2020年度から実施された新しい学習指導要領のもと、小学校では「探究的な学習」を導入した授業が行われています。
「探究的な学習」では自分で課題を設定し、問題を解決する力を育てることが目的ですが、どうして小学生にこのような力が求められるのでしょうか? また、探究的な学習で培われる能力は、将来どんなことに役立つのでしょうか?
なぜ「探究的な学習」がこれからの社会で重要なのか、同志社大学政策学部 風間規男教授にお話を伺いました。
「探究的な学習」って何?
探究的な学習とは、自分で問いを見つけ、課題を設定し、情報を集めたり、誰かにインタビューをしたりして、まとめたりプレゼンテーションをする学習です。
自分で課題を設定することが大切で、これは今後の社会において大切な力といわれています。
「課題を設定する」ってどういうこと?
私の専門である政策学の視点から説明してみましょう。例えば、いじめ問題を解決する方法を考えるとします。
いじめの原因はたくさんあり、複雑に要素が絡み合っていますよね。いじめに対応できる先生がいない、学校がいじめに対応する体制ができていない、子どもが親に何も話さないなど、色々な原因が見えてきます。
その原因のすべてを漠然と扱うのではなく、政策で対応できるものが何かを探索していきます。例えば、いじめに組織的に対応できる教員の体制が整っていないという原因に焦点を当てると、いじめに対する対策を具体的に考えることができますよね。
これを政策学では「リフレーミング」と言います。「いじめ」という大きな問題を掘り下げて、「教員の体制の問題」へとフレームを作り変えていく。これが課題を設定するプロセスです。
こうした思考のプロセスをたどっていかないと、最初に定義した問題にこだわり、フレームを変えられず行き詰まります。
そうではなく、問題を深堀りしていき、別の課題を見つける。その問題を解決する。このプロセスが、これからの社会において重要なのです。
これからの社会では「課題を設定する」力が大切
なぜ課題を設定することが重要なのかというと、これからの社会では、言われた通りにこなせばよいだけの仕事やルーティーンの仕事は、AIが担うようになってくるからです。
そして、そのような単純作業以外の仕事をこなしていく中で求められる人材は、今まで何もなかったところに新しいものを作っていくことができ、それを実現させるための課題を設定することができる人です。
例えばAIは、質問しないと何も答えてくれません。どう問いかけるかによって出される答えの質が変わってくるので、よい問いを立てられる人が優秀な人材といえるでしょう。
この、問いを設定する力が今の大学生には不足していると私は感じています。これは受験勉強の弊害があるのではないかと思いますが、聞かれた質問に対して答える勉強をしてきたので、自分で問いを立てることが苦手なのではないかと思うのです。
しかし、新たな社会では課題を発見していくプロセスが大切で、問題を自ら定義して作っていく力が必要です。
「探究的な学習」が子どもの将来を創る
探究的な学習によって、時代が変化しても対応できる力が身につきます。
今後ますますのAIの発展や社会の仕組みなどの変化があり、今ある職種が将来はなくなるといわれています。時代が変われば、今学んでいるスキルや知識は、全く役に立たなくなるかもしれません。
例えば、今は翻訳ソフトが発達しているので、単に英文を読むだけなら英語の知識はそれほど必要なくなってきました。
知識そのものが求められなくなったときに重要となるのは、学習の根幹にある「知識を使いこなす力」。そして、知識を使いこなすには、探究的な学習で培う「問題を設定する力」が必要です。
探究的な学習をすることで、自ら問いを立てて主体的に行動する力が習慣として身につきます。これは、どんなに社会が変化しても対応できる、ベースとなる力でしょう。
お子さんが困難に直面した時に思考停止しないために、探究的な学習のスキルが活きてくるのです。
「課題」を見つけるために日頃からできることとは?
