小学生も中~高学年にさしかかると、サンタクロースの「正体」に気づき始める子どもが多くなってきます。
お子さんが「サンタについて何か勘づいているかも」と感じたときや、「サンタさんって本当にいるの?」と聞かれたとき、反応に困る保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。大人としてどのように受け止め、対応するのがよりよいのか、乳幼児心理学が専門の富田昌平先生にお聞きしました。
取材・文/松田明子
子どもは何歳くらいまでサンタを信じている?

「子どもたちが何歳頃までサンタクロースを信じているのか」について、富田先生は、これまで子どもに直接インタビューしたり、大学生に子ども時代を振り返ってもらったりすることで、調査を重ねてきたそうです。「サンタクロースを信じているかどうか」は、子どもの年齢に応じた認知発達にも、大きな関係性があるといいます。
小学3年生くらいが分かれ目
「サンタクロースを信じているかどうか」は、基本的に8~10歳(小学3~4年生)が大きな節目とされています。
富田先生が行う調査では、「サンタクロースに会ったことがある?」「会えると思う?」など、サンタクロースに対してどんな認識を持っているかを、間接的に尋ねるそうです。すると、未就学児~小学1年生くらいまでの子どもであれば、30名に聞いたらほぼ全員が、サンタの存在を肯定するといいます。
けれども小学3年生くらいになると、割合としては1クラスの4割ほどの子どもが、「本当はいないと思う」と答えるそうです。そして、3割の子どもは半信半疑、残りの3割がしっかり信じているという印象だそう。
大学生に自分の子ども時代をふり返ってもらった場合も、似たような割合だといいます。また、アメリカを中心とした海外の研究でも、「7~8歳が節目」といわれることが多いそうです。
物事を客観的にとらえられるようになった証
子どもは小学2年生頃までは、主観的な考え方が強い時期です。「自分が欲しかったプレゼントがもらえたから、サンタクロースはいるはず」「プレゼントを届けにきてくれた人影を見たような気がする」などといった主観から、サンタクロースの存在を信じているのです。
一方、小学3年生頃からは、主観から一歩引いて、物事を客観的・論理的に捉え、批判的な精神が持てるようになります。「サンタさんって、一人で世界中を飛び回っているのかな?」「ひと晩だけで、プレゼントを配り終えられるのかな?」「見た目は普通の人間みたいなのに、そんなことできるわけがない」「本当はいないんじゃないの?」というように、サンタクロースそのものについて疑問を持ち始め、「どうもおかしい」と考えることができるようになるのです。
とはいえ、「サンタクロースを何歳まで信じているか」という点では、個人的な経験によるところも非常に大きいといえます。個々の家庭や身近な環境の中で、大人が子どもに対して、サンタクロースが信じられるような「経験」を多くさせているのかどうかでも、大きな差が出てくるそうです。
「サンタクロースっているの?」と聞かれたら

それでは、実際に子どもから「サンタクロースっているの?」と聞かれた場合、大人はどのような対応をすればよいのでしょうか。
大人からの「ネタばらし」はNG!
最も適切な反応は、「とぼける」ことです。なぜなら、サンタクロースを信じる、つまり「目に見えない空想的なものを信じる」ことは、個人の内面にも関係する、ナイーブな問題でもあるからです。
大人がうっかり、「そうそう、いないんだよね。あれ、実はお父さんだったんだ」などと白状してしまうと、子どもが半信半疑だった、つまりまだ半分は信じていた場合、信じようとしていた思いが大人の答えによって踏みにじられる、という経験になってしまいます。それは、大人に対して不信感や寂しさを抱く原因にもなってしまいます。
富田先生の調査事例でも、子どもが高学年くらいになったからと大人があっさり白状したり、「もう信じてないよね」と大人が勝手に決めつけて、翌年からおもちゃ屋さんでプレゼントを選ぶようになったりしたという経験は、少しショッキングな思い出として語られることが多いといいます。
大人が子どもの思いを顧みず、先回りして答えを与えることは、子どもが想像力・推理力を働かせて「自ら答えを見つけ出す」という機会を奪ってしまうことにもなります。心の成長という面から見ても、子ども自身が「いろいろなことを照らし合わせ、考え抜いて、自分自身で納得できる答えを手に入れる」というプロセスそのものが大事なのです。
「答え」は子ども自身で見つけてもらう
それでは、子どもが勘づき始めたタイミングに、保護者の方はどのような態度で臨めばよいのでしょうか。例えば、「サンタクロースって、本当はいないんでしょ?」と聞かれた場合、まずは「お父さん(お母さん)は、いるんじゃないかと思うけど」などと答え、サンタの存在を否定するような発言は控えましょう。さらに、「サンタがいないっていう話はどこで聞いたの?」「どうしていないと思うの?」などと、親子で対話を重ねていきましょう。
子どもには、なんだかんだで「サンタがいるといいな」という憧れや願いがありますから、保護者とのやりとりの中で少しずつ、子ども自ら答えを見つけていく場合もあります。「サンタさんは一人じゃなくて複数人いるんじゃないか」「実は未来から来た人なんじゃないか」などと、自分なりの答えを見出していくのです。
大人がその考えを尊重し、「なるほど、そうかもしれないね」「それはいい考えだね」などと認めてあげることで、子どもは自分で出した答えに、うれしさや誇らしさを感じます。このように、サンタクロースの存在を、親子の対話のチャンスとしてとらえることもできます。
サンタクロースからのプレゼントはいつまでにするべき?

