私立一貫校の教員として、私は残酷な現実を何度も目にしてきました。
第一志望に合格したのに後悔してしまう子。
高倍率の受験を勝ち抜いたのに、「深海魚」状態になってしまう子。
彼らは決して能力が低いわけではありません。
ただ、「その子に合わない進路を選んでしまった」それだけなのです。
中学受験は、家族全員で時間もお金も気力も注いで挑む一大プロジェクトです。
にもかかわらず、進学後に後悔してしまうご家庭は後を絶ちません。
私がこの本を書いた理由は、ただ一つ。
「知っていれば防げたはずの後悔」から、あなたとお子さんを守りたいのです。
※こちらの記事は『中学受験に向いてる子 向いてない子』(Gakken)より、一部内容を抜粋・再編集してご紹介しています。
中高一貫校での教員経験や受験本100冊以上から発見したこと

改めまして、谷 咲と申します。
首都圏の私立中高一貫校で専任教員を務め、大学院生時代の講師経験を含めこれまで数千人以上の中高生を指導、クラス担任として保護者の方々とも向き合ってきました。
現在は中学受験に関する情報発信をする傍ら、受験生の保護者の方のお悩みや、ご相談に寄り添うサポートをさせていただいています。
中学受験後の苦しさに悩む生徒、そしてご家庭が抱える深い悩みに向き合う中で、「中学受験」とタイトルにある本はほぼすべて読み尽くし、その業界と関わりのある方々にお話をうかがいました。教育や子育てに関する本も100冊以上、読んできました。そして自身の教員経験を含め振り返り、こう思います。
「受験の成功」は、合否が出る前に決まっている。
そしてこの成功を手にするには、入学後についてどれだけ解像度高く知っているかどうかが大きな鍵である。ここを正しく理解すれば、受験の成功は誰でも、確実に叶えることができる、ということです。
成長を止める代表的な要因は「他者比較・他人軸思考」
一貫校に通う生徒と接して、あることが気になりました。それは、自分自身に自信がなく、他者との比較を強く意識する子が驚くほど多いということです。授業では「失敗したくない・間違えたくない」という気持ちが前面に感じ取れました。定期テストでは「平均より上か下か」という基準をとても大切にしていた印象です。
確かに「失敗しないこと・間違えないこと」は受験において非常に大切です。しかし、その意識が強ければ強いほど、新しいことや難しそうに見えることへの挑戦心が湧きにくくなってしまう子もいます。結果、自分の力を引き上げる機会が減ってしまい、高校受験のない余裕ある6年間のはずが、そのチャンスを活かしきれていない気もするのです。
また、「平均」を気にすることも、受験期を経て身についた当たり前の感覚なのかもしれません。しかし、本来向き合うべきは「昨日の自分」です。「少しでも理解が深まったか」「一問でも多く正解できたか」といった過去の自分との比較は、本来、達成感や「自己効力感(「自分にその状況を乗り越える能力がある」と信じられること)」を育てるものになります。
こうした思考の原因は、受験期の学び方や意識が関係しているといえるのではないでしょうか。「一点でも多く点数を取ること」「偏差値が上がれば成功、下がれば失敗」といった価値観の中では、どうしても結果がすべてのように感じてしまいます。
その延長線上で中学に進むと、失敗しないことが優先されがちになり、慎重さのほうが前面に出て、学びに向かうエネルギーが弱くなってしまいます。中学受験を経て手に入れたせっかくの環境を、伸び伸びと活かせなくなってしまうということです。
子どもよりもまずは親が、中学受験に向いているかを確認する
中学受験はたいていの場合、子どもの意思から始まるものではありません。
「友達が塾に行き始めたから自分も」と、周囲の環境によって中学受験したい、と言い出す子も一部います。しかしほとんどの場合が、「公立では不安」「大学受験が心配… …」といった保護者の方の判断が先にあるのではないでしょうか。
小学生という発達段階では、将来の見通しを持って行動するのは難しいもの。だからこそ、中学受験には親の意向が強く反映されます。
まず前提として、あなたは親として「中学受験に向いている親」といえるでしょうか。次の問いに答えていただきながら、まずはご自身を客観的に見つめてみてください。
(『中学受験に向いてる子 向いてない子』(Gakken)より、一部内容を抜粋してご紹介しています。)
1.中学受験を通して得たいものが「合格」になっていませんか?
「中学受験のプロセスで得られること」に価値を見出せるかがポイントです。これはあるご家庭にとっては「自分で考える力を育てること」、また別のご家庭にとっては「一つのことに打ち込む経験」などのようにそれぞれ異なり、正解はありません。
数字や合否など目に見える結果を重んじるタイプの方は、中学受験を支える親の立場として、その「プロセス」に意味を感じられそうですか?
2.お子さんがあなたの夢を叶える代理人になっていませんか?
「自分が英語を話せなくて苦労したから、英語ができるようになってほしい」「自分が文系だったから子どもには理系に進んでほしい」といったお考えの親御さんは多くいらっしゃると思います。親の経験や価値観は貴重ですが、それをそのまま子どもの教育に落とし込むべきか、は慎重に見極めましょう。
中学受験は、小学生という年齢で挑む、ある種特殊な経験です。その経験がお子さんの気持ちや強みとマッチしなかった場合、子どもにとっては「やらされている感」を強く感じ、学びが「他人のための努力」になってしまうこともあります。
すると受験を終えた後、「目標を見つけられない」「勉強はもうしたくない」といった、誰も望まない中学・高校生活を送ることになりかねません。
「自分は自分、子どもは子ども」という線引きをコントロールすることはできますか?
