みなさんは、「論理的思考」という言葉を聞いたことがありますか?
2020年度から小学校の授業で必修化された「プログラミング教育」でも、この思考が求められています。
前回、論理的思考とは「一貫した筋道を立てて考え、説明することができる力」であることをお話ししました。
今回は、この力を育むために「家庭で実践できること」についてご紹介します。
お話/横山洋子(千葉経済大学短期大学部こども学科 教授)
人と関わり、考えを伝えるために必要な「論理的思考」
論理的思考は、「人と関わり、思いや考えを伝えるとき」に必要だといわれています。
たとえ相手と自分が同じ場所にいても、見えている景色が違います。そのため、「自分の考えを筋道立てて考え、伝える」ということは、日常生活を送るなかで、とても大切なことなのです。
具体的に、生活の中で論理的思考が必要な場面を見てみましょう。
———たとえば、おもちゃを貸してもらいたいとき。
「○○くん、その三角の赤いブロック、この青いのと、かえっこしてくれる?」
「どうして?」
「ぼく、このおうちを作ってて、屋根を全部赤くしたいの。その三角の赤があったらできるんだ」
「いいよ。終わったら貸してね」
———または、劇遊びの相談をしているとき。
「魔法使い役は3人だね」
「それじゃあ、ひとりが真ん中に出て、あとの2人はお客さんに向かって魔法をかけたらどうかな?そうしたら、踊りもよく見えるよ」
「いいね、やってみよう」
そのほかにも、
●友だちと話し合って決める
●入学試験や就職活動での面接
●ビジネスの場での商談や取引
などがあり、子どもから大人まで誰もが求められている力といえますね。
ものごとを他人といっしょに取り組むにあたり、「どこに問題があるのか」「どこまでなら譲れ、どこは守りたいか、どこを痛み分けにするのか」などをよく考え交渉する際に役立つ力となるでしょう。
「論理的思考」を育むためのコツ
「論理的思考」のイメージがわいてきたら、次に育むためのコツを押さえていきましょう。
おしゃべりをたくさんしたい気持ちを引き出そう!
幼児期は、頭の中でぴったり合う言葉を探しながら、つむぎ出す経験をたくさんしてほしい時期。
もちろん、正しい文法でなくても、何度も言い直しても、間違っていても、ALL OK!
この時期に論理的思考を引き出そうと、「どうしてそう思うの?」と強引に問われると、子どもの言葉は引っ込んでしまいます。
子どもの話を存分に聞いたあとで、「ひとつ聞いてもいい?」「~って考えたのはどうしてか教えてくれる?」など、子どもの負担にならない程度に尋ねるのがポイント。
そして、子どもが自分なりに考えて話したら、「なるほど。訳を話してくれたから、よくわかったよ。ありがとう」と返しましょう。このことで、“理由を話した方が、理解してもらえる”ということを身をもって実感できるでしょう。
このように、日ごろから自ら「おしゃべりしたい!」という気持ちを引き出すことが大切なのです。
こんなふうに声をかけてみよう!
前回の記事で、論理的思考を育むために大切な3つのポイントは、「自分の思いや考えを話せる場を作る」「“親自身”も自分の行動の理由を話してみせる」「絵本の読み聞かせをたっぷりする」とお話ししました。
では、実際にどのような声をかければよいか、具体例を見ていきましょう。
《例1》自分の思いや考えを話せる場を作る
きょうの着る服を選ぶとき
親「今日はどの服を着て、保育園に行こうか?」
子「う~んと、 これ(Tシャツ) と これ(パンツ)!」
親「どうしてこれにしたの?」
子「この前、このTシャツ着てたら、先生にかっこいいねって言われたんだ」
親「へ~、そうなんだ、うれしかったね」
図書館で絵本を選ぶとき
親「どの絵本読もうか?」
子「そうだな~、この本!」
親「どうしてこの本にしたの?」
子「表紙のねこがかわいいから! 中を見たら魔女も出てきておもしろそう」
親「そっか、それじゃあ、読んでみよう」
休日にすることを決めるとき
親「あしたの日曜日、なにして遊ぶ?」
子「実験やりたい!」
親「実験?」
子「『かがくマジック』の本に、ビニール袋に鉛筆をさす実験があったの。ホントにできるかやってみたい」
親「おもしろそうだね」
◆ココが大切!
前回の記事でもお伝えしたように「自分で選んで決める機会を作る」「理由を尋ねる」「どんな理由でも認め、受けとめる」ことがポイント。この経験をたくさん重ねることで、子どもの論理的思考は育まれていきます。
《例2》“親自身も”自分の行動の理由を話して見せる
夕飯の買い出しのとき
親「夕ごはん、なにが食べたい?」
子「オムライス!」
親「じゃあ、卵と鶏肉を買おうね。こっちの鶏肉は、あしたの茶わん蒸し用だよ。おじいちゃんのリクエストだからね」
子「わかった」
休日に出かけるとき
親「あしたは、おうちを10時に出発するよ」
子「はーい」
親「高速パーキングで1時くらいにお昼ごはんを食べたら、夕方ころにはおばあちゃんちに着けるからね。おばあちゃん、○○に会うのを楽しみにしてたよ」
◆ココが大切!
子どもの論理的思考を育むには、親自身も、日ごろから筋道の通った考えを伝えることが大切です。理由を聞いて納得する体験を重ねるうちに、自然と筋道を立てた話し方ができるようになっていきます。
《例3》絵本の読み聞かせをたっぷりする
論理的思考を育むのにおすすめなのが、質の高い絵本です。たとえば、
●親が読んで気に入った本
●子どもが選んできた本
●名作といわれる本(日本・世界昔話などもOK)など。
今回は、1冊の中にたくさんの名作が登場する、学研プラス『「読解力」がぐんぐん伸びる 名作おはなし れんしゅうちょう』を例に挙げて、声のかけ方を紹介していきましょう。
『うらしまたろう』
「どうして、亀は、うらしまたろうを背中に乗せたのかな?」
『おむすびころりん』
「なぜ、おじいさんはおにぎりをもうひとつ穴に落としたの?」
『はだかのおうさま』
「パレードを見ている人が大笑いしたのは、どうして?」
◆ココが大切!
まだ言葉の数が少ない子どもには、たっぷりと読み聞かせをしてください。たくさんの言葉にふれることで、言葉を吸収していきます。物語の世界で自由に思いをはせ、自分の考えを楽しく発信する経験を重ねていきましょう。
論理的思考が身につくと、自分の思いや考えを相手に伝えることが得意になっていきます。
今回ご紹介したことを、日々のコミュニケーションの中で、できることから始めてみてはいかがでしょうか。
この記事の監修・執筆者
富山大学教育学部附属幼稚園・教諭、富山市立古里小学校、富山市立鵜坂小学校・教諭を経て、現在は千葉経済大学短期大学部こども学科の教授を務める。著書には、『保育者のためのお仕事マナーBOOK』、『保育に生かせる!年中行事・園行事ことばかけの本』、『毎日のちょこっとあそび』(学研)などがある。
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