【発達脳科学者監修】五感をじょうずに使うと子どもの育ちが豊かになる!

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視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。
子どもを育てるに当たって、「五感を使って遊ぶとよい」と聞いたことがある方がいらっしゃるかと思います。でも、なぜ五感を使うとよいのでしょうか?
五感を使うことと、子どもの育ちにはどのような関係があるのか、発達脳科学者で、小児科医でもある、成田奈緒子先生にお話をうかがいました。

お話/成田奈緒子(発達脳科学者・小児科医)

目次

1 五感は、言葉をもたない子どもにもダイレクトに脳に入る刺激

子どもの発達は、「脳の発達」と置き換えることもできます。

脳の発達には、五感を使った刺激が欠かせないため、保護者は、子どもが五感をじょうずに使えるようにサポートすることが大切なのです。

脳は、大事な中心部分から以下の順番に育っていきます。

(1)からだの脳=生きるための脳(脳幹部) 0~5歳

(2)おりこうさん脳=人間らしさの脳(大脳皮質・小脳) 1~18歳

(3)こころの脳=人間的な機能を有する(前頭葉) 10~18歳

(1)からだの脳(脳幹部)

「からだの脳」をさす「脳幹」と「大脳辺縁系」は、大小の差はあっても、ほとんどの動物がもっている「古い脳」です。呼吸や睡眠、食欲、姿勢の維持といった、生命を維持するための最低限の機能を担っています。主に0~5歳ごろに育ちます。

(2)おりこうさん脳(大脳皮質・小脳)

脳幹部を包み込むように発達している「大脳皮質」は、1~18歳ごろに育ちます。高度な知的活動や、細かい手指の動きを担うこの部分は、ほかの動物と比べても特に大きく、人間らしさのもとでもあります。

これと「小脳」を合わせた2つは「新しい脳」つまり「おりこうさん脳」です。

(3)こころの脳(前頭葉)

10~18歳ごろにかけて発達します。

完成した「からだの脳」と、「おりこうさん脳」を縦横無尽につなぎながら、自分で思考して考え、自分なりの論理をつくっていく機能を担います。

「おりこうさん脳」は、いわゆるお勉強やスポーツに関係する部分のため、ここを立派に育てたい保護者の方もいらっしゃるかと思います。

でも、「おりこうさん脳」がより大きく発達するためには、土台となる「からだの脳」の発達が不可欠です。

わかりやすく、脳を二階建ての家に例えると、「からだの脳」は家の一階部分、「おりこうさん脳」が二階、「こころの脳」は、一階と二階をつなげる階段のような役割をしています。

土台となる一階が小さかったり弱かったりすると、強固な二階は作れませんよね。

そこで、幼児期以降に育つ「おりこうさん脳」「こころの脳」をしっかりと育てるためにも、乳幼児期に「からだの脳」を大きく強くしておくことが必要なのです。

そして、「からだの脳」にたくさん刺激を与えるためには、意識して「五感を使う」ことがとても大切です。

目で見て、耳で聞いて、においをかいで、味わって、肌で感じる「五感」は、まだ言葉をもたない子どもにとっても、脳にダイレクトに入ってくる刺激だからです。

2 子育ては、子どもの五感に刺激を与え続けている

「五感を使う」こと自体は、実は、生活のうえで自然と発生しています。

赤ちゃんにおっぱいをあげる、外気浴、おむつを替える…。生まれた瞬間からの「子育て」は、子どもの五感を通じて刺激を与え続けています。

ただ、発生するからといって、ほったらかしておくと、赤ちゃんは刺激をそのまま受容するだけに終わってしまいます。

保護者の姿を目で見て、声を聞くことで徐々にお母さん・お父さんを認識していくように、笑顔で目を見つめる、たくさん声をかけて聞かせる、だっこして肌のあたたかさを感じさせる…といった一つひとつの行動が「刺激を与えている」と意識して関わりましょう。

