【専門家監修】意外と悩んでいるママパパ多数!  “上の子がかわいく思えない症候群”【私がダメなの……?】

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「上の子がかわいく思えない症候群」という言葉を聞いたことがありますか?
初めての子育てにとまどいながらも、大切に育ててきた第一子。やがて下の子が生まれ、世話に手がかかるなか、あんなにかわいがっていた上の子が急にかわいく思えなくなってしまうという状態のことです。「まさかそんなふうに思う日がくるなんて」と、自分でも説明できない感情の変化にショックを受けるママパパも少なくありません。周りに気軽に話したり、相談したりしづらい気持ち。でも、実はたくさんの親が抱いている感情なのです。

そんな上の子に対する気持ちの変化や、上の子への対処のしかたなどを発達心理学が専門の遠藤利彦先生に伺いました。

お話/遠藤利彦先生(東京大学大学院 教育学研究科 教授)

目次

かわいくない……と思うのはどうして?

かわいくない……と思うのは、下の子が生まれ、二人の育児を頑張ろう、と一生懸命なママパパであればあるほど、抱いてしまいがちなネガティブな感情です。以下の3つは、どう頑張ってもしかたのないこととしておさえておきましょう。

①育児の増加による疲れ

…それまでは上の子の世話だけだったのが、下の子が生まれると単純に育児が増えます。心身のケアも、危ない目に合わないように注意をする機会も二人分に。さらに、疲れなども加わってくると、育児のストレスから、ネガティブな感情が生まれることは当然あります。

②上の子の成長に対する期待

…上の子が赤ちゃんがえりをして手を焼いたときなど、「どうしてこんなこともできないの?」「もうお兄ちゃん(お姉ちゃん)なのに!」といった気持ちになってしまいがち。はじめのうちは、上の子の困った行動に対して、「寂しい思いをさせているのでは…」などと、親自身が自己嫌悪に陥ることもあるでしょう。そんな状態が長く続くと、次第に親の思いに応えてくれない子ども(主に上の子)が悪いと思うようになってしまうのです。

③単純に小さい子はかわいい

…人間だけでなく、動物一般の赤ちゃんには、独特のかわいらしさがあります。おでこが広く、頭でっかちで、目の縦幅が大きく、手足が短い……。大人は、そういった赤ちゃん特有のかわいらしさに魅せられてしまうため、赤ちゃん=下の子がかわいいと思う傾向があるのです。

今の感情を、下の子が生まれることによって、自然に芽生えてくる、しかたがないものとして、まずはママパパ自身が理解することが大切なのです。

まじめな人ほど見直してみて! ~考え方改革~

まずは、子育てに対する考え方や方法を少し見直す必要があるかもしれません。ネガティブな感情に振り回されそうなときには、以下の5つのことを一度確認してみてください。

①親と子どもにも“相性”がある

親だから絶対「子どもはかわいいと思わなくてはいけない」と思っていませんか。
遺伝的には半分自分を受け継いでいますが、もって生まれた個性はそれぞれ違うもの。親の個性と子どもの個性、「相性のいい・悪い」が当然あります。人間だからこそ、どんな子どもでも同じように接するのは、難しいと思っていいのです。
かわいい、という気持ちは時と場合によっても強弱があります。いつも「強く」思っている必要はありません。

② シグナルが「出たら」応じる 

子どものために「あれもしてあげたい、これもしなければ」と思い過ぎていませんか。
子どもがかわいいと思う気持ちに強弱はあっても、発達を支える親の立場として、子どものシグナルには応じる必要があります。シグナルは、たいてい子どもがストレスなどをためていて、かまってほしいときに発せられるもの。ただ、シグナルと聞くとどうしても「子どもの気持ちを的確に読み取って、素早い応答をする」という俊敏な対応ばかりが重要視されがちです。しかし、親がそのことに必死になると、子どもへの過干渉や先回りした行動・言動につながり、何より親自身が疲れてしまいます。

逆に、「シグナルを出してこないときには踏み込まない」ことをセットで覚えておきましょう。決して無関心でいるということではなく、子どもがひとりでいられることを尊重しつつ、「子どもがシグナルを出してきたときには応じよう」ぐらいの気持ちでいられるといいですね。

