【児童文学作家・黒田季菜子さんインタビュー】医療的ケア児との日々で見つけた執筆という居場所「書いて載せて、そして書いて、書いて」

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『あの日、ともに見上げた空』で、第33回小川未明文学賞の大賞を受賞された黒田季菜子さん。高校生、中学生、小学生の3人のお子さんを育てながら、SNSで連載やエッセイの刊行など執筆活動を続けてこられました。
今回、連載インタビューを通して児童文学作家としてデビューを果たされた黒田さんをじっくりと紹介します。

文/こそだてまっぷ編集部 イラスト/M.Tomii

目次

授業中も本をよみふけった子ども時代

――黒田さんのSNSでの連載やエッセイを読むと、色々なジャンルの本の名前が出てきます。きっと本がお好きなんだろうなと思い、本との思い出をうかがったところ、一番古い本にまつわる記憶は、海外絵本とのこと。

「自宅に外国の絵本のセットがありました。“ファランドール絵本”を翻訳したものだったと聞いています。それを端から一冊ずつ、毎日読み聞かせをしてもらい、字が読めるようになってからは、ずいぶん大きくなるまでそれを自分で読んでいました。

絵本の中では、子ども達がツリーハウスで暮らしたり、カフェオレカップでホットミルクを飲む子どもがいたり、大きな木を真ん中に生やした家があったり……北陸ののどかな里山で暮らしていた子ども時代ですが、絵本を窓に遠くの風景をたくさんながめていた子ども時代だったと思います」

――翻訳絵本で出てくる、日本ではあまりなじみないものって憧れましたよね!
本が好きなまま小学生になった黒田さんは、図書室によく通われていたようですが、そのなかでも好きな作品はどんなものでしたか?

「小学校に入ってすぐ、図書室で読んだ『ふしぎなかぎばあさん』(偕成社)を好きになりました。それから中学年頃に岩波少年文庫で『ナルニア国物語』に出会い、『モモ』(岩波書店)となかよくなりました。

高学年になると「おとなっぽいものを読むのがカッコイイ」と思って、芥川龍之介に手を出して、『六の宮の姫君』をなんだかかわいそうだなと思い、中学校では村上春樹を読んでびっくりして、村上春樹とは同年代である宮本輝を読み、次いで「長いのを読むのがカッコイイのかもしれない」と、ドフトエフスキーなんかに手をつけました。

あんな難解なものを当時理解できていたかはともかく、文字を目で追っていることが楽しくて、授業中にまでかくれて読んで成績がうんと下がりました。(子ども達にはまねしてほしくないですね)

今、好きな作家は?と聞かれると大勢いてなかなかしぼれないもので、今机の上にある作家の先生方で言うと、小川洋子と、いしいしんじと、津村記久子、あと内田百閒です。(敬称略)」

©M.Tomii

書き続けてこられたのは、ある方の言葉を信じてたから

――小学校中学年で『モモ』を愛読されていたなんてすごいですね。そんな文学少女な黒田さんが、読むだけでなく、自ら書き始めたのはいつだったのでしょう?

「小学校1年生のころからだったかと。かんたんな物語をつづってそこに絵を描いては、でも物語を完結させることはなく、「やっぱやめた」をくりかえしていました。頭の中はいつも半分が現実、半分が空想、そういう感じでとにかくぼーっとしている子どもでした。

授業中も、空想の世界でふわふわ遊んでいて、ふと気が付くと、教科書のどこをみんなが読んでいるのかわからないとか、わりと日常茶飯事」

「エッセイや物語をちゃんと終わりまで書いたのは、40歳を過ぎてからです。毎日のちょっとしたことをつぶやいていたSNSを通じて、web媒体に掲載するコラムを依頼されたことがきっかけでした。

なかでも児童文学を書こうと思ったのは、ある方に「あなたは児童文学に向いていると思います」と言っていただいたからで、ほめられると伸びるというか、おだてられるとせっせと木に登るタイプなのだと思います」

――ある方の言葉があって、今の作家デビューにつながったことを考えると、言葉の力は大きいですね。ただ3人の育児をしながら、時間を作って書きつづけることは大変かと。あわただしい毎日を送られるなか、いつからどんな気持ちで言葉をつづられているのでしょうか?

