小学校入学後の子どもの預け先となる学童保育。働くママパパにとっては、小学校生活のことだけでなく学童保育のことも気にかかるのではないでしょうか。「学童ってどんなところ?」「だれでも利用できるの?」「料金は?」など気になることがたくさん。そこで、学童保育の役割や種類、そこでのお子さんたちの過ごし方について解説します。学童保育の支援員経験もある新潟県立大学人間生活学部子ども学科教授の植木信一先生にお話をうかがいました。植木先生によると「学童保育でお子さんが身につけられる力」もあるのだとか。後半では学童保育の魅力もお伝えします。
お話/植木信一先生(新潟県立大学人間生活学部子ども学科教授)
文/グリーンペペ
学童保育は“家庭にかわる生活の場”
学童保育とは、保護者が仕事をしているなどの理由で放課後に自宅にいない場合に、小学校就学児童が利用する施設で、厚生労働省が管轄しています。厚生労働省は「放課後児童クラブ」という名称を用いていますが、自治体によっては「学童クラブ」「放課後キッズクラブ」などと呼んでいることもあります。ここでは「学童保育」と呼びます。
学童保育の目的や役割について厚生労働省の定義によると、共働きや一人親家庭の子どもの放課後や、土曜日、春・夏・冬休み等、学校が休みの日の生活を継続的に保障することを通して、保護者の仕事と子育ての両立を支援することとなっています。
学童保育に通う子どもたちは、放課後の3~4時間、学校の長期の休み期間は朝から8時間程度を学童保育で過ごしています。学童保育には専任の支援員(放課後児童支援員のこと。指導員と呼ぶ所もあります)がいて、保護者の代わりを務めています。子どもたちが家庭で過ごすのと同じように、心身を休めたり、おやつを食べたり、遊んだり、宿題をしたり……といったことを行える学童保育は“家庭にかわる生活の場”といえるでしょう。
学童の利用を希望しても入れない「待機児童」が増加
学童保育の施設の数も利用者の数も年々増加しています。
厚生労働省が2020年に発表した放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況によると、登録児童数は131万1,008人で過去最高、「放課後児童クラブ」の数も2万6,625か所と過去最高を更新しました。これは、女性の社会での活躍を推進し、子育てを支援しようという国の施策が進んだことの表れでしょう。さらに共働き家庭が増え、子どもを預けて働くことが珍しくなくなってきたとも考えられます。
したがって、学童保育施設の数が増加しているにもかかわらず、利用を希望する児童数がそれを超える勢いで急増しているために施設数が追いつかず、地域によっては希望しても利用できない「待機児童」も増えているのが現状です。「放課後児童クラブ」は、厚生労働省が管轄する公的な学童保育ですが、待機児童の受け皿として、あるいは多様化する保護者のニーズに対応して《民間》学童への関心も高まっています。
学童保育には、多様な運営形態がある
学童保育を運営形態で分けると、おもに以下のようになります。
公設公営……各自治体が設置し、直接運営
公設民営……各自治体が設置し、社会福祉協議会などに委託などして運営
民設民営……社会福祉法人、保護者や地域住民などで構成された組織、NPO法人などが設置し、運営
※上記のうち公設公営が約3割。近年は自治体の財政難や支援員の人材確保が課題となり、公設民営が増えています。
その他の学童…民間企業などがサービスを提供
※一般企業などに加え、学習塾、スポーツ教室、英会話教室などさまざまな業種が参入しています。ですが、“習い事”と区別が難しいものもあり、たとえ「学童保育」という名称を用いていても「放課後児童クラブ」とは理念が異なる場合もあるので、利用の際は確認が必要です。
学童はだれでも利用できる? 子どもたちはどうやって過ごすの?
