大人だけではなく、今や子どもたちの生活にも浸透しつつある生成AI。
「わからなかったら何でもAIに聞いてその通りに行動する」など、AIネイティブならではの依存傾向も心配されています。
ツールとして使いこなせると便利な反面、まだまだ判断力が未熟な小学生がAIを使っていくためにはリスクの理解と適切な大人の関わりが必要です。今の子どもに教えておきたいAIとの適切なつき合い方を、シンクタンク未来教育ビジョン代表の鈴木敏恵さんに伺いました。
取材・文/FUTAKO企画
子どももAIは使っていいの?
生成AIとは、膨大なデータのパターンや関係性を学習し、その学習成果をもとに新しくコンテンツを作り出すことができる人工知能(Generative AI)のことです。文字などの入力(プロンプト)によって、文章、画像、プログラムなどを生成することができます。
スマホやPC・タブレットなどで簡単に利用できるため、仕事の効率化やプライベートでの時短・相談など、さまざまな場面で使われる機会が増えています。
生成AIは大人だけではなく、子どもたちの間でも広がりを見せています。小学1年生から学校で1人1台タブレット端末が貸与され、授業や宿題に活用されている今、子どもたちにとっても生成AIは身近で便利なツールとして定着してきていると言えるでしょう。
ただし、便利な反面、判断力が未熟な子どもが使うリスクについて、大人がしっかりと理解しておくことが大切です。文部科学省の「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン」では、小学生がAIを使う際の注意点を次のように示しています。
小学生がAIを使う際の5つの注意点

1. 安全性を考えた適正な利用
ChatGPTをはじめとする主要な生成AIサービスには「13歳以上」などの年齢制限が設けられています。小学生(12歳未満)が個人アカウントを作成して自由に使うことは想定されていません。
家庭や学校で利用する場合は、大人(保護者や教員)のアカウントおよび端末を使い、子どもに任せっぱなしにせず大人の監視・指導のもとで安全に使う必要があります。
2. 情報セキュリティの確保
生成AIに入力したデータは、AIの再学習やサービス改善に利用される可能性があります(利用されるかどうかはサービスによって異なります)。
自分や家族、友だちの本名、住所、通っている学校、顔写真などの個人情報をプロンプト(入力文)に入力しないように親子で話しておきましょう。サービスごとの規約やプライバシー設定(入力データの学習利用をオフにする設定など)を事前に確認しておくことが重要です。
3. 公平性とバイアスへの配慮
生成AIは、真実ではない情報をあたかも正しいかのように伝える「ハルシネーション(幻覚)」を起こすことがあります。また、倫理的・文化的な偏り(バイアス)のある回答をすることもあります。
大人より知識の幅が狭い子どもが、AIの回答を鵜呑みにしてしまうことには危険が伴います。
教科書や図鑑や本、新聞・TVのニュースや、信頼できるウェブサイト等で事実確認(ファクトチェック)を行う姿勢を、保護者の方がお手本となって見せていくことが大切です。
4. 透明性の確保
AIの出した答えをそのまま丸写ししたり、読書感想文、絵画、各種コンクールの作品をAIに作成させ、そのまま自分のものとして提出したりすることは禁止されています。不正を防ぎ、自分の成長のプロセスを残すため、もしも作品制作にAIを使用する場合には「どこでAIを使ったか」を明らかにすることが必要です。
自分の頭で考える場面や創造性を発揮する場面においてAIに丸投げしてしまうと、自ら考える力(思考力)、創造性を高める機会が失われるリスクがあります。
AIは「答えを出してもらうツール」ではなく、自分の考えを深めるための補助的ツールとして使用することが大事です。
5. 著作権への配慮
AIが生成した画像や文章は、他人の著作権を侵害してしまうリスクがあります。有名人だけでなく一般人の顔や既存のキャラクターを無断で加工するのは問題だということを親子で確認しておきましょう。
AIが出力したものを安易に外部に公開・配布しないよう、著作権のルールを守ることも大切です。
このように、AIを活用する際にさまざまな注意点があるということを大人自身もよく理解しておくことが大切です。「リスクがあるから使用を避ける」のではなく、子どもがどのようにAIと適切に付き合っていくかを考えてサポートしていくことが、これからの時代に求められる大人の役割だと思います。
生成AI時代の子育てで大切にしたいこと

「何のために使うのか」をまず聞いてみる
では、家庭ではどのように子どものAI活用をサポートしていけばよいのでしょうか。
まず、AIを使う「目的」を聞いてみましょう。
AIが簡単に使えるようになり、大人もこれまでに経験していない時代を生きることになります。この先の長い人生を過ごす子どもたちが、AIというツールをうまく使いこなして生きていく前提で物事を考える必要があります。
