挨拶や食事、お片付けなどの基本的なルールやマナー。そして、防災や防犯、お友だちと仲よく遊ぶノウハウなどなど。生活の中で子どもに教えなければいけないことは、本当にたくさんありますよね。
子育て奮闘中のママパパに向けて、教育評論家・親野智可等先生の短期連載がスタート♪
1回目は「しつけ」をテーマに、悩めるママパパから寄せられた質問を取り上げながら、具体的な対応方法について教えてもらいました。
文/須藤美紀
「しつけ」で大切なことって何?
日本人は昔から「しつけ」を重要視しがちですが、最近の児童心理学や教育心理学においては、厳しすぎる「しつけ」は子育てにおいて逆効果になりかねないと考えられています。
「しつけ」について考える前に、まず大切にしてほしいのは日ごろからよい親子関係を築いておくこと。子どもの中に親への信頼感と安心感があれば、「モデリング効果」といって自然と親のマネをするようになるので、親が心がけているマナーは自然に身につくはずです。
優しく話しかける、いつも笑顔で対応する。そういった行動から、親に対する子どもの信頼感は育まれていきます。親がありのままの自分を肯定してくれる、無条件で愛してくれるという信頼感は、自分に対する信頼感=自己肯定感にもつながるのです。
そして、一番身近な他人である親への信頼感は、やがて他者に対する信頼感=他者肯定感につながっていきます。
親は「ルールが守れないまま、成長してしまったらどうしよう?」と不安で、つい子どもをしかってしまいがちです。しかし、しっかりとした親子関係が築けてさえいれば大丈夫! 子どもの自己肯定感と他者肯定感を育むことができれば、「しつけ」のために「叱る」という習慣から解放されるはずですよ。
【事例1】食事のマナーが身につかない…
食事のマナーがなかなか身につかず、一日中子どもをしかってばかりの自分がイヤになります。かといって注意しなければ、直らないのではないかと心配です。どうしたらいいのでしょうか?
「お行儀よくしなきゃダメ」「ひじをついてはダメ」など、否定的な言葉でしかるのはNG。否定的な言葉をたくさん浴びていると、「自分はダメな子だ」「親に愛されていないかもしれない」という気持ちが生まれて、自己肯定感も他者肯定感もボロボロになってしまいます。
とくに食事中の否定的な言葉は一切やめましょう。「〜してはダメ」という表現を「〜してくれるとうれしいな」に変換して、少しでもできたらきちんとほめてあげたいですね。
どうしても厳しい言葉が出てしまうときは、まずは自分を客観視して、「今、イライラしているな」と気づくことが大事。さもないと、イライラに飲み込まれて子どもをキツい言葉でしかってしまうことになります。
自分を客観視=メタ認知する習慣は、心がけていれば身につけることができます。イライラしている自分に気づいたら、深呼吸をしてみましょう。姿勢が前のめりになって呼吸も浅くなっているときに2〜3回深呼吸するだけで、お子さんへの言葉のかけ方が変わってくるはずです。
【事例2】公共の場で守ってほしい約束を忘れてしまう…
スーパーなどの公共の場で「他の人の迷惑にならないようにしようね」とお約束していても、子どもが走り回ったりしてしまいます。どうしたら約束を守れるようになるでしょうか?
子どもと約束するとき、子どもと同じ目の高さで話していますか? 忙しいママパパは子どもと話すとき、歩きながら、スマホを見ながら、運転しながら…となりがちですが、それでは子どもに伝わりません。
パパやママが立ったままで話をすると、子どもにとっては「怖い」という気持ちが先に立ってしまいます。高いところから声が聞こえてくると、防衛本能が反応して「自分を守らなければ」とバリアが張り巡らされてしまうんです。だから必ず子どもと目の高さを合わせて、落ち着いた低い声で話をするようにしましょう。
そして話す際には、「カートを押して走ったら、どんなことが起きるかな?」「走っていてお年寄りにぶつかってしまったら、どうなるかな?」などとお出かけ前に質問をしながら、一緒に考えるのがベター。子どもから「あぶない」「転んじゃう」などの答えが出てきたら、「そうだね」と共感しながら、どういう行動を取ってほしいのか付け加えるようにしましょう。
【事例3】元気に挨拶をするのが苦手…
娘は恥ずかしがり屋さんで、お友だちのお母さんや近所の人に挨拶ができません。元気に挨拶をしてくれるお友だちを見ると、うらやましくなります。どうしたら挨拶ができるようになるでしょうか?