ここでは、利用条件や特徴、子どもたちの過ごし方について一般的な例をご紹介します。
※いずれも自治体によって異なりますので、お住まいの地域の自治体のウェブサイト等をご自身でご確認ください。
対象 | 共働きや一人親家庭などの子ども。小学3年生までの児童に限定している自治体もありますが、制度としては小学6年生まで利用可能。 |
利用条件 | 保護者が働いていることなど。 ※就労日数や就労時間など自治体によって詳細条件があり、利用にあたって就労証明書の提出などを求められることがあります。 ※保護者の病気や介護などの事情も該当する場合があります。 |
運営時間 | 平日は下校時から18時までのところが多い。 ※自治体によっては18時以降までの開所しているところもあります。 |
料金 | 1か月4,000円~1万円程度(おやつ代などが含まれています)が多い ※無料の場合もあります。 ※イベントなどを開催する場合、別途費用がかかる場合があります。 |
設置場所 | 全体の半数程度が小学校の施設内です。児童館、児童センターなどに専用スペースを設けている場合や専用施設で実施している場合などもあります。 |
子どもたちの過ごし方 | 自由に過ごすことができます。時間帯によって学校や児童館の体育施設が利用できることもあります。室内では読書や工作遊びをしたり、おやつを食べたりして過ごします。宿題もできますが、学習指導はありません。通院や塾通いなど“中抜け”が可能な場合もあります。 |
設備の基準 | 子ども一人につき、最低限1.65平方メートル以上のスペースが必要で、おおむね子ども40人につき支援員2名以上という基準があります。最近では、感染症拡大防止の観点から1.65平方メートルでは狭すぎるのでは、という指摘もあります。 |
申し込み方法 | 自治体に申し込みます。申し込み方法は、各自治体によって異なりますので、お住まいの地域の自治体のウェブサイトなどで情報を収集しましょう。一般的には11月くらいから申し込みの受付が始まる場合が多いようです。 |
夜間保育や夕食サービスがある民間学童。デメリットはコスト高!
学童保育への入所を希望するご家庭が急増するにつれ、民間の学童も注目を浴びています。保護者の働き方も多様になってきており、そのニーズに対応できる民間学童のサービスは人気を集めています。
たとえば、早朝や夜の延長保育、夕食の提供などを行う民間学童も増えています。仕事が多忙で帰宅時間が不規則という保護者にとっては、たとえば21時までお子さんを預かってくれるサービスは魅力です。さらに学習塾が運営している学童保育なら学習サポートを受けられますし、フィットネスジムが運営しているならスイミングスクール、英会話教室が運営していれば英語教育といった習い事のオプションも見逃せないでしょう。
ただし、民間学童はコスト面で保護者にとって大きな負担となることがあります。一般的な学童保育の費用が月額4,000円から1万円程度のところが多いのに比べて、民間学童は3万円から10万円ほどかかるケースもあるようです。
お子さん自身が関心をもっている分野のカリキュラムがあって、本人にやる気があり、充実した環境で教育を受けさせたいという強い意向をおもちの保護者のかたなら検討してもよいでしょう。また、どうしても18時以降の延長保育が必要という場合は、公的な学童保育と併用して、18時以降は民間学童でといった選択肢もあるかもしれません。
申し込む前に見学しよう! チェックポイントは?
