お子さんがウソをついたときに、「ウソつきは泥棒の始まり」「よくないよ」と、よくよく言い聞かせているママ・パパはいませんか?
でもちょっと待ってください。
実は、“ウソをつけるようになる”ことは、子どもの理解や発達と深いかかわりがあります。
今回は、認知科学・語用論門が専門で、子どもの発達にも詳しい、中央大学の松井智子先生に、子どものウソについておうかがいしました。
監修/松井智子(中央大学 文学部 英語文学文化専攻 教授)
1 子どもの発達とウソの関係
ウソをうまくつくためには、「自分と他人とは違う考えをもっている」という前提や、自分と異なる立場の人のことを考えたり比較したりすることが必要です。
こういった思考は、どのように発達していくのでしょうか。
2~3歳は、自分の欲求を満たすウソ
2歳ごろ
大人の言葉を理解し、言葉でのコミュニケーションがようやくとれるようになってきますが、「相手にも相手の考えがある」と認識できるようになるのは、まだまだ先のこと。
自分の欲求に素直に従った結果が、たまたまウソをつくことになった、と考えるのが自然です。
保護者の「~はダメ」はよくわかっている一方で、自分の欲求にもとづいて行動するので、双方が相反する場合に、ウソをついたという状況になります。そのため、ウソをついている自覚はなく、悪意があってウソをついているわけでもありません。
たとえば
- 「台所には入ってはいけないよ」と言われて、「うん!」と言いながら入ってくる
- 「チョコアイス食べていない?」という保護者の問いかけに、口の周りにチョコレートをいっぱいつけながら「食べてないよ」と答える
など、見ればすぐにばれるような、ウソとも言えないウソが多いです。
3歳ごろ
物事を知っている・知らないという、知識に関する大脳が育ってきます。
コミュニケーションもある程度とれるようになる反面、自分の視点でしかものごとを考えることができないため、相手の意図(言葉の裏)までは読みとれません。そのため、子ども同士の会話では、相手の言葉に応えるより、まだまだお互いに好き勝手に言い合っている状態です。大人同士のように、会話がしっかりと成立するのは、5歳ごろからです。
善悪の概念もじょじょに生まれ、「いい人=ヒーロー」と、「悪い人=ワルモノ」といった関係性や、社会的な役割が少しずつ理解できてくるため、3歳なりに、友だちに教えたり注意したりしたい、という欲求も出てきます。
4歳ごろから、ウソをついている自覚を持ち始める
自他の区別や、「考え方が人によって違う」ということがだんだんわかってきます。
自分や相手がどういう人間か、他人からどう見られているかを考えられるようになるため、社会のなかでの自分の位置づけを意識し始めるようになります。
それに伴って、いい思いをしたい、仲間を増やしたいという思いや、競争心の高まりによるウソをつくことが出てきます。
また、自分と相手との相性がわかってきたり、記憶力がよくなり、翌日以降も友だちとのケンカを記憶していたりするため、いじわるな言動が見られるのもこのころからです。
他者の心を理解し始めると同時に、相手の単純なウソも見抜けるようになります。
8~9歳は、つじつま合わせのウソがつける
論理的思考や想像力が伸び、相手の言葉の裏や真意、皮肉まで読みとれるようになります。
相手がどう捉えるかを考えて、つじつまが合うようなウソをつくことができます。
また、人のための優しいウソがつけるようになるのもこのころです。
たとえば、
- 友だちの家でゲームをして遊んでいたが、「○○くんの家で勉強をしたよ」と言い、「こんな参考書があった」など、事実であるかのように話す
- サッカーの試合で負けたときに「でも△△ちゃんの、ここのシュートはよかったよね」など、ほめるところを探して相手を気遣える
などです。
次からは、事例に沿った解説と、保護者がとりたい対応を紹介します。
2 事例 2歳 Aちゃんはお片づけをした?
