小学生に「将来なりたい職業」を たずねると、常に上位にランクインする「イラストレーター」。
キラキラしたかわいい絵に胸をときめかせ、まねして描くことに夢中なお子さまもたくさんいるのでは?
そんなあこがれの「イラストレーター」のお仕事の現実は、どんな感じなのでしょうか。
小学生に大人気の物語の装画やさし絵を手がける、水玉子さん、子兎。さん、星茨まとさんの3人に、お話をうかがってみました。
3人の絵に共通する魅力は「かわいい!」「ていねい!」「トキメキ!」。
代表作の3シリーズは2025年1月現在、合計の累計刷部数がまもなく90万部に到達する大ヒットとなっています。
水玉子(みずたまこ)
『アオハル100%』(KADOKAWA)ほか書籍さし絵や、初音ミクSoft『ハロ/ハワユ』PVのイラスト、鹿乃アルバム『鹿乃BEST』ジャケットイラスト・キャラクターデザインなど、幅広く活躍中。代表作である『ララ姫はときどき☆こねこ』シリーズ(Gakken)では、元気な王女さま、ララ姫と、ララ姫の変身したすがたであるトラネコ、舞台となるお城の世界を、あこがれ感いっぱいに描いている。
子兎。(こうさぎ。)
児童書やWEB小説のイラストを中心に、作家としても活躍中。主な作品に『メイクアップファンタジーぬりえ』(ブティック社)、『ハッピー! 手相占い大じてん』(成美堂出版)など。代表作である『となりの魔女フレンズ』『ひみつの魔女フレンズ』シリーズ(Gakken)では、人間と魔女のダブル主人公の友情物語を、メルヘン感いっぱいの色づかいで描いている。
星茨まと(ほしいばら まと)
書籍のイラストやマンガ、キャラクターデザインなど、幅広く活躍中。主な作品に『せかいがかがやく おんなのこのでんきえほん』(西東社)、『漢字使い分け大百科』(成美堂出版)など。代表作である『虹の島のお手紙つき』シリーズ(Gakken)では、『ダイヤモンド編①』『アメジスト編②』のイラストを手がけ、『ダイヤモンド編④』も担当することが決定している。また、全巻に関連する、虹の島や魔法の学園の舞台設定も担当している。
インタビューでは、代表作3シリーズの制作時ウラ話をはじめ、こどものころのこと、「イラストレーター」になったいきさつ、親御さんに感謝していることなど、興味深いコメントがたくさんとびだしました!
物語のさし絵を描く楽しさ・難しさ
―― 『ララ姫はときどき☆こねこ』『魔女フレンズ』『虹の島のお手紙つき』シリーズのさし絵をそれぞれ担当することになったとき、どんなお気持ちでしたか。
水玉子: 『ララ姫』を依頼いただいたときは、まだ書籍のお仕事の経験が少なく、うれしい気持ちもある一方で、自分につとまるかな?と少し不安な気持ちもありました。
子兎。: 『魔女フレ』を担当することになったとき、それまで「魔女」はあまり触れてこなかった分野だったのですが、魔法やファンタジックなアイテムは大好きで、「それを描けるんだ!」とうれしかったです(笑)。
星茨: イラストのお仕事をいただくようになってから、さし絵のお仕事はずっとあこがれ・目標だったので、『虹の島』のお話をいただいたときはとてもうれしかったです。マンガは趣味で描いたことがありましたが、表情やしぐさなどを物語のシーンに合わせてイラストで表現するのは初めてで、刺激的なお仕事でした。
―― 『虹の島』は1冊ごとにイラストレーターが交代するシリーズということで、全巻統一した世界観を構築するために「舞台設定」資料も作られたそうですね。
星茨: はい。キャラクターたちがどんな学園で学んでいるのかなど、物語の世界観を想像するのがとても楽しかったです。『ダイヤモンド編』の主人公たちが暮らす学園寮のお部屋は、校舎の端の塔にある円形のお部屋なので、ベッドが放射状に並んでいたりしておもしろいんです。
―― 3つのシリーズは主に小学生対象の本ですが、こども向けのイラストを手がけるうえで、大事にしたポイントはありますか?
