子どもに余計なプレッシャーをかけたり、感情的になって大声を出してしまったり。それは保護者自身が「どならずに対処する」方法を知らないせいかもしれません。小学校低学年の保護者の負担感を減らし、親子関係をよくする「令和版子育て」について、茅ヶ崎市役所職員で『子どもも自分もラクになる「どならない練習」』著者の伊藤徳馬さんに伺いました。
取材・文/FUTAKO企画
「親が感情的になってしまう」背景とは

家事や育児の負担感の増加
茅ヶ崎市役所で子育て相談や児童虐待の対応のとりまとめを行っていた2009年、私は子どもへの伝え方、ほめ方、叱り方などを身につけていくペアレンティングプログラムと出合いました。
その後の2010年に茅ヶ崎市でペアレンティングプログラムを活用した講座が事業化され、「ちはっさく」(「ち」は 茅ヶ崎、「はっさく」は八策)という地域子育て練習プログラムとして、継続的な取り組みが行われるようになりました。
私自身も講師として子育て講座に携わり、プライベートでも全国の自治体やNPOでペアレンティング講座の普及活動を行ってきました。
多くの保護者の方と関わってきて、また、自分自身も2人の子の父親として感じるのは、親の「時間的・精神的な余裕のなさ」です。
昭和から平成初期は同居する祖父母や近隣コミュニティが一定の育児支援を担ってきましたが、多くの人が時間に追われるようになった令和の今はそれが難しくなっています。
さらに共働きの核家族世帯が増える中、家事や育児の負担感も増しています。 そうした忙しい日常の中で、保護者の方自身が「感情的になってはいけない」と頭ではわかっていながら、思うように動かないとイライラしたり、つい声を荒らげたり…。
子どものよくない行動の代替案やルールを示して「叱る」つもりが、ただ自分の感情をぶつけるだけの「怒る」になってしまうこともありえます。
子どもの発達段階の理解不足
そして、保護者の方がお子さんの言動に対して感情的になる背景には、子どもの発達段階への理解不足が隠れていることがあります。
たとえば、脳や身体が未発達な子どもは、何かに夢中になっていると周囲の声が耳に入らないこともあるでしょう。そんなとき、「わざとやっている」「自分を困らせようとしている」とカッとなってしまうこと。
また、大人の世界観を基準にし、「今の年齢ならこれくらいできて当然だ」と子どもに高すぎる期待を抱いてしまっていることも原因の一つではないでしょうか。
「実践」が足りない
さらに、「感情的にどならない子育て」の実践が足りないということもあります。
たとえば、初めての赤ちゃんを迎える前、自治体の母親学級・父親学級などで「沐浴指導」の講座を受ける方は多いと思います。
助産師や保健師の指導のもと、沐浴のポイントを教えてもらったり、新生児と同じ重さの赤ちゃん人形で具体的にイメージできたり、とても実践的で役立ちますよね。
このような新生児に対する関わり方だけでなく、脳科学や発達心理学をはじめ、子育てに関する研究が進んだ今、子育ての方法についても、知識として理解するだけではなく実際に練習して体で覚え、実践する機会があれば、よりよい親子関係が築けるものなのです。
しかし、残念ながらまだ多くの自治体において、子どもへの適切な「ほめ方」「叱り方」についての知識が広まっているとはいえず、従ってペアレントトレーニングは実施できていません。
実際にペアレンティング講座を受講していただくことが一番ですが、ここではぜひその内容を知っていただき、ご家庭で実践してみてもらえたらと思います。
これまで「10回どなっていた」状態だとしたら、意識的に6回に減らすことから始めてみましょう。それによって、保護者の方が余裕や自信を持てるようになり、子育ての負担感が減っていくのです。
「8つの思わずやってしまう行動」と「8つの前向きな行動」
茅ヶ崎市で行っている地域子育て練習プログラム「ちはっさく」は、基本的な養育行動のごく一部を「楽しく適当に練習して身につける」コミュニケーションスキルの講座です。
講座の中では、8つの「思わずやってしまう養育行動」と、8つの「前向きな養育行動」とを対比しながらイメージトレーニングを行い、身につけていきます。それぞれについて見ていきましょう。
