【小型の宇宙船】ともいわれる宇宙服って、どんな構造なの? どんな種類があるの?~親子で学ぼう!
宇宙飛行士が宇宙で活動する際に着る宇宙服。
宇宙服というと、国際宇宙ステーション(ISS)などから出て宇宙空間で作業をする際に着る服を思い浮かべがちですが、ISSや宇宙船の中で着るものもあります。
夏休みの自由研究としてもおすすめの宇宙服について探ってみましょう。
文/こそだてまっぷ編集部
船外活動をするときに着る宇宙服
宇宙は過酷な環境
宇宙飛行士がISSの外に出て作業をする様子を目にしたことがありますか? その様子を見ていると、重くて頑丈そうな装備に身を包んでいることがわかるでしょう。それもそのはず、宇宙空間は私たち人間にとって、わずかの間でも装備なしで過ごせないほど過酷な環境なのです。
どのように過酷な環境なのでしょうか。まず、宇宙空間には空気がなく真空の状態です。また、太陽の光が当たるところは約120℃にもなり、一方、太陽の光が当たらないところではマイナス150℃くらいと、極端な高温や低温になります。
さらに有害な放射線にさらされるほか、宇宙をただようちりや人工衛星の残骸など(スペースデブリ)がぶつかる危険もあります。
宇宙飛行士が船外活動をするときには、これらの危険から身を守るための装備を着用します。これが「船外活動服」と呼ばれる宇宙服です。
船外活動服は「小型の宇宙船」
船外活動服には、大きくふたつの役割があります。
ひとつは、宇宙の厳しい環境から宇宙飛行士の体を守る役割です。そのために、真空や高温と低温、ちりなどの衝突から体を守る機能を持っています。
もうひとつは、宇宙空間でも人間が生きていられるようにする役割です。呼吸をするために酸素を送り、排出された二酸化炭素を除くはたらきをする生命維持装置がついています。
さらに、いっしょに作業をする宇宙飛行士や地上の管制官と通信をする機能もあります。
船外活動服を着ていれば、万が一、船外活動中に宇宙飛行士がISSから離れてしまっても、しばらくの間は宇宙環境から体を守り、生命を維持できるようになっています。そのことから、船外活動服は「小型の宇宙船」ともいわれます。
「船外活動ユニット(EMU)」のしくみ
ISSでは、アメリカが開発した「船外活動ユニット(EMU)」と、ロシアが開発した「オーラン宇宙服」が使われています。
EMUは、上半身用と下半身用の胴体、グローブ、ヘルメットで体をおおい、中に酸素を満たします。酸素がぬけないよう、また、断熱や放射線防御などのために、EMUは14層もの生地でできています。
生命維持装置は背中に背負います。これらの装備は全体で120kgにもなりますが、宇宙空間では重力の影響がほとんどないので、重く感じません。
EMUの中は、0.3気圧に保たれています。地上やISS内と同じように1気圧にすると、EMUがふくらんでしまい、作業がしづらくなるためです。宇宙飛行士は、EMUを着けてから約60分間かけて0.3気圧に体を慣らします。
「オーラン宇宙服」のしくみ
ロシアの「オーラン宇宙服」の役割はEMUと同じですが、少し構造が違います。
オーラン宇宙服は、全部の部分がひとつながりのワンピース型。背中側が開くようになっていて、そこから宇宙飛行士が入ることで1人でも短時間で装着できます。
内部の気圧は0.4気圧と、EMUよりやや高く、宇宙飛行士が体を慣らす時間は約30分ですみます。
「船内与圧服」と船内服
宇宙船でのトラブルに対応する
宇宙飛行士が宇宙船に乗って、地上と宇宙を行き来する際にも特別な服を着ます。宇宙船にトラブルが生じて船内の気圧が下がってしまうなどの場合に備えるもので、これを「船内与圧服」といいます。
船内与圧服は、1960年代に旧ソ連やアメリカによる有人宇宙飛行が行われた際にも使われました。その後、1986年のスペースシャトル「チャレンジャー」の事故を契機に、宇宙飛行士が緊急脱出できるように、パラシュートつきのオレンジスーツを着るようになりました。
スタイリッシュな船内与圧服が登場
2020年から、民間企業の宇宙船「クルードラゴン」が打ち上げられるようになり、それまでのイメージを一新する船内与圧服が登場しました。
これは、3Dプリンターで作られたヘルメットやタッチパネルにも対応するグローブと、スタイリッシュなもの。2020年11月に「クルードラゴン」に搭乗したJAXAの野口聡一宇宙飛行士も、この船内与圧服で乗りこみました。
なお、ロシアの宇宙船「ソユーズ」に搭乗する際は、1973年に導入されてからずっと使われている「ソコル宇宙服」という船内与圧服を着ます。
ISSで着る船内服
このほか、ISS内で普段着る服があります。ISS内は気圧、温度、湿度ともに快適に過ごせるように調整されているので、地上にいるときと変わらない服装で過ごせます。
ただし、ISSでは洗濯ができないので、汗を吸いやすく乾きやすく、抗菌消臭機能に優れた服が採用されています。
船内服の開発には民間企業が参加することもあり、日本人宇宙飛行士が着る船内服を、アパレルブランドを展開するビームスやゴールドウインが開発したこともあります。
なお、着終わった船内服は洗えないため再利用はせず、無人補給船がISSから離れる際にほかの不要品とともに積み込まれ、補給船ごと大気圏に再突入して燃え尽きます。
これからの宇宙服は?
「アルテミス計画」の宇宙服
アメリカが中心となって日本も参加する「アルテミス計画」は、2025年以降に有人月面着陸をめざすものです。
NASAは、アルテミス計画で使われる新しい船外活動服として「xEMU」を発表していました。「xEMU」は、うでを回したり、しゃがんだりと、動きやすく作られており、フリーサイズで身長や体型の違う人でも着用できるものとされていました。
しかし、その開発が遅れ、2022年6月には、新しく次世代宇宙服の開発を担当する2つの企業が選定されました。今後は、この2社が軽量でほぼすべての体型に合う宇宙服の開発に取り組む予定です。
月や火星をめざす宇宙開発において、より優れた宇宙服の開発は欠かせません。高い機能性で、宇宙飛行士や宇宙開発をしっかりと支えているのです。
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