・お話はスムーズにできるけど文字の読み書きができない
・しりとりなどのことば遊びが苦手
・音読のとき、文章の読みがたどたどしい
・読み・書きともに
「ちょきん(貯金)」「でんしゃ(電車)」「きんぎょ(金魚)」などに使われる「ちょ」「しゃ」「ぎょ」などの拗音
「行った」「きって(切手)」「ラッキー」など、小さな「っ」「ッ」で表す促音
「飲んだ」「にんじん」「こんにちは」などの「ん」で表す撥音
「おかあさん」「ふうせん」「おにいさん」などの(「あ」「う」「い」)などの長音でつまずき、聞いた言葉を正しく真似したり書いたりすること ができない、など
このような学習におけるお悩みが、小学生の子どもを持つ保護者、また塾や学校の先生方から寄せられるそうです。語彙や文字の読み書きの習得をスムーズに進めるには、どのような関わりや力が必要なのか、今回も幼児・児童教育の専門家である野瀨愛未先生にお話をうかがいました。
お話/野瀨愛未先生(一般社団法人ワーキングメモリ教育推進協会 理事・上級インストラクター)
「聞く・話す」から「読む・書く」へ
一般的に、小学校入学前の子どもは正式に文字の教育を受けていないため、文字が読める・読めないには年齢や個人による大きな差があります。小学校入学後に子どもは正式に文字を学習し、文章を読むことで、新しい言葉や語彙を増やしていきます。
一方で、小学校入学前の子どもは、耳から聞いた音声から直接新しい言葉を学習し、言葉を増やしていきます。それは親やお友だち、周りの人とのコミュニケーションや、絵本の読み聞かせ、テレビなどのメディアの視聴からの習得であったりします。
耳から聞く言葉はその場ですぐに消えてしまうので、聞いた言葉を頭の中で覚えておかないとその音声の意味を考え、理解することができません。また、その中の言葉を学習することもできません。そのため、音声を正確に聞き取り、聞き取った音声をしばらく頭の中で覚えておき、同じ音声で真似をすることができる力、つまり、「聞き取る力」が、小学校入学後の子どもの読む・書くなどの言語学習の基盤となります。
ことばの習得を支える「ワーキングメモリ」
上記の「音声情報を正確に聞き取り、聞き取った音声をしばらく頭の中で覚えておき、同じ音声で真似できること」は、「ワーキングメモリ(Working Memory)」の働きになります。「ワーキングメモリ」は、情報を覚えながら考える脳の働きです。
幼児期の子どもは、耳から聞いた音声から直接言葉を習得します。その際、その音声はいったんワーキングメモリに保持されます。言葉の数がまだ 少ない子どもにとっては、耳にする多くの言葉を 知らない可能性が大きいです。つまり、大人にとって知らない国の言語でニュース番組を見たり、全く意味を持たない言葉を聞いたりしているようなものなのです。
例えば、子どもが新しい言葉「リンゴ」を覚えるには、「リ」「ン」「ゴ」という3つの音をワーキングメモリに正確に覚えておく必要があります。「リンゴ」を聞いたとき、ワーキングメモリに正確に覚えておくということは、上記でも述べたように聞いた音声と同じ音声で真似できるということです。そして、口頭で真似できるということは、頭の中でくり返していることと同じことであり、聞き取りができたという客観的な証拠です。このようにワーキングメモリに音声を正確に保持することで、その情報は長期記憶に送られ、子どもの語彙の一部となります。
「ワーキングメモリ」は、幼児期の子どもにとって言葉の習得を支えているので、「言葉の習得装置」とも言われています。
音を意識的に考える力の発達
ワーキングメモリは年齢と共に大きくなると言われています。そして、その原動力は、ワーキングメモリをよりよく働かせて、知識、特に言葉の知識を脳に蓄えることです。
例えば、絵本などの読み聞かせの場合、音声情報を正確に、多く聞き取ることができると、よりたくさんの言葉を覚えることができるようになります。そうすると、脳の黒板やメモ帳と呼ばれるワーキングメモリの成長を促すことができ、黒板の大きさも大きくなります。その結果、より多くの言葉を覚えることができ、更にワーキングメモリの発達も促すことができるという、望ましい流れができます。
この流れができると、脳の黒板に書きこめるスペースにも余裕ができてきて、覚えた言葉を意識的に考えることができるようになります。そして、言葉を意識的に考える言葉遊びやしりとりなどの遊びを始めます。
例えば「しりとり」をするためには、「キツネ」という音声を聞いたとき、「キツネ」は「キ」「ツ」「ネ」という3つの音からできていて、最後の音は「ネ」であるということを理解しなければなりません。
そのためには、聞いた言葉の音声をワーキングメモリに覚えておき、その言葉がいくつの音でできているのか、最後の音は何かということを考える力が必要になります。
聞き取る力と読み書きの力
この「キツネ」の音声を聞いて、音を数えたり、最後の音を取り出したりできる力、つまり、言葉がどんな音からできているのかを認識し、それらの音を操作できる認知機能を「音韻認識」と言います。この「音韻認識」は、小学校入学後の文字やことばの習得において、ワーキングメモリと同様、重要な役割を果たしています。
この「音韻認識」の能力の発達によって、2つのことができるようになります。
①聞き間違いを訂正でき、言葉の習得を促す
子どもは聞いた音声を1語ずつ確認することができます。例えば「キツネ」を「キツメ」と聞き間違えても「メ」が違うようだと認識できるようになります。このことは、ワーキングメモリに正確に音声情報を覚えておくことを助け、言葉の習得を促します。
②文字と音の対応の学習
子どもは、自然と「個々の文字に対応する文字がある」ことを学びます。
『「キツネ」は、「キ」、「ツ」、「ネ」の3つの音からできている』ことに気づき、それぞれの音に「キ=き」「ツ=つ」「ネ=ね」のように文字が対応することに気づきます。こうして、小学校入学前に多くの子どもは、自然に、ひらがなの読み書きができるようになります。小学校入学後は、正式にひらがな、カタカナ、漢字などの文字の読み書きを学びながら、耳で聞くよりも、教科書や黒板などの文字(文章)を読むことで、言葉を増やしていきます。
このように、聞きとる力は、言葉の数を増やし、ワーキングメモリと音の意識「音韻認識」の発達を促し、最終的に読み書きの力だけでなく、新しい知識やスキルの習得にもつながっていくのです。
そのような意味でも、聞き取る力は、子どもの学ぶ力の指標だと言えます。
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この記事の監修・執筆者
株式会社インフィニットマインド/同協会代表理事で広島大学大学院教授の湯澤正通先生が開発した「アセスメントHUCRoW」の分析レポートを国内で唯一担当し、その分析を通して「子供の個性」を見出す活動に従事している。現在、「ことばパーク」のカリキュラム制作にも携わる。
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