捨てる記憶力と一生役立つ記憶力、どちらを育てる?【脳研究者監修】(前半)

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お子さんとのお約束や頼み事、お勉強や習い事など、いろいろな場面で意識してしまうお子さんの「記憶力」。
「うちの子、ことばの丸暗記は得意だけれど、意味はあまり覚えていないみたい…」
「小学校入学後、授業で新しいことを覚えていけるか心配…」
お子さんの記憶についてそんなふうに感じていても、どうしていいか分からないというかたも多いのではないでしょうか?

そんなママパパに向け、子どもの記憶や記憶力アップの方法について、脳研究の第一人者で東京大学教授の池谷裕二先生にお伺いしました。前半・後半の2回に分けてお届けします。

お話/池谷裕二(脳研究者・東京大学教授)

目次

写真を撮ったような丸暗記の力は捨ててしまう⁉

幼い子どもが、大人は記憶にもないようなことを細かく覚えていて、驚いたことはありませんか? それは、見たものを写真のようにそのまま覚える「画像記憶」の力が発達しているからです。

この能力は、練習すればたいていの場合伸ばすことができます。例えば、カードにかかれた点の数を瞬時に答える「ドッツカード」は、その最たるものといえるでしょう。小学校入試で出題される記憶問題の多くも、画像記憶の力を使うので、練習すれば次第に解けるようになっていきます。

でも、画像記憶の力は、じつは成長にともなって捨ててしまう能力です。見たものをそのまま覚える画像記憶は、脳にとって楽なぶん、柔軟性がなく邪魔な記憶でもあるのです。

大人の記憶は、頭の中で自由にイメージできる

画像記憶を捨ててしまうのなら、成長するとどのように記憶するようになるのでしょうか?

私たち人間の脳は、成長とともに、だんだん高度な記憶ができるようになっていきます。単純に見たものだけをそのまま覚える記憶から、次第に頭の中で自由にイメージをふくらませていくような、「柔軟」で「あいまい」な記憶へと変わります。

例えば、知り合いが髪型を変えたからといって、誰だかわからなくなるということはありませんよね? それは、あの人はこんな感じの顔で、こんな感じの服装をよくしていて、こういう歩き方をするというような、あいまいなイメージとして記憶しているからです。
顔や髪型、体形などを細部まで詳細に覚えるのではなく、少々髪型が変わっても、きちんと認識できるような柔軟な記憶のしかたをしているのです。

ほかにも、いろんな種類のフォントの文字を見ても、同じ文字だと認識できるのも、あいまいで柔軟な記憶が関係しています。

「柔軟な記憶」の2つのメリット

① 覚えやすく、思い出しやすい

「柔軟な記憶」のメリットの1つ目は、覚えやすく思い出しやすいことです。
例えば、慣用句を覚えるとき、「目を皿のようにする」と文字列だけ覚えるより、目を丸く見開いて何かを探している様子をイメージしたほうが、意味がわかりやすく覚えやすいですよね。

見た文字列だけをそのまま覚えるのではなく、イメージで覚えたほうが、意味や内容も覚えやすく、思い出しやすいのです。

② 多くのことを効率よく覚えられる

「柔軟な記憶」は、見たものの細部までを覚えはしません。
すでにある知識との共通点や相違点を見つけることで、新しく覚える量が少なくて済むからです。1つのことを覚えるために、毎回1から10まで新しく覚えなくてもよいので、結果的に効率よく新しいことを学べます。

幼いお子さんが得意とする画像記憶は、一見とても記憶力がよいように思えますが、成長にともなって、その力だけに頼ることはできなくなっていきます。
文字や絵は、あくまで頭の中のイメージを表現する手段。そこにとらわれず、自由にイメージできる記憶を大事にすることは、お子さんの学ぶ力へつながり、将来の自由な思考力の土台となります。お子さんのこれからの生活や、小学校以降のお勉強にも役立つ記憶力を、今から育てていけるとよいですね。

子どもの記憶力を伸ばすのにおすすめのワーク

内容や意味も一緒に覚えやすく、思い出しやすい記憶として、池谷先生が教えてくれた「柔軟な記憶」。その練習にぴったりなのが、池谷先生監修の「きおくのれんしゅうちょう」です。

『3~4歳/4~6歳 学習・記憶のコアを育てる きおくのれんしゅうちょう』

「3~4歳 きおくのれんしゅうちょう」


「4~6歳 きおくのれんしゅうちょう」

イメージする力や共通点を探す力など、「柔軟な記憶」に必要な力を養ったあとは、だじゃれや慣用句を、言葉のイメージで覚える練習をします。

『4~6歳 学習・記憶のコアを育てる きおくのれんしゅうちょう』

お子さんと一緒にイラストを見ながら、自由に想像を膨らませて、楽しく取り組んでみてください♪ おうちのかたの記憶力も鍛えられますよ!

後半では、「柔軟な記憶力」の伸ばしかたや、学力に直結する記憶力について紹介します。

この記事の監修・執筆者

脳研究者・東京大学教授 池谷裕二

日本における脳研究の第一人者。専門分野は神経生理学で、脳が脳自身をどのように成長させているかを調べている。また、2018年よりERATO脳AI融合プロジェクトの代表を務め、AIチップの脳移植によって新たな知能の開拓を目指している。『進化しすぎた脳』(講談社)、『記憶力を強くする』(講談社)、『海馬』(共著/新潮文庫)など、著書は多数。脳研究の最先端の知見を社会に還元することにも尽力している。

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