【その子育てはサービス過剰?】子どもの主体性を取り戻す「3つの問いかけ」とは[工藤勇一先生監修]

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【その子育てはサービス過剰?】子どもの主体性を取り戻す「3つの問いかけ」とは[工藤勇一先生監修]

教育を取り巻く環境はここ数年で大きく変わり、リモート授業、AI型教材、生成AIなど、教育関係者ですら10年前には想像できなかった新しい学び方が次々と登場しています。
今の子どもたちが社会に出る10年後や20年後、どんな働き方をし、どんな生活を送っているのか誰も予測できません。
子どもが自分で考え行動できる自律した大人に育つには、どのような教育が必要とされているのでしょうか。
2014年から2020年3月まで務めた千代田区立麹町中学校では、宿題の廃止・定期テストの廃止・固定担任制の廃止など、数々の教育改革を行ってきた教育者として全国から注目される工藤勇一先生監修の「教育について工藤勇一先生に聞いてみた」(Gakken)から、一部内容を抜粋・再編集してご紹介します。

目次

学力があっても、大人になると勉強をやめるのが日本

15歳の時点で学力が高くても、大人になると勉強をやめてしまうのではよい話とは言えません。

世界中の教育関係者が議論を尽くしてまとめたOECD「ラーニング・コンパス2030」(※1)では、これからの教育の目的は「個人及び社会のウェルビーイング」としています。ウェルビーイングとは、簡単にいうと「幸せな状態」のことです。です。それを実現するためには、生徒のエージェンシー(主体的に変化を起こす力)が欠かせないとしています。

さらに、エージェンシー獲得のために必要なコンピテンシー(資質・能力)として、

①責任ある行動をとる力

②対立やジレンマを克服する力

③新たな価値を創造する力

の3つが挙げられています。

「ラーニング・コンパス2030」において、学力(認知スキル)はこの3大コンピテンシーを身につける手段のひとつという扱いにすぎません。社会のつくり手を育てるには、数値では表せない非認知スキルが重要であるからです。

しかし、日本の教育界はいまだに認知スキル重視で動いています。たとえば日本でよく話題になるOECDのPISA(※2)。日本はランキング上位の常連でわずかな順位変動で一喜一憂するわけですが、そもそもP I S Aは各国の「15歳時点の認知スキル」を調べているだけで、各国の教育制度を総合的に評価するものではありません。

日本を含む、極端な学歴社会である東アジア諸国のように、子どもに無理矢理勉強させれば学力が上がるのは当たり前。その結果、失われているものはこのランキングでは表れません。無理やり勉強をさせることで失われるものは探究の時間、心理的安全性などいろいろありますが、致命的なのが学びに対する主体性です。それさえあれば必要なときに自分の意思で勉強するのに、子どもの勉強に大人が干渉しすぎることでそれが奪われる危険があります。

それを象徴するのが、2022年にパーソル総合研究所が行った大人の学習習慣の調査です。上の棒グラフにあるように、日本人の大人がいかに勉強をしないかがはっきりと示されました。
学力向上が目的と化した結果、勉強しない大人が増える。これが正しい教育のあり方なのか再考が必要だと思います。

(※1)ラーニング・コンパス2030 …「OECD Future ofEducation and Skills 2030」プロジェクトの最終報告書の1つ。2019年に発表され、教育の指針が示された。

(※2)PISA …国際学習到達度調査。2002年度から実施の一斉詰め込み型教育からの脱却を目指した教育改革(通称「ゆとり教育」)も、PISAの順位低下が原因で頓挫した。


従来の「教育の成功モデル」が通じない時代へ

多様化した現代社会において、これをしておけば成功というものはありません。自分で未来を切り拓けるようにする必要があります。

子ども時代は自分の興味を探求したり、遊びを通して社会を学んだりする貴重な時間です。その時間を犠牲にして塾に通い、高偏差値の学校に入り、大企業に就職して安定した生活を送る。これが日本では長らく「教育の成功モデル」だったわけですが、さまざまな前提が変わりつつあります。

そもそも日本で「一流大学から一流企業へ」という進路が成功とされてきたのは、日本企業が強かったから、年功序列と終身雇用で安定した生活が約束されていたから、選考時に学歴が重視されたから、といったそれなりの理由があったからです。

しかしながら、現代においては「名門進学校に入れないと人生がしぼむ」といった考え方は一部の大人による洗脳です。そこに固執しては、子どもには悪影響しかありません。

もちろん、自分がやりたいことのために特定の大学や企業を目指すことは素敵なことです。そこに入ることが目的化することが問題だと言いたいのです。

そもそも、幸せのあり方は多様化しています。これからの社会で子どもを支える生きる力となるのは、自分で考え行動できる主体性であり、社会の抱えるさまざまな課題を解決する姿勢や経験を通して身につけた再現性のあるスキルを持っていることです。

