【イグ・ノーベル賞ってどんな賞?】受賞者・兒嶋朋貴先生に聞く探究のおもしろさ
「なんで?」「どうしてこうなるの?」という子どもたちからの問いかけに、ハッとさせられることがありますね。そのみずみずしい感性や自由な視点が、新しい発見につながることもあるかもしれません。
そんな身近な「こうしたらどうなるだろう?」という発想から生まれた研究が、イグ・ノーベル賞(生物学賞)の授賞につながりました。
今回お話を伺うのは、農研機構(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)の兒嶋朋貴(こじま ともき)先生です。
先生が携わった研究は、「シマウマのシマ模様には吸血昆虫を寄せ付けにくい効果がある」という自然界の現象に着目し、その仕組みをウシの害虫対策に応用したものです。
研究誕生のエピソードやイグ・ノーベル賞受賞の舞台裏、そして先生ご自身の子ども時代の経験を通して、子どもの探究心を育むヒントについてお話を伺いました。
写真提供/兒嶋朋貴先生 文/こそだてまっぷ編集部
「人々を笑わせ、そして考えさせる業績」に贈られるイグ・ノーベル賞
1991年にアメリカで創設された国際的な賞
イグ・ノーベル賞(Ig Nobel Prize)は、1991年、アメリカのユーモア科学雑誌『Annals of Improbable Research』の編集者たちが創設しました。
「人々を笑わせ、そして考えさせる業績(Research that first makes people laugh, then think)」に贈られる、国際的な賞です。
ノーベル賞のパロディとして企画された賞で、一見クスッと笑ってしまうユニークなテーマでありながら、読み解くと「そんな科学的なアプローチがあるのか!」と、深く納得させられる研究が選ばれます。
ノーベル賞に物理学賞や化学賞などの分野があるように、イグ・ノーベル賞にも10の分野がありますが、授賞する研究が選定されてから、贈る賞の分野を決めるため、毎年変わります。
知性とユーモアにあふれた授賞式
イグ・ノーベル賞の授賞式には、世界中から多くの研究者や科学ファンが集まります。2025年まではアメリカで行われ、2026年からはヨーロッパでの開催が予定されています。授賞式には、チケットを購入すれば一般の人も参加できます。また、オンライン配信も実施されます。
授賞式は人々を笑顔にする工夫が盛りだくさんです。まず、オープニングでは参加者がいっせいに紙飛行機を飛ばします。
そして、受賞者へトロフィーを手渡すのは、ノーベル賞を受賞した研究者たちです。
イグ・ノーベル賞受賞者には、コピー用紙に印刷された賞状と、トロフィーという名の奇妙なオブジェ、ウェットティッシュなどが贈られます。
スピーチは60秒
受賞者たちは自身の研究について誇りを持って語りますが、スピーチの時間は60秒で、「笑いを取ること」が求められます。例年、少しでも時間を過ぎると、8歳の「ミス・スウィーティー・プー」がやってきて、「もうやめて! あきちゃったから!(Please stop! I’m bored!)」とスピーチをやめるまで叫び続けます※。
このユニークな演出には、「難しい研究こそ、誰にでもわかるように伝えよう」というイグ・ノーベル賞らしいメッセージが込められています。

2025年の授賞式では、ジャケットを着てスピーチを始めた兒嶋先生に、アブ役の研究チームの人たちが集まってじゃまをしますが、兒嶋先生がスーツを脱いでシマ模様のシャツになると、アブが離れていくという演出で会場を盛り上げました。
※2025年の授賞式では「ミス・スウィーティー・プー」は欠席で、大柄な男性が代役を務めました。
日本は世界有数の「イグ・ノーベル賞大国」
日本人はイグ・ノーベル賞で特に活躍していることで知られ、2025年まで19年連続で受賞しています。
兒嶋先生たちの研究など、近年の主な研究を紹介します。
●「シマウマ模様のウシ」は虫に刺されにくい(2025年・生物学賞)
兒嶋朋貴先生ら
黒毛和牛にシマウマのような白黒のシマ模様を描くと、吸血性の害虫による被害が大幅に減ることを実証した、家畜にも環境にも優しい研究。

