紛争予防・平和構築の第一線で活動される、瀬谷ルミ子さん(認定NPO法人リアルズ(Reach Alternatives)理事長)。
広く雑誌やテレビ番組のモデルやタレントを務め、劇場アニメ『窓ぎわのトットちゃん』では「トットちゃん」役も務めた、現役小学生の大野りりあなさん。
ノンフィクション『戦争は終わらない?武装解除・紛争予防の現場から』(Gakken)の刊行を記念して、世代の異なる二人が「戦争と平和」について考える特別対談を行いました。
本記事をとおして、「平和とは何か」「戦争はなくすことができるのか」を親子で考えるきっかけになればと思います。
文/矢部俊彦
たったひとりの行動でも、点が線になり、面になる

司会:『戦争は終わらない?武装解除・紛争予防の現場から』を読んだ感想を教えてください。
大野りりあなさん(以降、りりあな):特に印象的だったのが、くり返し書かれていた「点が線になり、やがて面になる」という言葉でした。どんな小さな一歩でもいいから、自分だからこそできる行動を踏み出せば、それが「点」になる。それがたくさんの人に繰り返されて「線」になり、そこから「面」になってしくみができて、平和な世界が作られていく。
自分は日本とイランの両方にルーツがある人のひとりです。今、イランは戦争が起きていて危ない国というイメージがあると思うんですけど、それと違って日本はすごく平和な国というイメージがあると思います。その二つの国にルーツがある私だからこそできること、私にしかできないことがあるんじゃないかなと思うんです。
瀬谷ルミ子さん(以降、瀬谷):お読みいただきありがとうございます。これまで、世界の紛争地で元兵士を社会に戻すために武器の回収や職業訓練を行う武装解除という仕事をはじめ、紛争で傷ついた人々への心のケア、紛争を防ぐための地域づくりなど、たくさんの活動を行ってきました。
しかし、それらは地域の人たちが心から望んで、最終的にはその人たちの手で行われていかないと意味がありません。活動のなかで、それまであまり活躍の機会が与えられていなかった地元の女性や子どもなどが、勇気を持って参加してくれるすがたが印象的でした。そうした一人ひとりの行動が大きく地域や社会を変えていくようすを何度もみてきました。
また、りりあなさんが「自分って、この社会、世界の中でどんな立場なんだろう」というところまで引き寄せて考えてくださっているのが、心強いなと思いました。
りりあな:私たち小学生には、自分の手で戦争を止めることはできないかもしれないけど、一人ひとりが自分だからこそできることをやっていって、その積み重ねの先に平和があるんじゃないかなと思います。
スラムのサッカーチームが教えてくれた「選択肢を広げる大切さ」
司会:りりあなさんが特に印象に残ったシーンは?
りりあな:(元ギャングのメンバーで、瀬谷さんの活動に協力し、スラムのサッカーチームのエースストライカーにもなった)ジェームスさんのお話です。自分が経験したことがあるからこそ、その子たちを助けたりサポートができたりというのが、本当にかっこいいなと思って。いつか会ってみたいと思いました。
瀬谷:ジェームスに伝えたらすごく喜ぶと思います。彼と出会ったときは、「あんな奴を巻き込むとトラブルになるからやめたほうがいい」と長老たちや地域の人たちから言われました。でも本人が、「本当は変わりたい」という思いを素直に伝えてくれたので、彼を信じたんです。
自分のことを認めてくれる人がいるんだということを一つひとつ経験していくごとに、彼はどんどんたくましくなっていって。今では、子どもたちの憧れの存在になっているし、ロールモデルになるような振る舞いをすることも自分の使命だと感じているようです。

りりあな:本の表紙も、ジェームスさんが建てたサッカーフィールドの写真ですよね。
瀬谷:そうです、スラムの中の。十代後半から三十歳ぐらいまでの選手が、仕事や学業のかたわら練習していて、チームがつくられた年にケニアの第七部リーグを一位で通過したんですよ。びっくりしました。
テロリストやギャングばかりいる場所のように見られていたスラムで、住んでいる子どもたち自身も「自分たちはそういう立場だ」と思ってしまうようなところだったんです。それが、若い世代サッカーで活躍したことで、新しい生き方や希望の姿が示されました。
それによって「スラムで生まれ育っても、自分たちもそうなれる」と子どもたちが目指す生き方の選択肢が増えた。その地域で生まれ育った若い世代たちだからこそ作りだせた変化だなと思います。
司会:瀬谷さんがよくおっしゃる「選択肢」を広げていくということですよね。
瀬谷:周りにいる人たちの接し方も、すごく大事なんです。長老たちもけっして悪いわけじゃなくて 、その地域を安定させるという使命と責任があるから こそ厳しめに見ていて、不安なことはやめようと止める ことも多いんです。でもそれが、本来なら変われる可能性がある子どもや若者たちの選択肢をなくしてしまっている面もある。
それは、日本とも通じることで。生き方を大人が決めたがることが、その子どもや若い世代の可能性を摘んでしまう場合もあると思います。
りりあな:瀬谷さんが、ちっちゃい頃から他人がやってないことを逆に自分でやろうと思っていたというのも、すごくかっこいいなと思いました。
瀬谷:ありがとうございます。りりあなさんも「自分だからこそできること」と何度もおっしゃっていたのが素晴らしいなと思いました。私自身は、すごく 崇高な理念を持っていたわけでもなく、最初は「人にかなうことはないけど、どうしたら自分らしく生きていけるんだろう」という子ども時代のコンプレックスから積み上げてきたところもあります。否定的な感情も決して悪いものではなくて、自分を追い込まず、どう生かしていくかが大切だと思っています。
紛争地の子どもたちの「将来の夢」って?
りりあな:『戦争は終わらない?武装解除・紛争予防の現場から』を読んで、紛争地にいる子どもたちって、どういう夢を持っているのかなぁと気になりました。
瀬谷:紛争地で「今、何でもいいから手に入れられるとしたら何が欲しい?」と聞くと、「学校に行きたい」という子がすごく多いんですよ。お金でもおもちゃでも食べものでもなく。ふだん食べるものにも困っているのに。その子たちにとって学ぶことができる学校は、自分の将来を作る場なんですね。そこに行きさえすれば、今の生活を変えられる機会があるんだって。