3.途中で「受験をやめる」判断をできますか?
中学受験は、始めるよりも「やめる」判断のほうがずっと難しいものです。途中でやめたほうがベターな選択肢となり得る場合であっても、「ここまでやってきたのだから、最後までやらなければ」という心理に陥りがちです。
小学生という年齢では、本人の気持ちがついてこないままに続けると、心が先に疲弊してしまい、それが勉強への拒否感や体調悪化の原因となってしまうことがあります。中学受験という「より良い選択肢」として選んだ道が、逆にマイナスに働いてしまうこともあるということです。
お子さんの心の状態に冷静に目を向け続け、必要ならば「撤退」を見極めることはでき
ますか?
上手くいく人だけが知っている「親の在り方」
親として、また現役の教員として、時代に即した教育をアップデートするために、これまでたくさんの本を読む中で気がついたのが、「自分から学ぶ子」を育てる親の習慣には共通点があるということです。
いくつもの本で共通して紹介されていたその共通点とは、「親が日頃から学ぶ姿を子どもに見せていること」でした。
「親の学びと子どもは関係ないのでは?」と思われるかもしれませんが、実は大きな影響があります。
まず、親が普段から学んでいる姿を見ることで、子どもは学ぶことに対する特別感がなくなります。日常の当たり前として受け取る素地ができるのです。
情報発信をする中で、ある受験生の保護者の方からうかがった話です。
「うちでは『勉強しなさい』と言ったことがないのですが、子どもが自然と机に向かうんです。夫が毎日、書斎で読書や書き物をする姿を見てきたからかも、と腑に落ちました」
親の習慣が子どもの行動のきっかけの一因になっているリアルな例です。
また、気持ちの面でのサポートにも役立ちます。学習は積み重ねてこそ結果につながるものですが、その道は平坦ではありません。難しいことに直面することも、頑張っても結果が出ないこともあります。それが続いてしまうと、「今日はやりたくないな」「努力しても意味ないのかな」という思いがよぎることもあるでしょう。
親自身がこの経験をすることこそが、子どもが同じ状況になった時の声かけや対応に活きてきます。子どもに共感しながら、「まずは5分だけやってみようか」「こんな風に考えてみたらどう?」と、気持ちの持ち方や困難を乗り越える方法について、同じ目線で伝えてあげることができるのです。
政府は数年前から、リスキリング(学び直し)の機会を整え、大人になっても学び続けられる社会づくりを進めています。しかし、実際に学び直しを始めた人の割合はまだ多くありません。「学び」というと堅苦しく聞こえるかもしれませんが、新しい知識を得たり、興味のある分野の本を読んだり、日々の仕事に関わるスキルを磨くことも立派な学びです。
受験生のお子さんには適切な声かけも大切です。しかしそれ以上に意味を持つのが「親の背中を見せること」。
親の行動が子どもに与える影響は思っている以上に大きいです。
誰か(世間)にとっての正解は、必ずしも自分やわが子にとっての正解とは限らない
中学受験のゴールは、合格ではありません。
「合格」は学校生活のスタートラインに並んだところにすぎず、むしろ入学してからの6年間こそが本番となります。
そもそも中学受験の成功とは、いったい何を指すのでしょうか?
「本当の成功」とは、中高6年間を充実して過ごし、豊かな人生を切り拓いていく力を身につけること。
しかし、この「受験の成功」の本質を取り違えてしまい、親子ともに中学受験がネガティブな経験になってしまう。私はその現実を、延べ数千人以上の生徒と保護者とのつながりから見てきました。
中学受験はそのプロセスを通して得られるものも大きいため、向いている子にとってはポジティブな経験となります。
しかし、問題は親も子どもも「中学受験向きでない」場合。漠然とした不安から受験に踏み切り、嫌々取り組まねばならない状況は、深刻な勉強嫌いやストレスにつながり、ネガティブな経験として植え付けられかねません。
自分を育ててくれ、愛情を持って接してくれる親が「やる」と決めたら、子どもはその判断に従うでしょう。
だからこそ親自身が、中学受験に対して、お子さんに対して、そして自分に対して理解を深め、「受験する・しない」を冷静に見極めていただきたいと思います。
この記事の監修・執筆者
中学校・高等学校教諭専修免許状(英語)保有。大学院修了後渡英し、英語教授法を学ぶ。
帰国後は2つの有名私大附属の中高一貫校で専任教員として10年間勤務。延べ数千名以上の中高生を指導。中学・高校クラス担任、留学生クラス担任、部活動顧問、学校広報などの分掌を担当。不登校や学力不振による進路変更への対応をする中で、「第一志望校に入学しても失敗だったと悔やんでしまう」「難関校や人気校に入学しても受験して良かったと思えない」といった生徒と家族の姿に直面。「中学受験の経験を財産に、充実した6年間を過ごしその後も活躍し続ける」、そんな“受験の成功”を一人でも多くの受験生にとの思いで、受験生の親向けサポートを開始。音声配信メディアVoicyでも日々放送を行う。実用英語技能検定1級取得。二児の母。『中学受験に向いてる子 向いてない子』(Gakken)が発売中。
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