小学生のころから“なぜ”と問いかけていくことが大切です。問題を掘り下げ、自分なりの問いを作っていく反復運動が必要で、その姿勢で生きていくのです。
例えば、「大谷選手のようになりたい」と思ったら「なぜなりたいのか」を考えます。スポーツ選手として有名になりたい、お金がほしい、一つのことに向き合う生活がしたい……色々な理由が出てきますね。
さらにそれを掘り下げると、それなら大谷選手だけではなくて他にこういう選手もいる、こういう職業もある、自分はこういう人になりたいんだ、という発見につながり、新しい気づきになります。
このように、課題を見つけるには「大谷選手のようになりたい」という入り口のところでとどまって終わりにするのではなく、「なぜなりたいのか」と深い所まで掘り下げることが大事なのです。
何事も、「なぜだろう、その理由はなんだろう」というふうに掘り下げて探索する思考が習慣づいていれば、その疑問を自分にとっての課題にすることもできますし、それがやがて社会全体の課題に広がっていくこともあるでしょう。
問題を解決することにこだわる必要はありません。きれいな答えを出すことでなく、問いを立て、その問いが「面白いね」と評価される環境であってほしいのです。
ヒントを出すことが保護者のできるサポート。答えは教えない
保護者のかたは「ヒントは言うけれど、答えは言わない」という姿勢が大切です。
お子さんが何か疑問をもったとき、迷っているときに答えを言ってしまうと、そこで子どもの思考はストップしてしまいます。そして、お子さんは保護者のかたが答えを言うことを期待するようになるでしょう。
保護者としては、たとえ答えがわかっていたとしても、お子さん自身が課題を設定して答えを見つけた、という状況を作ってあげることを意識してみてください。本人の気づきを促すヒントを与える距離感が、家庭や教育の現場で必要なのです。
例えば、普段の生活でお子さんが素朴な疑問をもっても、すぐに答えは言わず、その代わりにヒントをたくさん与えるようにしましょう。
答えがわからなかったり、結果がでなかったりすることもあるでしょう。ですが、成果が出なくても、問いを設定して探索していく過程に意味があるのです。
子どもを見守ることが、探究心を育てる
一番大事なのは、保護者が子どもの様子をよく見ていることです。
大学生に指導していると、「保護者のかたがよく子どもを見ているな」という気配のある学生は優秀だと感じることが多いものです。ここでいう「気配」というのは、保護者の話が学生からよく出てくる、というようなことです。これは、決して過保護ということではありません。
子どもが何か迷ったとき、すぐに答えを言ってしまうのは、単なる過保護な親です。
そうではなく、保護者のかたがお子さんを見守る中で、必要なら声をかけたり、アドバイスをしたりすることが重要です。そして、よいヒントは、子どもの関心をわかっていないと与えられません。きちんとお子さんを見て、適切なヒントを出すことが大切です。これは学習だけではなく、進路や就職活動など、人生を歩む上でも同じですね。
時には、保護者のかたからのアドバイスをお子さんがストレスに感じたり、考える邪魔になったりする場合もあるでしょう。そんな際には、保護者のかたの思い、願いをそのままストレートに伝えるのではなく、ヒントとして出したり、考える材料を与えるつもりでアドバイスしたりしてみてください。
保護者が手を差し伸べるかどうかはその時々の判断ですが、子どもの様子を観察する、見守ることが大事です。そういう姿勢が、探究心の強い子どもを育てることにつながるのです。
これからの社会で探究的な学習が重要となる理由を、同志社大学政策学部教授 風間規男先生にお話しいただきました。
”なぜ”と問いかけ、問題を掘り下げながら問いを設定することは、普段の生活からぜひ意識していきたいところですね。
とはいえ、課題を設定するといっても、なかなかいいテーマが見つからないこともあるでしょう。
そこで次回の記事では、宇宙研究者、医師、エンジニアなど6職種のお仕事のプロが行う特別授業を通して、子どもが将来の夢について考えるきっかけとなる「Go Dream」オンライン型探究学習「夢発見プログラム」について、株式会社 Blueberry代表取締役社長の柴田涼太郎さんにお話をうかがいました。
次回の記事はこちら:子どもの夢を見つける力、実現する力を育む「夢発見プログラム」とは?
「将来の夢・やりたいことは何か?」という大きな問いを探求していくきっかけとなるかもしれません。お楽しみに!
この記事の監修・執筆者
同志社大学政策学部の教授。昨年まで政策学部長を務める。
京都府など全国の自治体では、政策形成研修を担当。
同志社大学では、探究的な学びを行う講義やPBLを取り入れたゼミ活動を積極的に展開している。
こそだてまっぷから
人気の記事がLINEに届く♪