
「うちの子、なかなか言うことを聞いてくれないんだけど……」
育児本やネット記事、動画などから子育て情報を入手していろいろと試してみても、子どもはそう簡単には大人の思い通りに動いてくれません。
『3日で自発的に動く子になる! 信頼声かけ』(Gakken)では、小児科看護師であり育児アドバイザーでもある下村弥沙妃氏が、これまで15年間で1万人以上にアドバイスし、実績を積んできたことを基に「うまくいく声かけ」を研究、そして実際に使ってうまくいったものを集めて紹介しています。
今回は、その中から「長時間ゲームをする(スマホを使う)子どもへの声かけ」と「学校に遅刻した子どもへの声かけ」を抜粋してご紹介します。
ダメな声かけの例と正しい例を比較して、ダメな理由と正しい理由も解説しています。
「えっ、この声かけ、ダメだったの……!?」とショックを受けることがあるかもしれませんが、ぜひ一度“正しい声かけ”を試してみてくださいね。
従来の声かけの2大問題点

育児では、声かけに注目することは、以前から行われてきました。ただ、従来の声かけ
で課題になっていたことを、私なりに分析したので、簡単にご説明したいと思います。
まずは、「子どもに、いかにその気にさせるのか」に終始するものが多かった気がしま
す。
「おやつやおもちゃなどをごほうびにする」は、よくある話。実は子どもは、そんな簡単にだまされませんし、何度も続きません。ごほうびがないとしなくなったり、しまいにはごほうびがあってもしなくなったり、子育てとしては不健全だといわざるを得ません。おもちゃなどを用意する必要があり、金銭的にも続けられる方法だとは言い難いでしょう。
その他では、どう言いくるめるか。つまりは子どもをいかに論破するかに焦点が当たっていた気がします。十分に納得しないまま親の言いなりになった子どもは、その行動を継続できませんし、親子関係も悪くなる一方です。
実際にいくつか、私が疑問に思った声かけの例を出してみましょう。
例)朝なかなか起きない子どもに
「10数えるうちに起きないと、くすぐっちゃうぞ」
⇒ 根本的な解決につながりません。いつまで経っても自分で起きるようにならないばかりか、朝自分で起きなければ親に構ってもらえるという間違った認識と経験を積むことにもなります。そうなった時、朝の忙しい時間に毎日これをやる余裕が親にはあるでしょうか?
例)自分でできるのに、やりたがらない子どもに
「今日だけはやってあげるね。次は自分で頑張ろう」
⇒ 自分でやらなければ、文句を言われながらも親は自分に構ってくれるという、誤った認識と経験を積むことになります。裏を返せば、自分で何でもやれると親は構ってくれなくなると認識し、自立から遠ざけることになりかねません。
例)友だちに嫌なことをされたのに、仕返ししなかった子どもに
「仕返ししなくてえらいね。ママも嬉しいよ」
⇒ 子どもの気持ちに全く寄り添おうとせず、仕返しをしないことが正しいという親の決めつけで評価する、典型的な間違った対応の例。この親に育てられた子どもは、大人の正解を探すことがうまくなり、自己表現ができなくなります。
以上から、従来の多くの声かけの問題点としては、次のように考えられます。
▪その場しのぎで根本的な解決にならない
▪実用的ではない
▪保育現場では有効でも、家庭向きではない
▪親の誤った価値観を子どもに植えつけている
▪既に頑張っている親に寄り添っていない
▪親の気持ちが置き去りになっている
一方で、私の目指す声かけは、次の通りです。
▪ 親に寄り添う
▪ 親が選択の連続の中で、ベストな方法を探し続けて今日があることに理解を示す
▪ 親子で自己肯定感アップ!
▪ お金がかからない
▪ 道具がいらない
▪ 場所を選ばない
▪ とにかく、ラクに! 楽しく!!
▪ 誰も犠牲にならない
▪ 信頼構築をベースにした子育て法
「信頼関係を作る→お願いを伝える」の順番が超大事!

私がここまでなぜ自信を持って言い切れるのか? それは、従来にはない方法を取り入れているからです。
それは「親子間で信頼関係を作ることから始める」ことを第一にしている点です。
そのために声かけを効果的に使うのです。ですので、本書で推奨する信頼関係構築のための声かけを、本書のタイトルにもしていますが「信頼声かけ」と呼ぶことにしました。
信頼関係さえできてしまえば、子どもは面白いほど親の言うことを聞いてくれます。本書でも何度も触れていますが、この「信頼関係構築から入る」という順番がすごく大事なのです。
いきなり正論をぶつけても、子どもは、というより相手が大人であっても、なかなか話を聞いてくれません。でも信頼関係さえあれば、聞く耳を持ってくれるのです。
たとえば、子どもが宿題をなかなか家でしてくれないというのは、本当によくあるシーンかと思います。そんな時、子どもにどんな声かけをするのか? もしかして、こんなことを言ってませんか?
「宿題が終わるまで遊びに行ってはいけません」
「宿題が終わるまでおやつは抜きよ」
実はどちらもNG。
正解は「宿題はおやつの前にする? 後にする?」となります。
子どもに対して「あなたには、自分で選択する能力も、それを実行する能力もあると信じているよ」という信頼を伝えることで、子どもは勇気づけられ行動に移すことができるのです。
こちらの例については本書で詳しく解説していますので、気になる方はぜひ『3日で自発的に動く子になる! 信頼声かけ』(Gakken)をご覧ください。
小児科現場での経験、複数の資格を通じて得た知見を総動員

