【児童文学作家・黒田季菜子さんインタビュー】医療的ケア児との日々で見つけた執筆という居場所「育児と執筆、ふたつのあいだで」

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【児童文学作家・黒田季菜子さんインタビュー】医療的ケア児との日々で見つけた執筆という居場所「育児と執筆、ふたつのあいだで」

『あの日、ともに見上げた空』で、第33回小川未明文学賞で大賞を受賞された黒田季菜子さん。現在3人のお子さんを育てながら、SNSでの連載やエッセイの刊行など執筆活動を続けてこられました。
今回は、黒田さんの育児と執筆について紹介します!

文/こそだてまっぷ編集部 イラスト/M.Tomii

目次

▶児童文学作家・黒田季菜子さんとは?子ども時代のお話や執筆活動について紹介したインタビュー記事を読む

「作家」でもあり「母親」でもある

――3人のお子さんがいらっしゃるとのことですが、いちばん上から、何歳、何年生なのでしょうか? 3人となると、毎日がとても大変では?

「上から高校2年生、中学2年生、いちばん下が小学2年生です。
一昨年ふと気が付くと、それぞれが新高校1年生、新中学1年生、新小学1年生と、進学がまるかぶりしていて、大変な目にあいました。今も子どもたち全員が2年生なので、だれが何組の出席番号何番なのか覚えきれないでいます。

こう学年がはなれていると、個人懇談の時期なんかが大変ではあるのですが、児童文学を書く人間としては、小中高、全部が自宅にいるというのは、学校のようすなんかもリアルタイムでわかるし、なかなかありがたいことだなあと思っています。

小学2年生の子、ここでの通称7歳は、生まれつき心臓に疾患があり、医療用酸素を使って暮らしています。
今は公立小学校の特別支援学級に通っていますが、住んでいる地域では学校での大半の時間を普通級で、科目によって1日2時間程度支援学級に通う、というのがスタンダードらしく、『あの日、ともに見上げた空』でコトコやほーちゃんの在籍する特別支援学級もこの点を踏襲しました」

――小・中・高の児童生徒が同時にいるというのは、想像以上に大変ですが、さらに末っ子さんに医療的ケアが必要となると、また異なる大変さもあるのではないでしょうか。7歳のお子さんの学校生活を踏まえて、黒田さんの1日の執筆スケジュールはどのような感じなのでしょうか?

「朝は4時半から5時に起きて1時間程文章を書いたり、もしくは本を読んだりしていますが、6時には家族が起きはじめるので、そのまま中高生のお弁当を作り、朝食を作り、そうじを済ませています。そのあいだに夫が一番目に、つぎに高校生が、それから中学生の順で出かけていきます。

7歳は、疾患の関係でランドセルや大きな荷物を持って歩くのがむずかしいので、わたしが荷物を持って毎日学校に送っています。それが終わって自分の物書きづくえに座るのは、がんばっても10時といったところです。

そこから、7歳の学校からの体調不良での呼び出しや、通院などがなければ14時までは書きつづけられますが、以後はまた7歳を学校へ迎えにいき、宿題を見ながらまた書いて1時間ほど。
あとは習いごとの送迎などが入ってそのまま夕飯です。夜は7歳の本を読み聞かせしながらいっしょに寝落ちします。夜更かしができないぶん、朝が早くなりました。

両立している、というよりは、家事や用事を朝と夜、生活時間のはしとはしに寄せて、日中に書く時間を無理やり作っているという感じで、そのために物書き机もリビングのはしにしつらえています。「お母さんの巣」と呼ばれています」

©M.Tomii

疾患や障害によって、同じ世界でも見え方が違う

――執筆時間をなんとか捻出されていることに驚かされます……。ただSNSでの連載や過去のエッセイ作品を拝読すると、執筆の動機が育児に関わることも多いように感じます。『あの日、ともに見上げた空』の執筆きっかけも、お子さんとの出来事からはじまったのでしょうか?

