【発達障害・特性のある子どもの性教育】「まだ早い」が一番危険⁉ 家庭で始める❝生きる力❞の育て方[小児科専門医監修]

更新日: 公開日:

【発達障害・特性のある子どもの性教育】「まだ早い」が一番危険⁉ 家庭で始める❝生きる力❞の育て方[小児科専門医監修]

「性教育っていつから?」「どう伝えればいいの?」――特に、発達障害・特性のある子どもを育てる家庭では、そうした悩みを抱える保護者も多いのではないでしょうか。実は❝教えなくてもなんとなくわかる❞が通用しにくいからこそ、早い段階からの関わり方が重要なようです。今回は、発達障害・特性のある子どもに詳しい、小児科医の森博子先生に、性教育の考え方と家庭でできる具体的な関わりについて伺いました。

取材・文/細川麻衣子

目次

❝性教育❞は「生きる力」を育てるもの

❝性教育❞というと、「性」という言葉のイメージから、性交渉や性被害・性加害の話を思い浮かべがちかもしれませんが、まずは難しく考えすぎず、性教育の捉え方そのものから、改めて考えてみましょう。

性教育は「生きる力」について学ぶこと、と捉えてみてください。
そしてそれは、発達特性のある子どもにとっては“自然に身につくものではない”という前提に立つ必要があります

性教育とは、「自分を大切にする力」「相手を尊重する力」=生きる力を育て学ぶこと、なのです。

ただ、発達障害・特性のある子どもにとっては、「自分を大切にする」「相手を尊重する」ということついて想像したり連想したりすることが苦手な場合が多いので、より端的・具体的、そして継続的に伝え続けることが重要になってきます。

障害・特性があるからこそ性教育が必要な理由

発達障害・特性のある子どもにとって、性教育が大切な理由のひとつが、自然に習得することが難しい分野であるということです。このような子どもたちにとっては、性教育は「自然に身につくもの」ではありません。教えなければ、身につかない領域なのです。定型発達の子の場合「言わなくても分かるでしょう」という部分が、発達障害・特性のある子どもにとっては、理解に時間がかかったり、そもそも難しかったりします。

【発達障害・特性のある子どもによくみられる特徴】
●相手との距離感がつかめない・つかみづらい
●触れていい・いけないの判断がわからない・わかりづらい
●相手の嫌がる気持ちに、気づけない・気づきにくい
  など

≪関連記事≫【我が子の発達に特性アリ⁉】3年生になって気づく発達障害の特徴と対応策「心がけたいことは?」[小児科専門医監修]

こうした「これはやってはいけない」「嫌がられてしまう」などという人間関係における暗黙のルールは、周囲の様子や空気から感じ、学ぶことが多いものです。しかし、発達障害・特性のある子どもは、それ自体を読み取ることが難しい場合があります。

そのため、周囲の大人たちから具体的に「何を、どうすればいいか――」を教わることが必要、ということなのです。では何から始めればよいでしょうか――。

性教育は「自己肯定感」を育てることから

発達障害・特性のある子どもは、日常の中で叱られたり注意されることが比較的多いので、自己肯定感が低く、揺らぎやすい傾向があります。そんな状態では、本来、性教育で大切にしたい「自分を大切にする意識」「相手を尊重する感覚」が、育ちにくくなってしまいます。自分を大切に思えない状態では、心も体も大切にできないからです。
だからこそまずは——
「生まれてきてくれてありがとう。うれしいよ」
「あなたは大事な存在だよ」

そんなメッセージを、子どもに日常的に伝えることが、一番のエッセンスです。これが性教育のスタート地点になります。

性教育を始めるおすすめの時期は❝幼児期❞

性教育に❝早すぎる❞はありません。むしろ遅いとどんどん難しくなっていきます。具体的には3〜5歳(幼児期)頃からの関わりをおすすめしています。理由は大きく2つです。

・自然に受け入れやすい
・被害予防のため

性教育は、一度にすべてを教えるものではなく、発達に合わせて段階的に積み重ねていくものです。以下、各年齢(年頃)ごとに性教育のポイントをまとめました。

【幼児期の子どもに伝えたい性教育のポイント】
プライベートゾーン(体の大切な部分)について
●体の部位の名前を正しく知る
●「触っていい・いけない」の区別

幼児期は、「なんで?」という純粋な好奇心から、体に興味を持つ時期です。
この時期は恥ずかしさや性的な意味づけがまだ少ないため、自然に受け入れやすいタイミングでもあります。

たとえばプライベートゾーンについては、「水着で隠れるところと口は、とても大切な場所だよ」「ここは自分の体の中でも特別な場所なんだよ」といったように、わかりやすい言葉で伝えていきましょう。また、体の部位の名前を正しく言えるようにしておくことも大切です。いざというときに、自分の状態を正しく伝える力につながります。

ただ、幼少期を過ぎた小学生だからといって遅いわけではありません。時期別に子どもへの伝え方について以下にまとめます。

【低学年の子どもに伝えたい性教育のポイント】
●嫌なことは「嫌」と言うこと
●人との距離感(パーソナルスペース)について

低学年では、「自分の気持ち」と「相手の気持ち」を少しずつ意識できるようになっていきます。

パーソナルスペースについては、「自分の体のまわりにある見えない円のことだよ」
「ここに急に入られると、びっくりしたり嫌な気持ちになることがあるよ」「手を広げたくらいの距離が目安だよ」
といったように、具体的に伝えることが大切です。また、「嫌なことは嫌と言っていい」という経験を日常の中で積み重ねていくことが、自分の体を守る力につながっていきます。

【中・高学年の子どもに伝えたい性教育のポイント】
●人との距離感(パーソナルスペース)について
●「友だち(友情)」と「恋人(恋愛)」の違い
SNSや動画、マンガなどにある表現が❝すべて現実ではない❞こと

