子どもが成長するにつれて、親子関係がぎくしゃくしたり、意思疎通がうまくいかないと感じたりすることはありませんか? また、スマホの使い方を始め、家族で決めたはずのルールが守られなくなることも……。
このようなことが生じるのはもしかすると、保護者の方が無意識のうちに、お子さんの心の境界線「バウンダリー」を侵害してしまっているからかもしれません。精神保健福祉士でスクールソーシャルワーカーの鴻巣麻里香さんに、思春期に差しかかったお子さんと保護者の方が、お互い気持ちよく過ごすための関係性や言葉がけについて聞きました。
取材・文/松田明子
「バウンダリー」って何?

「バウンダリー」とは「境界線」を意味する言葉で、「自他境界線」という意味合いで使われることが一般的です。「自他境界線」とは、「自分」と「自分以外」との間にある見えない境界線のこと。そして、「私は私だしあなたはあなたで、価値観や考え方、物事のとらえ方が違っている。それぞれが違っていて、それでいい」という考え方の軸となるものです。
ただ、「あなたはあなたで、私は私なんだから違っているままでいい」というように、バウンダリーを「隔てるもの」としてとらえ、「対話の必要性はない」と考えることとは違います。「互いを理解し合うために、まずは“違っていること”を共有しましょう」という考え方です。
鴻巣さんは、バウンダリーを「目に見えない心の皮膚」とたとえます。皮膚は、触れたものの温かさや冷たさ、硬さ・柔らかさなどを感じると同時に、外からやってくる刺激から体を守ってくれるものでもあります。つまり、「心の皮膚」としてのバウンダリーは、他者の感じ方・考え方を知る上での接面(せつめん)となり、互いの理解を助け、つながる手段となると同時に、自分を傷つける言葉や考え方から心身を守る役割もあるのです。
親子関係で「バウンダリー」が大切な理由は?

他者どうしの間だけでなく、親子関係にとっても、「バウンダリー」は大切です。なぜなら、子どもは基本的に大人の庇護がないと生きていけないため、保護者は明らかに子どもよりも強い立場にあるからです。つまり、赤ちゃんのときから子どもを守り育ててきた親と、育てられてきた子との関係においては、親のほうがどうしても主導権を握りがちになります。
保護者は子どもを「その子らしく養育する」という責任を負ってはいますが、その立場上、大人が子どもに与える影響はどうしても強くなります。そのため、保護者が子どもに何かを期待したり要求したりする場合、例えばそれを子ども自身が「嫌だな」と感じていたとしても、受け入れてしまうこと起こり得ます。子どもも、大人がいなければ自分は暮らしていけないことを察知しているからです。だからこそ、親の側が「この子と自分とは違う存在(人間)である」ということをきちんと認識し、「バウンダリーを引く」ことが大切なのです。
誰しも子どもに「こうなってほしい」と大なり小なり期待してしまうものですが、時には立ち止まり、「でも、それはこの子が望んだことではないかもしれない」と考える「線引き」も大事にしなければならないのです。
言葉がけのバウンダリー侵害チェック
保護者としてよかれと思った言葉がけが、実はバウンダリー侵害にあたってしまう場合もあります。日頃、子どもに言ってしまいがちな言葉をピックアップしました。
「あなたのために言っているんだよ」…本当にその子のため? 保護者の方自身の不安を解消するためや、周囲からの評価を気にしての言葉になっていませんか?
「女の子(男の子)なんだから、○○できないと」…その子らしさではなく、その子の「性別らしさ」で言っていませんか?
「自分で決めたんだから最後までやりなさい」…「自分で決めた」ことを、「自分で決めてやめる」ことも、その子の権利です。
「ママ(パパ)には何でも話してね」…思春期に差しかかると、「親に言いたくないこと」が出てくる子も増えてきます。子ども自身に危害が及ぶことが気がかりな場合は、無理に聞き出すのではなく、「心配だよ」と伝えるなど、まずは子どもの気持ちを尊重しましょう。
「バウンダリー」が揺らいだまま成長すると?

子ども時代にバウンダリーを侵害されながら育つと、大人になってからも自分と他者との間の境界線が曖昧になりがちです。
中でも一番の懸念は、加害的な相手から身を守れなくなってしまうことです。「私の心と体は私のもの」という意識が十分に育っていなければ、自分を傷つける発言・行動をとるような相手と相対したときに線を引くことができず、「嫌だ」と言えなくなってしまうことも起こりえます。つまり、いわゆるハラスメントやDV、そして性的に望まないことをされそうになったときなどに、NOと言えなくなってしまうということです。
また、反対のパターンもありえます。「私」が大事にされていなければ、「あなた」である他者を大事にする気持ちも育ちません。力を持つ側に立ったときには、相手のバウンダリーを侵害し、加害者になってしまうこともありえるのです。
スマホルールを決めるときも「バウンダリー」を意識する!