「ちょうど『あの日、ともに見上げた空』の構想を練っていたころが、7歳の就学相談から入学の時期でした。

これまで「健康で健常な子」の親としてながめていた学校を、「疾患や障害がある子」の親としてとらえなおすことになり、たとえば遠足に行くにも親がうしろからついていくとか、プールの授業の時にも付きそいがあるとか、毎日の送り迎えが必要だとか、そういうことを毎回、子ども達や先生がたに説明しなくてはいけないとか……。

みんなとちがうことって、ふつうの学校やふつうの世の中では生活レベルでやりにくいことがあって、大変だなあと思ったことが、物語の土台を作っているのではないかなと思います。

とにかく特別支援学級と特別支援学校への進学の選択ひとつとっても、地域によって「各家庭の希望による」だったり「教育委員会の判断」だったりして、保護者はわからないことだらけ。
その就学に関する教育委員会への相談は、年長児の秋に一斉スタート、さらに細かな聞き取りが入学直前で、うちの場合は疾患があるので学校看護師の配置を、それこそ平身低頭して望んでいました。しかしそれが間に合わず、わたしが一学期中ずっと子どもに付きそうことになって、小学校の廊下に立ちつづけていました。

でもそれが令和の小学校と小学生のすがたを見学する機会になって、それを文章に落としこめた訳ですが、足腰がつらかったですね、なにしろ立ちっぱなしの付きそいだったので」

――廊下に立ちっぱなしだなんて。おつらかったかと。
同じ世界でも、少し視点を変えてのぞいてみると、これまでとは異なる景色が広がっていることがあります。『あの日、ともに見上げた空』を通して、子どもたちや大人に向けて、どのようなメッセージを届けたいとお考えですか?

「学校や街には、いろんな人がいる、いろんな人がいることが当たり前なんだと思ってもらえたらいいなと、それを願って書きました。
みんなそれぞれ事情をかかえて生きていて、事情があるのは当たり前で、それをかわいそうだとか思わずに、「そういうものだ」と思ってフラットに接してくれたらいいなと。

そして作中の「ありがとうって言うたら、俺は死ぬんや」というマコさんの言葉の真意を、読んだ人みんなにちょっとだけ考えてもらえたらいいなと思っています」

――マコさんのシーンは、読み手に色々と考えさせるものがあります。ぜひこれは本書を読んで、それぞれ感じ取っていただきたいところです。

書きつづけている方たちへのメッセージ

――最後に、作家を目指す方へ──とくにお子さんを育てながら書き手を目指している方に向けて、メッセージをお願いします!

「公募制の文学賞に作品を出す、というのはなかなか時間も手間もかかるし、せっかく百枚も書いたものがただの紙クズになるだけかもしれない、賭けみたいなもので、一次審査にも通らないとそれこそ「二度と書くものか」なんてことを思ってふて寝するのですが、一晩寝て起きたら「さて、つぎは何を書こうかな」と思いなおして、また次回作の構想を練っている。ふしぎなものだなと思います。

子どもを育てていたり、その子どもがちょっと育てるのに胆力とか手間を要する子だったり、仕事をもっていたりすると、なかなか自分の時間は取れないし、子どもが小さいうちは自分の人生の主役は子ども、という生活が何年も続きます。

それでも頭の中で編む物語はどこまでも自由で、広大で、楽しいもので、わたしにとっては人生の杖のようなものになっています。

児童文学作家は「未来を生きる子どものためにすてきな届け物をする」作家ですから、この先同じ方向を向いて言葉を編みつづけている方とは、いつかどこかでお会いできるのだろうなと思っています。たった1冊、編みあげただけで、まだなにか言えるようなこともないのですが、同じ方向に向かって歩く方には、いっしょにがんばりましょうねとお伝えしたいです」

黒田季菜子(くろだ きなこ)
富山県出身。著作に3人の子ども、そして日々のことをつづったエッセイ『まいにちが合嵐のような、でも、どうにかなる日々。』『今日は子育て三時間目』(ともにKADOKAWA)がある。
あの日、ともに見上げた空』で、第33回小川未明文学賞の大賞を受賞。

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