中学年以降になると、人との関係性はもちろん、受け取る情報の幅もぐんと広がります。この時期は、理解できることが増える一方で、誤解も生まれやすい時期です。

パーソナルスペースについては、低学年でパーソナルスペースの概念がしっかりと身についていないと感じる場合は、再度伝え、この距離感について自分にも相手にもそれぞれのスペースがあることを伝えましょう。

友情と恋愛については、「友だちはいっしょに遊んだり助け合う大切な関係だよね。恋人は相手を特別に好きと思い、もっと近くにいたい気持ちが強くなる関係だよ」「友だちは同時にたくさんいてOKだけど、恋人は一番大切に思う人、1人だけだよ「どちらも『相手の気持ちを大切にすること』『嫌な思いになるようなことはしないこと』が大切なんだよ」などと、それぞれのニュアンスの違いや大切なポイントについて、具体的に伝えてみましょう。

ネットやマンガの表現については、❝描写としての表現や作品の世界観=現実世界❞だと捉えてしまう子どもが少なくありません。そのため「このマンガは作りものの世界。現実の世界で同じことをしたら、相手に嫌がられたり、傷つけてしまう行動になるから、絶対にしてはいけないよ」などと、明確に❝べつもの❞だと伝えることが必要です。

このように、ひとつひとつを具体的に伝え、特に「やってはいけないこと」がなにか、それはなぜかを理解できるように、根気よく伝え続けていくとよいでしょう。

「性教育を避ける」「教えない」は大きなリスクにつながる可能性大

性教育を避けることは、子どもを守ることにはなりません。むしろ、リスクを高めてしまう可能性があります。「知らないこと」が、一番危険なのです。

例えば、興味の延長で他の子の体に触れてしまったり、「何がダメか分からない」まま行動してしまうなどです。本人に悪気がなくても、相手にとっては大きな恐怖になるので、意図せず加害側になってしまいます

また一方で、実際には大人からの不適切な関わりに対しても、「何が起きているのか分からない」「嫌だと気づけない」まま、被害にあってしまうケースも指摘されています。特に、知的な遅れを伴う場合は、被害が表面化しにくいという課題もあります。

加害者にも被害者にもなりうる。 だからこそ、「知らなかった」では済まされない領域なのです。

[トラブルの例]

昔から仲の良い異性の友だちとの間で起きたケース(小学校高学年)

小さいころから仲の良い女の子の友だちがいて、その子といっしょにいることが大好きな男の子がいました。ある日、久しぶりに家でいっしょに遊んでいるとき、うれしくなって距離が近くなりすぎてしまい、

・肩に触れる
・手をつなごうとする
・後ろから抱きついてしまう

といった行動が見られました。本人にとっては「仲良くしたい」「好きだから」という気持ちからの行動でしたが、成長するにつれて、相手の感じ方は大きく変わっていきます。そのとき女の子は強い恐怖を感じ、「やめて」と拒否。トラブルになってしまいました。

男の子は「なんで?今まで大丈夫だったのに」と戸惑い、何がいけないのか分からず混乱してしまいました。

本人に悪気がないからこそ、周囲とのズレが大きくなってしまうことがあります。そしてこうしたズレは、叱ることでなくなるものではありません「どこまでがOKで、どこからがNGなのか」を具体的に伝えることで、初めて理解につながります

思春期前に「話せる関係」をつくる

性教育は特別なものではなく、日常の中で積み重ねていくものです。そしてその土台になるのは、「自分は大切にされる存在だ」と感じる経験です。ここまでの内容は(発達障害・特性のある子ども向けにまとめてありますが)すべての子どもに対して、有効です。

●「生まれてきてくれてありがとう。うれしいよ」「あなたは大事な存在だよ」と、子どもに日常的に伝える
●できるだけ早い時期から、良いこと・ダメ(嫌)なこと、を具体的に伝え続ける

発達障害・特性のある子どもには特に、自然には身につきにくいからこそ、丁寧に伝えていくことが大切です。そうした関わりを日常生活の中で積み重ねていくことで、親子のあいだに「なんでも話せる・相談できる」という感覚が育まれていきます。これこそが、これから思春期に向かう子どもとの関係を支える大きな強みになります。思春期を迎える前に、「親子で話せる関係」を作っておくことがなによりも大切です。

ここまで、発達障害・特性のある子どもの❝性教育❞についてお伝えしました。性教育は、特別な知識を教えるものではありません。自分を大切にし、相手を尊重し、関係を築く力を育てる教育です。そして発達特性のある子どもほど、それを自然に学ぶことが難しい。だからこそ、言葉にして、具体的に、繰り返し伝える必要があります。

性教育は、子どもの未来を守る最後の砦です。「まだ早い」と先送りにするのではなく、今日から始めていきましょう。

この記事の監修・執筆者

親子のミカタオンラインクリニック院長 小児科専門医 森 博子

2010年熊本大学大学院医学教育部卒業。新生児集中治療室(NICU)での大学病院等勤務を経て、22年に発達診断専門の「親子のミカタオンラインクリニック」を開院。全国の親子から発達相談を受ける。自身も、注意欠陥多動性障害(ADHD)の長男と、グレーゾーンの次男を育てる。医療者であり、発達障害児を育てる当事者でもある視点から、子育てのリアルな悩みに寄り添う。

https://oyakonomikata.com

 

 

 

こそだてまっぷ

こそだてまっぷから
人気の記事がLINEに届く♪

あわせて読みたい

おすすめ情報

こそだてまっぷ

こそだてまっぷから
人気の記事がLINEに届く♪

関連記事

この記事の監修・執筆者の記事