大学受験に重きをおき、18歳での学力をピークにもっていくことが教育の目的だと大人が勘違いすると、その生きる力を奪う危険があります。

学校や家庭で自己決定の機会をできるだけ増やす

自己肯定感を高めるサイクルとまったく同じです。

主体性とは自発的な意思に基づき動くこと。それは誰でも生まれつき持っているものです。しかし、成長していく中で周囲の大人に行動を制限されたり、命令されたりするたびに少しずつ主体性が奪われていきます。

しかも、主体性を失うほど周囲への依存心が強まります。なんでも環境や人のせいにする思考回路も依存心そのもの。依存した状態から引き剥がさないといけないため、主体性を取り戻すことは簡単ではありません。しかし、方法はあります。

主体性を取り戻すには、大人が口や手を出すことを控え、子どもたちに自己決定の機会を増やすことです。テストで悪い点を取ったらどうすればいいか自分で考える。同級生とケンカをしたらどうすればいいか当事者で考える。

子どもなりに考えて行動し、その結果を自分で振り返って、試行錯誤を繰り返す体験を何度も積ませることでしか主体性は取り戻せません。

「それだと失敗ばかりでかわいそうだ」という意見もあるでしょう。でもそれは失敗を認めない環境に子どもがいる場合です。「失敗しても大丈夫」「自分のペースでいいんだ」と子どもが心理的安全性を感じられる環境をつくることが学校や家庭の役割ではないでしょうか。

子どもが主体性を取り戻す「3つの問いかけ」とは

共通理解のもとで家庭や学校などの環境が整えば、時間はかかりますが必ず効果があります。

子どもの主体性を取り戻す方法として効果抜群の問いかけがあります。

それは、

「どうしたの?」

「どうしたい?」

「何かできることはある?」

の3つです。

「どうしたの?」は、大人の期待にそぐわない行動を子どもがとったとき、頭ごなしに叱るのではなく、第一声を「どうしたの?」に変え、行動の背景にあるその子なりの事情を聞き出す姿勢を見せることです。もちろん子どもが正しいとは限りませんが、子どもがとった行動を一度受け止めてあげることが、子どもの心理的安全性につながります。心理的安全性は、主体性を取り戻すためにとても重要です。

「どうしたい?」は文字どおり子どもの意思を聞き出す行為であり、自己決定を促すための問いかけです。これこそ子どもの主体性を伸ばす問いかけの本丸。「〜しなさい」「〜しよう」と子どもの行動を決めてしまう言葉を置き換えましょう。小さな自己決定から慣れさせていけば、徐々に大きな自己決定もできるようになります。。結果として子どもの意思が100%通らなかったとしても、「対等な関係で扱ってくれた」「希望が少し通った」「自分の意見を言ってもいいんだ」という体験をさせることが重要です。

「どうしたい?」という問いかけをしても、選択肢が限定されていてうまく自己決定ができないケースがよくあります。そんなときに「何かできることはある?」という問いかけでフォローすると子どもが自己決定しやすくなります。この問いかけは、自己決定を成功体験につなげる支援として非常に有効です。

幼児・小学生の主体性を伸ばすために「命令」を減らす

いきなり置き換えることは難しいですが、少しずつやってみましょう。

子どもの主体性を伸ばす基本となるのは、上記で紹介した3つの問いかけになりますが、子どもにかける言葉の多くは無意識に使っているので、いきなり変えるのは難しいと思います。

そこでまずは、普段子どもにかけている言葉を見直して、「命令形」になっているものを「子どもが自己決定する形」に変えてみてはどうでしょうか。

たとえば、「宿題しなさい」を「今日は宿題何時からやる?」に変える。「汚れるからやめて」を「汚れ、落ちないかもしれないけど大丈夫?」に変える。「寒いからこの服を着なさい」を「今日は寒いみたいよ」で留める。「脱いだ服はカゴに入れなさい」を「脱いだ服をカゴに入れてくれると助かるなぁ」に変えてみる、などです。

ゲームやYouTubeの時間制限を設けている家庭も多いと思いますが、これも大人が一方的に決めるのではなく、「1日何時間ならいいかな」と聞き、子どもと一緒に決めるのがいいでしょう。

こうした自己決定を積み重ねていくと、次第に子どもからの「〜だと思う」「〜したい」という意思表示が増えるようになります。そうなればあとは、その意思をできるだけ尊重してあげることです。

また、言葉かけ以前の問題として重要なことは心理的安全性です。自己決定の機会がどれだけ増えても、失敗したときに責められていては自己決定が怖くなります。

自律を促す子育ては、失敗を許容し、成長をじっくり待つ子育てでもあります。

※「教育について工藤勇一先生に聞いてみた」(Gakken)から、一部内容を抜粋・再編集してご紹介しています。

この記事の監修・執筆者

元横浜創英中学・高等学校長。 工藤 勇一

1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒業。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長等を経て、2014年から2020年3月まで千代田区立麹町中学校長を務め、宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止等の教育改革を行い、教育関係者やメディアの間で話題となった。
主な著書に、『学校の「当たり前」をやめた。 生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』(時事通信社)等、ベストセラー多数。

教育について工藤勇一先生に聞いてみた」(Gakken)が発売中。

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