小学校生活にも大きな影響をもたらした、新型コロナウイルス感染症。2020 年3月、これまで誰も経験したことのない「一斉休校」という事態に直面し、教師や子どもたちは何を感じ、どのように行動していたのでしょうか。小学校教師の目に映った学校・子どもたちを描いた絵本『がっこうと コロナ』(教育報道出版社刊)の著者である松下隼司 先生に、当時のできごとや今の思いについて、お話を伺いました。
取材・文/FUTAKO企画
コロナ禍に学校で起きていたこと
2020 年3月2日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を機に、日本全国のほとんどの学校が一斉休校となりました。それから5月の中下旬まで、大半の学校で約3か月休校、その後「マスクなしの日常」が戻るまで数年かかりました。コロナ禍という不自由な環境のもとで、大阪府の公立小学校の教師として子どもたちの様子を間近で見てきて、さまざまな思いがあります。
コロナ禍の1年目は6年生の担任だったのですが、一斉休校のため4月から5月の途中まで子どもたちに会えませんでした。普段であれば、講堂で始業式が行われますが、その年は感染リスクを抑えるために屋外の運動場で行いました。
例年だったら、わくわくして担任発表を聞いて歓声が上がる……というところなんです
が、シーンと静かな始業式になりました。
式を終えて、クラスの子どもたちに声をかけられた第一声は、「先生、修学旅行は行けるんですか?」でした。不安な状態から新学期が始まっていましたね。
子どもたちに課せられた「さまざまなルール」

感染対策で、マスク着用・接触禁止としていても、とにかく子ども同士はいつでも近づいておしゃべりしますし、距離が近くなりがちです。教室では、「とにかく離れなさい。向かい合ってしゃべったらあかん」という状態がずっと続きました。
給食中のおしゃべりも禁止。机の向きを変えず、自席で前を向いて食べなければいけません。黙々と食べている子どもたちを眺めていると、胸がぎゅっとしめつけられるような感覚になりました。「そんなにしゃべっていたら、ごちそうさまに間に合わんで~」と毎日言っていた日々が懐かしく思えたりもしましたね。
子どもたちの中には「マスクが嫌」という子もいて、今なら「そこまで厳しくしなくても」ということもありますが、当時は社会全体が過剰になっていたというか、許容できない雰囲気がありました。
コロナ禍の冬は、ずっと寒かった記憶があります。エアコンはついていたのですが、「換気が大事」と常に窓を開けていましたから。大阪で標準服の小学校でしたが、「教室でもダウンやジャケットを着ていて OK」とルールが変わったりもしました。
「一斉休校」と「分散登校」
「一斉休校」の期間とその後の授業でも、それまでとは違う対応が必要でした。
当時勤務していた学校では、実際にはオンラインでの授業はほとんど実施しなかったのですが、「学級閉鎖や学年閉鎖になった時にオンライン授業ができるか」というテストはよくしていました。
子どもたちが早く下校して自宅からオンラインで参加することもあり、そうなると対応できない家庭もありますよね。そうした家庭の子だけ学校に残ってもらうなど、なんとか対応していました。
3か月ほどの一斉休校の後にも、感染が拡大する度に「分散登校」を行うことになりました。「一斉には学校を閉じないけれども、半分ずつ来させましょう」ということですね。分散登校では、クラスの半分の15 人に1限目、2限目と授業をして、また違う時間にもう半分の子たちに同じ授業をするんです。
その頃、子どもたちからは「プリント爆弾」なんて言葉が飛び交っていました。学校で十分に時間が取れないので、教師はたくさんプリントを配って復習させるのです。
保護者の方もフォローが大変だったのではないかと思います。家で「○○の『NHK for
School』見させておいてください」とか、「学習プリントをやらせておいてください」とか、協力を仰ぐことも多かったです。
2000 年は4~5月の一斉休校で授業数が不足した分、夏休みが極端に短くなった年です
ね。行事を実施できない時期があったので、その分授業を詰め込んで、プリントも増やして、不足した授業数をなんとか確保していましたが、子どもたちは夏休みが短くなって、さぞ残念だっただろうと思います。
さまざまな制限が生じた授業

