音楽の才能のひとつとして注目されている「絶対音感」は、音楽家や歌手として活躍する人がもっている能力です。「うちの子にも身につけさせたい!」とは思うものの、「何だか難しそう」「スパルタ式に教えるものでしょ?」と、尻込みしてはいませんか?
実は絶対音感は、難しいものでも、スパルタで身につけるものでもありません。毎日の簡単なトレーニングで、子どもの「聴く力」を伸ばすだけです。しかもその「聴く力」は、音楽はもちろん、勉強や芸術など、さまざまな子どもの才能を開花させてくれます。
そこで今回は、長年にわたり「絶対音感」教育に携わり、独自の教育メソッドを確立した鬼頭敬子先生(絶対音感コーチ学会 代表理事)にお話をうかがいました。
お話:鬼頭 敬子
そもそも「絶対音感」って、どういうこと?
「絶対音感」とは、ピアノなどの楽器が奏でる音を、「ド」「レ」「ミ」といった音名で聞き分けられる能力のことです。ほかの音と比較するといった補助なしでも、ピタリと聞き分けられるのが、絶対音感のすごいところです。
絶対音感をもっている人はとても少なく、日本の一般大学生で3%ほど、音大生でも約30%といわれています。そのためか、絶対音感がどんな能力で、どんなメリットがあるかはあまり知られておらず、誤解されることも少なくありません。
例えば、「絶対音感があると、日常の生活音も音名で聞こえてしまうので、生活にしにくくなる」といわれることがあります。これはあくまで個人の感覚で、絶対音感のある人すべてがそのように感じる、というわけではありません。
絶対音感を身につけるには、6歳まで
長期間のトレーニングで、ビシバシとスパルタ式で教え込む――絶対音感に対して、そんなイメージをもってはいませんか? でも、実際は違います。人間がもともともっている聴覚を伸ばしていくのが、絶対音感の身につけ方です。
生まれたばかりの赤ちゃんは、視力が0.1ほどで、近くのものさえはっきりと見えていません。その代わり、聴覚がとても発達しています。これは、おなかの中にいるときから聴き慣れている、お母さんの声を聴き分けるためといわれています。これが絶対音感のもととなっている能力です。
しかし、子どもは視覚が発達するにつれ、7~8歳頃をピークに、優れた聴力が失われていきます。そのため絶対音感は、生まれつきの聴覚が残っている6歳までに鍛えないと身につけることができないとされています。
音楽だけじゃない!? 絶対音感にはほかにもメリットが!
「音楽家になるわけじゃないんだから、絶対音感なんて必要ないんじゃない?」
そう思ってしまうのはもったいない! 絶対音感は音楽だけに限らず、さまざまな子どもの能力をメキメキと伸ばす効果があるといわれています。
音楽を楽しめる!
絶対音感をもっていると、メロディーやリズムの美しさ・おもしろさを十分に味わい、音楽を心から楽しめるようになります。
さらにうれしいことに、絶対音感があれば、初めて聴いた曲でもすぐにピアノで弾けるようになります。ピアノ講師や親がつきっきりでなくても、一人でピアノを練習できるようになるなど、音楽の才能を開花させることができるのです。
英会話も簡単にマスター!
絶対音感を身につけた子どもは、言葉を「音」として感じるようになります。そのため、初めて聞いた言語も音として正しく発音することが得意で、英語なども比較的スムーズに身につけられるといわれています。こうした能力は、今後のグローバル社会において、大きなメリットとなりそうですね。
IQアップ!
絶対音感は、脳の発達にも効果があるといわれています。
幼少期に音楽教育を受けることで、左脳の言語理解や数学的な能力に関与している部分が大きく発達するそうです。絶対音感をもつ子どものIQが平均より10~20ポイント高くなる、という研究結果なども報告されています。
これは、絶対音感で聴覚が発達したことにより、耳からたくさんの情報や知識をインプットできるようになるためと考えらえます。また、知識が増えることで脳も刺激され、集中力や記憶力アップの効果も期待されます。
絶対音感のトレーニング方法は、毎日1分×4回
絶対音感を身につけるには、毎日お稽古に通う必要はありません。家庭での日々のトレーニングで身につけることができます。
ポイントは、和音を覚えさせる「インプット期間」と、音を当てさせる「アウトプット期間」に分けて指導することです。いずれの場合も、1回1分ほどのレッスンを1日4回繰り返します。
インプット期間
- ピアノで和音(Cコード:ドミソ など)を聴かせます。
- 聴かせるときに、和音の名前(コード)が書かれたカードを見せます。
- 「ドミソ」「Cコード」と、音とコード名を一緒に言います。
最初は、インプット期なので聞かせるだけでOK。これを3週間ほど続けます。
コードは、
Cコード:ドミソ、Gコード:ソシレ、Am(エーマイナー):ラドミ、
E₇(イーセブン):ソ#レミ、G₇(ジーセブン):ソシファ
などの順番で、少しずつ増やしていきましょう。
カードは、A5サイズくらいの厚紙に、大きく「C」と書き、その横に「ドミソ」と和音を書きます。
裏面には、子どもが興味を持てるよう、好きなキャラクターやイラストを描いても。
1回1分ほどですから、1つか2つくらいの和音を何度か繰り返し弾く、という形から始めてみてください。
ピアノはどんなものを使えばいいの?