近しい大人からの繰り返しの五感への刺激が、子どもの脳を育てることにつながります。

3 五感に働きかける遊び

日常生活で五感を使っていることを踏まえたうえで、さらに五感を使った、オススメの遊びを紹介します。

ねんね期には一般的な赤ちゃんおもちゃ

ガラガラやメリーといった、一般的な赤ちゃんおもちゃは、五感への刺激をたくさん与えます。

ガラガラを触ったり、振った音を聞いたり、色や動きを目で追って見たり、口に入れて舌で味覚や感覚を確かめるなど、子どもは五感を使って感じています。

このときに、おもちゃをただ与えるのではなく、「ガラガラ楽しいね」「チリンって音がするね」など目を見て笑顔で、話しかけましょう。自然とかけている言葉すべてが、子どもにとっては脳への刺激になっています。声のトーンや大きさを変えて繰り返し言葉をかけるとよいですよ。

子どもはまっさらな状態で生まれてきますので、受ける刺激に対して、大人が名称や感覚を言葉で意味づけしていくことが、とても大切です。

おむつ替えひとつをとっても黙って行うのではなく、「たくさん出たね。おむつを替えてスッキリしようね」などと声をかけることで、快・不快の感覚を知ることにもつながります。

はいはい期

9~10か月ごろになると、握る、つかむ、つまむといった手指の発達が進み、細かい動きができるようになってきます。

このころは、手指の触覚を刺激する遊びが効果的です。

新聞紙をくしゃくしゃにしたりちぎったり、指でつまめる大きさのもの(ストローなど)を入れ物に入れる、といった遊びがオススメです。
※子どもの口に入る大きさのものを扱う際は、必ず目を離さず見守りましょう。

また、はいはいするようになったら、全身を使った「粗大運動」も取り入れたいところです。

室内だけでなく、気候を味わえる外に出て、はいはいしたり転がしたボールを追ったり、水を触ってみたりするなどの遊びで、五感への刺激は広がります。

可能な範囲で外気に触れながら、全身を大きく動かす遊びと、指先を使った細かい遊びを組み合わせて取り入れるとよいでしょう。

1歳すぎごろ

1歳すぎごろになると、だんだんと色の違いがわかってきます。

くだものを見たら「りんごは赤いね」「黄色いのはどれかな?」などと話しかけることや、色のボードやおもちゃを使う遊びは、視覚への刺激になるでしょう。もちろん視覚以外にも、たとえばくだものの香りの嗅覚や食べたときの味覚や触覚など、さまざまな刺激が複合的に発生していますよ。

また、音楽を流して体を動かすのもオススメです。

ほかに、このころ楽しくなってくる積み木遊びでは、手先の器用さの発達を促す効果に加えて、積んだり崩したりしたときのカチャカチャ、ガシャーンという聴覚や、形や手触りなどの刺激が得られます。

このときに、その感覚を言語と一致させることで、3歳以降に発達するおりこうさん脳への知識、情報もたまっていきます。

歩きだすようになるころからは、「あ! あ!」と指をさすような子どもの興味に、保護者はたとえ答えがわからなくても「なんだろうね」「緑の葉っぱの大きな木だね」などと言葉を返すことが、脳の育ちにつながります。

2~3歳ごろ

外遊びなどで、子ども自身がたくさんの刺激を吸収しにいくのが楽しくなってくるころです。

砂や葉っぱ、どんぐりなどの形、色が違うものや、雲の形が変わることに気づく子もいるでしょう。

保護者は、「さっきと違う鳥の声がするね」などと、外に出たら、できるだけたくさんの言葉で、周囲からの刺激に注意を向けさせるような言葉かけをしましょう。

そして、子どもが興味をもったことは繰り返し触れさせましょう。

たとえば枯れ葉を踏むのが好きな子であれば、ぜひ、毎日でも枯れ葉をガシャガシャと踏む遊びをしてください。同じ感覚を何度も取り入れることで、子どもの脳には「枯れ葉はこんな感覚なんだな」と定着させることができます。

「ずっとこの遊びをしているけれど、ほかの遊びもさせたほうがいいのかな?」と思われる保護者の方もいらっしゃるかもしれませんが、繰り返しが大事な時期なので、子どもが興味をもったものがあれば、それが存分にできる環境づくりをしてください。

