学習指導要領って何か、ご存じですか。お子さんが学校で使っている教科書や時間割は、学習指導要領をもとに作られています。2020年度から小学校で実施されている新しい学習指導要領について、文部科学省初等中等教育局教育課程課専門官の新見志歩さんにお話をうかがいました。お子さんが今学校で学んでいることは保護者のみなさんが小学生だったときと比べると、ずっと進化しているようです。
お話/新見志歩(文部科学省初等中等教育局教育課程課専門官) 文/こそだてまっぷ編集部
2020年度から新しい学習指導要領に沿った教育が行われています
学習指導要領とは、全国どこの学校でも一定の教育水準が保てるよう、文部科学省が定めている教育課程(カリキュラム)の基準です。子どもたちの使う教科書や時間割はこれをもとに作られています。学習指導要領はおよそ10年ごとに改訂されていて、小学校では2020年度から新しい学習指導要領に沿った授業が行われています。
新しい学習指導要領の目標は、子どもたちの「生きる力」を育むという点では、これまでと変わっていません。従来はその目標の実現のために「何を学ぶか」に主眼が置かれた教育が行われてきました。2020年度実施の新しい学習指導要領ではそれに加えて、
「何ができるようになるか」
「どのように学ぶか」
を重視している点がポイントとなります。
これからの時代を生きるために必要となる資質・能力を示した学習指導要領
この2点を重視するようになった理由は、学習指導要領が改訂されるにいたった経緯にヒントがあります。
近年、グローバル化はますます進み、スマートフォンの普及、AIの活用などさまざまな分野での技術革新が進んでいます。10年前では考えられなかった激しい変化が起きていて、そのスピードは加速しています。社会が今後どう変わっていくか、もはや未来を予測するのが困難な時代です。
そんな中子どもたちには、変化を前向きに受け止め、一人ひとりが持続可能な社会の創り手になることが期待されています。そのためには、「自ら課題を見つけ」、「考え」、「判断」して解決する力が必要です。また、自分の良さや可能性を認識し、他者を尊重しながら、多様な人々と協働して、豊かな人生を切り拓いていく力も身につけなくてはなりません。
今後の社会の変化を見据えて、子どもたちがこれから生きていくために必要な資質・能力を身につけられるようにという願いを込めて学習指導要領は改訂されました。
学習指導要領が目指す3つの柱とは?
新しい学習指導要領では、「何ができるようになるか」という観点から、各教科等の学習を通じて、次の3つの資質・能力を総合的にバランスよく育んでいくことを目指しています。
1 実際の社会や生活で生きて働く「知識及び技能」
2 未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」
3 学んだことを社会に生かそうとする「学びに向かう力、人間性等」
1つ目の柱である「知識及び技能」は、テストで高い点を取るためにただ覚えればいい、いわゆる「暗記型・詰め込み型」の知識ではありません。学んだ個別の知識・技能を他の教科等の学習や日々の生活、社会での出来事などとも関連づけて深く理解したり、生かしたりして、社会の中で生きて働くものとなることを目指しています。
その知識や技能を活用し課題を解決したり、自分の考えを表現し、多様な他者との中で意味や価値を創造したりするための「思考力、判断力、表現力等」が2つ目の柱です。
3つ目の柱である「学びに向かう力、人間性等」は、多様な他者と協働しながら、想定外の困難から逃げずに粘り強く挑戦したり、生涯学び続けたりするために欠かせません。
これらの資質・能力を育てていくことが新しい学習指導要領の目指す方向性です。
学習指導要領が目指す授業例
このような資質・能力を育むために、新しい学習指導要領では、「どのように学ぶか」も重視しています。たとえば、「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」の視点から授業の改善も示しています。
主体的な学び…学ぶことに興味や関心を持ち、自分の進路や職業などの方向性と関連づけながら、自分の学びを調整すること。
対話的な学び…子ども同士が目標を共有し、力を合わせて活動をしたり、先生や地域の人との対話などを通して自分の視野を広げたり、気づきを得たりすること。
深い学び…各教科等で学んだ知識や生活で身につけた知識を関連づけたり、自分なりに解決策やアイデアを考えたりして学びを深めていくこと。
具体的に学習指導要領が目指す授業として次のような例が挙げられています。
・一つひとつの知識がつながり、「わかった!」「おもしろい!」と思える授業
・見通しを持って、粘り強く取り組む力が身につく授業
・周りの人たちと共に考え、学び、新しい発見や豊かな発想が生まれる授業
・自分の学びを振り返り、次の学びや生活に生かす力を育む授業
<新しい学習指導要領リーフレット『生きる力 学びの、その先へ』(文部科学省)より>
情報活用能力の育成を目指して、ICT教育も充実
新しい学習指導要領のもう一つのポイントは、情報活用能力の育成を目指してICT教育の充実を図っていることです。GIGAスクール構想により、児童・生徒1人に1台のICT端末の整備がなされています。多くの学校において、タブレットなどのICT端末を活用する授業も取り入れられています。
※ICT教育……ICTとは「Information and Communication Technology(情報通信技術)」の略称。教育現場において情報通信技術を活用した取り組みのこと。
※GIGAスクール構想……全国の児童・生徒一人に1台の情報端末と高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組み。
●ICTを活用した学習のメリット
1)個別最適な学び
一人ひとりが自分の進度に合わせて学ぶことができ、教師がそれぞれの理解度に合わせて個別に対応することができます。個人の学習履歴データを記録することもできます。
2)協働的な学び
子ども同士が意見を交換したり、情報を共有したりして学びに生かすことができます。また、オンラインを活用して、離れた場所にいる専門家の話を聞いたり、海外の子どもたちと交流したりすることもできます。
3)非常時等の対応
端末があれば、いつでもどこでも学習ができます。感染症や災害の発生等の非常時にやむを得ず登校できないときにも、学習に参加できます。
ICT端末やインターネットを活用した教育は、音声やアニメーション、動画を使って、子どもの視覚や聴覚に訴える授業ができるので、学習へのモチベーションが高まるでしょう。
このように、お子さんの学びは、新しい学習指導要領のもとで大きく進化しています。後編では、「何を学ぶのか」について具体的に紹介していきます。
この記事の監修・執筆者
2013年文部科学省入省。生涯学習政策局生涯学習推進課、初等中等教育局教科書課企画係長、生涯学習政策局政策課専門職、総合教育政策局教育改革・国際課企画係長等を経て、現職。
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