アップライトなどのピアノではなく、電子ピアノでもOKです。また、和音を聴かせるだけなので、保護者自身がピアノを弾けなくても問題なく、絶対音感も必要ありません。
アウトプット期間
- インプット期に覚えた、コードカードをカルタのように並べます。
- ピアノで和音を弾き、聴こえた和音のコードをカルタのようにとってもらいます。
すべての音を理解し、スムーズにカードを取れるようになるには、1年ほどかかります。
あせらずにじっくりと進めましょう。
トレーニングでは、ここに注意!
できたことをほめよう
親は、つい子どもの「できないこと」に目がいきやすいものですが、ぜひ「できたこと」に注目してあげてください。些細なことであっても、「これができるなんてすごいね!」とほめることで、子どもを勇気づけることができます。
子どもの心を傷つけない言葉かけを
トレーニング中に思わず出てしまう「何で間違えたの?」「何回言ったらわかるの!」といった問い詰めや叱責の言葉は、知らず知らずのうちに子どもの心を傷つけてしまいます。いらだちの感情は子どもに向けず、「正解はこれよ」と教えてあげるようにしましょう。
ほかの子と比較しない
子どもをきょうだいや周りの子と比べることはやめましょう。子どもは、周りの大人たちから、「他の子よりできる・できない」と比べられることで、他人と自分を比較するようになっていきます。
だれかと比較することなく、「あなた自身が、そのままで尊い存在」であることを伝えれば、子どもは素直な気持ちでトレーニングに臨むことができます。
絶対音感、ここからスタート
絶対音感を本格的に学ばせる前に、ちょっとだけチャレンジ! 毎日の心がけで、絶対音感のもととなる「聴く力」を伸ばしてみましょう。
いろいろな音楽を聴かせよう
ジャンルにこだわらず、さまざまな音楽を子どもに聴かせてあげてください。「このリズムが好き!」「こっちのメロディーがすてき!」と思えることが、音楽の楽しみであり、絶対音感への第一歩です。また、そういった音楽を楽しむ心を育てることが、お子さんの人生を豊かにしてくれます。
好奇心をもてるような毎日を!
日々の暮らしのなかで、自然に触れたり、絵本の読み聞かせをしたりするなど、お子さんがワクワクできるような体験を取り入れましょう。体験のなかから、子どもはたくさんの知識を得ます。すると、「どんなものからでも学ぶことができる!」と考えるようになり、人の話を素直に聞こうとする気持ちや能力が生まれます。
鬼頭先生からのメッセージ
絶対音感は、音楽だけでなく、コミュニケーションや学習の基本となる能力です。そのメリットは、無限大といえるほどです。
コロナ禍で不安定な状況が続き、子育てや子どもの将来に不安を抱えている方も多いと思います。絶対音感は、そんな不安を和らげてくれる、すばらしい能力の一つです。
絶対音感で音楽を心から楽しみ、人の話をしっかり聞き取れる能力を発揮できれば、どんな時代でも心豊かに生きていけます。
子どもは思った以上に、親の言葉や声色に敏感です。それこそが絶対音感のもとになる能力であり、親からの何気ないひと言で傷つく原因にもなります。
保護者は、そのことを心に留め、子どもに「あなたがいちばん大切」という気持ちをたくさん伝えてあげてくださいね。
この記事の監修・執筆者
きとうけいこ/自身がもつ楽しい絶対音感を子どもたちにわかりやすく教えるために長年改良を重ねた「鬼頭流絶対音感メソッド」を確立。
鬼頭流絶対音感メソッドが学べるピアノ教室認定校は全国に70校の他
おうちで学ぶオンラインレッスンがあります。
また、絶対音感以外にも、親子コミュニケーションを育てる「音コミュニケーション講座」など、子どもたちの才能を伸ばすためのおうち講座を展開しています。
著書に『子どもがどんどん賢くなる「絶対音感」の育て方』(青春出版社)。
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