【これってウィンターブルー⁉】精神科医が伝える 冬に起きる心身の不調とその対策

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冬になると1日、体がだるくて、眠くて、食べ過ぎてしまって、そして、ついお子さんや家族にイライラで当たってしまい、辛くなったりすることはありませんか?
これらの不調は、もしかしたら「ウィンターブルー」が原因かもしれません。
しかし、目には見えないものですから、必要以上に自分を責めてしまったり、周りから怠けていると思われてしまったり、正しく受け止めることができていない場合が多くあるといいます。
そこで今回は、愛知県名古屋市にある、あらたまこころのクリニックの院長であり、精神科医である加藤正先生にウィンターブルーとの“よりよい付き合い方”について詳しくお聞きしました。

お話/あらたまこころのクリニック・院長 加藤 正先生

目次

「ウィンターブルー」って何⁈

冬が近づくと、食べたくなり、眠くなる“季節性のうつ病”

秋から冬にかけて、このような症状が見られる方はいないでしょうか。

●気分がうつうつと落ち込む
●人と会いたくなくなる
●やる気が出ない
●体が怠い
●甘いもの(特にチョコレートや菓子パンなどの炭水化物)が無性に食べたくなる
●眠くて朝に起きられない
●日中も眠気に襲われる

ウィンターブルーとは、秋から冬にかけてうつ傾向・過食傾向・過眠傾向が見られ、そして、春になるとこれらの症状が回復する、季節型の反復性うつ病といわれています。

実は、ウィンターブルーの患者さんに限らず、私たち大人も子どもも、冬になると、誰でもこのような傾向に陥ってしまう可能性があるのです。

「日光を浴びなくなる」ことが、ウィンターブルーを引き起こす

では、どうしてこのような不調が起きるのでしょうか?

秋から冬にかけて、曇りの日や雪の日が多くなり、日光を浴びることが少なくなることによって、脳の心身を安定させるホルモンのバランスが大きく変化してしまうことが原因といわれています。

「ハッピーホルモン」が減少

「ハッピーホルモン」と呼ばれるセロトニンという物質が生成されにくくなってしまいます。

セロトニンとは、心と体のバランスを整える伝達物質で、光を浴びたり、ジョギングなどの運動をしたりすることで増加するといわれています。
セロトニンがあると、

●クヨクヨしにくくなる
●意識がすっきりとする
●喜びや楽しさを感じる
●体を活動させようとする
●痛みを抑える

といった作用が期待できる、不可欠なホルモンなのです。

しかし、冬の日照量の低下により、このセロトニンが体内で顕著に減少してしまいますから、なんとか健康な状態を維持しようと、脳から指令が出ます。

その結果、無意識のうちに、甘いものを食べてセロトニンを摂取しようとしたり、睡眠をたくさんとってエネルギーを蓄えようとしたりと、体に変化が生じるのです。

「ダークホルモン」も不足

そして、夜を伝える「ダークホルモン」と呼ばれるメラトニンも不足してしまいます。

メラトニンとは、体内時計を規則的に整え、私たちを睡眠へ導く働きをするホルモンです。

メラトニンは、朝、目に光が入ることによって分泌が一度止まりますが、それをきっかけに約15時間後に再び分泌が始まり、睡眠へと導いていく働きがあります。

しかし、十分に日光を浴びることができないと、メラトニンがしっかりと分泌されず、体内時計が狂い始めてしまいます。

たとえば、朝7時に起きていても、8時まで遮光カーテンで真っ暗な部屋にいたとすると、メラトニンは15時間後の23時に分泌され始めるので、体内時計が1時間分ずれてしまうような影響力をもっています。

ですから、朝に起きることができなくなってしまったり、日中に眠くなってしまったりするという不調が起こりやすくなってしまうのです。

つまり、誰にでもおこりうるのがウィンターブルー

「過食が止められないのは、自分を甘やかしているからだ」「朝になかなか起きられないのは、うちの子の意志が弱いからだ」というように、自分自身やお子さんを過剰に責める必要はありません。

しかし、この不調を放置しておくと、生活リズムが乱れてしまい、うつの傾向が強まってしまう可能性も。

これらのメカニズムを知り、自分でメンテナンスできると、これらの不調に振り回されず、自信をもって生活していけるはずです。

セルフチェックしてみよう!

では実際に、ウィンターブルーの傾向があるかどうか、お子さんといっしょに診断してみましょう。

以下に示すのは、SPAQ(Seasonal Pattern Assessment Questionnaire)という季節性のうつ病をチェックするスクリーニングテストです。A~Fの6つの項目について、どのくらい変動しているかをチェックし、合計点を割り出してみましょう。

●7点以下…季節による変動が正常範囲内
●8~11点…ウィンターブルーの前段階
●12点以上…ウィンターブルーの可能性がある

とされています。このテストはあくまで目安ですが、自分の状態をよく知るためのひとつの手段として、ぜひ活用してみてくださいね。

子どもといっしょに解消! 4つのウィンターブルー対策

《その1》起きたら、窓辺で朝日に当たろう!