そもそも、なぜAIを使うかというと、最終的には幸せに生きるため、いい人生を送るため。そのために必要なのは、単に生成AIの正しい使い方を学ぶことではなく、子どもが幸せに生きる力を育むことです。
AIに依存せずに自分の意志を持って人生を生き抜いていくためには、主体的に考える力や生きる力を高めていくことが大切です。どんなに便利なツールがあっても、まずは「自分がこうしたい」という意志がなければ、考えることまでAIに委ね、今後生きていくうえで大切な「考える力」を手放してしまうことになりかねません。
「何をやり遂げたいか」「何を得たいか」、目的や目標を考えること自体に意味と価値があります。
そのため、子どもがAIを使う前には、まず「何のために使うのか」「なぜ知りたいのか」を自分の言葉で言えることが大切だと私は考えています。
お子さんがAIを使う際にはぜひ目的や理由を聞いてみてください。
「遠足に行くから、持ち物を少なくして荷物を軽くしたい」
「金魚を長生きさせたい」
など、お子さんなりの理由や目的があると思います。
「肯定的な言葉」で受け止める
小学生の段階では、言葉にする力が未熟な子も少なくないので、答えがすぐに返ってこないこともあると思います。そういうときに急がせたり、親が先に言ってしまったりせず、「沈黙して待つ」ことが大事です。
書くことのほうが得意なお子さんもいるので、紙などに書いてアウトプットしてもらうのもよいと思います。
そして、お子さんが目的について答えられたら、肯定的な言葉で受け止めましょう。
「それを知りたいと思ったんだ、いいね!」
「好奇心があるんだね。すごくいいことだよ!」
などと、知りたいと思った気持ちそのものを認めてあげましょう。「それはダメ」などと大人が否定から入るとコミュニケーションが続かなくなり、お子さんが「自分で考える力」を高める機会を逃してしまう可能性もあります。
AI時代の羅針盤
考える力・生きる力を高める6つの視座
ここで、私が教職員向けの研修などでお話ししている、AIを使いこなし、自らの意志で価値を生み出すための「考える力・生きる力を高める6つの視座」を、子ども向けにわかりやすくした図でご紹介しましょう。

まず、6つの視座の要となるのは、自分の意志です。「〇〇をしたい」「こんな自分になりたい」といった目的や目標です。
そこから、物事を捉えるうえで大切にしたい「6つの視座」を意識してみましょう。
この6つには特に順番はありません。AI時代を生きていくための羅針盤として、考え方や行動のヒントにしていただけたらと思います。
【現実を見る】→画面だけではなく、目の前の様子を見る。
スマホやタブレットの画面を見る時間だけではなく、実際に見たり、聞いたり、触れたり、人と話したりする時間を大切にします。現地へ行く、自然に触れる、料理をする、人の表情を見るなど、AIから得られない「現実そのもの」を味わう経験が大切です。
【未来を描く】→どうなったらいいか、未来をイメージする。
「何が好き?」「やってみたいことは?」「どうなったらうれしい?」と、子どもの夢や願いに耳を傾けます。すぐに「無理」「それは違う」と否定せず、まず受け止めること。自分の願いや未来をイメージすることが、学びや行動の出発点になります。
【人のために生かす】→知ったことや考えたことを、誰かのために使う。
自分が好きなこと、関心を持ったこと、調べたこと、考えたことを、人に話したり、作品にしたり、教えてあげたりする経験を大切にします。自分の知ったことや考えたことが誰かの役に立つと、学ぶことの意味が実感できます。
【本当のことをつかむ】→本当かどうかを確かめて、確かな情報をつかむ。
誰かが言ったから、ネットで話題だから、AIが答えたからと、すぐに信じない姿勢を大切にします。
「本当かな」「事実は何だろう」と確かめること、実際に見たことや一次情報、信頼できる資料を大切にし、何より事実を大切にするという価値観を持つことが、情報を見極める力につながります。
【自分で決める】→最後に決めるのは自分。
親や先生、友だち、ネットの意見を聞くことは大切です。違う意見を否定する必要もありません。しかし、周りの人の意見だけで自分の考えを決めるのではなく、最後は自分で考えて決めます。自分で決めたことだからこそ、難しいことに出会っても、簡単にはくじけずに進もうとする力になります。
【全体を見る】→少し離れて、⾃分と周り、全体を⾒る。
何かに夢中になったり、困った出来事の中にいると、目の前のことだけにとらわれてしまいます。そんなとき、「今の自分はどうなっているだろう」と少し離れて自分を見直します。さらに、一つの出来事だけではなく、周りとの関係や全体を広く見る。この視点を普段から大切にします。
大切なのは、子どもが普段の生活の中で、現実を見て、自分の願いを持ち、確かな情報を求め、自分で考え、決める経験を重ねることです。その土台があれば、AIを使うときにもAIに振り回されにくくなります。
