子どもの創造力を育てる「工作技術」の授業とは?|家庭での鍛え方も紹介
独特なカリキュラム、特に週に2時間ずつ行う「美術」と「工作技術」の授業が特徴的な、東京都世田谷区の和光小学校で「工作技術」を専科で担当する植林先生に、子どもの創造力を高める方法や、「工作技術」の授業が培う、技術だけではない力についてたっぷりとお話を伺いました。
取材・文/こそだてまっぷ編集部
「創造力」とは?
「創造力」とは、主にゼロからイチを作り出す力として使われる言葉です。特に、解答がひとつではないような課題に対して、自身の考えやスキルを発揮し、新しいものを作り出す能力とされます。しばしば「問題解決能力」と並んで、何が起こるかわからないこれからの時代に必要な力として期待されています。
小学校においては、これから起こり得る変化に向き合い、協力して課題を解決していく力や、さまざまな情報の中から必要な情報を集め自分自身で考える力、そしてそれを新たな価値につなげていく力などとして育むことが目標とされています。
創造力を育成する工作技術
東京都世田谷区にある私立・和光小学校の「工作技術」の授業では、この子どもの創造力を伸ばすような取り組みが積極的に行われています。
そこで今回は、工作技術専科の植林恭明先生に、なぜこの時代に「創造力」なのかや、和光小学校での取り組みとその成果、そして家庭でも実践できることなどについてたっぷりと伺いました。

創造力はこれからの時代になぜ必要?
ブラックボックス化する世の中で生き抜く力になる
突然ですが今、世の中ってどんどんブラックボックス化していっていると思うんです。ボタンひとつで何かが動くけれど、どういった仕組みでそうなっているのかというのを完全に理解している人はとても少ないですよね。
そうなると、何かひとつライフラインが止まったりすると、何をどうして生きていけばいいのかわからなくなってしまう。でも、そんな中でも生き抜いていかなければならない。そうなったとき、本当の意味で人間の「生きる力」、目的を持って、達成するにはどうすればいいかを考え、実行する力がとても重要になってきます。
AI社会においても考えられる人になる
そうやって考えて行動するという力が必要な一方、心配なことがあります。今AIがどんどん進化していく中で、どう技術が進化するかという不安以上に感じるのが、「AIに考えることを任せて、人間がどんどん考えることをしなくなっていくのでは」ということです。
例えば、「もしかしたらこうやったらいけるんじゃないかな?」という見立てや推測を立てても、「AIの方が正しい」とか「最終的にAIで答え合わせすればいいや」というふうにAIに考えることを任せてしまったら。そうなると推測することの価値が低くなり、自分で考えて行動を起こして解決していく力は育ちにくくなってしまう。それはとてももったいないことだと思います。
そうなってしまう前に、実際のもの作りを通して、考え行動するということの意義や方法を子どもたちには会得して欲しいなと考えています。
「作ること」から世の中を見つめる視点を|和光小学校の授業
満足いくまで、好きなものを作れる環境がある
和光小学校では、休み時間に技術室の開放をしています。工作技術で取り組んでいる作業はもちろんのこと、技術室にある素材を見ながら何を作ろうか考えたり、釣りに使うルアーを作ったり、あるいはひたすらに木片をやすりで削っていたり。専科教員である私が技術室に常駐しているので、玄能などの危険を伴う工具も適切に使いながら本当に子どもたちが自由に過ごせる環境をつくっています。

そこでは、学年やクラスを超えた独特なつながりができているのもまたおもしろいんです。2025年度の話だと、東京都の産業労働局農林水産部森林課が主催していた「第11回とうきょうの木 木工・工作コンクール」という大会に、技術室によくいる有志メンバーで作品を制作して参加しました。ある子は本体の上部が開く仕掛けを作り、ある子は内部の細かい箇所を作り込むなど、自然と分担しながら作り上げた作品です。

6年の集大成「美技術の作品展」は低学年への良い刺激
多くの授業時間を費やした集大成として、毎年学年末には「美技術の作品展」を毎年開催しています。

6年生の成長を見られるのはもちろんですが、下級生たちが先輩の作品を見て「○年生になったらあれを作れるんだね!」という憧れを抱いたりすることもあります。子どもにとって、憧れるから自分でもやってみる、というのはとても大切な動機なので、いい循環ができているんじゃないかなと思いますね。

使えるものを作るからこそ、自分と世の中がつながる
和光小学校の工作技術の授業は「作ったら使える、遊べる」ものを作る、というのがポイントのひとつです。例えば、卒業制作ではイスを制作しました。イスは座れないと意味がないですよね。なので、誰が座っても壊れないイスを作ってね、誰かが座って壊れたらそれは作った人の責任だよねと言ってあります。そのくらい「使える」ものにこだわります。厳しく聞こえるかもしれないけれど、やはりそれが達成できると、みんなが使えるものになったという誇らしさがあるんですよね。

