最近、書籍やテレビで取り上げられることが多い「HSP」。周りの刺激を受けやすく、相手の感情や、その場の雰囲気に敏感で、光や音など、他の人が気づかないような小さな変化も感じとる、極めて感受性が高い人のことです。そのため、ささいなことで、疲れてしまったり、傷ついてしまうことも。
じつは子どもたちのなかにも、そんな繊細な感性をもっている「HSC(Highly Sensitive Child)」が、5人に1人の割合で存在するといわれています。「もしかしたらうちの子も…」と、感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、HSCがどのような性質をもっているのか、そしてHSCの子をどのように育てていくかについて、心療内科医で子育てカウンセラーの明橋大二先生にお話をうかがいました。
お話:明橋 大二
HSCは生まれもった性質で、敏感さは子どもによってさまざま
HSCは、日本語では「ひといちばい敏感な子」と訳されます。とても敏感で、何事も深く考えてから行動します。周りの雰囲気にも敏感なことから、大勢の人がいる場所や集団行動になじめなかったり、ささいな言葉で深く傷ついてしまったりすることがあります。
HSCはもって生まれた性質です
HSCは生まれつきの性質で、育て方によってなるものではありません。瞳の色が生まれつき黒い人もいれば青い人もいるように、敏感な感性をもつ子どもがいる、ということです。
ですからHSCは「治す」ものではありません。「その子らしさ」の気質と考え、HSCのよい面を伸ばしていくことが大切です。
何に敏感なのかは、子どもによって違います
HSCはさまざまなことに敏感ですが、何に対して敏感なのかは子どもによって異なります。音に敏感な子もいれば、人の気持ちの動きに敏感な子もいます。その子の敏感な面を十分に理解し、苦手なものとの付き合い方を考えていきましょう。
敏感さは大人になっても変わりません
HSCは生まれつきの性質であるため、大人になっても敏感さが変わることはありません。しかし、成長するごとに敏感さへの対応ができるようになると、生きづらさを軽減していくことができます。
4つの性質「DOES」に、すべて当てはまる子がHSC
HSCには、「DOES(ドーズ)」と呼ばれる特徴的な4つの性質があります。HSCには必ずこの4つの性質すべてが存在し、1つでも当てはまらなければ、その子はHSCではありません。まずは4つの性質について見ていきましょう。
Depth of processing――深く考える
普通の子どもなら、考えも及ばないことまで深く考えます。大人顔負けの発言をするため、「しっかりしているなぁ」と思われる反面、考えすぎて行動を起こすのに時間がかかってしまうこともあります。
Overstimulation――刺激に敏感
音や感触などの刺激にとても敏感で、痛みも感じがちです。楽しい遊びをしていても、刺激の多さでクタクタになってしまうことも。これは、普通の子が1と感じる刺激であっても、HSCは100以上と感じてしまうためです。
Empathy and emotional responsiveness――共感しやすく、感情の反応が強い
人の気持ちを感じとって共感する能力に優れ、涙もろい子が多いです。相手が初対面の人であったとしても、気持ちを読みとれることも。絵本やアニメなどの物語にも深くのめり込み、残酷な話には恐怖を覚えたりします。
Sensitivity to subtleties――ささいな刺激に気づく
ささいな変化や反応にも、気づきやすいです。家具の配置や食事の味の変化などにもすぐに気づいたり、表情の微妙な変化から相手の気持ちを察することができたり、天気の急変に気づきやすかったりする子もいます。体内の感覚も鋭く、薬の作用が強く出やすいことも。
実際にお子さんがHSCであるかどうかを知るには、HSCの提唱者であるエレイン・N・アーロン博士が作ったチェックリストがあります。気になる方は、『ひといちばい敏感な子』『HSCの子育てハッピーアドバイス』(いずれも1万年堂出版)などで確認してみましょう。
共感し、子どものペースを尊重する。ほめて、親が安全基地に
HSCの子育てと、HSCではない子どもの子育てでは、違う部分がたくさんあります。だからといって、「HSCの子育ては大変なのでは?」と考えすぎないでください。HSCの性質を理解したうえで、サポートしていくことが大切です。