親子で意識的に、朝日に当たる時間を5分でもつくることは非常に効果的です。屋外はとても日射量が多いので外に出て日光に当たるのがいちばん効果的ですが、冬は寒いので窓際でもOK。自宅内や職場をなるべく明るくして過ごすことも効果があります。

ポイントは、太陽のほうに目を向けるということ。
しっかりと目の中に光が入り、脳内が刺激されてセロトニンが分泌されるからです。

しかし、セロトニンは体内に貯蔵することができませんから、毎日補給しないと減ってしまいます。つまり、その日のセロトニン分泌量で、その日のコンディションが決まってしまうのです。

ですから、たとえば日曜日に一気に光に当たるのではなく、毎朝、コツコツ続けることが大切といえますね。

《その2》食事の栄養バランスも心がけて

光の刺激だけではなく、バランスのよい栄養をとらないとセロトニンは増えません。そこで大切になる栄養分が、セロトニンの材料になる、アミノ酸のひとつ「トリプトファン」。

これは、主に、
●卵
●チーズ
●豆乳
●バナナ
●肉、魚

に多く含まれています。ですから、朝食に加えてみるのもオススメ。
(ちなみに、より効率的な吸収や利用を促すには、ビタミンやミネラルも大切なので、「緑黄色野菜」や「フルーツ」などを併せても◎

また、炭水化物は、ウィンターブルーにとって手放せない悩みの種ではあるのですが、炭水化物を食べると気分が元気になることも確かです。実は、脳内のセロトニンを増やしてくれる作用があるからです。ですから、炭水化物も適度な量をプラスしつつ、バランスのよい食事を心がけましょう。

《その3》起床&就寝時間を決めて、規則正しい生活を

ウィンターブルーの発生には「体内時計」の乱れも深く関係しているといわれています。

しかし冬は、朝日が昇るのが遅く、日が沈むのが早いため、まるで「時差ボケ」に近いような状態になってしまいがち。せっかく、朝日を浴びたり食事に気をつけたりしても、不規則な生活をしていては、いつまでも体内時計は狂ったままです。

また、大人は多少生活リズムが乱れてしまっても、なんとか社会に適応していく方法を学習していますが、子どもにはまだ適応能力がありませんから、もろに影響を受けやすいのです。

ですから、おおよその就寝時間・起床時間をしっかりと決めて、規則正しい睡眠のスケジュールを過ごすことも、とても重要になってきます。

《その4》「小さなほっこり」を少しずつプラスして

私たちの脳は、いきなり「やる気」が出てくるようにはできていません。
特に、うつ病のように元気がないときほど、そうです。

ですから、少しずつ、可能な範囲で活動量を増やしていくことが大切

そのための工夫の仕方に、うつ病の治療法のひとつとされている、「行動活性化」というものがあります。

労力やお金もかからず、やるぞ! と頑張らなくてもできて、それでいて、「少し気持ちがほっこりする」、「少し楽しくなる」ような行動を重ねていくことで、脳のやる気スイッチを入れていく、というのが行動活性化。

この、「少し」、というのと「ほっこりする」というのがポイント。「○○をして、やる気を出して頑張ろう」と肩に力を入れず、遊び心を忘れないことが大切なのです。
例えば、

●昔、好きだった音楽、ミュージシャンの曲を聴く
●トイレに日めくりカレンダーを飾ってみる
●お気に入りのカップでお茶を飲む
●少し高価なお茶を飲む
●ペットの写真を飾ってみる
●事情を打ち明けている友達に「おはよう」などとメールをしてみる

など、なんでもよいのです。30個くらい書き出しておいて、今日はコレ、といったように自由に選んで、小さなほっこりを楽しんでみましょう。

また、日本は、秋から冬にかけて、ハロウィンやクリスマス、お正月など、特にイベントが多くあります。 こうした楽しみをうまく組み込んで、お子さんといっしょに計画してもよいですね。

加藤先生からのメッセージ

冬は、大人も子どもも、みんな脳内がセロトニン不足になっているので、無意識に自分やお子さんを責めてしまったりして、気持ちが不安定になりやすい時期です。また、小さいお子さんをもつママパパさんは特に、子育てに仕事に、どうしても不規則な生活になってしまいますよね。

しかし、ウィンターブルーは、周りから「怠け」「甘えている」と誤解されがち。悲観的になったり、イライラしたり、不安が多くなったり、家族内で衝突してしまったりして、「自分はダメな母親だ」と自己嫌悪に陥り、ママさんがうつになって家族関係がこじれることも。

でも、とにかく自分を過剰に責めないこと。

なぜなら、このウィンターブルーは、“数十万年前の人類の歴史で備わった、命を守る「生き残り」のための、脳のシステム”だから。人間は機械ではなく、植物や動物と同じ生き物で、冬の活動量が低下してしまうのは、いたって自然なこと。

だからこそ、まずは今、自分の目の前にあることを大切にして生活してみてください。お子さんとの関係や、家族の時間、自分の時間がよりよいものになるはずです。ウィンターブルーとはどんなものなのかを知った今、もう一度、親子で“冬の暮らし”を考えてみてはいかがですか?

この記事の監修・執筆者

あらたまこころのクリニック 院長 加藤 正

精神科、心療内科医。薬に頼りきらない治療をめざしている。名古屋市立大学医学部を卒業。岐阜県立多治見病院精神科、名古屋市立大学病院臨床研究医、八事病院での経験を経て、1991年にあらたまこころのクリニックを開業。2019年には、日本うつ病学会の下田光造賞を受賞している。精神科医として38年の経験をもち、うつ病、不眠症、パニック障害、社会不安障害を治療するプロフェッショナル。

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