③親は“黒子”で“応援団”

「こうあるべき」という親の姿を見直してみませんか。
 のように、特に上の子に対して親は「手をかけられていない」という罪悪感もあって、「何か特別なことをしてあげたい」と思いがちです。でも、必ずしも子どもは一日中構ってもらいたいわけではないのです。まずは、陰で支える「黒子」の存在を思い浮かべてみてください。

例)
・「最近、ある特定のあそびにはまっているようだ」
→それに関連したおもちゃやグッズを、視界に入る場所にそっと置いておく。

・「いつも動き回っている場所で、よく机の角にぶつかっているようだ」
→子どもの動線を観察して、家具の配置を変えておく。

といった具合です。
そして同時に、「応援団」でいることも大切です。

子どもは「これ見てて」ということがよくあります。ただ、「見ていて」ということに対して、じっと「見てあげる」。これが子どもにとっての応援になるのです。見るだけなら、そんなに大変なことではないですよね。自分が何かするときに、親が少し離れたところから見ていてくれる、応援してくれるという気持ちを子ども自身がもてること。子どもの発達には、このような気持ちを育てることがとても重要なのです。

④子育ての体制を整える

親だから、「私がこの子をなんとかしなければ」と思いこんでいませんか。
ワンオペなど、さまざまな事情もあるでしょう。でも、育児を一人ですべて行おうと思わず、いろいろな人に助けを求めてください。決して恥ずかしいことではありません。家族の力を借りる、行政の力を借りるなど、できる限りの育児体制を作る=周りに援助要請をしていくことで、親自身が余裕をもって子どもと接することができます。すべてを一人で乗り切れるだけがいい親ではなく、困ったときにさまざまな人や機関に助けを求められるのもいい親だと思います。

子どもは複数の大人に囲まれて育っていくことも大切です。その中に、相性の合う大人がいるかもしれない。子どもと相性が合わないと感じながらも「親が与えるものだけで子どもが育っていく」と考えてしまうのは、親の思い上がりかもしれません。

⑤今だけにとらわれない

今の大変な状況やつらい気持ちが、ずっと続くと思っていませんか。
上の子、下の子それぞれの対応に追われている今は、とても大変だと思います。でも、この状態がずっと続くわけではないのです。上の子が一時的に「かわいくない」と思えてしまい、親子関係に悩むことがあっても、その子が児童期、青年期と自立して独り立ちしていくにつれて、対等なコミュニケーションがとれるようになり、関係が修復されることも少なくありません。

きょうだいを育てるなかで、今がちょうど悩む時期にあたっているだけです。これから先、修復できる機会はたくさんあります。大変な「今」にとらわれてしまうこと、その時期が長く感じて、一人で向き合あうしかないと思ってしまう気持ちもわかります。でも、親のつらい状態が続くことが一番、子どもの健やかな成長や発達にマイナスに働いてしまうことを忘れないでください。

下の子が成長する、上の子がもっと大人になる。少し時間が経ったら、成熟した子どもたちを見ることができて、きょうだいの関係を楽しめるようになるはずです。

こんなときどうする!? 上の子&下の子対処例

<上の子と下の子が同時にぐずってしまったとき>

同時に困った状態になることがありますよね。置かれている状況にもよりますが、子どもの発達面を考えると、下の子のシグナルに対してまずは答えることを優先してよいでしょう。

なぜなら上の子は、下の子が生まれるまでは何よりも優先される経験をしてきたはず。歳の近い上の子であっても、それを経験したからこそ、少しずつ心がたくましくなっている状態なのです。セルフコントロールを身に付けようとしはじめている上の子に対しては、「ちょっと待っててね(ごめんね)」と声をかけて、下の子が落ち着いてきてから対応しましょう。

<上の子が、今までできていたことをできなくなったとき>

赤ちゃんがえりなどもあって、今までできていたことを失敗してしまうことも増えてくるでしょう。「どうしてできないの!」と思わず怒ってしまい自己嫌悪……。声のトーンや表情、声かけのしかたなどには配慮が必要ですが、上の子に対して「期待する」こと自体は、間違いではありません。