りりあな:「未来に進むための方法」だと、子どもたちが考えているんですね。
瀬谷:まさにそうですね。その先の夢は、教師になりたいという子が多い。学校に通えてない子でも近くの学校を見て憧れたりする。中にはパイロットという子も。 空を見ていると、たまに飛行機が飛ぶのが見えるからです 。まずは身近なものから夢を見つけるんですね。だからこそ、できるだけ多くの「選択肢を作る」機会が大事なんです。
ほかに、私たちの平和活動のリーダーとしての研修を受けたアフリカの若者の中には、警察官になってスラムの責任者になった人もいるし、国会議員事務所で働いてスラムの声を政治に届けている人や、大学で教える仕事に就いた人もいます。はじめて出会ったときは学校にも行けず、争いや暴力が起きる自分たちスラムをどうしたら変えられるのか途方に暮れていたのに、夜間学校に通って頑張った人もいます。
私たちは平和活動の研修に加えて、若者たちに起業や奨学金の支援をして、自分たちで収入を得られるようにもしています。南スーダンでは、路上で生活をしていたストリートチルドレンや避難民の若者たちが、ホテルやレストランで働けるように職業訓練をしました。たまに私たちが見に行くと、職場で「外国人のお客さんまで来るのか」「すごいな」と言われて、誇らしげに、気恥ずかしそうにしていたりとか。
りりあな:すごい!

紛争地で子どもたちに教えられた、大切なこと
りりあな:瀬谷さんが今まで出会った子どもたちから教えてもらった、すごく大切なことってありますか。
瀬谷:今のガザや内戦中のシリアのように、爆弾が日々落ちてくる暮らしの中でも、子どもたちは自分を保つために好きなものやお気に入りのものを何とか見つけて、希望を持って生きようとする力がすごく強いんだなというのは、どこに行っても感じます。
命を失う子も、体の一部を失う子もいて、被害にさらされている子たちがたくさんいる。けれども、新しい弟や妹が生まれて、その子のお世話をするときが癒やされるんだ、とか。食器洗いをして、汚れた食器がきれいになってみんながきれいなお皿で食べられることを想像すると、心に安らぎが生まれる、とか。
ひとときでも戦争を忘れられることを何とか見つけて、生きていきたい、希望を持ち続けたいという思いを日常の中に見つける姿には、いつも心が震えます。

瀬谷:あと、「親を悲しませないようにしなければ」と振る舞う子が多いのも印象的です。紛争地では大人も苦しんでいるので。お父さんが戦争で亡くなって本当は悲しいけれど、それを言うとお母さんが悲しむから、大丈夫なふりをしている、とか。
だから、今ガザで「子どもたちへの心のケア」の取りくみを始めています。子どもへのカウンセリングができる人を増やし、子どもたちが絵やレクリエーションをしたり、あたたかい飲み物やおやつを提供したり、子どもが子どもでいられる場を作っています。
子どもが参加できる平和活動ってあるの?
りりあな:今の世界のことを決めているのは大人だけど、将来の平和を作っていくのは今の子どもたちですよね。だから、「子どもたちのNGO」みたいなユニットを作って、みんながお互いの意見を言い合える場所を作ったら、どんどん平和に近づいていくんじゃないかなといつも思うんですけど。そういう活動って、今も世界であったりするんですか。
瀬谷:りりあなさんのアイデア、とてもいいですね。子どもが参加している活動はたくさんあるけど、参加する度合いが限られているものが多いかもしれないです。女性や若者、子どもが参加する活動も、参加の度合いが重要なんです。たとえば「子どもの権利を」というプラカードを子どもたちが持っているけれど、実は連れてこられて「これ持って、ここに立って」と言われただけで、何のためにそこにいるかも分かっていない場合は、子どもたちが望むことではなく、利用されているだけだったりする。
りりあな:自分の意見はちゃんと言えてないわけですよね。
瀬谷:そう。なのでその場合は、子どもがその場にいたとしても、参加しているとはいえません。りりあなさんが言っていたような、子どもたちが自分たちで「これをやりたいよね」と決めて、目的と、そのために何をしたらいいかを考える。大人は手が足りないところを、子どもから相談を受けたうえで手伝うことに徹する。相談されたら大人は意見は言うけれど、採用するどうかは子どもが決める。そういう関係だと、本当に子どもが自ら取り組んでいることになりますよね。
りりあな:できたらすごいですよね。

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