「8つの思わずやってしまう養育行動」

①あいまいな表現
「よく見て」「ちゃんとやって」「もっと考えてやって」といった、大人なら伝わる便利な言葉を使うことで、子どもに伝わりにくくなる。
②長い説明
→理由や状況の説明に長い時間をかけることで子どもの集中力が切れ、具体的には何をすればいいのかが理解できなくなる。
③否定(禁止)する
「~しないで」「~したらダメ」といった否定的な表現では、「今している行動はダメだ」ということは伝わるが、「代わりに何をすればよいか」が伝わらない。
④嫌味を言う
「いつもこうだといいのにね」「それでいいと思ってるんだ」などと皮肉をこめた表現は、子どもにはわかりにくく、意図が伝わらない。
⑤脅す
「置いて帰るよ」「もう~させないよ」といった脅しの言葉では、子どもは不安や恐怖から行動するだけで、親が意図する理由や意義が伝わらない。そして実際には親の脅しの言葉だけで終わることも多く、子どもとの信頼関係を失うだけになる。
⑥罰
「1週間おやつ抜き」「遊園地の予定は取りやめ」などと、悪い行動に対する「重すぎる罰」は子どもが反省する気持ちの余裕を失い、親子関係を悪化させることになる。「悪い行動」に対しては、子ども自身が「しまった!」と自覚できるぐらいの気持ちのゆとりを残した「悪い結果」にとどめる。
⑦質問風の攻撃
「なんで〇〇するの?」「悪いことだってわからないの?」「何回言ったらわかるの?」といった質問は、責めることが目的で答えを聞く気がなく、子どもに親の意図が伝わりにくい。
⑧どなる
大声を出して威圧することで子どもは恐怖を感じるため、「今の行動を一時的にやめさせる」ことはできるが、肝心の「何が悪かったのか」「次はどうすればいいのか」を学習できない。
どうでしょう。思い当たる行動はあったでしょうか。もしも、「全部日常的にやってしまっている」としても大丈夫です。次の前向きな行動に変換して、今から改善していきましょう。
「8つの前向きな養育行動」

①代わりの行動を教える
「~してね」と、問題行動の代わりにしてほしい行動を肯定的に提案する。「片づけて」「歩いて」などと、「動詞」で簡潔に一文で表すと子どもに伝わりやすくなる。
②ほめる
「問題行動の反対」の行動を見つけてほめる。お子さんが「立派なことをしたとき」や「すばらしい行動を取ったとき」ではなく、「呼ばれてすぐに食卓に行った」など「普通のこと」や「当たり前のこと」をほめることで、子どもの望ましい行動が増えると同時に問題行動を減らす効果がある。
③一緒にやってみる
「じゃあ一緒にやってみよう」と親子で一緒に練習(イメージトレーニング)→一緒に本番、と行動に移してみることで、理解しやすくなる。
④待つ
親は先回りせずブレずに待ち、子どもに切り替えの時間を与える。指示を出したあと、心の中で10秒カウントしながら、子どもが動き出すのを黙って見守る。
⑤気持ちに理解を示す
「~だよね。わかるよ」と共感する。あるいは、子どもが言ったことに対してオウム返しで「~なんだね」と復唱する。ルールや行動の制限は維持しつつ、感情だけを共感・代弁する。
⑥落ち着く
親子で深呼吸。イライラが限界に達しそうなら、親は一度子どものそばから離れる、他のことを考えるなどして、まずは自分を落ち着かせる。
⑦環境を作る
話すときは、目線を揃え子どもに向き合って話す、テレビや動画など目や耳に刺激のない静かな場所など、子どもの注意をそらすものが少ない環境で話す。
⑧聞く、考えさせる
「何があったの?」「次からはどうすればいい?」と、親が上から答えや命令を押しつけるのではなく、問いかけによって子ども自身に状況を把握させ、行動を選択させる。
以上、「思わずやってしまう行動」と「前向きな行動」をそれぞれ紹介しましたが、「思わずやってしまう行動を完璧にゼロにする」のはやはり難しいものです。まずは、「ほめる回数を1回でも増やす」という意識を持つことが大切です。 こうした「ほめ」をくり返し行っていくうちに
「親が実践する」
⇒「子どもの反応が違ってくる」