「SNSに文章を書き始めたのは5年目だと思います。
公募に出し始めて、今年で5年目です。
今も日記のような文章をちょこちょこ書いては載せています」

「毎日食事をしたり、眠ったりするのと同じ感覚で書いてきました。 元々、医療的なケアの必要な子どもがいて、毎日の登下校のつきそいや、月に何度かの通院、体調不良時の呼び出しなどの対応などがあり、就労がむずかしいのでずっと家にいて、「自分には、書くことしかできないのだから」という気持ちがきっとあったのだと思います」

物語の種は、末の子どもの学校生活から

――今回、小川未明賞に応募したきっかけはありますか? また、最終選考通過や大賞受賞の連絡を受けたときのお気持ちはどうだったのしょうか。

「それまで、一般公募を受けつけている文学賞を探しては応募していましたが、小川未明については『野ばら』が好きなこと、賞を実家のおとなりの新潟県の上越市が主催しているということで、なにか親しみを感じて応募しました。

大賞受賞の連絡は、選考委員の方から直接いただき、「本になるんだ」「うれしい」「これから大変だなあ」という気持ちが順番に頭を駆けめぐりました。応募後に読みかえした原稿に、直すところがたくさんあることに気付いたもので。

「いったい、何校くらい直すことになるのだろうか…」と、本当に震えました」

――色々と複雑な気持ちをかかえていらっしゃったとは。ただ、600を超える応募作から、見事栄えある大賞を受賞され、今月ようやく『あの日、ともに見上げた空』として刊行することとなりました。この物語が生まれた背景は、どんなことがあったのでしょうか? 

「この本の応募段階で、物語の構想を練っている前後に、末の子どもが小学校に入学して特別支援学級に入りました。そこにはそれまで感じたことのなかった、困りごとがあり、ぶつかる壁があり、もちろん良いこともありました。

しかし割と、学校生活を送るうえで、ちょっと肩身がせまいなと思うこともよくあり、そのたびに、“いやでも学校も世の中も、いろんな人がいていいところでしょう”と思い、それならこういうことをテーマに物語を書いたらどうだろうと考えたことがきっかけです」

――その背景が、多様性というテーマに切り込んだ本書に芽吹いていったのですね。書籍化にあたり、半年ほど改稿作業がありました。やり取りをしていくなかで、なにか印象的なことなどございますか?

「一冊の本ができあがるのに、ものすごい人数の方が関わるのだということです。

初稿を仕上げるまではずっとリビングの端っこに置いた小さな机でひとり、こつこつ書きつづけるだけなのですけれど、いざ本にとなると、編集の方や、イラストレーターさん、デザインの方、様々な方がいっしょに一冊を編んでくださる、それぞれの方に直にお会いすることはないのですけれど、チーム作業なんだなあと思いました。

書籍の奥付にはチームの皆さんがいます。こちらは実際に見ていただけたらうれしいです」

次回の第2回では、主に執筆と育児のことをうかがいます!

第33回小川未明文学賞大賞作品
『あの日、ともに見上げた空』

あらすじ

小学5年生のわたしには、ひとつ上の兄・ほーちゃんがいます。ほーちゃんは、とつぜんさけんだり、駆けだしたり。わたしとは全然ちがう人間なのです。でもそんなほーちゃんが、インフルエンザで修学旅行に行けなくなったことから、子どもからおとな、さらに犬まで巻きこむ「やり直し修学旅行」がはじまり……!?

「ふつう」や「多様性」を読者に問いかける、感動作品です。

(本作は、第33回小川未明文学賞にご応募いただいた639編(短編作品352編、長編作品287編) のなかから大賞にえらばれた「ほーちゃんと、旅に出る」(長編作品)を改題し、書籍化いたしました)

『あの日、ともに見上げた空』の商品概要

  • 作・絵:黒田季菜子(作)/トミイマサコ(絵)
  • 定価:1,760円(税込)
  • 発売日:2025年11月20日
  • 判型:192ページ
  • ISBN:978-4-05-206244-5

著者情報

作:黒田季菜子(くろだ きなこ)
富山県出身。著作に3人の子ども、そして日々のことをつづったエッセイ『まいにちが合嵐のような、でも、どうにかなる日々。』『今日は子育て三時間目』(ともにKADOKAWA)がある。

絵:トミイマサコ
埼玉県出身。東京都在住のイラストレーター。書籍の装画・挿し絵を中心に活動する。著書に画集『虹間色』(森雨漫)、『トミドロン』(パイ インターナショナル)などがある。

小川未明文学賞とは?

『赤いろうそくと人魚』など多くの童話を創作し、日本児童文学の父とよばれた小川未明。小川未明文学賞は、未来に生きる子どもたちにとってふさわしい児童文学作品の誕生を願って、1991年に創設された、公募による文学賞です。(上越市・小川未明文学賞委員会共催)

小川未明文学賞 公式ページ:https://gakken-ep.jp/extra/mimei-bungaku/index.html

最終選考委員 ※五十音順、敬称略

  • 今井恭子(児童文学作家)
  • 小川英晴(詩人)
  • 小埜裕二(上越教育大学教授)
  • 柏葉幸子(児童文学作家)
  • 矢崎節夫(童話作家・童謡詩人)
  • Gakken児童書編集長

選考委員の選評 柏葉幸子氏

「本作は、一番読後感がよかったです。旅に出るんだ、というわくわく感が伝わってきて、登場人物たちが個性的で魅力的でした」

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