水玉子: ふだん描く女の子より少し幼くかわいらしく、また、ドレスがかわいく素敵に見えるように描きました。
子兎。: こども向けのイラストでは、わかりやすさを大切にしています。わくわく感と、大人になっても「お気に入り」と思える本になればと…!
星茨:私は『虹の島』を担当することになったとき、自分が同じ年齢の頃、どんなさし絵だとうれしかったかを思い出して、それを実現したいと考えました。ただ、自分のこども時代より変わっていることもあるし、今のこどもたちの考え方やどんなものに興味があるのか、教育や家族のあり方、こどもをとりまく環境の変化などのリサーチも欠かせないなと思っています。
――物語を読む際に、登場人物に感情移入できるかどうかは、とても大事なポイントですが、ご担当シリーズの主人公は、みなさんからみてどんな子でしょう?
水玉子: ララ姫はとっても好奇心旺盛で、友だち思いでやさしい子です。明るくてみんなに愛されていることがわかるように、女の子のときもこねこに変身した状態でも表情豊かに描くようにしていました。
星茨: 『虹の島 ダイヤモンド編』に登場するジュリエは、日本の物語ではあまり主人公にはならないタイプの、リーダー志向の女の子です。(アメリカのティーン向けドラマや映画などでは、けっこういるタイプなのですが)顔は明るくはきはきとした印象で、まなざしは意志の強い感じ。しぐさは自信ありげに堂々と、ぴしっと伸ばすところは伸ばす感じ、また上品さもあるイメージで描いています。ファッションはトラッドなベースにフリルなどを足してロマンチック感も表してみました。
子兎。: 『とな魔女』に登場するカエデは、内に向かうしぐさにしています。笑顔も天使級にかわいく。そしてメイプルは、しぐさを雑っぽく。意外と頭の中で生きてる気がするので、真顔も多めにしています。
―― いちばん難しかった工程はどこでしたか?
水玉子: 『ララ姫』は中世ファンタジーの物語だったので、それを描くのが難しかったです。参考資料をたくさん見たり、編集の方に助言をいただいたりして、なんとか乗り越えられました。
また、構図も似たようなものばかりにならないよう考えるのが難しかったです。
星茨: 難しかったのはモノクロイラストを描くこと。『虹の島』シリーズではじめて挑戦することになり、まず濃さの加減が難しいなと思いました。
『虹の島』はやさしくロマンチックな世界観の物語なので、単純にメリハリ重視で塗ってしまうと強すぎてしまったり。作画時にモニターで見ている感じと印刷時のギャップもあったり…。編集の方やデザイナーさんに、たくさん助けていただきました。
水玉子: たしかに、モノクロイラストは色の濃さを調整するのが大変ですよね。画面で見てちょうどよくても、印刷されるとイメージが違ったり…。あまり暗くなりすぎないようにしたいと思っています。
子兎。: 私も、モノクロイラストは、メリハリをつけて見やすく、でも画面が暗くなりすぎないように注意しています。
―― では、いちばん楽しくワクワクしたのはどの工程でしょう?
子兎。: 『魔女フレ』の物語の文章をいただいたときや、ラフ指定をいただいたときです。頭の中で絵をどう魅力的にしようと想像しているときが、いちばんわっくわくです!