学童保育の利用を希望する際は、まず施設を見学しましょう。見学するときは外観の見栄えなど見た目だけに惑わされないように注意してください。見るべきなのは「お子さんが自分の家と同じようにくつろいで過ごせる雰囲気かどうか」です。
たとえば、静かに休めたり、読書や勉強ができたりするスペースがあるか、お子さんが楽しく体を動かせるようなスペースがあるかなどをチェックしましょう。できれば、複数の部屋があり、目的に合わせた部屋などがあると理想的ですが、実際には一部屋しかない学童保育もあります。その場合は、目的に応じてスペースが区切られていると望ましいです。お子さんの放課後の過ごし方に合った空間があるかどうかをチェックしましょう。
ほかにも、病気やケガなど緊急時の対応、アレルギーのあるお子さんの場合の対応、休校日の対応などについても確認しておくとよいでしょう。
異年齢集団の中だからこそ身につく力
学童保育がどんな事業なのかわかったところで、次は学童保育の魅力についてお伝えしていきます。
学童保育は、保護者のかたにとってお子さんを預けて安心して働けるという点が最大のメリットです。いっぽう、お子さんにとっても大きなメリットがあることをご存じでしょうか。ここからはお子さんが学童保育で身につけることができる力についてご紹介します。
学童保育は、異年齢の子どもたちが生活し触れ合う場です。たとえば、新1年生にとって、自分より体も大きく、しっかりしている上級生の存在は憧れの的です。このように、お子さんにとって身近な距離に、少し年上の憧れの存在、いわゆるロールモデルがいるというのはとても重要なことです。ロールモデルがいることで、「あんなお兄ちゃん・お姉ちゃんみたいになりたいな。」と、自分の少し先の未来に期待と見通しをもつことができるからです。
異年齢集団の中では、次の3つの力が育つとされています。
1)自主性
2)社会性
3)創造性
たとえば、学童保育で日々過ごしていると、最初はわからなくても周囲の子どもたちを見ているうちに、だんだんと1日の流れや1週間の流れがわかってくるようになります。そうすると、「明日は〇〇をしよう」「来週は××をやらなくちゃ」といった見通しをもって生活の中で自分を律する力が自然と身につきます。これが「自主性」です。自分の生活を自分で決めて律することができる自主性はとても大切な力です。
集団生活の中では、友だちと力を合わせたり、自己主張をしたりして、どんな行動がふさわしいのかを学びながら「社会性」を身につけていきます。たとえば、学童保育の異年齢集団で、ドッジボールをしたとします。1年生と3年生でゲームをすれば、当然3年生が勝ってしまっておもしろくありません。すると、上級生のだれかが「1年生は5回まではボールに当たってもセーフということにしようよ」などと新しいルールを思いつき、ゲームがより楽しくなるようにどんどんどんどん遊びを創造していくような「創造性」を発揮します。異年齢集団の中では、遊び一つにおいても自分たちの社会性をもとに創意工夫していく場面がよく見受けられます。このように「創造性」を育むことができるのです。
注目されている力「非認知能力」が身につく
もう一つ、学童保育で育つ力として、今、教育の世界で話題の「非認知能力」が挙げられます。
読み書き・計算など数値で測れる「認知能力」に対し、「非認知能力」は数値で測れない力のことです。具体的には自己肯定感や自立心・自制心などの自分に関わる力や、協調性・共感力・思いやりなどのコミュニケーションに関わる力が非認知能力とされています。この非認知能力が子どもの将来や人生を豊かにするとされ、今注目されています。
学校よりも生活に密着した場であり、異年齢の子どもたちが毎日集まる学童保育の現場では、さまざまなコミュニケーション能力を養う機会が生まれます。言い合いやけんかになったとき、どうやって解決するか、相手に自分の気持ちをより正確に伝えるには、どうしたらよいか……こうしたコミュニケーションを通して、学童保育では非認知能力が自然に身についていくのです。
「わが子のことをよく知る第三者」支援員は子育ての相談役
近年、働き方に対する価値観が変わってきたとはいえ、実はまだ「子どもを学童保育に預けてしまって申し訳ない」と考える保護者のかた(もしくは保護者の周囲のかた)もいるようです。ですが、学童保育に通うことでお子さんが身につけられる力もあるのだと前向きに考えましょう。
学童保育は家庭の延長で、そこには「わが子のことをよく知る第三者」である支援員がいて支えてくれています。支援員は子育ての悩みを相談できるとても身近な存在です。毎日、お迎えの際に顔を合わせる支援員なら、学校の先生よりも気楽に気持ちを話せることもあるでしょう。
家庭と学童保育の両輪で、これから始まるお子さんの小学校生活をしっかりと支えていきましょう。
この記事の監修・執筆者
新潟県立大学人間生活学部子ども学科教授。専門は社会福祉学。学童保育の支援員を経て学童保育の研究を行い現職。放課後児童支援員の養成や地域の子ども・子育て支援などで活躍。
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