それでは、サンタクロースからのプレゼントは、どれくらいの年齢までにするべきなのでしょうか。基本的には子どもが信じている限り、家庭の事情が許せば、中学生以降も「サンタさんから」としてプレゼントをあげ続けてよいでしょう。
ただし悩ましいのが、子どもの成長に従って、欲しいプレゼントの額が高額化しやすいこと。金額に対する明確な答えはありませんが、基本的に親子のやりとりの中で解決策を見出していくことが大切です。
例えば、「サンタさんなら何でもくれる」ではなく、「サンタさんは子どもたち全員にプレゼントを配るから、一人ひとりにそんなに高価なプレゼントはあげられないんじゃないかな」など、納得できる答えを親子で探していくのもよいでしょう。必要であれば、「サンタさんがくれるプレゼントは○○円まで」など、より具体的なルールをつくり、子どもとの会話の中などで、何気なく共有していくことも一案です。
サンタクロースの存在が子どもの心に与える影響

それでは、「サンタクロースを信じること」は、子どもの心にどのような影響をもたらすのでしょうか。
まずは単純に、「楽しい」ということ。「サンタクロース」という不思議な存在のために、年に1回、いろいろと準備をしながらワクワク感を家庭内で共有していくことは、子どもにとって大きな楽しみとなるはずです。そういったポジティブな感情が感じられる経験は、心の成長にもよい影響をもたらします。特に、特定の宗教を持たないことも多い日本人にとって、神秘的かつサプライズな存在であるサンタクロースを「信じる」中で感じる喜び・楽しさは、ほかには代えがたい経験ではないでしょうか。
また、子どもにとっては、サンタクロースが「自分のことをいつも見守ってくれている存在」だということも忘れてはなりません。サンタクロースは、自分がほしいと思っていたものを届けてくれる、不思議な存在です。実は親がうまく探りを入れて用意しているわけですが、子どもは「サンタさんって、自分のことをいつも見守ってくれているんだな。だから、欲しいものを知っているんだな」と感じるものなのです。自分を見守ってくれている存在がいるということは、世界に対する信頼感や安心感につながります。
「いい子にしないとサンタが来ないよ」はOK?
サンタクロースは本来、とてもポジティブな存在です。「いい子にしないとサンタが来ないよ」という言葉かけは、お子さんが聞き分けのないときなどにしてしまいがちですが、それでは「誰がいい子で誰が悪い子か」をジャッジする「審判」のようなサンタクロース像を描かせてしまいます。
もし、サンタクロースを引き合いに出してお子さんをいさめようとするなら、例えば、「サンタさんは、いい子にプレゼントをあげるほうが、うれしい気持ちになるんじゃないかな?」などと、なるべく「審判」のイメージを抱かせないようにしましょう。
子どもの心に丁寧によりそうことが大切

サンタクロースを信じていたお子さんも、成長する過程でいずれ真実を知るときが来ます。けれども、保護者の方が自分のためにサプライズな瞬間をつくろうとしてくれたという事実は、大人になってからも温かな思い出として、心に残り続けます。
もし、お子さんがサンタクロースの存在を疑い始めたようであれば、まずはその考えを聞き、丁寧に対話を重ねていきましょう。そして、その子なりの答えを、自分自身で手に入れていく経験をサポートしてあげてください。
この記事の監修・執筆者
三重大学教育学部教授。広島大学大学院教育学研究科単位取得満期退学。博士(学校教育学)。専門分野は、子どもの想像力とファンタジーの発達に関する研究、子どもの遊びと指導・援助に関する研究など。著書に『幼年期における空想世界に対する認識の発達』(風間書房)、『子どもとつくる2歳児保育』(ひとなる書房)などがある。
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