【「立ち直れる子」を支える9つの力】子どものレジリエンスに影響する「仲間の存在」と「家庭環境」

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「レジリエンス」とは、「立ち直る力」など、様々なことばに翻訳されています。

もともとは、人間の心の「回復力」のことです。このレジリエンスが自然に備わっていることで、ストレスを受けても、それにめげることなく、生活していくことができます。

本来、子どもは柔軟な存在です。柔軟だからこそ、いろいろなことを学べるし、新しい環境にも慣れることができます。

しかし、自然に備わっているはずのレジリエンスが働かない子どもたちがいます。立ち直る力がうまく機能しない子どもたちです。その中には、園に通えなくなったり、小学校では心身症や不登校になったりする子がいます。

保育士・てぃ先生が推薦する、発達心理の専門家・湯汲英史氏の著書『0歳~6歳 子どものレジリエンスの育て方 自分で立ち直れる子に』(Gakken)では、子どもが物事を柔軟にとらえ、乗り越える力を伸ばす子育てのヒントを、心の発達とともに解説しています。今回は、「レジリエンスを支える9つの力」のうち、3つについて一部内容を抜粋してご紹介します。

子どもは大人と違い、成長、発達の過程にあります。レジリエンス(立ち直る力)を身につけ、ストレスに耐えられるように子どもを育てましょう。

目次

子どもは本来、「立ち直る力」をもっている

ここ20 年ほど、園や学校で「気になる子」の相談を受けるようになりました。

療育や医療機関でも、はっきりとした発達障害はない、「気になる子」と関わることが増えています。なぜ「気になる」のか。その中には、社会性や感情コントロールなどに問題のある子がいます。

場面の切りかえについていけない子もいます。新しい場面に対応できない子どもたちは、本来子どもがもっているはずの「立ち直る力」が弱く、不足しています。

子どもは本来立ち直る力をもっています。その証拠に、いつまでも泣き続けられる子はいません。専門家は、必ず泣きやむことを知っています。

泣きやむ時に、子どものものの見方が変化している可能性があります。見方の変化が立ち直る力を育てることになるでしょう。

子どもにとって、怒り続けることは難しいようです。けんかしていた子が、怒りをけろりと忘れ、また争いの相手の子とあそびだしたりします。

きょうだいげんかもそうです。けんかした相手と「仲直りできること」を学ぶために、きょうだいげんかをするともいわれます。子どもの怒りは続かず、まさに「昨日の敵は今日の友」のような姿を見せます。この姿の根底には、レジリエンスが見えます。

子どもは、あまり「きらい」ということばを使いません(頻繁に「きらい」を使う子は、情緒面に問題がある可能性があります)。子どもは、人をきらいになりきれないのでしょう。きらいになりきれない子どもは、人への見方を変えることによってきらいから抜けていくのでしょう。ここにもレジリエンスが働いています。

立ち直れる子と影響する要素

成長途上にある子ども

レジリエンスが備わっているものの、子どもが自分ひとりで回復できるかといえば、そうともいえません。様々な要素に影響を受けるからです。

いうまでもなく、子どもは成長の途上にあります。大人のような考え方や困った時の対応の仕方などは、まだ身についていません。また、自分が「困っているかどうか」の判断がつかない場合もあります。

子どもが困って混乱している時には、親や周囲の大人が状況を説明する必要があります。また、どう理解し、対応していくかについても、ヒントを与えたり、具体的なアドバイスをしたりすることが必要です。周りに助けられながら、困ったことを乗り越えた体験が、子どものレジリエンスを確かなものにするはずです。

仲間の力・周りの力

子どもが親の影響を受けるのは、 9歳くらいまでとされています。その後は、仲間の意見や振る舞いが、子どもに影響を与えだします。仲間の存在はレジリエンスに深く関係します。

家庭環境とその影響

子どものレジリエンスは、家庭環境も影響します。虐待は暴言なども含め、子どもに深刻な悪影響を与えるひとつの要素です。また、生活リズムが整っていることが、子どもの心の安定につながります。

レジリエンスを支える9つの力

※こちらの記事では、「レジリエンスを支える9つの力」のうち、3つを抜粋して詳しくご紹介します。続きを読みたい方は本書『0歳~6歳 子どものレジリエンスの育て方』(Gakken)をご覧ください。

① 考えや感じ方を修正できる力

自分の考えの間違いを指摘し、修正させてくれるのが周りの人です。特に友達は、「違うよ」と言って指摘してくれます。時には、「○○くんはそうだけどね。ぼくは〜だ」といった話し合いが生まれ、自分の考えを修正するきっかけになることもあります。

レジリエンスは、ある面では「自分の思い込みを修正できる力」ともいえます。周りの意見に従い、自分の考えを変えられた時にはほめましょう。

自分の考えがありながら、ほかの子の意見を聞き入れて修正できるのは、周りに従順ということではありません。考え方が、ある面で柔軟といえます。中には、周りの子どもたちにいつも従ってしまう子もいます。そういう子の場合には、意見を引き出し、表現させることも必要です。

子どもの中には、ユニークな見方をする子がいます。おもしろい発想をするので、子どもたちの人気者になる子もいます。一方で大人の考え方とは異なる場合、時には対立することもあるでしょう。しかし、こういう子は独創的な視点をもっているといえるかもしれません。子どもの考え方を否定せず、受け止めることも必要です。

