![【発達障害の子どもの進路】どんな選択肢がある?「受験」にも有効な対策とは?[小児科専門医監修]](https://kosodatemap.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/wp-content/uploads/2025/07/pixta_120686822_M_yG3B.jpg)
今、小学校で受けている教育・学習に対する支援を、中学校以降はどのようにしていけばよいか、発達障害の子どもの進路について悩む保護者の方は多いのではないでしょうか。
ここでは、小学校から中学校以降の進路についてと、知っておくとよいことを、発達障害の子どもについて詳しい小児科医の森博子先生にお話を伺いました。
取材・文/細川麻衣子
進路を考えるうえで最も大事なことは?
我が子の将来・進路のこととなると、本当に悩みは尽きないことと思います。今の時代は本当にさまざまな情報で溢れていますので、親子で何を軸にするかが重要です。
おすすめしたいのは、目の前の進路だけではなく長い目で人生を考えること。どういう人生を歩んでいきたいか? それには、いま出ている診断名にとらわれずに子どもの特性を保護者がきちんと理解することです。そして子ども本人の意見を聞いて、親子でいっしょに進路について考えましょう。
例えば「自閉スペクトラム症」と診断を受けた子どもは、確かにその特性があることでしょう。だからといって自閉スペクトラム症と診断されたすべての子どもがみな同じ、というわけではありません。
診断が下っても性格や気質などは違い、子どもは十人十色です。診断はあくまでその❝傾向がある・傾向が強い❞という指標として受け止め、いちばんは「我が子はどんなことが得意で何が苦手か? より安心・充実して過ごせる環境は?」というように、その子自身が幸せに過ごせて、成長につながる環境がどこかを見極めることが大切です。
診断名だけで「〇〇〇だからココ!」と、一辺倒に判断しないであげてください。
そして、「障害があるから(自分では決められない)…」「子どもだから考えられない」という理由で、保護者が勝手に進路を決めてしまうのではなく、ぜひ親子でコミュニケーションをとってみてください。
もしかしたらその中で「今よりも少人数で落ち着いて過ごせる場所がいい」や「電車が好きだから鉄道研究会がある学校がいい」「勉強は家でして、興味あることに時間を使いたい」など、その子自身の特性・性格・興味に合った進学先のヒントが出てくるかもしれません。
ひとつ言えることは、発達障害の人は❝好きや興味について、学ぶこと・仕事にすることが続けられる秘訣❞なのです。子どもが興味を持って学べ、将来につながるものを、いかに親子でみつけられるかがポイントです。