幼児以降

友だちやほかの大人といった他者との関わりが増えてくるころです。

保育所や幼稚園に通うとそのような機会が多くなってきますが、保護者は、子どもが他者と関わり、交わる機会を積極的に増やしましょう。

また、子どもは遊びを見つける天才なので、おもちゃとして成立しているものを与えすぎるよりも、公園や広場などで遊ぶことを推奨します。

そこにあるたくさんの刺激から、子どもがなにに興味をもって向かっていくのかを、よく観察してください。

4 子どもが五感を使ううえで、保護者が意識したいこと

刺激が脳を育てること、刺激とは五感を通じて入ってくるということをお伝えしました。

遊びを含めた日常で五感を使ううえで保護者が特に意識したいことは、

  • 常に子どもに適した刺激を与えること
  • たくさんの言葉をかけること

です。

規則正しい生活のなかで、子どもに適した刺激を与える

生活のなかでは、常に五感から受ける刺激にさらされています。

そのなかで、子どもにとってスマホやテレビ、パソコンからの刺激は強すぎるため、できる限り、自然からの弱い刺激(草の香り、水の冷たさ、太陽の光など)を与えることが大切です。

そして、乳幼児期には、原始的な生命維持のための機能を身につけるための「からだの脳」を育てているため、地球のリズムに合わせて、人間的な生活リズムを整えていくことが必要です。

太陽が昇って明るくなった、沈んで暗くなったという刺激、時間が経過したからおなかがすいたという刺激、ごはんを食べて味や匂いを感じて満腹になり満足する刺激、排せつする刺激、眠くなって寝る刺激をしっかりと感じることが重要です。

そのため、少なくとも小学校入学までは、太陽のリズムとともに生活し、1日3回食事をとるといった規則正しい生活を心がけて、五感を通して子どもに最適な刺激を与え、「からだの脳」を育みましょう。

言葉かけで、たくさんの情報や知識を子どもに伝える

子どもが受ける刺激に対して、それがどのような名称や感覚なのかを、言葉にしてたくさん伝えるに当たって、「なんて言葉をかければいいんだろう…」と難しく考えなくてかまいません。

「緑だね」「気持ちいいね」「風の匂いがするね」などと、大人が見たもの、感じたことをそのまま言葉にすればよいのです。

たとえ、大人が伝えたことに対して、思ったよりも子どものリアクションがないな、と感じたとしても、子どもには十分に刺激や情報として届いているので、安心して伝えてください。

ただし、特に子どもが集中して遊んでいるときに、指示・アドバイスをするのは避けましょう。

さまざまなことを伝えようと思うあまり、「トンネルを作るならもっと補強したほうがいいよ」「それは汚いからやめなさい」などと言うのは厳禁です。

子どもが夢中になっていることをよく観察して、子どもがパッと顔を上げて保護者のほうを見たときに「楽しいね」「お水冷たいね」「いっぱい積めたね」などと、子どもの気持ちを代弁したり、行っている状態をそのまま情景描写したりしましょう。

5 乳幼児期を過ぎても、「からだの脳」は育つ!

「からだの脳」を育てるには、乳幼児期のころから意識した関わりがベストです。

ただ、その時期を過ぎてからでも手遅れではありません。

特に「からだの脳」には“可塑性”(かそせい)という、働きかけると変化する特性があるため、気がついたときから意識すれば、何歳からでも効果はあります。

小学生以降では、親子で出かけて「虫さんだね」というような伝え方をする機会は、乳幼児期に比べると減るかもしれませんが、五感から入ってくる刺激に対して、子どもの注意を向けさせる言葉かけをするのはオススメです。

あとは、夜は暗くして眠る、朝は明るくして起きるといった、太陽の光に沿った生活リズムに整えることはとても大切です。夜は遅くとも8~9時に寝かせると、土台となる「からだの脳」の頑丈さは、何歳からでも変わります。

ほかに、食事のときにテレビを消したり、子どもが熱中しているときに先回りして指示的な言葉をかけないように意識したりするとよいでしょう。

特別なことを行うのではなく、ふだんの生活を意識して、五感を使うよう働きかけて関わっていくことこそが、子どもの育ち、脳の発達に重要です。

この記事の監修・執筆者

小児科医・発達脳科学者 成田 奈緒子

文教大学教育学部特別支援教育専修教授。文部科学省「リズム遊びで早起き元気脳」実行委員長。子育てを応援する専門家による「子育て科学アクシス」を主宰。
神戸大学医学部卒業。米国セントルイス大学医学部留学を経て、獨協医科大学越谷病院小児科助手、筑波大学基礎医学系講師を経て、現在に至る。小児科医として豊富な臨床経験を持つ。一児の母。

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