令和3年に「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」(通称:バリアフリー法)が改正され、新たに小中学校がバリアフリー化の対象になりました。
それを受け文部科学省は、学校施設のバリアフリー化を加速させるために多彩な取り組みを行っています。
そこで今回は、学校施設のバリアフリー化についてご紹介します。
バリアフリー化によって学校はどう変わるのでしょうか。
マムズラボ/文
学校施設のバリアフリー化の加速に向けた取り組み
子どもたちが長い時間を過ごす学校で、障がいのあるお子さんも安心して学校生活を送ることができるように、政府は施設・設備のバリアフリー化を推進しています。
学校施設のバリアフリー化の2つのポイント
学校施設のバリアフリー化のポイントとして次の2点が挙げられます。
- 特別支援学級の増加
少子化の影響によって児童数が減っている一方で、特別支援学級に在籍している児童や、「通級指導教室」で各教科の授業は教室で受け障害に応じた特別の指導を受けている児童は増加傾向にあり、特別支援学級が公立小中学校等の約8割に設置されるに至っています。これまで以上に、障がい等の有無にかかわらず、誰もが支障なく安心して学校生活を送ることができる環境の整備が求められるようになってきており、学校は物理的・心理的なバリアフリー化を進めています。
2. 地域コミュニティの拠点としての役割
公立小中学校等の9割以上が災害時の避難所指定を受けており、災害時には小学校が避難所などの「地域コミュニティの拠点」になります。
学校施設のバリアフリー化は、高齢者や障がい者を含め、多様なかたに避難所としての利用しやすさを生み、防災機能の強化につながります。
バリアフリー化の事例
文部科学省は、学校施設のバリアフリー化の事例集を公開しています。
例えば、東京都町田市立町田第一中学校のトイレは、特別支援学級にある1階には複数のバリアフリートイレを設けているほか、一般トイレ内も通路が広く、車椅子のお子さんでも利用できる広い個室が設置されていて、みんなと同じトイレを使う選択もできます。
滋賀県近江八幡市立八幡小学校では、児童の状況に合わせてスロープを勾配が小さいものに付け替え、エレベーター棟を増築。誰もが使いやすいように配慮されています。
編集部員の子どもが通う小学校では、エレベーターの設置工事が行われました。
工事期間の約2年間はプレハブの仮設校舎を使用し、冬は寒く夏は暑い不自由な環境でしたが、エレベーターができたことで、障がいのあるお子さんや足を怪我したお子さんが利用できたり、PTAのバザーの搬入が楽になったりといったメリットがありました。
そもそもバリアフリーとは?
バリアフリーとは、「障壁(バリア)」を取り除くことを指します。
例えば道にある段差や階段などは見えやすい障壁です。しかし、バリアフリーの対象となるのは目に見えるものだけではありません。
政府が取り組む心のバリアフリー
「バリアフリー」というと、施設に注目しがちですが、政府は物理的なバリアフリーだけではなく、「心のバリアフリー」にも力を入れています。
心のバリアフリーの定義は以下の通りです。
「心のバリアフリー」とは、様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うことである。
引用元: 首相官邸ホームページ「ユニバーサルデザイン 2020 行動計画」
「心のバリアフリー」実現のために、障がいのある人の日常生活・社会生活を困難にする「障壁」を取り除くのは、社会の責任だという「障害の社会モデル」を、私たち一人ひとりが理解する必要があります。
例えば、足が不自由なかたが駅を利用する際に、エレベーターなどの設備がないため利用が困難だとします。この場合、障がいは足の不自由のかたにあるのではなく、利用を妨げる階段や駅の設備のほうに障害があると考えるのが「障害の社会モデル」です。
障がいは、個人ではなく社会の側にあるとの理解を深め、様々な特性を持つかたが暮らしやすいような社会を実現しなくてはなりません。
制度的なバリア
障がいの有無で就職や資格が制限されたり、点字による試験が認められなかったりするのは制度的なバリアがあるからです。
「盲導犬お断り」のレストランやホテル、「小さなお子様連れお断り」の店なども制度的なバリアにあたります。
文化情報面のバリア
新聞を読むことができなかったり、信号の色が判別できなかったり、といった情報面のバリアのことを、文化情報面のバリアと呼びます。
文化情報面のバリアは視覚だけではありません。駅や社内でのアナウンス情報が聴覚に障がいのあるかたに伝わらなかったり、イベントなどに手話通訳や託児施設がなかったりするのも文化情報面のバリアです。
意識上のバリア
意識上のバリアは、障がいのある人に対する無関心や偏見、そしてバリアフリーに対する認識不足などの「心のバリア」のことです。
障がいのある人に対して、「かわいそう」「気の毒だ」と思うのも、意識上のバリアにあたります。
障がいのある人や家族への差別を行わないようにし、多様な人とコミュニケーションをとる力を育むだけではなく、共感力を培う必要があります。
このように、施設を整備するだけではなく、心のバリアフリーも進めることで、誰にとっても生活しやすい社会が実現されていきます。
そのためにも、学校施設のバリアフリー化を機会に大人も子どもと一緒になって考え、障がいを「自分ごと」として捉えていくことが大切です。
<参照>
文部科学省「バリアフリー化事例集(概要)」https://www.mext.go.jp/content/20220610-mxt_kouhou01-000023031_1.pdf
国土交通省「別紙2:(参考)障害の社会モデル/心のバリアフリー、教育啓発特定事業について」https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001487310.pdf
この記事の監修・執筆者
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