小→中学の進路選択肢は?
公立の場合、中学校は小学校と基本的な組織構成は同じです。
『中学校』の中に「通常の学級(通級指導教室に通う場合を含む)」と「特別支援学級」があり、より専門的な支援を必要とする生徒に対しては『特別支援学校(中学部)』があります。これに加え、私立中学校も選択肢のひとつとして考えられるでしょう。
最近では、公立・私立にとらわれず、フリースクールやオルタナティブスクール、ホームスクーリングを組み合わせるなど、“学校の枠だけにとらわれない学び方”を取り入れる家庭も少しずつ増えています。
【中学進学時の選択肢】※公立の情報は、文部科学省資料より
●公立中学校の「通常の学級」
1学級定員はMAX40名(段階的に35名へとする動きもあります)。必要な支援を担任と相談しながらも、基本的には他の生徒と同じ教室で学校生活をおくる。
●公立中学校の「通常の学級+通級指導教室」
障害に応じた個別指導学習を定期的に受けられる通級指導教室に通いながら通常の学級に所属。通級指導教室が在籍する学校に無い場合は、通級のある他校で学ぶ場合もある(地域差あり)。
●公立中学校の「特別支援学級」
「通常の学級」と同じ校舎内にあり、障害・特性に合わせた学習・生活をおくる。小学校の特別支援学級と構成は同じ(地域差あり)。[対象障害種]知的障害者、肢体不自由者、病弱者及び身体虚弱者、弱視者、難聴者、言語障害者、自閉症者・情緒障害者
●公立の特別支援学校(中学部)
障害・特性に合わせた教育を行い、自立と社会参加に必要な知識や技能を習得するための教育が受けられる。主に「特別支援学級」よりも障害の度合いが重い生徒が集まる(地域差あり)。
●私立中学校
学校の方針によりカリキュラムはさまざま。学校指定の試験や面接・面談などを通して、進学が決まる(中学受験にあたる)。現在は発達障害に対して理解のある私立中学が増えてきているため、公立への進学とはまた違った側面で、人気が出てきている。
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中学以降の進路選択肢は?
義務教育を終える中学以降は、グッと選択肢が増えます。進学・就職・職業訓練など、さまざまです。ここからは、子ども本人の特性・性格・興味に、よりぴったりの環境を選んでいけるとよいでしょう。主な進路選択肢を以下にまとめます
最近では、通信制高校や定時制高校に在籍しながら、オンライン学習やホームスクーリング、地域のフリースクールなどを組み合わせて学ぶ子も増えています。
卒業資格を得ながらも、自分に合う学び方や社会とのつながり方を一緒にデザインできる時代になっています。
【中学卒業後の進路選択肢】
●公立の特別支援学校(高等部・3年制)
障害や特性、発達段階、興味・関心、進路希望などを踏まえ、自立と社会参加に必要な知識や技能を習得するための教育が受けられる。卒業時は「特別支援学校高等部卒業」という資格が得られる。より、就職を意識したカリキュラムになっているところが多い。
●全日制高校(3年制)
週5~6日登校し、毎日朝~夕方まで授業や部活動などをして過ごす高等学校。行事やイベント・校外活動も多く、主体性を持った集団での活動時間がより増える。
●通信制高校(3年制)
自宅学習が主で、必要な登校日数も限られているため、自由の利く時間が多い。個人のペースで学習を進めたい・通学の負担を減らしたい、より個別対応を求めたい、などの場合に融通が利きやすい。
●定時制高校(主に4年制)
主に夕方以降(夜間)に登校する。全日制に比べると1日の授業時間が短く、人数も少人数。基本的には週5日登校するので、生活リズムを作りやすい。
●高等専門学校(主に5年制)
卒業後は、実践的な技術者を育成することを目的としているので、実験や実習を重視した専門教育を受けられる。何かに集中して学ぶことができる生徒向け。
合理的配慮を受けてきた証は「受験」にも有効
今、小学校で受けている支援を含めて、今後必要な支援は何か? を確認してみてください。もしも支援を十分に受けずにきた場合、子ども本人にとって、とても困るタイミングが「受験」(試験)です。
特に学習障害の子どもに多くある事例ですが、本人には知的な遅れが無いので、実力を発揮できれば受かるはずなのに「書くことに時間がかかる」「試験問題を読むのに時間がかかる」など、特性によって思わぬところで失点してしまうケースを多々、耳にします。

また、学習障害でなくても「集団だと集中できない」「答えを口に出してしまう」など、自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症の特性によって、通常の試験では実力を発揮できない場合が、発達障害の子どもの場合、多々あるのです。
だからこそ、早い段階から学校をはじめ医療機関などできちんと支援を受けてきていれば、それが証となり「受験」のときに、その子に合った合理的配慮を受けることができるのです。診断名があってもなくても、「この子にはこういう配慮が必要」という支援歴が、未来の“武器”になります。
【受験時、合理的配慮を受ける事例】
●試験時間を10分延長しての別室受験
●問題を読み上げる人が横につく形式での別室受験
●拡大文字問題冊子の配付 など
このような合理的配慮を受けるには、受験時、学校を通して診断書や状況報告・意見書の提出が必要になります。受験生に受験上の配慮が認められるためにはこのような審査があることを、知っておきましょう。
通級指導教室に通ったり、特別支援学級に移ることに、ためらいを感じる保護者の方も少なくありません。
でも、支援を受けずにいると、後から進路を選ぶときに思わぬハードルができてしまったり、本来受けられるはずの配慮を受けられなくなることもあります。
なにより、発達障害の特性に対して適切な対応をとることが、本人の学力・生活力・自立心の向上につながり、学校生活自体が本人にとっても過ごしやすいものになり、それが成長につながります。何か迷っている保護者の方がいるようでしたら、ぜひ進学時のことなども考えたうえで、今できることをしてあげてください。
いかがでしたか? 発達障害の子どもの進路についてお伝えしました。さまざまな選択肢があることと、その子に合った必要な支援をきちんと受けることが、子どもの進路・将来にとても有効なことがわかりましたね。
進路について考える時期が来ている⽅も、これからの⽅も、診断名にとらわれずわが⼦の観察・研究を軸に、ぜひ親⼦いっしょに未来を描いてみてください。
この記事の監修・執筆者

2010年熊本大学大学院医学教育部卒業。新生児集中治療室(NICU)での大学病院等勤務を経て、22年に発達診断専門の「親子のミカタオンラインクリニック」を開院。全国の親子から発達相談を受ける。自身も、注意欠陥多動性障害(ADHD)の長男と、グレーゾーンの次男を育てる。医療者であり、発達障害児を育てる当事者でもある視点から、子育てのリアルな悩みに寄り添う。
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