コロナ禍1年目の年は新学習指導要領改訂によって、学習内容などに変化のあった年でもあります。改定のキーワードは「主体的・対話的で深い学びの視点」ですが、「対話」がそもそも難しい状況でした。
授業で難しかったこととしては、班単位で話し合って考えを深めたり、発表したりすることです。どうしても意見交換をしたい時は、マスクをつけたままフェイスシールドをつけて二重に対策したりもしました。話し合いが少ない分、授業自体はさくさく進んでいきますが、「 教師による一方的な授業が増えた」と感じることもありました。
「音読」や、音楽の時間の「合唱」で声を出すなど、感染対策をするうえで実施しにくいものも少なくなかったです。
それから、体育では接触を伴うような運動がやりにくくて困りました。「ドッジボールも
だめ、バトンリレーもだめ、プール授業もだめ」などと、コロナ禍の1年目は特に制限が多くて、子どもたちは物足りなかっただろうと思います。
コロナをきっかけに進んだこと
一方で、前の年から始まったGIGA スクール構想(一人一台端末の取り組み)は前倒しで
一気に進んだなという印象です。
学校での授業のやり方も変わりましたし、一人一台の端末を持つことによって、子どもたちのタイピング能力やIT の知識もぐっと上がったように思います。
コロナ禍前まではパソコンルームに連れて行って、デスクトップを立ち上げて、ローマ字のタイピング表を見ないと打てなかった。それが今は「寿司打」とかタイピングの無料ゲームで腕を磨いて、私より速くキーボードを打てる子もいますし、低学年でも速い子がたくさんいます。タイピングができなくても、音声入力をうまく使いこなしている子もいますね。
危うく大事件に!「『知らない子』が映った卒業アルバム」

困ったのは外に出られないことです。遠足もなくなりましたし、社会科見学も1年目は難しかったですね。密になることや感染がこわい時期でした。「電車はあかん、バスもあかん。空気も良くないんちゃうか」と敏感になっていました。
それだけではなくて、外部の先生に「出前授業」で来てもらったり、地域の人と関わったりすることがかなり制限されました。外部からの刺激を得て学びの機会を増やすことが難しい時期でしたね。
運動会も、今までだったら1年生から6年生まで一緒にやっていたのが、室外であっても「大人数はよくない」というので、「各学年の出番を固めて、該当学年の子と親御さんに来てもらい、他の学年は教室で授業する」という方法で開催しました。他の学年の様子が見られず、残念に思った子どもたちや保護者の方も多かったのではないでしょうか。
卒業アルバムでの子どもたちの写真も、必然的にマスク姿が多くなってしまいましたね。マスク姿で顔の照合が難しく、複数の学校を担当するアルバム業者さんがうっかり一部を混入させてしまったのに気づかず、「卒業アルバムに他校の子の写真が混じっている!」という事故が起こりかけたこともありました。
コロナ禍を経験した今、思うこと
学力やコミュニケーションはどうなった?
多くの方のお力添えもあって、コロナ禍を経験した子どもたちの学力が大きく下がることはなかったと思っています。ただ、コロナ禍が落ち着いた今と当時を比べると、やはり今の方が、友だちの意見を聞いたり、お互いに考えを深め合ったり、体験や人との交流によって得られるものが多いことは確かです。
コロナ禍が落ち着いて、子どもたち同士のコミュニケーションは、以前のように戻ったと思います。少し前にインフルとコロナの同時流行で学校でも感染対策が厳しくなった時期はおとなしくしていましたが、それがおさまると近い距離でおしゃべりしたり、じゃれあったりとか、そんな感じです。
ただ、数年に渡るコロナ禍で、子どもの心への影響もゼロではないと感じています。感染が広がっていなくても、つけていると心が落ち着くのか「マスクを外せない」子は一定程度います。不安のためか「頭痛がする」という子も見られます。全国的には「コロナの時期から不登校の子が増えている」というデータもあるようですが、「コロナ禍が落ち着いてすべて問題なし」とはいかないでしょう。
それから、コロナを機に、というかコロナのせいだけではありませんが、放課後子ども同士で遊ぶことが、以前より減ったように思います。
コロナ禍の当初、学校であれだけ「くっついたらあかん」とか言われておきながら、放課後の公園とかマンションの下とかで遊んでいる姿を見かけたものですが、ここ数年の暑さや、習い事や塾など子どもたちの忙しさもあってか、放課後遊んでいる子どもの姿がだいぶ減ったなと思います。
小学校では、夏休みに教職員が校区を見て回る「巡視」というのがあって、見回った時に記録をします。それが、「今日も見かけませんでした」という報告がずっと続いている印象です。
明るさを失わなかった子どもたち