⇒⇒⇒ 従順さではなく、柔軟性をもつことが大切。

② 忘れる力

子どもとの対話には、大人を対象にしたカウンセリングと根本的に違う点があります。

大人は言語化することで、自分の考えを修正できます。例えば、「人間関係がうまくいかない」と言う人には、カウンセラーは「人間関係がうまくいかないと感じているのですね」などと返します。そして、どうしてそう感じるのかと、話を進めます。大人は話をしながら、自分の心にある悩みなどをことばで明確にし、解決策を考えることができます。

一方で子どもの場合、「いじめられている」と話した時に、親がいじめられていることを肯定するような返事をすると、それが「真実」になる可能性があります。ことばにすることで「真実」になると危険です。子どもの言語能力、理解力に合わせて話をする必要があります。

常にストレスに向き合うことは、必ずしも得策とはいえません。ストレスの源そのものを忘れてしまうのも、立ち直る力のひとつです。「もう忘れなさい」「気にしない」ということばも、子どもを回復させます。大人の視点で物事をとらえず、さほど重要でないトラブルなどは、忘れさせましょう。

⇒⇒⇒ 心の回復には、ストレスの源を忘れることが助けになる。

③ 柔軟な見方ができる力

子どもが、「できた=〇」「できない=×」と判断しだすのは2歳前後からです。物事を二分法で判断し始めます。ただし、物事の全てを二分法でとらえるのは無理があります。〇か×かよりも、〇かもしれないし×かもしれないことが多いのが現実です。人によって、〇と×の判断が分かれることもあります。

「欲しいおもちゃがある」と思っておもちゃ屋さんに行ったけれど、ないことがあります。自分の思うようにならない、こういった体験をしながら、子どもは「〜かもしれない」という見方をし始めます。4歳台からこのような見方ができるようになってきます。

「かもしれない」という見方ができない子には、このことばを教え、「あるかもしれないし、ないかもしれないね」と話しておきましょう。「たぶん」「おそらく」も同じ働きをもちます。

大人のレジリエンスですが、二分法で物事を判断するために問題を抱えやすい人がいます。「絶対」「全然」といった見方をするために、ストレスを受けた時に立ち直る力が弱くなる場合もあります。現実は、自分の思い通りになるとは限りません。ストレスに対して立ち直る力を与えるのが、柔軟な見方といえます。

⇒⇒⇒ 「〇か×か」と決めつけない見方が大切。

レジリエンスこそ、子育ての最大の目的

多くの人たちと話し合う中で、子育ての最大の目的は、「レジリエンス=立ち直る力」をつけることではないかという結論に至りました。

ストレスにさらされた時に、立ち直る力が働かなければ、それに打ち負けてしまいます。勉強でもスポーツでも、あるいは人との関係においても、ストレスはつきものといえます。ストレスがかかった時に、それに負けずに、乗り越えていく力こそ子育ての基本におくべきだと思います。

子どもがこれから生きていく世界は、今まで以上に変化に富んだものになるでしょう。急激な変化は、人にとり大きなストレスになります。

子どもが大人になった時に、その変化に負けないような立ち直る力を身につけてほしい、この本はその願いを実現するために作られました。

0歳~6歳 子どものレジリエンスの育て方 自分で立ち直れる子に

本書では、発達心理の専門家が、0歳~6歳の乳幼児期にレジリエンスを育む子育てのヒントを紹介。

幼児期の先も見据え、子どもの心の発達に寄り添いながら、物事を柔軟にとらえ、乗り越える力の伸ばし方を解説しています。2章では、幼児期のほか、小・中学校・青年期の16事例を取り上げ、子どもが立ち直っていく具体的な姿を紹介しています。

※発達過程はあくまでも目安です。発達には個人差があります。
※本書は、保育者向け『0歳~6歳 子どもの発達とレジリエンス保育の本』(2018年発売)を保護者向けに調整・一部加筆したものです。

本書は、2025年4月刊『0歳~6歳 子どもの社会性の育て方』に続く「発達心理の専門家が解説!」シリーズの第2弾です。2025年6月には、第3弾となる『0歳~6歳 子どもの感情コントロール力の育て方』も刊行予定です。

「ことばの発達」「社会性の発達」「理解力の発達」「自分の確立・自己コントロール」の4つの視点から、年齢別に子どもの成長を確認できる【発達過程表】を掲載しています。乳児期から7歳のあいだに、子どもができることはどんどん変化します。子どもの全体をとらえれば、「そうだったのか!」という発見があるはずです。

この記事の監修・執筆者

公認心理師・精神保健福祉士・言語聴覚士。 湯汲英史

早稲田大学第一文学部心理学専攻卒。公益社団法人発達協会常務理事、練馬区保育園の巡回指導員などを務める。『子育てが楽になることばかけ 関わりことば 26』(鈴木出版)、『発達促進ドリル』(鈴木出版)、『なぜ伝わらないのか、どうしたら伝わるのか』(大揚社)、『決定権を誤解する子、理由を言えない子』(かもがわ出版)など著書多数。『0歳~6歳 子どもの社会性の育て方』(Gakken)が発売中。

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