失敗や困った行動、発言を否定的にとらえるのではなく、「ちょっとさみしかったよね」と気持ちに共感し、受け止めましょう。そのうえで、「お母さんも大変だから助けて」というように、素直に親の気持ちとしてお願いしてみることも大切です。

特に歳の離れた上の子の場合は、「下の子と同じように構ってほしい」というよりは、「自分への気持ちも忘れてないよね」という、自分に対する親の思いを確かめたいという気持ちがあります。「わかる、わかるよ」といった言葉を一言添えて、その気持ちに応えてあげれば、十分親の思いも受け入れてくれるでしょう。

<上の子の感情が爆発したとき>

上の子が未就学児の場合は、すぐに欲求に応えられないと感情が爆発してしまうことも。自分の気持ちを整理することが少しずつでき始めているとはいえ、まだまだコントロールするのは難しい年齢です。可能であれば、家族の手を借りて役割を分担するようにしましょう。

感情が爆発したあとは、子どもと二人きりになれる機会を早めにつくります。例えば、下の子が寝ているときに、上の子がママパパを独り占めできる時間を実感させてあげるのです。

そのときは上の子だけに視線、表情、言葉を向けましょう。特に2~3歳ぐらいの子の場合は、人からどう見られるか、自分の行動に対して「恥ずかしい」「誇らしい」「悪かった」といった感情を次々に持ち始めるときです。

そうした発達のなかでも「誇らしい」という感情に目を向けてみてください。下の子に手がかかっている最中に何かをお手伝いしてくれたときなど、その気持ちや行動を「褒める」=「誇らしい」気持ちに訴えかけると、ママやパパが見てくれている、忘れられていない、と感じさせられることができます。

悩んでいるママパパへ
~実は「完ぺきでない関係」が親子の理想~

子どもが健やかに、たくましく育つためには、親との「ほどほどの関係」「完ぺきではない関係」が大切だと発達心理学ではいわれています。親は、完ぺきにやりたい、そうありたいと思うものなのですが、実は親が完ぺきであることは子どもの発達にはマイナスに働いてしまうことが多いのです。

子どもは完ぺきなことばかりをされてしまうと、すごく窮屈になり、自分でシグナルを発信する機会を奪ってしまうことになります。例えば、親が下の子を見ていて、上の子がやってほしいことをやってもらえないという場合。確かに上の子はストレスを経験します。面白くないですよね。でも子どもだって、ずっとそんな状況でい続けたいと思う子はいないのです。子ども自身が「なんとかしなきゃ」と思う。そして、自分の感情を自分で立て直そうとする、この過程が重要なのです。

ストレスのかかった状態から抜け出したい子どもが、自分からシグナルを出す。
→親はシグナルを発されたときに対応する。

これでいいのです。上の子がストレスを感じてしまいそうと心配するあまりに、前もって親が先回りする、シグナルを発信してこないときにも踏み込む、といったことをする必要はないのです。もしも、シグナルに気付けなかったら? 子どもはもっともっと自分で発信しようとするはずです。

何かやってあげるということ以上に、ママパパには大切にしてほしいことがあります。それは、親の存在が「安全な避難所」であり「安心の基地」であること。子どもが怖くなったり、困ったりしてシグナルを発したときに、崩れた感情を元通りに立て直してあげられる、安心感を与えてあげられる「避難所」。そこで元気になったら、ただ留めておくだけではなく、子どもが探索や冒険など、いろいろなことにチャレンジできるよう、背中を押してあげられる「基地」。

親がこの「避難所」と「基地」の二つの役割であることを、子どもに感じさせることができたら、子どもはとても安定します。あれこれ手をかけずとも、「避難所」と「基地」であり続けることが、上の子、下の子に問わず、幼少期の子どもの発達を支え、成長を促すことができるのです。

この記事の監修・執筆者

東京大学大学院 教育学研究科 教授 遠藤 利彦

1962年生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得後退学。博士(心理学)。発達保育実践政策学センターセンター長。主な著書に、『乳幼児のこころ』(有斐閣)、『よくわかる情動発達』(ミネルヴァ書房)、『赤ちゃんの発達とアタッチメント:乳児保育で大切にしたいこと』(ひとなる書房)など多数。NHKEテレ『すくすく子育て』のコメンテーターとしてもおなじみ。

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