星茨: 私も『虹の島』の「粗訳(原書をざっと翻訳したもの)」を、このシーンはこんな絵にできそうだな、と想像しながら拝読するのが楽しいです。そこから思うようにいいラフが描けると、ふわっとしていたものが形になっていき、うれしいです。
水玉子: 私は、キャラクターの心情を考えて、表情を描くときが好きでした。
こどものころから 絵を描くのが好きだった
―― 絵を描く楽しさを知ったのはいつごろでしたか。
水玉子: 保育園のころでしょうか…。
星茨: 私も幼稚園へ通っているころです。バスの待ち時間や自由時間にたくさん絵を描いていました。好きなアニメやマンガを見ながら模写したりして、絵を完成させるのが楽しかったです。見た人がほめてくれるのもうれしかったです。
小学校のころは、好きな教科はやはり図工で、他の教科でもノートに絵を描いて説明を入れたり、絵を描く課題には特にわくわくして取り組んでいました。
―― 絵を描く練習はしていましたか。
水玉子: 好きなマンガやアニメのイラストをまねて描いていました。練習というつもりではありませんでしたが、練習になっていたと思います。
星茨: 絵を描く仕事=マンガ家 と思っていたので、マンガの描き方の本を何冊か買ってもらい、そこに書かれていた人物の描き方や背景パースの練習に励んでいました。
スケッチブックや画材も買ってもらいました。
―― こどものころの体験や学びで、今の創作に役立っていると思うことはありますか。
水玉子: 母がマンガをたくさん買ってくれたことです。いろんな絵をたくさん見られたことで、今の創作にも大きな影響があったと思います。
子兎。: 図書室が好きで、よく本の絵を見ながら「自分だったらもっと…!」と生意気ながら考えていたことが、今の絵の描き方につながっていると思います(笑)
あとは、「こういう世界があったらいいな」とか、こどものころの気持ちのほとんどが、今の職業につながっていると思います。
星茨: こどものころ、やりたいと言ったことは比較的なんでもやらせてくれる親だったので、経験は少なくない方だと思います。ピアノなどの習い事や、部活や地域のクラブ活動でやったスポーツは道具の質感や感覚、ルール以外にもその場の空気感に触れた経験も糧になっています。
限られたものだけを描くのであれば必要ないかもしれませんが、いろいろなものを描く機会がある仕事なので、どの経験が役に立つかわからないもので、意外な経験が役に立ちます。両親に感謝しています。
「イラストレーター」への道のり
―― 「イラストレーター」になろう、と思ったのはいつごろでしょう?
水玉子: 特にはっきり決めていたり、特別に何かしていたわけではなく、趣味の絵をインターネットで公開していたらお仕事をいただくようになったという流れでした。
子兎。: 高校3年生の進路を選ぶときですかね…。公務員さんになろうと思ったのですが、なぜかすごく暗い気持ちになって、絵の学校に行こうと考えたとき、ぱっと明るく、心が軽くなったので、やってみることにしました。
星茨: 絵は好きだったので美大に興味がありましたが、美大を出て何になれるのかがわからず、就職先の幅が広そうな大学(法学部)に進みました。大学卒業後は一般企業で働いていました。
社会人になってからはしばらく絵を描いていなかったのですが、ふと「創作をしていない自分はつまらない人間かもしれない」と感じ、また絵を描きはじめ、SNSにアップするようになりました。はじめは趣味だったのですが、しばらく描いていると絵のお仕事をいただけるようになり今に至ります。
どうせなら美大で学んでいたら、活かせることがあったのかなと思います。(法学部は、契約書や著作権などの法的な場面で、多少役に立っているかもしれませんが)
―― いつもかわいくてトキメキいっぱいの絵を描かれていますが、「かわいい!」のインスピレーションは、何から得ていますか?
星茨: かわいい雑貨や服、インテリア、街並みなどを見ること。特にフランスやイギリスをはじめとしたヨーロッパの街並みやインテリアなどが好きで、雑誌の特集や関連書籍をよく見ています。ヨーロッパの街を歩く旅番組もよく観ています。
ネットも便利なので、好きなお店のwebショップや、センスのいいwebサイトをよく見ています。
家にいることが多い仕事なので、部屋にかわいいと思うものを置いて楽しんでいます。
―― 思うように描けないときは、どうしていますか。
水玉子: 一度描くのをやめて、映画や動画を観たり他のことで気分転換をします。映画はホラーやサスペンスが多いです。
何もせずぼーっとするのも大好きなので、のんびりします。
星茨: 心が疲れていたり、インプットがずっとない状態では発想がとぼしくなりがちなので、いつもと違うことをして刺激を受けると、ぱっといい案が浮かぶことが多いですよね。気楽に考えることも大事なのかもしれません。
子兎。: 音楽で心を動かしてしまうのもいいですね! それから素敵な作品を見たり、普段の生活を充実させたりします。
星茨: あと、資料不足で記憶で描こうとしているときや、発想力不足で描けないことも多いので、描くものの資料を探して研究すると解決することもあります。
―― 「イラストレーター」として努力している!と思うことを教えてください。
水玉子: 衣装や髪型はいろんな作品や雑誌などを見てインプットしたりしています。
色の組み合わせを考えるのが本当に苦手なので、いろいろな配色が載っている本を買って参考にしたりしてます。
子兎。: 同じ絵を描く練習などは苦手なので、いちばん納得できる絵を描くようにしてます。納得できない部分をとことん突きつめると自分のもっと上手になれる部分がわかる気がします。
星茨: 物語のさし絵の場合は、お手元に置いて何度も読み返していただけるよう、とにかくていねいに描こうという気持ちが強いです。『虹の島』はロマンチックで美しい世界観の作品なので、目の輝きや装飾などもしっかり描いてトキメキをお届けしたいと思いました。
「イラストレーター」に必要なこと
―― 「イラストレーター」に必要なのはズバリ、どんな力だと思いますか?
