心が落ち込んでいるとき、親しい人がそっと背中をさすってくれると気持ちが休まります。不安なとき、誰かにぎゅっと抱きしめられると心が安らぎます。
肌に心地よい刺激を受けると、心もまたやわらいでいくものです。
このようなスキンシップは、“その子の脳の発達に生涯、影響を与え続けてくれる”という効果があるようです。
「どうスキンシップをとったらよいかわからない…」「今のやり方で合っているの?」など、親子のスキンシップでお悩みのママパパも、ご安心ください。
脳を育てるスキンシップの方法や、おすすめの触れ合い遊びをご紹介します。
コロナ禍で、他人と距離を置くことに気をつけなければいけない今だからこそ、もう一度、親と子どものスキンシップについて考えてみませんか。
お話/山口創(臨床発達心理士)
「スキンシップ」は心身の育ちに不可欠
「スキンシップ」から生まれる「愛情ホルモン」
スキンシップをすると、脳内で「オキシトシン」という愛情ホルモンが分泌されます。
この「オキシトシン」は、
- 心を安らげ、幸福感や愛情を深める
- 人との絆を強める
などの効果があります。しかも、スキンシップをしている両方の人に、効果アリ!
子どもの命にも関わる「スキンシップ不足」
では、スキンシップをしないと、どのようなことが起きてしまうのでしょうか。
子どものころの触れ合いが足りないと、
- 大きくなってからのスキンシップを否定的にとらえてしまう
- 人間不信や自閉的傾向が多くなる
- 自分はあまり愛されなかった、など自尊感情が低くなる
- うつ病や不安障害、摂食障害につながってしまうことがある
- キレやすく、攻撃的になりやすい
などのことが報告されています。
1910年代、アメリカでは「触れない育児」が提唱されました。
「自立心を育てるため」と、すぐだっこしない、泣いてもあやさないなど、スキンシップをしない子育てです。
このストレスで、成長ホルモンの分泌が止まり、多くの赤ちゃんが亡くなってしまう事態につながったといわれています。
スキンシップの欠如は子どもの心身の育ちに影響し、ときには命に関わるほどの深刻な問題を生じさせかねないのです。
「スキンシップ」をすると学習効果も高まる
「スキンシップ」をすると、以下のようなメリットがあるといわれています。
愛着関係を育む
「愛着関係」とは、「特定の養育者との間に作られる心のきずな」のことをいいます。スキンシップは、この“心のきずな”を深めてくれます。
出産後、早くから子どもに触れることで、「オキシトシン」が分泌されます。これにより、ママパパは子どもに対する愛情が自然に高まってくるのです。
子どもが小さければ小さいほど、スキンシップの果たす役割は大きくなります。なぜなら、出産直後から生後1年くらいまでは特に、愛着関係の形成をするのに重要な時期だからです。
「赤ちゃんなので反応がわかりにくい」「どんなスキンシップをしてよいかわからない」と考えず、いっぱいスキンシップをしてください。
ストレスに強くなる
愛情ホルモン「オキシトシン」は、「ストレスホルモン」を低下させる作用もあります。
また、
- 「心拍数」や「血圧」の低下
- 「不安」や「恐怖」をやわらげて安らぎを与える
といった働きもあるとされており、これらの相乗効果によって人はストレスに強くなっていくことがわかっています。
記憶力がよくなり、学習効果が高まる
物事を記憶するには「集中力」が必要です。
しかし、不安があったり、落ち着かない気分だったりするときには集中力も下がりがちです。
スキンシップで「オキシトシン」が分泌されている状態にあると、心身がリラックスして、目の前のことに集中できるようになります。
子どもにとっても、集中力を高めることによって、記憶力が増加、学習意欲の促進などにもつながっていくと考えられています。
おすすめのスキンシップ
こちょこちょ遊び
おなかや首などを優しくくすぐってみましょう。
人は笑うことでストレスが発散され、気分がよくなったり、体もリラックスして免疫力が高まることがわかっています。笑うことによる効果もプラスされます。
「くすぐったい」という感覚を体験しながら、楽しみましょう。
寝るときのだっこ
寝るときに、少し強めに抱きしめましょう。
全身を少し強めにだっこすると、自律神経反射によって副交感神経が優位になり、リラックスすることができます。
「手で」体を洗う
タオルなどではなく、直接手で触れて体を洗いましょう
スキンシップをとれるだけでなく、子どもの肌の状態を知ることもできます。ストレス状態にあるときは肌にも症状が表れることがあります。
スキンシップのQ&A
Q.スキンシップが苦手な子にはどう接したらよい?
A.その子に合った触り方を見つけていきましょう。
スキンシップはただ触ってあげればよいというわけではありません。子どもの個性を見て、その子に合った触り方をすることが大切です。
ぎゅっと圧力をかけるようなだっこやベタッと全体的に触れ合うようなスキンシップをいやがる場合、感覚に対してとても過敏な傾向にあるのかも。特に発達障害の子には、そうした傾向が強い子が多いようです。
遊びの中でくすぐってみたり、トントンと体に軽く触れてみたりして、コミュニケーションする、といった触れかたであれば、受け入れてくれる可能性もあります。
いろいろなスキンシップを試してみましょう。
Q.働くママパパはどうしたらよいの?
A.短時間でもしっかりスキンシップで甘えさせてあげることで、子どもは十分に満足します。
- お迎えに行ったとき、ぎゅっと抱きしめる
- お風呂で触れ合う
- 添い寝する
- 膝の上にのせて本を読む
など、家庭で離れていた時間を取り戻すことを心がけて、スキンシップをすることで、安定した愛着関係を築くことができます。家事ができなくなるくらいベッタリでなくてよいのです。
短時間でもよいので、抱っこして話しかけたり、遊んだりして、コミュニケーションをとることを心がけましょう。
山口先生からのメッセージ
子どものときのスキンシップの効果は、大人になってもずっと影響を与えます。
産まれて早い時期からスキンシップをたくさんすると、オキシトシンを作りやすい脳になるということもわかっています。
ですから、オキシトシンによるいろいろなメリットが生涯続くということになるわけです。
でも、「もう赤ちゃん期を過ぎたから、スキンシップをするのに手遅れ」なんてこともまったくありません。
スキンシップが足りなかったと思ったら、何歳からでも大丈夫ですので、折に触れてたくさんスキンシップをしてあげてくださいね。
この記事の監修・執筆者
臨床発達心理士。桜美林大学リベラルアーツ学群教授。親子や夫婦、恋人同士のスキンシップについての研究を行う。著書に、『幸せになる脳はだっこで育つ。』(廣済堂出版)、『子供の「脳」は肌にある』(光文社新書)などがある。
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