そもそも、なぜ私が声かけに注目したのか、お話ししたいと思います。
元々小児科の看護師として、長年現場で働いてきました。私のような看護師のほか、医師や親の言うことをなかなか聞いてくれない子どもをどうするかを、専門知識も活用しつつ現場で実践してきました。
専門知識として、いろんな勉強をし、資格を取得したりしてきました。
資格としては、看護師はもちろん該当しますが、他にも「児童発達支援管理責任者(令和四年基礎研修)」「強度行動障害支援者」「チャイルドマインダー」「メンタルトレーナー」「食育インストラクター」「STEPリーダー」「AVATARAカラーセラピスト」「HSPカウンセラー」。
一見するとあまり関係なさそうなものもあるかもしれませんが、資格取得を通じて得た知見は、いずれも育児にも使っています。
現在は、株式会社マインドプラスアカデミーode代表取締役を務める傍ら、一般社団法人保育福祉サポート協会統括主任として、発達支援を必要とする子どもとそのご家族のサポートも行っています。マインドプラスアカデミーodeでは育児セミナーを中心に、「子供から大人まで、心と体の健康をサポート。なりたい自分になるお手伝い」を掲げた活動をしています。
長時間ゲームをする(スマホを使う)子どもへの声かけ

ゲームやスマホの問題。近年の子育てお悩み件数のトップ3に入ります。
今やすっかり生活に密着し、持ち始める時期の平均年齢も年々低年齢化しているようです。私たち親世代が、子どものころとは違う生活環境にどう対応したらいいか分からない、というのが本当のところでしょう。
ゲームやスマホに関しては、「賢く利用する道具」として捉えるようにしましょう。「悪」と頭ごなしに決めつけて、遠ざけようとしていませんか?
確かに、使い過ぎると様々な悪影響を与える研究結果もありますので、子どもが自由に好きなだけ使うことは見過ごすことはできません。でもこれは、ゲームやスマホに限ったことでしょうか? 例えば嗜好品や食事や趣味なども同じですが、何事も適度にバランスよく取り入れれば、体や心の健康に大いに役立ち、暮らしを豊かなものにしてくれます。
ですから、快適な生活を彩る道具として扱うことが大切ですよね。ゲームやスマホも同じです。生活を快適なものにする道具として扱い、さらには正しく使う「責任」を学んでいくものとして、子どもと根気よく関わっていきましょう。
×「いい加減にやめなさい!」「ゲームばかりしてないで勉強しなさい!」
使い続けてやめる気配がない様子を見ていると、こうも言いたくなりますよね。中には、何度言ってもやめないから、取り上げてしまうという方もいらっしゃるでしょう。
でもその前に、一旦冷静になってください。ゲームやスマホに夢中になっている時に、突然こんなふうに怒られたり取り上げられたりしたら、子どもはどんな反応をするでしょうか?
きっと、親への不信感や不満が募ってしまうと思いませんか? そうなってしまっては、良い親子関係を築くのは難しくなってしまい、この問題を効果的に解決することも困難になってしまいます。
そこで、次のような声かけをしてみましょう。
〇「どのくらいゲームをしたら(スマホを使ったら)満足できそう?」
これまでの親の対応や学校での学びから、長時間ゲームやスマホを使うことが良くないということを、子どもは分かっています。
それでも長時間使い続けてしまうのは、自分をコントロールできない未熟さ故なのです。だからこそ、ゲームやスマホを「自分をコントロールするトレーニングの道具」として利用していきましょう!
その取り掛かりとして、この声かけはとても効果的です。
学校に遅刻した子どもへの声かけ

