日常生活の中でAIを活用する場面が増えてきた今、学校では、AIがどのように活用されているのでしょうか。生成AIを活用した探究学習について研究している、早稲田大学の田中博之先生にお話を聞きました。
こそだてまっぷ編集部
公立小学校は授業へのAI導入にはいまだ慎重
人気AIサービスとして知られる「ChatGPT(チャットジーピーティ)」/OpenAI社や「Gemini(ジェミニ)」/Google社は、未成年者保護の観点から、13歳以上の使用を推奨しています。
文部科学省が作成している生成AIガイドライン(※)では、AIサービス事業者の利用規約を遵守することを求めており、国内の多くの公立小学校においては、授業で児童が生成AIを利用することに慎重な態度を示しています。
※「初等中等教育段階における生成 AI の利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」
私立小学校では積極的に活用、今後はさらに拡充される見込み
現状では、公立学校の教育を管轄する自治体の教育委員会の中でも、生成AIに関するガイドラインを作成しているところはまだあまり多くありません。しかし、ごく一部の教育委員会では、すでに小学校で生成AIの利活用を条件付きで許可しているところもあります。
また、ICT教育の推進をPRしている一部の私立小学校では、生成AIを積極的に取り入れています。たとえば、音楽の授業で生成AIを活用して作曲をしたり、社会科の授業で児童がAIと対話しながら調べ学習を行ったりといった取り組みがなされています。
一方、数は多くはありませんが、「13歳以上」という利用規約をクリアできる中学2年生から、生成AIを授業で本格的に活用している公立中学校も少しずつ出てきています。
今後は、自治体ごとのガイドラインも整っていき、2~3年後には全国の公立中学校で生成AIが今より活用されることが予想されます。
小学生向けの生成AIもある
生成AIの利用規約を「13歳以上」としているのは、OpenAIやGoogleなどのアメリカの大手企業です。しかし実は、小学生が使用できる生成AIモデルもあります。たとえば、公立小学校の一部でも導入されているのがオーストラリアの「Canva(キャンバ)」。いわゆる“お絵描きソフト”で、授業中に限って、教員の管理の下でのみ児童が使用できます。活用事例としては、運動会等の学校行事の際に、クラスのマスコットやエンブレムを作成するなど画像生成の体験的な学習です。

国産の小学生向けAIプログラムも登場
一方、日本のNPO法人やスタートアップ企業などが国内の小学生向けに各種AIプログラムを開発しており、公立・私立を問わず小学校高学年の授業で活用されている事例があります。
よく知られているのは「みんなで生成AIコース」(NPO法人みんなのコード)。希望するすべての小中高に無償で提供されています(無償提供期間は2027年3月31日まで)。
活用事例としては、たとえば道徳の授業で、教科書を読み、自分の考えをAIに入力すると、AIがそれとは異なる意見を示してくれます。つまり、AIと対話しながら子どもが多面的な見方を学ぶことができるようになっているのです。
「みんなで生成AIコース」は、インターフェース(画面の作り)は子ども向けに作られており、小学生にもわかりやすい言葉遣いで対話できるよう工夫されています。
さらに、子どもがうっかり個人情報を入力したり、誹謗中傷や著作権に抵触するような不適切な文言を入力したりすると、それを防ぐ安全機能も搭載されています。
このように、最近、授業用教材として、小学生でも安心して使える生成AIプログラムが増えてきました。公立校での利用実績はまだそれほど多くはありませんが、私立校を中心に活用が広がっています。
今、重視されている探究学習とは?