そこから今度は、作る人側の視点で考えることもできるようになってきます。6年生になると、もう3年もすれば社会で働けるわけで、自分の仕事を追求するということについて本職の職人さんにお話を伺ったりもしています。その中では、職人さんが作った漆器と100円ショップの器は同じ用途だけど価格が全然違うとか、ウレタンのニスを使うか漆を使うかによって何が変わるかとか、ろくろひとつ取っても電動のものを使うとどうなるかとか、そこには経済産業、環境問題、エネルギー問題、いろいろなことが詰まっています。
例えば6年生で作る木のバターナイフ、みんな使いやすい形を吟味して、時間をかけて完成させます。でも、そのあと100円均一ショップに行くと似たようなものが100円で売られているんですよ。子どもは思いますよね、「自分があんなに一生懸命作ったものとほぼ一緒なのに100円⁉」。そして、どうしてだろうと考えると、そこには貿易の輸入・輸出、労働、賃金格差……社会の中でのさまざまな問題がそのバターナイフひとつから見えてきます。自分の工作と、世の中がそういう形でつながるんですね。

「作る」という行為はものの見方を変える
もの作りってどうしても「何ができる」「何を作った」を成果として考えがちです。でもそれ以上に、視点の広がりや認識の変化、社会的なものの見方が育つ取り組みだと思うんです。ものを作ることによって子どもと社会がつながる感覚。普段気にしないちょっとしたこと・ものにも意味があるという見方が格段に育つので、いろんなものが見えてくるようになるんです。
現代社会はものがあふれていて、ひとつのものについてじっくり思いを巡らすことは少なくなっていると思います。そこに「作る」という行為があるとものの見方が変わる。森に生えている木と木材と木工用品が同じ素材だということが理解できないとか、スーパーで切り身しか見たことがないからサケは切り身の形で泳いでると思ってしまうとか、そういうことが増えています。実際に粘土に釉薬を掛けて焼くと表面がガラスみたいになる、そんなプロセスを通して「もともとは違う形だったかも」と見方を変えられる力を育んでいければといいですよね。

子どもの創作意欲を引き出すには体験が必須
もちろん、こういった工作、もの作りは和光小学校の外、例えばご自宅でもできることがあります。ただ、子どもが制作をするにあたって、何もない所で「自由にやってごらん」というのは、子どもにとっては結構ハードルが高い話です。まずは色々な素材に触れさせてあげてください。色々なものを見たり触れたりする中で「あれをやってみたいな」「アレンジしてみたいな」という知的好奇心から制作に入るというのもひとつの方法だと思いますよ。
他にも、欲しいものがあったら買う前に1回作ってみるとか。立体的なシールなども、工夫次第で作れるかもしれませんよね。作ってみて、なんか違うな、うまくいかなかったなと思ったら違う工夫をしてみるということにも大きな意味があります。
創造力を家で鍛えるのにおすすめの活動は?
ご家庭でお子さんが制作活動をするのにおすすめの題材は、断然「紙やすり」です。和光小学校では子どもたちから大人気で、行事などで忙しい時期になると、さまざまな樹種の木片を削りに技術室に集まってきます(笑)。感触や香りに癒されるみたいで、木を黙々と磨いては「いい感じになったなぁ」と満足して帰っていくんですよ。これ、やってみると案外大人もハマります! 小刀を使って木片工作をするのもいいですが、やすりならどこでも安全にできて、素材そのものも楽しめる。すごくおすすめですね。ホームセンターでも入手できます。

それから、編み物も生活を豊かにする創作活動ですね。こちらもちょっとしたすき間時間でできますし、慣れてしまえば編み物の時間は何も考えないでいられる。そういう時間を持てるというのは結構意味があると思います。学校や保護者から基礎を学んだり、簡単なリリアン型の編み方でとりくんでみたりするなどして、とことん敷居を低くしてやってみるのがいいと思います。

最後に大切なのが「保護者も一緒に楽しむ」ということです。親も知らないものだとなかなか手を出しづらいと思いますし、入り口は手づくりキットなどを活用してもいいので、ぜひ保護者の方も一緒に制作をして癒されて欲しいなと思います。

子どものうちに感じたい試行錯誤と作る楽しさ
技術の授業でも、おうちでできる取り組みでも、共通しているのは、①見通しを立てる、②手を動かす、③困難があれば修正する、④目標を達成する、というものづくりのプロセスです。
大人になってしまえばすごく忙しいし、便利なものがあれば活用したほうがいいというのは分からなくはないけれど、子どもである今だからこそ、実際に自分で作ってみる、試行錯誤する、そして解決するという体験を楽しんで欲しいと思いますね。
ものごとを「楽しむ」ということの価値は、もしかしたら学力などと比べると軽視されがちかもしれません。でも、楽しんだことのない子どもは、大人になってもやりたいことが見つからなかったり、生きがいを感じられなかったりしないだろうかと心配になることがあります。「やって楽しい」「作って楽しい」、子どもたちにはそれらを礎にして、自分の新しい生き方を積極的に切り拓く人、自分のやることに生きがいをしっかり感じられるような人になってくれれば、こんなに嬉しいことはありません。
和光小学校とは?
1933年「和光学園小学校」として東京都世田谷区に創立。
戦後、中学・高校・幼稚園・大学、鶴川幼稚園・鶴川小学校を設立し、現在は世田谷と鶴川にまたがる総合学園となる。
児童・生徒の自主性を重視した学校運営や、オリジナルの教材を用いた独自のカリキュラム等、自由な校風で注目を集める。
この記事の監修・執筆者
(うえばやし・まさあき)
公立小学校にて●年勤務ののち、和光小学校の工作技術科専任教諭として着任。
和光小学校の工作技術科が培ってきたカリキュラムを継承しながら、
子どもたちがより実践的に楽しく学べるよう、日々授業の工夫を続けている。
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