入学をすると、家庭で過ごしていた時と比べて親子の関わりが少なくなります。社会デビューの第一歩であり、子どもが家庭から離れて自立へ向かう練習が始まります。子どもはどんどん自分の世界を広げていきますし、親にとっても、家庭と子どもを切り分ける一種のトレーニングになります。
親の目が届かないシーンでの子どもの活動に、親は心配になったりするものです。自分の目で確かめられない分、子どもから聞く話を元に、間接的な助けが必要となることも増えます。だからこそ、より親子の信頼関係を深められる関わりが必要になるといえるでしょう
子どもが何事もなく時間通りに登校してくれたら、親は安心して一日を始められます。しかし子どもが遅刻をすると、親のほうがソワソワしてしまうことがあります。
でも、ピンチはチャンス! 遅刻をすることで得られる学びがありますから、親はそこに注目しておおらかに対応していきましょう。
×「明日からは遅刻をせずに学校に行きなさい!」
この対応は、親の一方的な価値観で、遅刻した子どもを否定してしまっています。万が一子どもが遅刻したことを反省していたとしても、親にこう言われたら素直に反省する気持ちも失せてしまうでしょう。
同じような経験、あなたにもありませんか?
〇「遅刻をして困ることはなかった?」
遅刻をして困る経験を、はっきり認識させる声かけです。
自分の「遅刻をしたという行動」から生じた結果(怒られた。授業が分からなかった。気持ちが焦ったなど)を子ども自身にしっかりと感じ取らせ、行動を改めるきっかけを作ってあげましょう。
そして、子どもから遅刻をしたことで困ったという経験を聞いた時、「それは大変だったね」とだけ答えてください。もし「特に困ることがなかった」と子どもが答えた場合は、「そうなのね」と、にっこり答えるようにしましょう。遅刻から学ぶ機会は、またこの先に訪れるかもしれないと、おおらかな気持ちを持つようにしてください。
ラクして楽しく! 1年で長男が灘中、次男が滝中に合格
いざ我が子を授かった時に強く思ったのが、「とにかくラクして、世界一楽しいと思える子育てをしよう!」。そうなった時に、うってつけの道具が声かけだったのです。
私には息子が二人いますが、長男が灘中に1年で合格、次男は滝中に合格しました。二人とも中学受験を目的にずっと勉強ばかりしてきたわけではありません。
長男はエレクトーンに夢中になっていて、本格的に志望校を目指して勉強を開始したのは受験1年前になってからでした。次男なんてむしろ、勉強が本当に嫌いでした。私は決して勉強を押し付けたわけではなく、むしろ、「勉強しなさい」と言ったことはほとんど記憶にありません。したことといえば、本当に声かけ程度だと思います。私や夫がスパルタ教育をしていたわけではなく、二人とも自らが目標を設定して受験を希望しました。
普段の会話も少し工夫はしましたが、それは月に1回くらい、簡単な会話をした程度。そどの家庭でも、どのお子様でも、簡単にできることです。
繰り返しになりますが、本書で取り上げている声かけは、根底に「子どもを信頼するところから始めて、親子で強固な信頼関係を構築し、その上で正しい行動や考えに、子どもを導く」としています。
本書を読み進めることで、その考えがどんどん身に付いてくるはずです。そうなればしめたもの。紙面に限りがある都合で今回取り上げていない場面に遭遇しても、この考えが身に付いていれば、自然と正しい声かけができるはずです。
本書の「信頼声かけ」を通じて、一つでも多くの家庭、さらには学校や幼稚園・保育園、小児科をはじめ子どもを預かる施設全般で、大人と子どもとのコミュニケーションが円滑になり、子どもが自己肯定感を高くして自立し、あらゆることに挑戦していくように育つことを、願ってやみません。
3日で自発的に動く子になる! 信頼声かけ
子どもは論破しても動いてくれません。信頼関係ができれば、希望通りに自走してくれます。
「お金のかからない子育て」の正解がすべてこの1冊に!
1年で長男を灘中、次男を滝中に合格させ、
15年間で1万人の親に指導してきた小児科看護師が教えます。
これで勉強(宿題)、身支度、片付け、食事、習い事をしっかりこなし、
ゲーム、スマホから遠ざかり、ケンカや浪費をしなくなります。
◎目次
【第1章】宿題
【第2章】勉強
【第3章】ゲームやスマホ
【第4章】食事
【第5章】身支度
【第6章】片付け
【第7章】睡眠
【前半を終えて】1カ月1回の夢を共有する会話で、子どもはさらに夢に向かって行動していく!
【第8章】学校生活
【第9章】小遣い
【第10章】習い事
【第11章】きょうだいゲンカ
【第12章】反抗期
【第13章】トラブル
この記事の監修・執筆者

1977年、三重県生まれ。看護学校卒業後、大学病院の小児科病棟へ就職。勤務経験から、健康状態や環境に左右されない「心の作り方」が大事であり、そのカギを握るのが親子関係だという確信を得る。そこで理想の育児を徹底的に学ぶべく数々の資格を取得。2011年より自己肯定感を高める育児セミナー、カウンセリング、育児相談を開始。評判を呼び、口コミだけで最長2年半待ちのセミナーとなる。
2020年に長男がエレクトーンと両立しながら1年で灘中学に合格。しかも入試2か月前のエレクトーンコンクールではセミファイナリスト入賞を果たす。そのやりたいことをしながらも最難関校に合格させたノウハウは幅広い層の親たちに衝撃を与え、さらにセミナーの問い合わせや相談が増えている。次男も難関校の滝中学に合格。
現在までに、育児セミナー、個人セッションのほか、公立中学校PTA研修講師、公立小学校特別授業講師、児童発達支援事業所専属心理士など、これまで1万人以上の心身の健康をサポートしている。メディア出演も多数。
『3日で自発的に動く子になる! 信頼声かけ』(Gakken)が発売中。
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