家族間でルールを決めるときにも、「バウンダリー(境界線)」を意識することが大切です。スマホの使い方は子どもと衝突が起きやすいテーマですが、ポイントは「スマホを買い与えた親の責任」と「子どもが意見を表明する権利」を分けることです。
まずは子どもに「なぜスマホを持ちたいのか」という気持ちを言語化してもらい、共有します。保護者は子どもの気持ちや意見を汲みながら、リスクや心配を伝えます。そのうえで一緒に使い方を考えることで、両者が納得して守れるルールになります。
そもそもスマホを持たせる? 持たせない?
スマホをねだるときに、「みんな持ってるから」と言うお子さんは多いはず。けれども、まずは「みんなはみんな、あなたはあなただから」と線を引くことが大切です。そのうえで、「スマホを持ちたい」というお子さんの気持ちの奥にある感情を一緒に深掘りしてみましょう。例えば、仲間に入れない疎外感や不安といった感情が出てくるかもしれません。それを「いい」「悪い」とジャッジするのではなく、「とにかくスマホが欲しい。スマホがあれば大丈夫」という気持ちの奥にあるものを理解し、親子で分かち合うことが大切です。
保護者は「スマホがないからと仲間外れにするような子とは付き合わなくてよろしい」などと言いがちですが、「誰とどんなふうに付き合うのか」ということも、子どもが決めることです。子どもが友人関係を続けるうえでスマホというツールがより円滑なコミュニケーションの手助けになるのであれば、一概に否定しなくてもよいでしょう。
そして、もしそこで「スマホを持たせる」と決めたのであれば、その選択をしたのは保護者の方自身です。子どもだけでスマホを契約することはできないからです。その後トラブルが起きた場合も、前提として「買い与えた親の責任」があることも意識しておきましょう。
子どもと話し合いたいスマホ利用のルール例
そういった話し合いを元に「スマホを持たせる」という選択をしたのであれば、今度は保護者の方の懸念点と、スマホにまつわるリスクを子どもに話し、理解してもらう必要があります。
リスクを前提としたうえで、子どもの希望と不安、そして親の希望と懸念を同じテーブルの上に並べ、「最善のルールって何だろう?」と考えていくのです。お互いの同意を取りながら、一つ一つのルールを作るために、1~2時間ほど話し合いの時間を取るのもよいことです。
そして、ルールを決めるうえで、保護者の方自身もスマホのリスクについてきちんと理解し、しっかりと説明をする言葉を持っているかどうかも重要です。参考にしたいルールの例を紹介します。
ルール例① 睡眠時間の確保は必須!
睡眠は子どもの健康や成長において欠かせないもの。子どもが健康に成長するための環境を整えることは、保護者の義務でもあります。一定の睡眠時間を確保するため、「夜の9~10時以降はスマホを使わない」などのルールは必要だといえるでしょう。
ルール例② 個人情報を守る
SNSを利用することで個人情報が漏れてしまう恐れがあるため、個人の特定につながる情報は公開しないことが望ましいでしょう。また、特に未成年者はSNSだけでつながっている人とは、個人的なやり取りはしないようにしましょう。現実にSNS上には、子どもを狙ってよくないことを考えている人が一定数いますし、「なりすまし」の可能性もあるからです。
ルール例③ 子どもを傷つけるコンテンツにはアクセスしない
例えば性的なコンテンツなど、インターネット上には子どもに悪影響を及ぼすような情報もあふれています。そのため、ある程度の年齢まではペアレンタルコントロールが必要になります。
ルール例④ 課金はしない
子どもはまだ自ら生活費を稼ぐ手段を持っていません。そこで、保護者としては、基本的な使用料以上のお金は払わず、「課金はしない」と決めることも一つの方法です。例えば、自分のアルバイト代でスマホ代が払えるようになったら自分で課金しても構わないと伝えてみるのはいかがでしょうか。
このほか子どもに話しておきたい主なリスク
・いつも誰かとつながっていることで一人の時間が奪われがちになる(家での趣味や読書などの時間が減ることにつながる)
・「会話についていかなければ」と常にスマホが気になってしまう場合もある
・SNSのグループチャットなどに入ったからといって仲間外れが起きないわけではない
ルール違反時の「罰則」は慎重に
鴻巣さんは、「ルール違反時に罰則を設ける」ことについては反対だといいます。家庭によっては、「ルールを破ったら一週間スマホを没収」など、罰則を設けていることもあるそうです。ですが、「エラーを起こしたら罰がある」場合、「ルール違反を隠す」ことの動機づけになりがち。罰を受けたくないから保護者に黙っている、という流れになることも起こり得るのです。
それよりも、「もしルールを破ってしまったり、トラブルに巻き込まれたりした場合は、このルールが果たして最善なのかどうかをもう一度話し合いましょう」などと言うに留めておくことがベター。最初に決めたルールを「絶対」ととらえず、都度話し合い、更新しながら運用していくことが大切です。
SNSでトラブルが起きたら?
保護者の方としては、子どもがSNSでのやりとりの中でいじめに遭ってしまったり、トラブルに巻き込まれてしまったりすることも心配になります。まずは日頃から、「トラブルが起きて苦しいときは必ず相談するように。そして一緒に解決しようね」と伝えておきましょう。
ちなみに、子どもの通信の中身を本人の同意なく見ることは、プライバシーの侵害にあたるため、基本的にはNGです。必要な際は、必ず本人の許可を取ってからにしましょう。
そして、いざ何かトラブルが起こったときに子どもから「助けて」というメッセージが出なかった場合は、子どもを責めるのではなく、まずはSOSが出せる関係が子どもとの間に構築されていなかったという可能性を受け入れましょう。子どもが自分一人で何とかしようとしたのは、子どもの中に「言ったら怒られるに違いない」「言っても助けてもらえないに違いない」などの思いがあったからかもしれません。「どうして言わなかったの?」と、子どもを問い詰める前に、保護者自身が「どうしてだろう?」と自分に問いかけてみることが大切です。
「バウンダリー」は親子で育てていくもの

