に取り組んでいる子どもは、どの教科の正解率も高い傾向があるということがわかります。
探究的な学習ってどんな学習をするの?
「総合的な学習の時間」では、テーマに沿った課題を自分たちで見つけ、その解決方法を探します。
子どもたちが普段から興味のあることや、おもしろそうだと思ったことを出し合い、話し合いながら自分の知りたいことについて調べます。
集めた情報から自分の必要なものを整理し、発表、意見交換をする中で考えを深めます。また、思考過程で新たな疑問や課題を見つけ、更なる解決を図ることを繰り返すのが「探究的な学習」です。
どうして小学校に探究的な学習が取り入れられたの?
子どもたちの未来には、地球温暖化や、貧困の改善、平和の問題、コロナパンデミックなど正解がわからない課題があり、予測が困難な時代になると言われています。
これらの問題を、いろいろな考えを持つ人たちと協力しながらどうやって解決していくのか、情報化、国際化する中でどうやって自分の考えを実現させていくのか。
小学校のころから探究的な学習を繰り返しながら、これらのよりよい解決方法を身に付け、学んだことを自分のよりよい生き方に結び付けるために、探究的な学習が取り入れられたのです。
探究的な学習で身に付く力
探究的な学習で、子どもたちにどのような力が身に付くと言われているのでしょうか。
探究的な学習では、自分の興味のある課題に取り組むことで、「もっと知りたい!」と積極的に学び、「それってどうなんだろう?」と自分で考える力が身に付きます。
また、グループに分かれて取り組むことが多く、協働的に学ぶ力も重要視されます。
それにより他の人の意見を取り入れて新しい発想力を身に付けたり、違う価値観を受け入れたりする柔軟性も身に付きます。
これらの力は、未来を切り拓く大切な力につながるのです。
さらに、探究的な学習を繰り返すことで、意欲的に様々な学習に取り組む機会が増え、自分でできることが増えていきます。他の人の意見を聞いてみたり、自分の考えを発表したりする中で、子どもたちは「やればできる!」と自らの可能性に気付き、自己肯定感が高まるという効果もあると言われています。
探究的な学習の学び方とは?
探究的な学習は、以下のような学び方ですすめていきます。
①課題の設定
②情報の収集
③整理・分析
④まとめ・表現
編集部員の小学5年生の次男の授業参観では、「沖縄について」というテーマで、グループに分かれて発表がありました。
内容は歴史や、食べ物、琉球王国についてなど、グループによって様々でした。
子どもたちがインターネットなどで集めた情報を、写真や地図などを使ってプレゼン資料にまとめ、タブレットでプレゼンテーション。
食べ物について発表したグループは、本当に興味があって楽しかったのでしょうね。
編集部員の知らない郷土料理まで細かく調べていました。
また、文字のサイズや色を変えるなど、工夫されている点がたくさんあり、感心しました。
答えはひとつじゃない!正解は自分で考える
編集部員が自分の子どもたちの学びを見ていて感じるのは、保護者世代が受けていた受け身の授業内容と違い、今は「積極的に授業に参加し、自分の意見を発表する機会が多い」ということです。
探究的な学習を通じて、世の中には正しいひとつの答えだけがあるのではなく、人の数だけ答えがあるということを知り、いろいろな意見がある中で、自分の中で正解を導き出す力をつけて欲しいと感じます。
家庭でも探究的な学習を取り入れて、学びを深めることができます。
まずは、お子さんが興味を持ったことにできるだけ協力して、一緒に調べてみませんか。
インターネットで調べるのもいいですし、図書館に行って、本を探してみるのもいいかもしれません。
<出典>
文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年度告示)解説 総合的な学習の時間編 平成29年7月」
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387017_013_1.pdf
文部科学省 「今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開 令和3年3月」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/sougou/20210729-mxt_kouhou02_1.pdf
文部科学省 「学習指導要領 平成29・30・31年改訂学習指導要領の趣旨・内容を分かりやすく紹介」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1383986.htm#section3
この記事の監修・執筆者
東京都の公立小学校教諭、教育委員会、港区教育長などを歴任、2012年10月に退職。2013年4月から、学研ホールディングス特別顧問、学研教育総合研究所客員研究員。豊富な経験から適切なアドバイスなどを発信している。おもな著書(共著):「新しい授業算数Q&A」(日本書籍)「個人差に応じる算数指導」(東洋館出版)
こそだてまっぷから
人気の記事がLINEに届く♪