また、HSCのように敏感であることは、決して悪いことではありません。例えば、危険なことにも敏感であるため、比較的ストレスがかからない場所では、ほかの子どもよりもHSCの方が病気やけがが少ない、という研究報告もあります。敏感な感性をいかして、芸術の才能を伸ばす子どもも少なくありません。また、人の気持ちを理解できるため、誰にでも優しく接することができます。
敏感で優しいからこそ、人よりもつらく感じたり、困難に思うことが起こりがちです。それらをすべてなくすことはできないので、どのように対応していくのかを、お子さんといっしょに探っていくのが、HSCの子育てです。
HSCの子育て・4つのポイント
①子どもに共感しよう
子どもが不快さや不安を感じているときには、否定せずに「これが嫌なんだね」「怖いんだね」と、子どもの気持ちに共感しましょう。自分の気持ちをわかってくれたことで、子どもは安心します。
②その子のペースを尊重しよう
HSCは、さまざまなことを考えたうえで行動しようとするため、行動を起こすことや言葉を発することに時間がかかりやすい傾向があります。むやみに急かしたり、まわりの子どもと同じペースを求めたりせず、その子のペースで行動できるようにしましょう。
③できることをほめよう
HSCは失敗体験に弱いため、できなかったことよりも、できたことに注目してほめることが大切です。やるべきことがある場合には、目標を細かく分け、一つひとつを確実にこなしていけるようにサポートしましょう。
④子どもにとっての「安全基地」になろう
HSCが失敗やつらいことに直面したときに逃げ込める「安全基地」としての役割を、親が果たしましょう。子どもが何かにチャレンジするときには、安心できるように「嫌だったら言ってね」「途中でやめてもいいからね」などと伝えるとよいでしょう。
こんなときどうする? HSCの子育てQ&A
Q:注意すると、パニックになってしまいます
A:強い口調で注意すると、HSCは恐怖を感じてしまうため、優しく注意するようにしましょう。また、頭ごなしに否定せず、できていることをほめたうえで、「あとは、ここをこうしよう」とアドバイスとして伝えるとよいでしょう。
Q:服や食べ物のこだわりが強く、慣れた物以外は受けつけません
A:HSCは感覚が敏感なために、慣れた物以外には違和感を抱きやすいのです。無理強いはせずに、慣れている物を身につけさせたり、食べさせたりするようにしましょう。食事の面では、偏食が気になるかもしれませんが、まずは食べる楽しみを感じられることが大切です。
Q:友だちが泣いていると、つられて泣いてしまいます
A:これはHSCの共感力の高さによるものです。ここで「どうしてあなたが泣くの?」と責めてしまうと、「泣いてしまう自分はダメだ」と、子どもの自己肯定感を下げてしまいます。そこで、「優しいのね」「○○ちゃんの気持ちをわかってくれたのね」と、共感力をほめる言葉を伝えて、落ち着くまで寄り添っていきましょう。
【明橋先生からメッセージ】
HSCであるわが子に対し、ほかの子と同じようになってほしい、と思うこともあるかもしれません。しかし、どんな子でもそのままで十分にすてきな存在です。無理に「普通」にする必要はありません。
HSCの一番の味方は、お父さん・お母さんです。ほかの人からの意見や、一時的なアドバイスからは距離をおいて、まずは子どもの言うことを信じ、その子に合ったサポートを心がけましょう。そうすれば、子どもはイキイキとしたすばらしい人間に成長していきます。
具体的な対応についていくつか方法をあげましたが、「そうは言っても…」「わかってはいるけれど、実際はなかなかできないことも…」ということもあると思います。
「こうしなきゃ!」と強く思いすぎず、子どもの優しく思いやりのある面や、得意なことなど、かわいいところをたくさん見つけてください。
さまざまな可能性を秘めたHSCであるわが子が幸せを感じながら成長できるように、いっしょに楽しい毎日を過ごしてくださいね。
この記事の監修・執筆者
子育てカウンセラー・心療内科医。
京都大学医学部卒業後、国立京都病院内科、愛知県立城山病院などをへて、
現在は真生会富山病院心療内科部長、NPO法人子どもの権利支援センターぱれっと理事長、児童相談所嘱託医。主な著書に『子育てハッピーアドバイス』シリーズなどがある
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