子どもが幼稚園に通うようになったり、年上の子と関わるようになったりしてから、急に口が悪くなった…という話をよく耳にします。すぐやめてほしいけれど、どのように言えばよいのか…困っている保護者のかたも多いと思います。
そこで、今回は保育の専門家、小山朝子先生に子どもの「ことばづかい」について、お話をうかがいました。
0~5歳児頃までの「ことば」の発達
まずは、子どものことばの発達について触れたいと思います。
子どもは、生まれながらに人とつながろうとし、特定の安心できる大人(保護者)との間で気持ちを調整しようとします。まだことばを発しない乳児も、乳児なりに、泣く、発声する、手足を動かすことで、自らの気持ちを表現しています。
0歳児後半になると、安心できる保護者がいることの心地よさを感じながら、笑顔で声を出して喜んだり、手足を大きく動かしたりして、自分の気持ちを表現したり、「もっと!」といったリクエストなどもするようになり、表情や声、しぐさなどのコミュニケーションが多くなります。
おおよそ1歳くらいになると、犬を指さして「ワンワン(犬がいる)」と、意味をもつ単語(一語文)が出てきます。そのころからことばに対して興味・関心が高まり、自分の思いや要求を簡単なことばで伝えようとする姿が見られます。
おおよそ2歳前後は、語いが爆発的に増えてくる時期です。大人が使ったことばを聞いて、意味がよくわからないながらに使おうとするのもこの時期。イメージを膨らませながら日ごろ保護者がしているのを見ているお店でのやりとりや、絵本の読み聞かせなどのセリフをつぶやいて楽しんで遊ぶ姿が見られてきます。
おおよそ3歳以上になると、自分の要求や経験などをことばである程度伝えられるようになり、日常的なことばのやりとりができるようになります。知的好奇心も広がっていき、大人に「どうして?」「なんで?」とたくさんの質問をする姿も。大人がていねいに答えたりいっしょに考えたりしていく姿勢が、子どものことばを引き出していくことになります。
また、友だちとの関わりが広がり深まる時期でもあるため、友だちどうしでの気持ちのぶつかり合いやいざこざもよく起こり、そのなかで友だちの思いを聞いたり気づいたりする機会になっていきます。さらに、イメージの世界が広がり、友だちのその世界を共有しながらなりきって遊ぶことも楽しくなります。ヒーローごっこなどを楽しむのもこの時期です。
5歳児になると、ルールのある遊びを多くの子どもといっしょに楽しむようになり、友だちの理解に合わせて話そうとしたり、互いの考えを相手に伝えようとしたりして、思いでことばを選びながら話す姿も見られるようになります。
子どもの「ことばづかい」が悪くなるのはどうして?
子どもは、近くにいる大人や家族、園の友だちが使っていることば、さらに、テレビ番組やさまざまな情報機器からの情報など、身近な環境からことばを獲得していきます。子どもの身近な環境のなかで聞こえてくることばは獲得しやすく、目の前でそのことばを使っている人の動きも視覚的に捉とらえることができるため、どのようなときにそのことばを使うのかも理解しやすいためです。また、子どもはそのことばを使っている人が使っているように使おうとする場合もあるため、保護者と話し方が似ているね…ということもあるのではないでしょうか。
それと同時に、ごっこ遊びや「○○するフリ」などができるようになってくることで、そのことばに自分なりのイメージを伴いながら理解していくことも多いでしょう。
つまり、子どもの「ことばづかいが気になる」「どうしてこんなことばづかいなんだろう?」と感じたときには、子どもの身近な環境を確認したり観察したりすると、その理由がわかってくるかもしれません。
子どもの「ことばづかい」が悪くなったとき、保護者はどう対応したいいの
おおよそ2~3歳ころは、語いをたくさん獲得する時期だからこそ、子どもは獲得したことばを、どのような意味なのか理解しないまま、「まずは使ってみよう!」という姿が見られます。そのため、たとえば「バカ!」とことばにしたとしても、悪いことばとして認識していない可能性があります。あるいは、わたしたちが理解している「バカ!」ということばの意味ではなく、“くやしい”“悲しい”といった気持ちがあふれて、どうしたらよいかわからずに飛び出したことばかもしれません。
保護者は、目で見える・耳で聞こえることばだけで判断せずに、子どもの本当の気持ちは「どうなのか?」というところに心を寄せて、肯定的に関わることが大切です。そうして、気持ちを受け止めるプロセスを大事にしながら、「バカ」ということばを使ったことを否定せず、「くやしかったんだね」などと、その気持ちに合わせたことばに置き換えて伝えていくとよいでしょう。そうした対応をしていくなかで、子ども自身が自分の気持ちを整理し、ことばの使い方を学んでいくと思います。
仲間関係が構築されてくる4・5歳くらいになってくると、徐々にことばの意味も理解できるようになってきて、言われて嫌なことば、使わないほうがよいと思うことばなどの区別ができるようになります。
しかしながら、子どもどうしの気持ちのぶつかり合いが起きたときには、大人のようにことばを細やかに選ぶことは難しく、つい相手に対して悪いことばづかいをすることもあります。そんなときには、まずはその気持ちを受け止めてから、何を伝えたかったのかを聞き、子どもなりのことばを引き出していきましょう。「言われて嫌なことばを使うと相手もびっくりするから、こうやって気持ちをことばで伝えていこうね」と、とがめるのではなく、ことばでの表現方法を伝えていきます。
イメージの世界に入るヒーローごっこなどで遊んでいて、ことばづかいが悪くなったときには、「そういうことばは使っちゃダメ!」と大人目線で禁止したり抑制したりするのではなく、「聞いていてとても悲しい気持ちになっちゃった」「そんなふうに言われたら、心が痛いかも」など、そのことばを使うと相手がどのように思うのかを、「自分は~思う」と伝えて、子ども自身が考えられる機会にしていきましょう。1回伝えただけでは難しいかもしれませんが、いずれ理解してくれることを願いながら繰り返し伝えていくことが大切です。
「おしっこ」「うんち」など、言ってほしくないことばを連発するときは?