●哺乳類も「お尻から呼吸」ができる(2024年・生理学賞)
武部貴則(たけべ たかのり 東京医科歯科大学・大阪大学教授)先生ら
哺乳類が腸(直腸)を通して酸素を吸収できることを示した研究。マウスやラット、ブタで実証され、呼吸不全治療への応用も期待されている。
●「電気の流れる箸」で塩味を強く感じる(2023年・栄養学賞)
宮下芳明(みやした ほうめい 明治大学教授)先生・中村裕美(なかむら ひろみ 東京大学特任准教授)先生
微弱な電流によって食べ物や飲み物の味わいがどのように変化するかを調べ、減塩への応用可能性を示した研究。後に「電気の流れる箸やスプーン」の開発にもつながった。
●ノブを回すときの「最適な指の本数」(2022年・工学賞)
松崎元(まつざき げん 千葉工業大学教授)先生ら
円柱状のつまみを回す際、直径によって人が使う指の本数や動作がどのように変わるかを分析した、デザインや製品設計にも役立つ研究。
●床に落ちた「バナナの皮」はなぜ滑るのか(2014年・物理学賞)
馬渕清資(まぶち きよし 北里大学教授)先生ら
バナナの皮の内側にあるゲル状の物質が摩擦を大幅に減らし、滑りやすさを生み出していることを物理学的に解明した研究。
その他にも、世界中で親しまれているカラオケの開発者である井上大佑さんや、愛犬とのコミュニケーションを目指した「バウリンガル」の開発チームなど、日本発のユニークな発明や研究がイグ・ノーベル賞で大きな話題を集めてきました。
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イグ・ノーベル賞受賞者の兒嶋朋貴先生にインタビュー!

2025年にイグ・ノーベル賞を受賞された兒嶋朋貴先生に、研究について、また、先生ご自身の幼少期の思い出や、家庭で子どもの豊かな好奇心を楽しく育むヒントについて伺いました。
【Q1】ウシにシマウマのようなシマ模様を描くという発想は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。研究の出発点となった疑問や着眼点について教えてください。
和牛繁殖農家さんから、放牧している和牛の吸血昆虫対策について相談を受けました。放牧牛の吸血昆虫対策としては、忌避剤(虫を遠ざける薬剤を使う方法)あるいは捕虫器(虫を捕まえる器材を使う方法)が一般的なので、そのときはそれらの対策に取り組みました。その後も、そもそもウシに吸血昆虫が付着しない良い方法はないかというのが頭に残っていました。
しばらくして、たまたま見たテレビ番組で、シマウマのシマ模様が吸血昆虫を寄せ付けにくいという機能があるという仮説を知り、これは使えるのではないかと思いました。文献を調べたところ、シマ模様の機能はシマウマ特有のものではなく、人工的なシマ模様でも同様の効果を発揮することが示されていたので、ウシに応用すれば効果があるのではないかと考えたのです。
【Q2】実際に研究を進める中で、「これはおもしろい発見になりそうだ」と感じた瞬間や、印象に残っているエピソードはありますか。
シマ模様が吸血昆虫を寄せ付けにくくするという仮説については、私も最初は半信半疑でしたので、本格的に試験を実施する前に白い塗料でシマ模様を描いた黒い牛と、通常の黒い牛を比べる予備試験を行いました。その観察時の印象もそうですし、記録したデータを見ても、シマ模様にしたウシの方が吸血昆虫を追い払う行動が少なくなっていたので、これはおもしろいと思いました。
【Q3】2019年に発表された研究が、2025年にイグ・ノーベル賞を受賞しました。受賞の知らせを聞いたときのお気持ちや、授賞式で印象に残った出来事を教えてください。
非常に驚きました。現実のこととして受け入れられていないという感じでしょうか。ドッキリを仕掛けられているのではと疑うような感覚でした。
授賞式は極度に緊張していたため、あまり覚えていません。
【Q4】先生は研究者として、日頃どのようなことを大切にしながら物事を観察されていますか。「問い」を見つける際の視点や習慣があれば教えてください。