コロナ禍の学校で、教師としては大変でしたが、子どもたちの笑顔に助けられた場面はいくつもありました。動物柄の面白いマスクはたくさん見かけましたね。「今日は虎」「今日は猫」とか、「あの子の顔見えへんけど、マスクの柄でわかるわ」なんて、楽しませてくれる子がいたりしました。
フェイスシールドは息で曇ると顔が見えなくなるので、「こうやったら見える」ギリギリ攻めた角度を研究する子とか、息苦しい状況の中でもなんとかして楽しもうとする子どもたちに元気づけられていました。
個人的には、お楽しみ会を企画した時のことが強く印象に残っています。どうしたらクラスのみんなで楽しめるかと考えて、「百均で売っているようなビニール手袋をしたら、直接触っているわけではないから、いけるんちゃう?」と言ったところ、子どもたちがものすごく喜んでくれました。
「何がしたい?」って聞いたら「腕相撲がしたい」と。
今まで何度も担任をしてきましたが、6年生ぐらいだったら思春期に入っている子もい
て、「男女でやるのは嫌」となることも多かったんですが、あのコロナ禍1年目の時は違
いました。その時期に「触ったらあかん、近づいたらあかん」と制限が多かったので、触れ合えるということが面白かったのだと思います。手をつないだり、指相撲をしたり、手押し相撲をしたりして、男女関係なくクラスの仲が深まったなと思えました。

教師として学んだこと
コロナ禍では不自由なこともありましたが、この時期に教師として学んだことも多かったように思います。「卒業式をどうしよう」「運動会はどうしよう」など、教師もみんな未経験の事態だったのですが、座席の配置や間隔など「こんな工夫をしたらいいんちゃうか」と、あきらめずに考えているベテランの先生方の姿はとても勉強になりました。
おかげで、自分でも「こうしたらできそう」と常に工夫しようとする習慣ができました。コロナに限らず感染症の拡大などで授業や学校行事が困難な事態に陥ったとき、「どうすれば実現できるか」「どう工夫するか」という視点を持てるようになったのが、教師としての収穫ではないかと思っています。
保護者の方へのお願い
コロナ禍による生活の変化はようやく一段落した昨今ですが、これからの新しい日常を子どもたちが健やかに歩んでいけるよう、ご家庭でもぜひ力を貸していただきたいことがあります。
学年末が近づき、子どもたちはまた新しい学年に進級しますが、親御さんにお願いしたいのは、ずばり「早く寝かせてほしい」ということです。スマホを充電するように、お子さんも十分に寝かせてあげてください。しっかり寝られると、次の日の調子が全然違うと思います。うちの子は小学生の頃は夜8時半には布団に入って、9時には寝ていました。
YouTube などの動画とかオンラインゲームの刺激は強烈で、ずっと楽しくて、わくわく・はらはらしますよね。楽しいからこそやめられなくなって夜更かししてしまうので、SNSとオンラインゲームでの夜更かしは本当に注意してほしいと思います。
ちなみに、SNS やオンラインゲーム、Instagram、TikTok、X (旧Twitter)は、原則として
13 歳未満の利用・アカウント作成を禁止されていることをお知りおきください。LINE も利用推奨年齢は12 歳以上になっています。
また、オンラインゲームには対象年齢があることも知っていただきたいです。例えば、子どもにも大人気のゲーム「フォートナイト」は、15 歳未満のお子さんにプレイさせる場合は、お子さんと話し合って制限を付けるようにしていただきたいです。
特に、ボイスチャットやアイテムの購入(課金システム)などが重要です。課金制限をしないと、勝手に課金をして後からトラブルになるケースがあります。
睡眠不足だと、朝起きて「しんどいとか行きたくない」「なんか学校楽しくない」「行きたくない」となってしまいがちです。睡眠が足りているかどうかで、だいぶコンディションが違いますね。寝不足の中だと、授業を受けるのもしんどいし、ちょっとイライラしてトラブルも増えたりしてしまいます。どうかたっぷり寝かせてあげて、元気に登校させていただければと思います。
この記事の監修・執筆者
1978 年生まれ、大阪府公立小学校教諭。令和4年度 文部科学大臣優秀教職員表彰。日本最古の神社、大神神社短歌祭で額田王賞を受賞。
令和6年度版教科書編集委員。
著書に絵本『がっこうとコロナ』、 教育書『先生を続けるための「演じる」仕事術』など。
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