事例
パパがAちゃん(2歳)に、「おもちゃを片づけたら、おやつにしようね」と伝えておやつの準備に取りかかると、すぐに「片づけた!」とAちゃんがやってきました。散乱したおもちゃが丸見えなのですが…。
解説
ウソというにはあまりにもかわいいウソ。
Aちゃんが、「おやつだって! 食べたい!」という欲求に従ったことにより、結果的に事実と異なる発言になったというところでしょうか。「パパをだましておやつを食べよう」という思いはないでしょう。
この時期の子どもは、大人の出した条件を達成しないと自分の欲求が満たされない場合に、「したことにしてしまう」特性もあります。
対応のポイント
この発言そのものに目くじらを立てる必要ありません。お片づけをせずにおやつはもらえないよ、ということは流さず対応するとよいでしょう。
「まだ片づけが終わっていないからいっしょにやろうね」「どっちがたくさん片づけられるか、競争ね」などと、ゲーム感覚で楽しめるよう工夫して言葉かけを。
3 事例 3歳 Bくんの遠足
事例
Bくん(3歳)のお兄ちゃんは、遊園地に遠足に行きました。次の日、保育園でBくんは友だちに、「ぼく、遊園地に行ったの。メリーゴーランドに乗った…」と話し始めました。
解説
きっと、お兄ちゃんはいいなあ、自分も行きたいなあという思いから、帰ってきたお兄ちゃんの話を聞いて、どんどん想像が膨らんだのでしょう。
これはある種の「盛りウソ」。3歳ごろにはよく見られるものです。想像の世界に入り込んでいるので、相手をだましているという感覚は子どもにはなく、基本的には心配いりません。言葉や想像力が発達する時期のため、本当にあったことのように話す子もいます。
対応のポイント
これまではできなかった「想像」で、ストーリーを描く、まるでストーリーテラーのような能力です。個人差があるので、保護者もいっしょになって「それから、それから?」と楽しんだり喜んだりして、伸ばしてほしいですね。
気にかけたいケース
ウソをつく目的として、注目されたい、かっこいいと言われたい、自分を大きく見せたいという気持ちが強い場合には、自己否定や、自信がない気持ちがひそんでいることがあります。
上記のようなウソの多くは一時的なものなので、少し経ったら忘れたり、他のことに気が向いたりする場合はまずだいじょうぶですが、小学校入学が近づくころになっても盛りウソが習慣化しているようなら、注意が必要です。
「ウソはよくないよ」と言って直るものではないので、ウソで注目を集めるのではなく、いかに現実世界で自信を持ち、どうやって誇れる自分になっていくかを、いっしょに探してみることが大切です。
2~3歳のウソはよほどのことがなければ、心配ありません。
想像の話や遊びが広がるなかで、けがなどをしないように見守ることのほうが大事です。
4 事例 4歳 Cちゃんのお布団
事例
久しぶりにおねしょをしたCちゃん(4歳)が、「ママ、Cちゃんのお布団にだけ、雨が降ったの」と言いました。それは大変…。
解説
保身や、隠したい、恥ずかしい、自己嫌悪の気持ちが感じられます。
3歳ごろまでは、物事を自分の視点で考えるため、自己嫌悪の気持ちはありませんが、4歳ごろになると、客観的に自分を見ることができるようになってきます。
「こうなりたい」「あるべき姿」(4歳はおねしょをしない)という社会的な立ち位置と、「おねしょをしてしまった」という実際の自分とのギャップから出た、この年代らしいウソと言えるでしょう。
対応のポイント
保身から出たウソは、ウソそのものを注意するのではなく、「なぜ子どもはウソをつく状況と判断したのか?」を考えます。
この事例の場合は、おねしょという生理的で自分でコントロールできないことのため、まずは子どもの「隠したい」「恥ずかしい」という気持ちに寄り添い、「そうかそうか、じゃあ洗濯しよう・乾かそう」とサラッと答えましょう。
気にする様子が見られるようであれば、折を見て、「小学生までおねしょをしていた子がいたんだけど、今ではすっかり治っちゃったんだって」などと、伝聞の話として聞かせて安心させるとよいでしょう。
気にかけたいケース
4歳ごろにある、友だちのおもちゃを盗ったり隠したりしてウソをつくケースは、しっかりと対応したいウソです。
根底にあるのは、2歳ごろから生まれる欲求(おもちゃが欲しい)という気持ちであることが考えられます。「なぜ盗るのはいけないことなのか」を、きちんと話して聞かせる必要があります。
- 物は、その人の持ち物だから、盗るのは理想的な解決方法でない、と伝える
- そのおもちゃを自分で持てるようにはどうすればよいか? をいっしょに考える
といったことが有効です。
社会的な立ち位置がわかってくる4歳ごろだからこそ、こうした投げかけによって、自分で考えることができるようになるはずです。また、こうしたことを話せる親子関係を築いていくことが、とても大切です。
5 事例 4歳 Dくんの家に自転車は何台?