この6つの視座を、ご家庭でお子さんとAIの使い方について考えるうえでの寄りどころとしてご活用いただけたらと思っています。
「AIを活用していいこと」「AIに任せきりにしないこと」の例

実際にお子さんがAIを使う場面で、保護者の方もどのような使い方が適切なのか悩まれることもあると思います。下記に挙げる「活用していいこと」「任せきりにしないこと」の具体例をチェックしてみてください。
【AIを活用していいこと】
〈すべての活用に共通すること〉
AI を使う前に、まず自分で考える・書く・確かめる。
・考えが浮かばないとき、アイデアやヒントをいくつか出してもらう。
・難しい言葉や勉強の内容を、自分にわかる言葉や図を使って説明してもらう。
・「ほかの考え方はある?」と聞いて、自分とは違う見方を知る。
・自分で書いた文章を見せて、「わかりにくいところはある?」と聞く。
・勉強したあと、クイズや練習問題をつくってもらい、理解できているか確かめる。
・たくさんの情報を、項目ごとに整理したり、比べたりしてもらう。
・「この答えの根拠は何? 確かめられるリンク先を教えて」と聞いて、調べる手がかりを得る。
・自分の考えを伝えて、「もっとよくするには?」と相談し、最後は自分で考えて決める。
【AIに任せきりにしないこと】
・宿題や作文の答えを、AIに全部つくってもらってそのまま出さない。
・わからないことがあっても、すぐにAIに聞かず、まず自分で考えてみる。
・AIが「正しい」と言っても、そのまま信じない。教科書や先生、公的な情報などでも確かめる。
・自分の感想や気持ちを、AIにつくってもらわない。「自分はどう感じたか」は自分の言葉で表す。
・友だちとのトラブルや大切なことを、AIの言う通りに決めない。必要なら大人に相談する。
・AIが出した文章を、意味がよくわからないまま使わない。自分で説明できるか確かめる。
・名前、学校名、住所、顔写真、友だちのことなど個人情報を、勝手にAIへ入れない。
・命や健康、安全にかかわることをAIだけで決めない。必ず大人や専門家に確認する。
AI活用の際【思考力・判断力・表現力】を高める声かけのヒント
AIはお子さんが何かしようとしたときに、選択肢を広げたり考えを深めたりする助けとなるものです。
ただし、まだ小学生のお子さんだと、最初からプロンプトによって素早く必要な情報を得ることが難しいため、思うような結果を得られないこともあるでしょう。
ここでは、お子さんをサポートするうえで課題を発見するヒントとなる言葉をいくつかご紹介しておきます。
これらは、AIを活用する際はもちろん、また、日常生活でお子さんが悩んだり、迷ったりしたときのコミュニケーションにも役立つものです。
思考が止まってしまっているとき
現状・状況 …… 「今はどうなの?」
ありたい状態……「どうだったらいいの?」
例えば習い事やスポーツなどで、現状とありたい状態(目標)にギャップがある場合、課題を明確にしやすくなります。
判断に迷っているとき
決め手 …… 「いちばん大事なことは何?」
押さえ …… 「何と何を比べたの?」
「大事なこと」ではなく、「いちばん大事なこと」を聞くのがポイント。選択肢がいくつもあると、やりたいことや目指す状態がぼんやりしてしまいがちです。目的をはっきりさせることで、判断がしやすくなります。
うまく表現できていないとき
目的 …… 「何(誰)のためにするの?」
効果 …… 「それで何を変えたいの?」
目的や効果などポイントを整理することで、子ども自身が「そうだった」と気づき、大事な点に注目して改善していくことにつながります。
これらの声かけを日常的に行うことによって、お子さんが自ら考えて行動する習慣が次第に身についていくでしょう。
AI 時代だからといって特別な子育てが必要なのではありません。AIはあくまで目的を実現するためのツールです。適切に使っていくために大切なのは、現実に触れること、自分の願いを持つこと、事実を大切にすること、自分で考えて決めること。
こうした日々の経験こそが、AI 時代の「考える力・生きる力」の土台になるのです。
この記事の監修・執筆者
プロジェクト学習・ポートフォリオの第⼀⼈者、「意志ある学び」を理念とし、主に教育界・医学界へプロジェクト学習、ポートフォリオ、対話を融合した次世代教育を全国で展開、元・千葉大学教育学部特命教授。未来教育関連の著書は47冊以上。ホームページ:https://suzuki-toshie.net/
【書籍】『DXとポートフォリオで未来教育』、『AI時代の教育と評価ー 意志ある学びをかなえるプロジェクト学習・ポートフォリオ・対話コーチング』。 Gakken「教育ジャーナル」でも執筆。
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