引っ込み思案は生まれつきの資質によるところが非常に大きいので、挨拶ができないのは親のせいでも子どものせいでもありません。まずは、「挨拶」へのハードルを下げて、「ペコリしてみよう」から始めてみては? 自分からペコリできたら、たっぷりほめてあげてくださいね。
あとは、よい親子関係を築いたうえで、親が気持ちのよい挨拶を続けていれば、モデリング効果で子どもも挨拶が上手になっていくはず。挨拶ができなくても、人と比べたり、否定的にしかったりするのは、絶対にやめましょう。
少し遠回りに感じるかもしれませんが、好きなことを応援してたくさんやらせてあげるのも効果的です。「好きなことなら誰にも負けない」という自信がつけば、自己肯定感が上がって苦手なことも少しずつできるようになります。
ただし、挨拶が極端に苦手な場合は発達障害の可能性もあるので、心配な場合は早めに専門家に相談してくださいね。
【事例4】「貸して」「どうぞ」が上手にできない…
お友だちの持っているものをすぐにほしがり、手に入らないと泣いたりすねたり、物に当たったりします。どのように対応したらいいのでしょうか?
2歳くらいであれば、自分と相手の区別がまだつかない状態ですし、人の持っているものを「触りたい」「使ってみたい」と思うのは生きる意欲の表れとも言えるので、そこをまず理解してあげましょう。
トラブルを避けるには、親子で「貸して」「どうぞ」の練習をするのがオススメ。上手に「貸して」と言えなくても「貸してって言わなきゃダメでしょ!」と注意するのではなく、「こういうときは何て言うんだっけ?」と声をかけましょう。そうすれば、「貸してって言う」と答えることはできるはずです。最初はそれでいいんです。
お友だちが必ず「どうぞ」と言ってくれるとは限りませんから、「イヤ!」と言われたときのシミュレーションもしておきたいですね。「○回遊んだら貸してね」などの対応方法を覚えておけば、実際のお友だちとのやり取りでも役に立ちますし、「イヤ」と言われたときの気持ちについて話し合うこともできます。
子どもが「お友だちに物を取られた」と落ち込んでいるときも、チャンスです。「どんな気持ちがした?」と子どもの気持ちを受けとめてあげると、同じ行動を自分がしたら相手がどう思うか、より深く印象づけることができますよ。
おすすめの書籍
「しつけ」について考える前に、親が子どもを1人の人間として尊重したうえで、コミュニケーションをすることが大事です。自分にとって不快な言葉や態度は、子どもにも向けない。当たり前のようで忘れてしまいがちなことを、意識していきましょう。
とはいえ、様々なシチュエーションでのお約束について、ママパパが1から考えるのは大変ですよね。そんなときにオススメしたいのが、4〜7歳向けのドリル「おやくそくのれんしゅうちょう」。
シーンごとに気をつけたいポイントが、カラフルなイラストと一緒に描かれています。
親子で話し合いたいルールやマナーが盛りだくさんですので、会話のきっかけにしてみるのはいかがでしょうか?
次回の連載では、「防犯」「防災」をテーマにお話をうかがいます。
この記事の監修・執筆者
長年の教師経験をもとに、子育て、親子関係、しつけ、勉強法、家庭教育について具体的に提案。著書多数。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても著名。X、Instagram、YouTube、Blog、メルマガなどで発信中。オンライン講演をはじめとして、全国各地の小・中・高等学校、幼稚園・保育園のPTA、市町村の教育講演会、先生や保育士の研修会でも大人気となっている。
音声配信サービスVoicyの配信番組「コソダテ・ラジオ」の2022年12月の金曜マンスリーゲストとして出演。「家庭での学習習慣」について熱いトークを配信しています。
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