ドラえもんの歌ではないですが、みなさんも日頃の生活で、「こうなったらいいな」、「こんなのがあればいいな」ということがあると思います。その理想と現状とのギャップが、言ってみれば「問い」ということになろうかと思います。
したがって、「問い」を見つけるということにおいて、現状把握のための観察や情報収集が重要ですし、同時に心の中の「のび太」に「どうなったら良い?」と聞くのが大事だと思います。私はそのように考えています。
【Q5】兒嶋先生ご自身は、子どもの頃にどのようなことに興味を持たれていましたか。夢中になっていた遊びや、生き物・自然との関わりなどがあればお聞かせください。
乗り物や動物(昆虫含む)が好きな子どもでした。元気を持てあまして、家の中よりも外で遊ぶのが好きで、近所の友達と虫取りしたり、秘密基地を作ったり、ボールで遊んだりしていました。当時、実家の周りに原っぱや森があってそこで遊んでいたので、生き物や自然と触れ合うことが多い環境だったように思います。
【Q6】現在の研究につながっていると感じる、子ども時代の経験や環境はありますか。
現在、研究で主にウシを対象にしていますが、実家の近くに名古屋市農業センター(現:名古屋市農業センター delaふぁーむ※)があり、子どもの頃によく親や友だちと行っていました。ひょっとしたらその経験が刷り込まれているかもしれません。
※名古屋市農業センター delaふぁーむ
「野菜と家畜」をテーマにした農業公園として、1965年に開設。農業技術の普及と指導に力を入れている。
【Q7】子どもが「なんで?」「やってみたい!」と興味を示したとき、保護者はどのように関わると、その好奇心を伸ばしていけるのでしょうか。
レイチェル・カーソン著『センス・オブ・ワンダー』という本を私はおすすめしています。
「センス・オブ・ワンダー」とは、美しいもの、未知なもの、神秘的なものに目をみはる感性のことであり、その感性によって心が動かされるとおのずとその対象についてもっと知りたくなり、知識が身につくそうです。
では、保護者は何ができるのか。保護者に知識があることは重要ではなく、子どもと一緒に冒険し、「感じる」ことだとレイチェル・カーソンは言っていて、私もそう思います。
大人になるにつれて、経験が増え、新しいことでも過去の経験のどこかに類別してしまうということがあると思います。それはそれで必要な能力だと思いますが(危険回避やパニックにならないためにも)、たまにはさまざまなフィルタを外して「センス・オブ・ワンダー」を思い出す、あるいは磨いて、お子さんといっしょに「センス・オブ・ワンダー」を通じて周りの世界を楽しむのが良いのだろうと思います。
機会がありましたら、本書を読んでみてください。
【Q8】最後に、これから探究学習や自由研究に取り組む子どもたち、そして保護者の皆さまへメッセージをお願いします。
2023年にイグ・ノーベル賞を受賞された宮下芳明先生が「『仕方ない』とガマンしていることが研究テーマです」とおっしゃっていましたが、そのとおりだと思います。Q4の回答でも同様のことを申し上げましたが、“ガマンが必要な”現状と“あったらいいな”という理想のギャップに研究テーマが潜んでいます。そのギャップをどのように埋める(解決する)か、それはその人のアイデア次第。
個人的には、「おもろい!」という解決法を考えるのが好きですが、みなさんも個性を生かして、それぞれが「これはおもろい!」というアイデアでチャレンジしてみてください!
今回は、イグ・ノーベル賞を紹介し、受賞者である兒嶋朋貴先生にお話を伺いました。
ぜひ、お子さんとシマウマのシマ模様の秘密や、身の回りの不思議を深く考えてみてください。
この記事の監修・執筆者
京都大学大学院農学研究科修了。博士(農学)。愛知県農業総合試験場などを経て、現在は農研機構畜産研究部門主任研究員。専門は家畜管理学および行動生理学。牛の心拍数を用いたストレス評価や分娩予測など、スマート畜産やアニマルウェルフェアに関する研究に従事している。2025年には、ウシにシマウマ様のシマ模様を施すことで吸血昆虫忌避効果があることを実証した研究により、イグ・ノーベル賞生物学賞を受賞した。
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