子兎。: 個性も大切だと思いますが、いちばんは基礎力と伝わりやすさだと思います。
水玉子: イラストレーターに必要なのは、自分の好きなイラストをたくさん描いて完成させる力かなと思います。たくさん描いたら必ず上手になります。
星茨: 私もよりいいものが描けるよう、日々勉強の身です。イラストレーターに必要なことを追加するとしたら、画力と要望の理解力だと思います。画力だけで好きなものを描いていくのは芸術家、イラストレーターは芸術家の面もありますが、依頼者の要望に沿って描くことが基本なので、要望の内容や背景などを理解して描けないといけないと思います。
また、人気のある絵、たくさんの人に気に入られる絵が商品価値をあげるので、時代にあわせて進化するなど、絵の魅力をあげるため、保つための努力が必要かなと思います。
―― 「イラストレーター」の自分を、親御さんはどんなふうに応援してくれていますか。
星茨: 両親は本が発売されることを連絡すると、発売日に書店で買って、絵をほめてくれました。とても喜んでくれて、こちらもうれしくなりました。
―― ファンのかたの応援で、うれしかったエピソードはありますか。
水玉子: ドレスコンテストの企画で、たくさんイラストをいただいたことです。
―― 小学女子のなりたい職業No.1は「イラストレーター」という結果が出た調査もあります。「イラストレーター」の職業を夢見る小学生たちに、アドバイスをお願いします!
水玉子: 自分の好きなものを好きなようにたくさん描いてください!
子兎。: 自分の「いちばん素敵」を更新し続けてみてください。子兎。もそうします!(笑)
星茨: 絵を描くことが好きであれば、イラストレーターは天職だと思います。好きなものだけを描くのではないので、こんな絵を描いてほしいと言われて、『よし、こんな風にしてみよう!』と発想するのが楽しかったり、自らは描かないポーズやシーンも『魅力的に描ききるぞ!』というチャレンジ精神がある人、絵で他の人を喜ばせるのが楽しい人に向いていると思います。
―― 「イラストレーター」を夢みる小学生の保護者のかたへも、アドバイスをお願いします!
子兎。: とても恐れ多いのですが…自分がほしかったなと思うのは肯定してあげることと、絵だけじゃない、人生や生活におけるいろんな楽しみかたを教わることです。大人になった今、とても役に立つ気がします。
そして絵を描く時に、姿勢が悪くならないようにしてあげてください(笑)これも役立ちます!
星茨: 無駄な経験というのはあまりなくて、できるだけ多くのことに触れておくと考え方が広がったり、創作のいい糧になります。好奇心を大切になるべく多くを経験させてあげてはいかがでしょうか。
水玉子: たくさん描かせてあげて、たくさんほめてあげてほしいです。でもわたしは家族に絵を見られるのがはずかしかったので、見せたがらない場合はそっとしておいてあげてください…!
大好きな「絵を描く」職業への夢を実現させ、生き生きとお仕事をされている3人。
細部まで凝った絵は、たくさんの努力とわくわく感の結晶です。
こどもたちの心をつかんで離さない、サービス精神満点の作品たちを、ぜひ手にとってながめてみてはいかがでしょうか。
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