子どもの左利きをどう考えるべきか、『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)の著者である脳内科医・加藤俊徳先生のお話をご紹介します。
後編の今回は、左利きのお子さんが健やかに育つためにおうちのかたが知っておきたいことや、生活上のサポートのコツ、利き手だけでなく両手を使って脳を育てる方法などをご紹介します。左利きの人も右利きの人も、知っておいて損はありません!
文/遊文社(小林洋子)
左利きは、10人に1人のマイノリティ
右利きは体験しない「アウェー(敵地)」な状況で生きる左利き
わが子が左利きだと気づいたとき、ママパパが意識しておくべきことはあるのでしょうか。
日本では、左利きの人は人口のおよそ1割です。10人のうち9人は右利きという計算になるので、左利きの子どもは、多くの場合、友だちの中で自分だけが左利きという環境で暮らすことになります。ご自身も左利きである加藤俊徳先生は、左利きはまわりの人と違うことで、社会生活の中で違和感を覚えることが少なくないと指摘します。
「私も子ども時代から、まわりの人に『左利きなんだー』と、変わったものを見るような言い方をされることがありました。ちょうど、男子学生ばかりの中で学ぶ理系女子や、アウェー(敵地)でプレーするアスリートと同じようなものです。右利きが圧倒的多数の世の中で、左利きの子はまわりとの違いを意識することが多く、圧迫感や疎外感を経験しやすいものです。これは社会の中でマジョリティである右利きの人は、なかなか気づかないことです。」
矯正ではなく、利き手を選ぶという考え方
以前の日本社会では、マイノリティである左利きをマジョリティの右利きに合わせて矯正することが当然のように捉えられてきましたが、間違いを正すという意味合いの「矯正」という考え方自体をそろそろ見直したほうがいい、と加藤先生は主張します。
「左利きは、いうまでもなく一つの個性です。今は多様な個性が認められ、その人らしく生きることが尊重される時代です。子どもの左利きも、そのままでもいいですし右利きに変えてもいいと思いますが、子どもが生活に合わせて自分で『利き手を選ぶ』ことができるよう、まわりの大人が応援してあげてほしいと思います。」
左利きのままでも、大丈夫と伝えよう
左利きの子どもの成長は、大らかに見守ろう
左利きのお子さんをもつおうちのかたに具体的にしてほしいことを尋ねると、加藤先生は次のように教えてくださいました。
「まずは、左利きを特別視しないことです。親御さんが左利きを過度に心配したり、『早いうちに右利きに直さないと恥ずかしい』といった否定的な気持ちがあったりすると、お子さんも自分の個性に自信をもてなくなります。むしろ左利きであることをあまり気にせず、ほかの右利きのきょうだいや友達と分け隔てなく接しているほうが、お子さんは左利きにコンプレックスをもつことなく、のびのびと育つと思います。」
また、左利きの子どもは大器晩成型だと、加藤先生は言います。
左利きの子どもは、右利きの人と同じことをするときにも、左右の違いを比べながら、手の使い方を考えなければなりません。そのため同じ作業をするのにも時間がかかったり、右利きの人が楽にしていることも難しく思えたりすることがあります。しかし、その違いが、やがて左利きの強みにもなると加藤先生は強調します。
「たとえば、文字が上手に書けないときに、『みんなはうまく書けるのに、自分はなんで書けないんだろう』『どうすればうまく書けるかな』とずっと考えて、工夫をし、試行錯誤を繰り返すのが左利きの子どもです。生活のあらゆる場面で考えて工夫しなければならないという習慣が、左利きの独自の個性や豊かな発想を育てていきます。左利きと右利きとでは、脳の部位(脳番地)ごとの成長の時期が違うのです。親御さんは、左利きのわが子がまわりとは少し違っていても、急かしたりせずに『うちの子は10人に1人の天才かもしれない』と、成長を楽しみに見守ってあげてください。」
グッズはいろいろ。便利になっています
加藤先生は、文具や日用品などで、左利き用のグッズを用意してあげるのもいいと話します。
ハサミやカッターナイフなどの文具は、左利き用の製品がいろいろと市販されています。左利きの人が使いやすいように右から左へと目盛りが入った定規や、左利きの人が扱いやすい鉛筆削り、彫刻刀などもあります。包丁などの調理器具や、野球のグローブなどのスポーツ用品も左利き用がありますから、親子で探してみるとよいでしょう。
また、学校生活でも、学校で購入する文具の一部は左利き用が選べるなど、以前に比べれば、左利きの子どもへの配慮は広がっているようです。
「食事のときに右利きの子と並ぶとひじが当たるので、席の位置を工夫するとか、学校給食の配膳で使う右利き用のおたまをうまく使えるように家で練習するなど、生活の中でできるちょっとした対策を教えてあげると、スムーズに過ごせることが多くなると思います」と加藤先生。
利き手ではない手を使うと、脳が活性化!
利き手を変えるなら、生活の中で楽しく練習
左利きを右利きに変えるのであれば、左脳・右脳がバランスよく成長した10歳以降がよいといます(前編も参照)。では、小学校の高学年以降になってから、左利きを右利きに変えたいというときは、どうすればよいでしょうか。
加藤先生は、生活の中の手をよく使う行動で、右手を使うとよいとアドバイスします。
「毎日、歯を磨くときに歯ブラシを右手に持ってやってみてください。お風呂で体を洗うときもそうです。無意識に左手が出るところを、意識して右手に置き換えていくようにするとよいでしょう。照明などのスイッチを押す、テレビのリモコンを操作する、玄関の鍵を開け閉めするといったときにも右手を使うチャンスです。左手でできることと右手でできることを比べて、少しずつ右手でできることを増やしていくのがポイントです。」
利き手を使い分ける「両手利き」になろう!
加藤先生は、左利きを右利きに変えたい人だけでなく、右利きの人も、もっと左手を使って生活してみてほしいと話します。
「右利きの人は、ふだん使わない左手を使うことで注意力が高まり、世の中のいろいろなことに気づきが生まれます。また、左手を使うことでイメージや空間認知を司る右脳が刺激され、今までにない発想が生まれたりします。いつもとは違うことや不自由なやり方をあえてすることで、脳が活性化するのです。」
そして左利き・右利きという枠にとらわれず、「両手利き」を目指そうと語ります。
「もともと左利きの人でも、文字を書くのは左手で、スマホの操作は右手など、いろいろな手の使い方をしています。利き手以外の手もよく使うことで、表現の幅も広がります。たとえば絵を描くときも、利き手を使えば自由で力強い表現になりますし、利き手でないほうを使えば慎重で繊細なタッチになったりします。両手を使って脳を刺激することは、記憶力や認知機能にもよい影響を与えることがわかっています。左利きから意識して両手を使えるようにした私自身も、右手・左手の感覚の違いを生かし、目的に応じて使い分けています。」
手の使い方は、何歳からでも変えることができます。利き手だけでなく両手を意識して使い、左脳・右脳の両脳をたくましく育ててほしいと、加藤先生はエールを送ります。
この記事の監修・執筆者
小児科専門医。昭和大学客員教授。脳科学、ADHDの専門家。脳を機能別領域に分類した脳番地トレーニングや助詞強調音読法の提唱者。独自のMRI脳画像法を用いて、脳の成長段階を診断。脳番地のトレーニングの処方などを行う。近著に『1万人の脳画像を見てきた脳内科医が教える 発達凸凹子どもの見ている世界』(Gakken)など著書多数。加藤プラチナクリニック公式サイトhttps://nobanchi.com
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