事例
4歳のDくんは、友だちのEくんとブームの自転車の話で盛り上がっています。「おうちに自転車3台あるの!」というEくんの発言に、つい、「Dくんの家には100台あるもん!」と、言ってしまいました。
解説
あまりにも現実離れしているのですぐにばれるウソですが、Dくんの、絶対に勝ちたいという気持ちが伝わります。
でも、たとえばれずに「すごい!」と言われたとしても、事実ではないので、現実との乖離から、かえって自分を小さく見せてしまうことになります。
対応のポイント
その場限りのウソなら、みんなで笑っちゃってもOK! 「そんなにあったら、どうするのよ~」などと冗談ぽく返してもよいでしょう。
こういったウソが続くなど気になる場合の根本的な解決策としては、ウソをつくのではなく、自分が強い分野で勝負すればよいと伝えることです。
そして、ぜひいっしょに、お子さんの強い分野や得意なことを探して伝えてください。これは、保護者だからこそ言えることだと思います。
6 「保護者を心配させないためのウソ」には注意をはらう
人のための優しいウソをつけるようになる8~9歳ごろや、思春期ごろから見られる、「親を心配させないためのウソ」は、なにより注意したいウソです。
たとえば、学校でいじめにあっているのに、「だいじょうぶ! 学校楽しいよ!」と、作り話をするケースがあります。成績が下がって悩んでいるのに、そんな素振りを見せずにウソを重ねることもあります。
ポイントとしては、何もかもうまくいっていたり、あまりにも順調だったりする話が多い場合は、注意が必要です。
いつでもうまくいってばかりの人はいないはずですから。
これはいわゆる「できた子」に多く見られるウソです。
保護者の期待に沿いたい、心配をかけたくないという強い思いと、いじめられたり成績が落ちたりしている事実は「あるべき姿」「保護者に見せたい姿」とのギャップが大きく、逃れるためにウソをつき、心のバランスが保てなくなってしまうこともあります。
これは一種のSOSです。このような姿が見られたら、じっくりと時間をかけて、子どもの思いを引き出しましょう。
ここでも第三者のケースの伝聞として、「こういったことがあって大変だったみたいだけど、自分だけでどうにかするんじゃなくて、家族みんなで取り組んだらよくなったらしい」「いじめにあってつらい思いをしたけれど、転校して今は平和に過ごしているんだって」などと、食事のときの話題のひとつとして、サラリと触れてみてください。
4 松井先生からのメッセージ
保護者の立場としては子どものウソは心配かもしれませんが、客観的に考えると、「ウソをつけるようになる」という発達は、人間が社会のなかで生きていくには必要な能力です。
大人になれば、夫婦間で、職場で、ちょっとした近所の方との会話で、スムーズにコミュニケーションをとるための「小さなウソ」を、きっと自然と発していることでしょう。
就学前くらいまでのウソは、子どもの能力がどんどん伸びている証拠と捉えて、成長を評価し、いっしょに喜んだり楽しんだりしてください。
お子さんのことを大切に思い、子育てに真剣に向き合っているからこそ、「ウソをつくのはよくない!」と、一生懸命、対応されている保護者が多いと思います。
ただ、“ウソをつけるようになった=子どもの成長の証”と捉えると、少し気持ちが楽になりませんか?
子どもの深刻な悩みやSOSから出るウソは見逃さないようにしながら、かわいいウソはいっしょに笑うくらいの余裕をもって、子育てを楽しみましょう!
この記事の監修・執筆者
1987年に早稲田大学教育学部英語英文学科卒業。1988年にロンドン大学ユニバーシティカレッジ文学部英文科修士課程修了、1995年同大学文学部言語学科博士課程修了(言語博士学位取得)。国際基督教大学、京都大学霊長類研究所、東京学芸大学教授を経て、現職。専門は認知科学、語用論。著書に『子どものうそ、大人の皮肉』(岩波書店)など。
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