近年、学校教育で重視されているのが探究学習です。小学校で「総合的な学習の時間」とされている授業が、文部科学省による2030年度の次期学習指導要領の改訂では、「総合的な探究の時間」と名称を変更する方針が示されています。
探求学習とは、子ども自身が自分で課題を見つけ、仮説を立て、一人あるいはチームで協働しながら資料を調べたり実験をしたりして情報を集め、自分の考えをまとめて表現する学習方法のことです。従来の知識偏重型の学びとは大きく異なる“研究者スタイル”の学びといってよいでしょう。
社会がますます複雑化・多様化する時代を生きる子どもたちとって、探究学習を通して育む思考力や課題解決力が欠かせない力とされているのです。ここでも、AIが調べ学習や考えをわかりやすくまとめるのに大いに活用されることでしょう。
探究学習と相性がよいとされるAIとの対話型学習
探究学習において、AIは、子どもの相談相手、もしくはパートナーとして活躍してくれます。
たとえば、課題を決める際「自分は、こんな感じのテーマに取り組んでみたいんだけど」と、AIに投げかけると「こういう調べ方をしてみたら?」などと漠然としていた課題をより明確にする手助けをしてくれます。
「ここまではわかったけれど、この先は、どのように調べたらいいの?」と聞けば、調べ学習の不十分な部分を補うアドバイスを示してくれます。
また、自分の考えをまとめる際「ほかの意見もあったら教えて」と投げかければ、見落としていた問題点に気づけるアドバイスをくれることもあります。
今やAIが“補助輪”のような立場で人間の能力を高めてくれる時代です。AIと対話しながら深めていく探究学習によって、子どもの主体的に考える力や課題解決力が育っていくでしょう。
個人情報や著作権などの取り扱いには注意
教育現場でAIを活用するにあたっては、注意しなくてはならない点もあります。たとえば、個人情報や著作権の取り扱いに関するガイドラインの遵守や、AIの回答に含まれる誤情報への対策などです。
しかし、今のAIは性能が格段に向上し、安全性が高くなっています。万が一、お子さんが、誤って個人情報やだれかを中傷するような文言を入力しても「これは入力できません」などと示し、受け付けないようにプログラミングされています。もちろん、リスクがゼロというわけではありませんので注意は必要ですが、保護者の方が過度に不安になる必要はないでしょう。

危険なのは、子どもがAI依存になること
最も懸念されるのは、お子さんが「何でもAIに聞けば答えをくれる」と、すべてを丸投げしてしまう「AI依存」になることです。自分で考えたり検討したりすることなく、安易にAIに頼る習慣がついてしまうと、思考力や表現力の低下につながります。そしてAI依存に陥りがちな場所は、学校ではなく「家庭」なのです。
というのも、学校なら、教員が「まず自分で考えてから、AIに聞いてみよう」などとAIリテラシーを指導していますが、家庭ではなかなかそのような対応が難しいからです。
最近は、学校で支給された端末を自宅へ持ち帰ったり、スマートフォンを所有していたりする小学生も多く、保護者の方の目が行き届かない場面でAI依存に陥ってしまう危険性が指摘されています。
子どもをAI依存にしないためには?
子どもがAI依存にならないようにするために、ご家庭では次のようなことに気をつけましょう。
AIは保護者の方といっしょに使うようにする
とくに低学年のうちは「一人でAIを使わない」というルールを決めて、守らせるようにしましょう。保護者の方といっしょに使うことが重要です。保護者の方が見守っていれば、お子さんがAIに丸投げをしていないかどうか使い方をチェックすることができます。
「AIに聞く前に、自分で考えた?」と尋ねる
AIに聞く前に、自分なりの意見を持つことが大切です。「AIに聞く前に自分で考えてみた?」とお子さんに尋ねてみましょう。「まずは自分の頭で考えることが大事だよ」と、お子さんが納得できるように丁寧に伝えることが大切です。
「また、AIに丸投げしたでしょ!」などと怒ると、かえってお子さんが保護者の方に隠れて使うようになるので逆効果です。
「AIに頼りすぎると、自分で考えることができない大人になってしまうよ。まず自分で考えてから、AIに聞くようにしようね」と正しい使い方を教えていきましょう。
保護者の方自身がお子さんの前でAIを使うときも注意しましょう。たとえば、お子さんに「どうして、〇〇なの?」と尋ねられたとします。「AIに聞こう!」とすぐにスマホを取り出す前に「あなたは、なぜだと思う? 」「私は、こういう理由だと思うけどな」などというやり取りも大切です。AIに聞く前に、自分で考えるお手本を見せてあげられるとよいですね。
まず自分で考えてから、AIと対話し、フィードバックをもらって考えを修正したり改善したりしながら、より良い結果へと導くのが探究学習です。この思考のプロセスが、これからの時代に求められる課題解決力の基盤になります。AIを上手に使いこなして主体的に考えることができるお子さんに育つように、ご家庭では保護者の方がしっかり支えていきましょう。
この記事の監修・執筆者
大阪大学人間科学部卒業後、大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程在学中に大阪大学人間科学部助手となり、その後大阪教育大学専任講師、助教授、教授を経て、2009年4月より現職。生成 AI を用いた授業開発に関する研究を行う。『NHKニュースおはよう日本』他、メディア出演多数。学校の最新の状況を詳細に調査した結果に基づくコメントに定評がある。
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