子どもに「どうしたいの?」と聞いても、「別に」としか返ってこないときもあるでしょう。そうすると、保護者としては焦ってしまいがちです。「早く答えが欲しい」「何か秘密があるんじゃないか」などと考えてしまうこともあるかもしれません。
実は、「バウンダリー」は、人間に生まれながらに備わっているものではありません。周囲が育ててあげるものなのです。例えば、幼い頃から、持ち物一つに対しても「これはどう?」「これは気に入っている?」などと、子どもの意思を丁寧に確認していくと、子どもの側にも「嫌なことをされたらNOと言っていいんだ」という安心感が芽生えます。すると小学生になる頃には、保護者に対しても「これはしてもらってうれしいけど、ここから先はやめて」と言えるようになり、きちんと線引きをして対話ができるようになるのです。
「あなたはどうしたいの?」と聞かれることなく、意見表明の機会を奪われ続けると、子どもには他者にNOと言ったり自分の意見を伝えたりする力が育ちません。そして、大人から「こうしなさい」と言われると「どうして?」とも聞けず、モヤモヤした気持ちを抱えたまま、「わかった」と受け入れてしまう。けれども結局苦痛になって、陰でこっそりルールを破ってしまう……、という負のループに陥ってしまうこともあるのです。
でももちろん、子どもがある程度大きくなってからでも遅すぎることはありません。子どもに意見を求めた際に、「何もないの?」「じゃあ決めていいのね」ではなく、「まだ今は言えない感じなんだね。わかったよ。また後で聞くからちょっと考えておいてくれるかな?」とクッションを入れて、時間を空けながらたびたび聞いてみることが大切です。「さっきの件だけど、どう?」「何かわからないことや、確認したいことがあったら聞いてね」などと、根気よく繰り返し確認していきます。すると子どものほうも「ちゃんと聞こうとしてくれているんだ」と感じるようになり、徐々に意思表示ができるようになってくるのです。
実は私たち大人も、世代的に、子どもの頃に意見を聞かれてこなかった人が多いのではないでしょうか。そして、意見を言う力があまり育たないまま、大人になってしまいました。意見を言う力がないということは、聞く力も育っていないということ。自分が聞かれ慣れてないので、子どもに「聞く」ことも得意ではないのです。ですから、保護者の方自身も、実は「練習」が必要なのです。
まずはお子さんと一緒に、「バウンダリーを引く」練習に取り組んでいきましょう。
この記事の監修・執筆者
KAKECOMI代表、精神保健福祉士、スクールソーシャルワーカー。子ども時代には外国にルーツがあることを理由に差別やいじめを経験する。ソーシャルワーカーとして精神科医療機関に勤務し、東日本大震災の被災者・避難者支援を経て、2015年に非営利団体KAKECOMIを立ち上げ、こども食堂とシェアハウス(シェルター)を運営している。著書に『思春期のしんどさってなんだろう?――あなたと考えたいあなたを苦しめる社会の問題』(平凡社)、『わたしはわたし。あなたじゃない。――10代の心を守る境界線「バウンダリー」の引き方』(リトル・モア)、『自他の境界線を育てる ――「私」を守るバウンダリー』(筑摩書房)など。
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