⇒「成功体験を得る」
⇒「ほかの場面でも実践する」
といったグッドサイクルが確実にできていきます。それによって親子関係がよくなり、保護者の方のストレスも減っていくことになります。
親が感情的にならないためのポイント
子どもと対等な立場で話す
小学生ともなると、幼児期と違って言葉によるコミュニケーションや約束が成立する反面、子どもも賢くなってきて「今日はダメなの?」「前はいいって言ったよ」などと、親の一貫性のなさを鋭く突いてきます。
親はどうしても子どもの小さい頃のイメージを引きずって上からものを言ってしまいがちですが、子どもは日々成長しているもの。子どもの気持ちや考えにもきちんと耳を傾け、対等な立場で話し合うことが大事です。
平和な時間に話しておく
親子で落ち着いている平和な時間帯に「してほしいこと」「どうしたらいいと思うか」など、話し合いをすることも大切です。 いざ問題行動が起きたときにあわてて対応するのではなく、忙しい日常の中でも「先行投資」として、「どうすればいいと思うか」といった双方向のコミュニケーションを行っておくことで、子どもが望ましい行動を身につけやすくなり、結果的に親自身が楽になるはずです。
自分自身を認めること
ペアレンティングの講座を受講された小学生の保護者の方に聞くと、皆さん口をそろえて「子どもをどなってしまうのは、自分自身の問題だと気づいた」と言われます。
根本に親自身の余裕のなさがあり、余裕がない状態で子どもにうまく対応できていなかった、ということです。
親も人間ですから、いつも余裕のある状態でいることは難しいと思います。そういうときは「今日は仕方ない!」とあっさりあきらめることも実は大事です。
余裕がないのは保護者の方のせいではなく、状況のせいなのです。 そして、保護者の方自身が、日々子どもに向き合っている自分を「ちょっとはできている」と認めてあげましょう。そうすることで、前向きな行動を1つでも増やしていくことが大切です。
「協働する人」を増やす

私が関わったペアレンティング講座で感じたのは、「受講した内容を家族間で共有した人ほど、内容の理解や状況の改善が早い」ということです。
今の日本では、まだどうしても母親に育児の負担が偏ってしまう中で、メインで育児に携わる方が時間や気持ちの余裕を作るためには、父親、祖父母、きょうだい、さらには子ども自身を「協働する人」にして、家庭内で役割や約束事を共有することがとても有効です。
そうすることで、「今こんな言葉を使っていたよ」「さっきの対応はよかったね」とお互いに気づくことができ、子育てについての認識のズレがなくなっていくのです。
まずは、ここで紹介した8つの「思わずやってしまう養育行動」と、8つの「前向きな養育行動」を共有することから始めてみてはいかがでしょう。少しずつ実践していって、子育てに余裕や自信を持てるようになっていただけたらと思います。
この記事の監修・執筆者
民間企業勤務を経て、2004年に茅ヶ崎市役所に入庁。2007年から11年間、子育て相談・児童虐待担当として勤務。2010年には、子どもへの対応方法を練習する講座を事業化。 その頃から、「市町村における児童虐待対応」や「簡易ペアレンティング講座の展開」などのお題で、研修講師を務めるようになる。2018年から地域福祉部門に所属し、重層的支援体制整備事業(分野を問わない総合相談と地域協働のコラボ)を立ち上げる。2024年に子どもの発達支援の部署へ異動。 プライベートでは、子育てを練習する講座「ちはっさく」をプロや一般向けに実施したり、講座を実施する仲間を増やしたりする活動も行っている。
著書 『子どもも自分もラクになる どならない練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン) 『子どもも自分もラクになる どならない「叱り方」』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
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