ことばを使ってコミュニケーションをとれるようになってくると、「おしっこ!」「うんち!」などを友だちどうしで連発して大笑いをしたりすることがあります。このようなことばを一時的にとても喜んで言っている姿はよく見られますが、ことばそのものを重視しているのではないことは心に留めておきましょう。
大人は、言っていることばそのものに対して「そういうことは言わないで」「おかしいでしょ」と過度に敏感になって注意したり叱ったりし、禁止・制止したくなるかもしれません。でも、子どもが友だちどうしではしゃいで楽しんでいる分には静かに見守ってもよいでしょう。
ただし、友だちに向かってふざけた調子で言ったり気持ちを傷つけたりしている状況ならば、「○○くんの顔見てごらん」「わたしがそう言われたら悲しいな」などと、そのときの状況や気持ちの事実を伝えて、子ども自らが気づけるようにしていきます。
また、食事中など場面によっては好ましくないこともあります。そうしたときには、注意する・叱るというよりは、「ごはんをおいしく食べたいのに、食べられなくて嫌だな」と、聞いている立場の気持ちとして伝えていきます。
さらに、興味・関心が高まっているからこそ、「おしっこはどうして出るの?」「うんちって何?」といったことを子どもと話したり、知識につながるようなお話をしたりしていくことが、次の学びになっていくことでしょう。
保護者が嫌がったり困ったりしているのをわかって言っているときは?
保護者があわただしいときや、今はやめてほしいと思う場面に限って、悪いことばを言ったり、言ってほしくないことばを使ったりすると、「なんでこんなに困らせるんだろう?」「こんなに忙しいのに…」とイライラすることがありますね。
もしかするとそれは、子どもが「自分のことを見ていてくれているのか?」と、自分の安全基地である保護者を確かめようとする行為かもしれません。
しかし、保護者もそのときの状況によって、子どもが主張している姿に向き合えるときとそうではないときがあります。
もし状況的に可能であれば、覚悟してどっしりと構えて子どもと向き合い、今どうしたいのか、何をしたいのか、保護者にどうしてほしいのか、などをしっかり聞く姿勢を見せましょう。そして、子どもが伝えてきた姿を認めて、その後どうしたらよいのかをいっしょに相談していくと、子どもは安心して次に進むことができます。
こうした関わりは時間もかかってしまいますが、ごまかしてやり過ごしてしまうと、また同じようなことが繰り返されることもあります。できれば、このような状況では、保護者も少し気持ちを落ち着けて、子どもの声に耳を傾ける姿勢を大事にしてください。
また、時間が間に合わない、今いる場所では無理といった場合には、まずは「こうしたいんだね」「伝えている内容は理解したよ」と、その姿を肯定的に受け止めたうえで、「今ここではゆっくり聞けないけれど、家に帰ったらちゃんと相談しよう」「~~が終わったら、必ず話を聞くから待っててね」と見通しをもって約束をします。
このとき、できない約束ではなく、守れる約束をしましょう。子どもは、保護者が約束を守るのか守らないのかちゃんと見ています。裏切ることがないように、確実な約束を心がけてください。そうすることで、子どもは、もし今難しくてもちゃんと聞いてくれる、という安全基地の再確認ができ、安心感をもつことができます。
この記事の監修・執筆者
公立保育園で約20年間の保育経験ののち、帝京平成大学講師を経て現職。専門は保育学と乳児保育。保育雑誌での連載にも定評がある。
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